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46 サマー・ビーチ・レクリエーション①

「はい、1Qの振り返り終了! 2Qも頑張るわよ!」


「おつかれさまでした~」


 所長の言葉に所員3人は声を合わせた。

 7月上旬のある日、浜山SOに所属する4人は4月~6月に位置する1(クオータ)の振り返りミーティングを行っていた。

 フォーレスは3月締めである。4月から俺が加わったため所員1人あたりの売り上げは落ちてしまったが、予算進捗にいたっては前年比を超えているためまずまずといった所だ。

 全社統一でこの時期に振り返りと2Qの目標を発表していくのである。


「来週末はフォレコンですね」

「うん、陽葵ちゃん、予約は大丈夫?」

「ばっちりです! 任せてください」


 そうか……そういえば来週末だったな。

 その時期だってことは頭に入ってたけどもうそんなに近づいていたいたんだ。


 フォーレスコミュニティ、通称フォレコン。福利厚生を運営する部署であり、いろいろ取り組みはしているのだが一番の目玉は7月上旬の土日に行う創立行事だろう。

 事務所のみんなで決まった所へ行き、まとめた領収書をもらえば決まった上限額までは補助が出る仕組みとなっている。

 そのため全国の営業所でこの日にはなにかしらレクリエーションを行うのだ。会社行事ゆえに出勤日なので強制参加となっている。


「てっきり名古屋や横浜と合同でやると思ってましたけど、違うんですね」


 浜山SOは地方ゆえに人数が少ない。

 人数の多い、他の営業所と合同でやるのがセオリーとなる。


「お断りよ。せっかくのレクリエーションが台無しになるわ」


 所長がはぁっとため息をつく。


「名古屋に横浜。……京都までお誘いが来たんだけどね。下心見え見えのとこに仁科や陽葵を置いていけないでしょ」

「西日本からも誘いが来るんですね」


 なるほどね。レクリエーションということでハメを外す社員も多い。

 特にフォーレス社員の中で美女トップ5に絶対入る3人がいるここは何としてでも呼びたい。


「花村くん、行きたかったらそっち行ってもいいわよ」


 インドア派で書籍化作業をしないといけない俺としては会社の行事に参加するのは苦痛に近い。

 特に近隣とはいえ浜山から名古屋、横浜は遠いので絶対に行きたくない。東京なら作家仲間に会えるから考えたけど。


「名古屋も横浜も知り合いはいないので……。それより今年はどうするんですか?」


「うん、去年と同じとこに行こうと思ってるんだ~」

「去年……どこ行ったの?」


「浜山シーサイドビーチですよ」


 九宝さんが教えてくれた。

 浜山シーサイドビーチ。2年前に出来た浜山市の南の海沿いに存在するレジャー施設だ。

 太平洋の大海原に作られた大きなビーチに、大規模な食事街に去年で日本一に輝いたシーサイドホテルは景観もサービスも最高だと聞く。

 俺が東京行っている時に出来たから行ったことないんだよな。

 景観良き、飯が美味し、観光客も多い所だ。


 そこだったら俺も行きたいな。幸い会社行事があるって分かっていたから副業はお休みにしてたし、いっぱい観光できる。


「あたし達ね、去年と同じで創作合宿を行おうと思ってるの。こういう機会でもないと3人集まってがっつり出来ないしね」

「じゃあ、俺もその合宿参加させてください。それに俺が車を出しますよ。4人1台で行けば楽ですよね」

「へ?」


 何気なく言った言葉だったがみんな目をぱちくりとさせていた。


「ってことはえ~っと、その……」


 少し恥ずかしそうに九宝さんは狼狽える。

 みんなの創作は理解してるし、問題ないはず。

 飽きたら観光をすればいい。1人で外へ出るのは慣れているさ。


「そう? ま、花村くんなら大丈夫でしょ。意見も欲しいと思ってたし」

「は、恥ずかしいけど……そうだよね、花むっちゃんも一緒かぁ……」

「し、信頼してますし」


 なんだ……この違和感。

 俺は何か大きな見落としをしているんじゃないかと思った。

 でも男だし、車出しするのはおかしくないはず。なんだいったい。


 まぁいい。7月最初の土日はみんなで創作合宿だ。


「じゃあみんなちゃんと水着は買ってきなさいよ」


 え?


 ◇◇◇



 7月の土曜日、朝10時。

 朝一で洗車に行き、綺麗に汚れを拭き取って、外面は艶だしワックスで輝かせる。後部座席も綺麗にゴミを取った。消臭スプレーも当然かかさない。

 美女3人が俺の車に乗るんだ。シートはちゃんと綺麗にしておかねば……。


 男らしく足要員になったわけだが、思った以上に用意が面倒くさい。

 この創立の行事の幹事をしてくれた仁科さんや九宝さんに比べたら車を出すことなんて大したことないんだけど、綺麗な女性を乗せるとなるとさすがに適当な対応はできない。


「おっと時間だ。行くか」


 いつもはアニソンぶっぱだったが、好感度を気にしてロクに聞きもしないロックミュージックを車内で流す。

 何がいいか分からないけど、年頃の男性っぽい雰囲気が車内に広がる。

 しかしまぁ……、7月のシーサイドビーチ。普通に泳ぐのは当たり前なのだが、最後の最後まで泳ぐって発想がまったくなかった。

 誘いを断りまくっている女の子達が俺に水着姿を見せてくれるなんて思ってもみなかったのだ。


 べ、別に水着ぐらいで動揺する俺じゃない。

 どれだけラブコメで水着シーンを書いてきたと思っている。

 小説だって打ち切られる前に挿絵や口絵を見たいと思って水着シーン序盤に出しまくってたら読者から何回海行くんですかこいつらってクレームが来たくらいだ。


「ふっ」


 気取るのはやめよう、正直楽しみです。ありがとうって土下座したいくらいです。


 まだ女性陣会ってすらいないのにこの妄想はキモすぎるな……。

 ボロが出ないように気を引き締めよう。


 目的地の方向と距離の関係で仁科さん、所長、九宝さんの順に拾うことになった。

 車を走らせて仁科さんの家の前に到着し、さっそく呼び出す。


「ここが仁科さんの住むアパートか」


 女性の1人暮らしだけあって、女性向けのアパートとなっている。

 アパートの入口のオートロックは当然、まわりからも視認されづらい構造だ。


 路肩で待っていると大きなバックを肩にかけた女性が現れる。


「あ、花むっちゃん、おはよ~」


 憧れの同期の私服姿! いつもスーツ姿ばっかりだったが目新しい。

 愛らしい笑顔で俺に手を振ってくれている!

 あ、もうこれだけで満足だわ。仁科さんはものすごく可愛かった。

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