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05 (美女視点)春からの人事が決まりまして……

 時は3月上旬まで遡る。


 株式会社フォーレス 浜山セールスオフィスは4階建てビルの2階にある。

 オフィスとしてかなり小さく、外からではぱっと見て事務所がここにあるかは分からない。

 現時点では女性しか従業員がいないため防犯的な側面もあり、このような立地条件となっている。


 フロアには事務デスクが向かい合わせで並べられており、見た目麗しい3人の美女達が仕事をしていた。


 時刻は19時30分。定時17時30分からすでに2時間過ぎている状況。

 残業はしないと噂の浜山SOの所員達だがカタカタと各々の持つ端末に文字を打ち込んでいた。


「そーいえば所長、4月の人事ってもう発表あったんですか」


 カタカタという言葉だけが響いていたオフィスで明るめな声色が突如混じることになる。

 それは手元のタブレットに繋げているBluetooth型キーボードから手を離した入社4年目の所員仁科(にしな)一葉(かずは)の発言だった。


 仁科は飴色のふわふわなミディアムヘアーが印象的で丸くクリクリした瞳をしており、見た目非常に可愛らしく陽気な性格をしていた。

 もし学園に通っていたなら誰よりも爽やかな学園一のアイドルなんて言葉で評されていただろう。


 仁科の言葉の先は上司である美作(みまさか)凛音りおんである。


「ええ、昨日正式な通達があったわ」


 浜山セールスオフィスの所長の美作は今年で28歳となる。

 体が小さいとはいえ1つの事業所の長を務めることは並大抵のことではなく、彼女の能力の高さを証明していた。

 年下の仁科よりも小柄ながらびしっとした紺のレディーススーツに身を包む姿はその小ささを感じさせない。


 美作は会社支給のノートPCとは別のオシャレな色合いのノートPCに文字をカタカタと打ち込んでいた。

 ENTERキーを押して区切りがつき、見上げる。


 目尻のとがったつり目の彼女は怒った時は非常に恐ろしいが、普段は笑みの多い柔らかな女性である。

 髪型もセミロングハーフアップで決めており、艶のある暗髪色は彼女の美しさにとてもよく似合うスタイルとなる。

 自分の美しさに絶対的な自信を持っていなければなかなかできないことだろう。


「はぁ」


 美作は色っぽくため息をついた。


「その感じだと浜山にあまりよくない人事があったってことですか?」


 スマートフォンに充電コネクターを差し込みフリック入力をしていた美女の手が止まる。

 姿勢が非常によく、背中まっすぐに伸ばした様は仁科よりも一際身長が高く見える。

 背中まで長く伸びた流れるように美しい黒髪がゆらりと揺れる。

 彼女の名は九宝(くほう)陽葵(ひなた)。今年入社の新人であり、4月で2年目となる。陽葵はこの中で一番の下の社員だった。


 言葉使いも丁寧で言葉のトーンも柔らかい。見た目さながら深窓の令嬢という雰囲気を持っていた。


「次の4月から新しく所員が増えるわ。……それが男」


「ええーー」

「っ」


 女だけということもあるので、仁科も陽葵も不愉快な表情を隠そうともしなかった。


「本社の設計・開発課の人が営業に転向だそうよ」


「開発部に女性の方はいなかったんですか?」


 陽葵の質問に美作はあそこは事務員以外は全員男子と答えた。


「そりゃあの製品……あたし達じゃ厳しいですけど……男かぁ」

「仁科はあんまり本社の人間好きじゃないもんね」

「まぁいろいろありましたからね……」


「わたしはすぐにここに配属されたからそこまでは……」

「陽葵ちゃんだってあるでしょ。新人教育の時とか……」


 仁科の言葉に思い出したように陽葵も少し表情が険しくなる。


「思い出しました……。わたしにお酒を飲まそうとしてしつこかったです。休日も誘ってくるし……」

「他にも女の子いるのにどうしてこっち来るかなーって思うよね。同期の男子もまぁ悪くはないんですけど……酒飲むと馴れ馴れしくて苦手だったなぁ」


