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50 サマー・ビーチ・レクリエーション⑤

 九宝さんを乗せて30分ほど車を走らせて、湾岸に位置する浜山シーサイドビーチに到着する。

 7月上旬で今日は真夏日になるほど気温が上がるということで利用客でいっぱいだった。

 それを見越した大規模施設ということで駐車場の数はかなりのもの、軽い渋滞はあったものの、車を停めることは容易かった。


 しかしまぁ、すごいレジャー施設ができたもんだ。

 海の方を見れば広大なビーチが広がっており、マリンスポーツも盛んに行われている。

 普通のビーチならすし詰めになってしまいそうだが、こうまで広いとスペースに余裕がある。

 そして更衣室や受付場と隣接しているレストラン。

 その側には遊んだ客がそのまま宿泊できる高階層のホテルまで存在している。

 海だけでなく、他の遊びも充実しているようだ。


 学生時代に出来ていたら友人達と遊びにいったことだろう。


「さっそく行くわよーっ!」


 所長のかけ声に3人揃っておーっと返した。

 気合い十分、どんな水着姿でも俺は冷静を装うんだ。


 勝負の時が来る!




 ◇◇◇


「どうしてこうなった」


「あれ、どうしたんですか? 花村さん」


 九宝さんが微笑んで応じてくれるのは目の保養になるし、かわいいし、嬉しいが俺の求めていたものはそれではないのだ。

 どうして俺達は今、たこ部屋みたいな所にいるのだろう……。


「夏はやっぱり冷房の効いた部屋が一番ですね~」

「分かる~! ビール飲みながら見たい番組とか見て涼むのがいいわよね」


 おっさんみたいなこと言ってる上司と同期。

 いや、分かるよ。俺もインドア派だから実際そうだし。


 ここは浜山シーサイドホテル休憩(レクリエーション)ルーム。

 外はガラス張りとなっており、高階層からビーチを眺めることができる。

 部屋の中はクーラーがガンガンに効いていて、コンセントも確保されており、悠々と海を見ながらお仕事や会話を楽しむのがコンセプトのエリアである。


 簡単にいうとネカフェのなんか海バージョンみたいなもんだ。1時間数百円と少し割高だが、利用客は多い。


 この3人は海へ入らずに電子機器を取りだして早速創作をし始めた。

 合宿をするとは言っていたがまさか真昼間からやるとは思っていなかった。


 彼女達の水着にあたふたしてボロを出すよりかはマシかもしれないが期待していただけにつらい。


 しかもさぁ。


「所長、全然進んでないじゃないですか」

「今はインプットの時間よ!」

「それでラブコメアニメ見てるんですね」


 当然この部屋はWi-Fiも繋がっており、回線速度も速いので動画見放題だ。

 さっきから所長は手を動かさず、アニメを見ていた。


「今期は尊いアニメが多いの! 花村くん、あなたも見た方がいいわよ」

「ああ、面白いですよね、この作品」

「私、お米炊子先生と同じくらい尊敬してるのよねぇ。どんな人かしらぁ。きっと愛情深い人なんだわ」


 その先生と会ったこともあるし、サイン本の交換もしたことあるけどな!

 ここ2、3年で発売してる関東在住の有名作家には全員会った気がする。

 この人、良い作品書くんだけど、酒グセ悪いんだよなぁ。愛情はどうだろうか……。


「アニメだけで今日一日終わってしまいますよ」

「分かってるわよ。でもあの子だって書けてないじゃない」


 所長の視線の先には仁科さんがいた。

 仁科さんはタブレットで執筆をしているかと思いきや。ラノベを読んでいた。


「仁科さんも何してんの!」

「わぁ、びっくりしたぁ」


 集中して読んでいたのか驚かせてしまったようだ。

 驚いた顔もかわいいんだから美人ってすげぇな……。

 仁科さんの持っているラノベのタイトルを見て、俺の頬が引き攣る。


「ちょっと今、スランプ気味だからお米炊子先生の【宮廷スローライフ】で勉強中。アニメ化するんだよねぇ、いつぐらいだろ」


 そのへんはまだ全然情報来ないからなー。

 正直俺も聞きたい。


「ってスランプ気味なんだ」

「うん。ネタ切れって感じかなぁ。……ああ、何か天啓とか降りてこないかなぁ! 追放ざまぁの神様!」

「ひでぇ神様がいたもんだ」


 悩んでいるならちょっとだけ助言をしたくなってしまう。

 身バレだけはしたくないけど……頑張ってる人が報われる姿を俺は見たい。


「私にもラブコメのお告げを!」


 なんか上司が言い出したけど、これは放っておこう。

 それより……。


「陽葵ちゃん、すごくがんばってるね」


 そう、さっきからスマホをスワイプしている九宝さんは会話に混ざらず黙々と執筆をしていた。

 すごい集中力だ。これは声をかけづらい感じでもある。


「昨日も遅くまで書いてたらしいよ」

「勢いがあるってことか」


 俺もノリに乗ってる時は集中力を発揮するものだ。

 今の九宝さんはそれに似ているような気がする。そんな時はすごく良い作品ができるに違いない。


「よし、陽葵も頑張ってるし、私も頑張るぞー!」

「はい、あたしも書きます!」


 九宝さんにつられて、所長も仁科さんも書き始めた。

 うん、すごく合宿っぽい。誰か1人成果が出て、たくさんの人に読まれればいいなって思う。


 そして……。


「俺は何をしたらいいんだろ」

「花村くん」

「は、はい!」


 所長から声をかけられる。


「あなたはどうするの?」

「えっと……どうしようかな」

「ナンパでもしてきたら」

「あはは、それが出来たらこんな性格になりませんて。……観光でもしてこようかなって思います」

「……そう。またこっちが落ち着いたら連絡するわ」


「了解しました。じゃー、ゆっくりと執筆を楽しんで下さい」

「……あとね。夕方頃に連絡するからビーチに水着を着て来なさい。そういうことだから」


 それだけ言って、所長はまたノートパソコンをカタカタと打ち始めた。


 ……まさかそれって!?

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