43 美人双子姉妹とデートの休日③
2時間の映画が終わり、シアター内が明るくなる。
暗い間に逃げるつもりだったが2人にしがみ付かれて逃げられない。
「あの茜さん、葵さん。そろそろ離してください」
「も、もうちょっとだけ待ってください」
「最後のが怖くて……腰が抜けちゃって」
「ええ……」
他の客に見られてる! お盛んですね、って言われてる。
本当に勘弁してくれぇ。
◇◇◇
「すみませんでした」
「ごめんなさい」
シアタールームから抜けて、茜さんと葵さんに頭を下げられた。
あれはさすがにやりすぎだ……。
せめてもうちょっと仲良くなって気軽にボディタッチできるくらいの関係だったら別の楽しみ方ができたのかもしれない。
でも手の置き場はない、映画に集中できない。踏んだり蹴ったりだった。
さすがに悪いと思ったのか、申し訳なさそうな顔の茜さんと葵さん。
じゃあホテル行って、姉妹丼になって体で返してもらおうかって展開になるのが最近流行のエロ広告の流れである。
この2人が良いカラダなのはさっきの抱きつきで分かっている。精一杯俺に奉仕してもらう。
なーんてそんなことができるはずもないので苦笑いで言葉を返すことにする。
ここでぐいぐいいけるトーク力があるならとっくに恋人も出来てるわ。
「あの、花村さん」
「お詫びに食事を奢らせてください」
ぐいっと茜さんと葵さんに迫られる。
正直解放してほしいんですが……。
「は、……俺で良ければ喜んでお付き合いしますよ」
それができないのが男の定め、社会人の定めである。
先ほどまでいた商業施設から歩いて5分、新浜山駅の近くにある喫茶店へ向かう。
謝罪の気持ちがあるのか茜さん、葵さんが店をいろいろ考えてくれていたが時間がかかりそうだったので代案を用意した。
姉妹だけだったらマックに行こうかで終わるだろうけど……異性を含めるとあれがいい、これがいいで悩んでしまう気持ち分かる。
お互い、こんな店しか知らないんですかって思われるのは絶対嫌だからな。
大人ってやつはいつだって素直になれない。
「良い雰囲気ですね」
「ずっと浜山いましたけど、初めて来ました」
茜さんも葵さんもキョロキョロと興味深そうに店内を覗いている。
ここはただの喫茶店ではなく、浜山でも数少ない創作系に適した喫茶だったのだ。
個室が用意されて、小説や漫画を書くことに適したレイアウトとなっている。
「創作をされているお二人にはいいのではないかなと思いました」
「お姉ちゃん、すっご、見たことない資料いっぱいあるよ」
「貸し出しできるんだね」
「へぇ……俺も使おうかな」
「花村さん?」
「ごほん、何でも無いです」
ここは浜山に居住したことがある書籍化作家の知り合いに教えてもらった喫茶店である。
本業はライターだったかな。仕事でもよく使っているって聞いた。
ただ書くだけなら家かこの前、九宝さんと出会った喫茶店でもいいんだけど、ここには小説のネタに利用できる資料の貸し出しとかも可能と聞いている。
特にファンタジーを書く人にはありがたいだろう。
俺達は複数人が使えるテーブル付きの個室に案内してもらった。
普通の漫画喫茶と同じ料金体系で時間内の請求となる。これなら奢る奢らない問題も出づらい。
せっかくのお昼なので3人で日替わり定食を注文した。
「花村さん、良い所を教えてもらってありがとうございます~」
1100万文字の大作を書いている葵さんにはこういう場所は特に合うのだろう。目を輝かせていた。
「さっそく明日から使いそうね」
「うん、興味を引きそうな本がいっぱいあったから……気の向くままに読んでみたいなぁ」
「喜んでもらえてよかったです」
料理を待つ間に軽く会話が弾んでいく。
「ところで」
テーブルに対面で座っている。茜さんが顔を寄せるようにぐいと
「花村さんは美作さんとお付き合いされないんですか?」
「え」
「お姉ちゃん、花村さんは仁科さんとお付き合いするんだよ」
「どっちともしません!」
「美作さんってすごく美人で頭も良いし、丁寧なお仕事をされてますよ」
「所長が悪いわけじゃくて……」
「それを言うなら仁科さんだって愛くるしい笑顔だし、あと胸も大きいですよね。触ったことあるんですか?」
「ごふっ」
吹きそうになった。
「あくまで彼女達は同僚です。凄く魅力的ですし、男として惹かれることはありますけどね」
「ふーむ、じゃあ九宝さんがお気にいりなんですか? 彼女もすごく綺麗な人ですよね」
「お姉ちゃん、九宝さんに会ったことあるんだ。私、電話や《《あそこ》》だけしかない」
「ま……ま、九宝も……そうですね。茜さんはどちらでお会いしたんですか?」
「去年、たまたま書類をお届けにフォーレスさんの事務所に行ったことがあったんですよ。九宝さんが出迎えてくださって、あんな綺麗な黒髪ロングの美人を初めて見ましたよ」
「私も見た~い。九宝さんって声綺麗ですよね。ウチでも話題になってるんですよ。フォーレスさんの事務の女性、声が綺麗だって」
「あはは、今度九宝に伝えておきますよ。彼女もきっと喜ぶと思います」
お客様が電話応対を褒めていたとそれを九宝さんが知れば力となるだろう。
良いことを聞けた。
「それで」
葵さんが食い気味に言う。
「それで美作さん、仁科さん、九宝さん。誰が一番なんですか?」
その究極の選択は何なんだ……。