 お互いわかり合うように仁科と陽葵は対面の席で顔を合わせてうんうんと唸る。


「所長だってそういうのありましたよね?」

「私は中途だからね。そんなセクハラみたいな新人研修は受けてないわ。似たような経験は片手では足りないほどあるけど」


 3人美女ゆえに各々男性に対して苦労していることが多い。

 次の4月から本社の男性社員がやってくるということで今まで女性3人でやってきたのに不安の声が出てしまう。


「わたし……男の人、ちょっと苦手です」

「もう断れないんですよね?」

「私も言ったわよ。でも……口を出した本部長が今回の大口案件を取りまとめしてくれたから……強く言えないの」

「部長には言うのに?」

「アレ、大したことないもん」


 自所属の部長への暴言に仁科も陽葵も少し笑みがこぼれてくる。

 本気では言っておらず、不安がっている2人に対しての美作なりの気遣いであった。


「仕方ないし、彼はしばらく私につけるわ。あまりにも言動や行動が目が余るようなら上に言うから」

「所長、小さいのに大丈夫ですか?」

「小さいゆーな。空手2段ってチラつかせておくわよ」


 身長が150少ししかない美作は背の低さを気にしている節がある。

 出ている所はしっかり出ているため決して子供のような小柄さは感じさせないが、コンプレックスがあるのか営業活動以外では厚底ブーツを履くことが多い。。


「更衣室は元々男女別であるし……机とかパーテーションとかは追々……」

「しょ、所長の負担にならないように頑張ります!」

「陽葵ちゃん、我慢強いのは知ってるけど……無理しちゃだめだよ。あたしか所長に絶対相談してね」


 美作は会社支給のノートのPCを開いた。

 転勤してくる男性社員のデータを参照する。


「といってもあたしもそんなに得意なわけじゃないんだけどね……。なるべく話をしないように……って無理だよね」


「わたしも不安です……。お客様なら割り切れるんですけど」


「本部長は真面目な子って言ってたけど」


 美作はクリックして名前を読み上げた


「花村飛鷹くんか……どんな子なのかしらね」


「っ!」「……!」


 2人の口が止まり、動作も不自然となる。


 机はコ型の配置となっているため美作の方からは仁科と陽葵が止まってしまったことがよく分かる。

 美作は一瞬不思議に思ったが気にせず、声を挙げる。


「初日は駅に迎えに行った方がいいわね。セキュリティカードも渡さないとだし、私が」


「所長、それあたしがやります! あたしにやらせてください」


「えっ!? あなたなるべく話をしたくないって言ってなかった!?」


 突然の手のひら返しに美作は困惑してしまう。


「は、花村くんは同期なんです! だからあたしがいくのは当然ですよね」

「さっき同期が苦手って言ってなかったっけ?」

「続々辞めていく中で同期はやっぱ大切ですから!」


 あれだけ男に不満を持っていた仁科の変わりようである。

 敏腕営業の美作もタジタジになってしまっていた。


「あ、あの所長」

「どうしたの陽葵」


「花村さんって……この人ですか?」

「いや、私も顔は見たことが、って!?」


 陽葵が突然取り出して美作に見せたそれは毎月事務所に送られてくる社内報だった。

 そこには開発メンバーの写真が載っており、赤ペンでぐるって花村飛鷹の所だけ丸がついていたのだ。


「しかもこれ……去年の社内報じゃない。なんでこんなものを」

「はっ! 何でもありません」


 おずおずと陽葵は社内報をバッグにしまってしまった。


 顔を紅くして縮こまったままの陽葵に……。


「花むっちゃんが来るんだ……。久しぶりだなぁ……」


 何かを思い出すように淡い笑みを浮かべた仁科。


(花村くん……か。彼に何があるのかしら)


 気乗りしなかったこの人事に少し興味を持つ美作であった。


 そして4月1日が来る。

今後の活動の励みや執筆モチベーションとなりますのでブックマーク登録を頂けると嬉しいです。

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