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47 サマー・ビーチ・レクリエーション②

「お、おはよう」


 ストライプシャツとワイドパンツの組み合わせなんてどこでも見るものだと思うが、やはりファッションとは着る人に影響されるのだなと感じる。


「おっきいね~! 花むっちゃん、そんなカッコイイ車持ってたんだ」


 仁科さんがお邪魔します~と可愛らしく声をかけて助手席に乗ってきた。

 こ、これは夢ではなかろうか。俺の車にあの仁科(にしな)一葉(かずは)がいるんだぞ。

 本社時代、彼女を口説いて爆死した人は数知れず、そんな高嶺の花の女の子が助手席に……。


「花むっちゃん、どうしたの?」

「あ、いや……。仁科さん、普段スーツ姿だからやっぱり見違えたというか」

「そ、そう? 普段着だよ。あたし、あまりこだわりとかないから似合ってないからなぁ」

「そんなことないよ! すっごくかわいいよ!」


「え?」


 言って気付く後悔。

 集団の中で放つかわいいと今のような1対1で放つかわいいは大きく意味合いが変わってくる。

 かわいいのは間違いないし、ずっと目に入れていたいのも間違いないが……彼女に不愉快な想いをさせる気はなかった。


 恐る恐る仁科さんの表情をちら見する。


「えへへ……そっか、嬉しいなぁ」


 照れてるような嬉しいような口元が緩んだ表情を浮かべていた。

 不愉快な気持ちにはなっていないようだ。むしろ喜んでいるようにも見える。

 そんな表情がとても色っぽくて、思わず見つめてしまうと突然はっと気付いたような顔になる。


「ってもう、おせじなんか駄目! これから所長や陽葵ちゃんが来るんだから!」

「おせじじゃないよ!」

「もっとかわいい子が来るんだから……だめなんです!」


「そ、そうか……。とりあえず次は所長の所だし、行こうか!」

「う、うん。運転お願いします」


 何か微妙な雰囲気になってしまったが気を取り直して所長のところへ向かうとしよう。


 5分ほど車を走らせて、少し無言の区間が続く。

 そんな時。


「乗り心地すごくいいね~。あたしの車は親からもらったミニバンだからガタが来てるんだよ」

「へぇ、そうなんだ」

「女の子を横に乗せてるのかな?」

「あはは、そんな風に見える? この車にしてからは……家族を除けば仁科さんが最初かもしれないな」


 東京にいる時は正直車は必要なかったし、購入費、維持費が無駄だった。

 しかし副業のおかげで金銭に余裕ができたおかげで今の車を購入できたのだ。

 つまり副業で土日缶詰になってることが多いので実際この車を使う機会はそう多くない。


「そうなんだ。何だか不思議な感じだよねぇ。心地良いというか、ここで座ってるのが普通というか……」

「ああ、俺もそう感じるよ。何だろう、彼女を乗せたらそんな感じになるのかな。あははは………は」


「……」

「……」


「ごめん」

「あたしこそ変なこと言ってごめん」


 そりゃ、仁科さんみたいな女の子が恋人で助手席に乗ってくれりゃ最高だけど、そんなラブコメみたいな展開は俺が書く創作ならありえても、俺自身にはありえない。

 あくまで同僚を乗せている。それだけに過ぎない


「でも」

「ん?」

「2人で何かしたいなって思うのは確かだよ」

「仁科さん?」

「花むっちゃんがご飯を誘ってくれた時、今度はあたしが花むっちゃんを誘うって言ったじゃない」

「あ、ああ……そんなこともあったな」


 仁科さんが嫌がらせで少し心を痛めた時に晩ご飯に誘った時のことだ。あれから少し時間は経っている。


「お互い忙しいからな。それか会社の懇親会にかこつけて所長や九宝さんと一緒に」

「あたしは! 2人で行きたいの」


 運転中は前を向いていなければならないのに仁科さんが気になって集中できない。

 ちら見すると少しだけ頬が紅潮しているようにも見える。幻覚だろうか……。


「来月、夏休みだよね。花むっちゃんは浜山が実家だからここにいるんだよね」

「ああ、その予定だよ。仁科さんは東京に帰るよね」

「うん。さすがに親に顔見せないとだしね。でも……1日くらいは浜山で誰かと遊びたいなぁ……。遊んでくれる人いないかなぁ。あたし、こっちで友達出来てないの」


 その言い方はずるくないか……。

 そこで所長や九宝さんの名を出さない時点で意味ありげじゃないか……。

 ラブコメのような鈍感が許されるのは子供までだ。大人はどうしてもその思惑に気付き、思考を拗らせてしまう。


「じゃあ遊びに行く? ……みんな」

「2人でいこっか!」

「ハイ」


 同期として友人としての単純に遊びに誘っているだけなのか、それともそれ以上の想いがあるのか。

 多分駆け引きなんだと思うけど、絶望的に俺はその経験値が足りていない。

 学生のラブコメばっか書いてちゃだめだな……。


 正直副業の件で夏休みは全部潰して、書籍執筆に充てる予定だったけど……。


「ふっふふーん」


 機嫌良さそうに景色を見る彼女と一緒に過ごす日があってもいいなと思った。

 まともに女性と遊んだことのない俺だけど、少しはラブコメ主人公のようなことをしてもいいよな。


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