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33 作家『お米炊子』と絵師『スペシウム』①

「仕事はどーよ。落ち着いてきたのか」

「うん、まーね。家も広くなったし、ありがたい限りだよ」

「花村の収入だったらもっといい部屋選べたのにな。でも副業の関係だったら東京にいたままの方がよかっただろ」

「編集部にも直で行けたからね。宮廷スローライフのアニメ化で収録現場に立ち会わせてもらうなら……東京いた方がよかったしな」

「じゃあ、また東京に戻ってこいよ。正直浜山戻っても田舎だろう?」

「うーん、それがさ……。転勤先の浜山の営業所が結構居心地いいんだよ。おまけに同僚がみんなむちゃくちゃ美人でさ」


 休日の何気ない会話。

 このひとときが俺は何よりも好きだったりする。

 会話の相手は時房史郎(ときふさしろう)。関係としては高校の同級生だった。


 漫画倶楽部に所属していた時房は漫画家になるって言って上京し、友人としてずっと応援していた。

 漫画家としては大成せず、イラストレーターとして苦しい生活を送っていた時房だったけど……きっかけを得ることができた。


 そう俺の小説の書籍化である。

 時房の売れない時期に書籍が決まったラブコメ作、【同じクラスの天女様と何もない俺が一緒に暮らす話】のイラストレーターも同じようになかなか決まらなかったんだ。

 そこで俺が編集であるカニカワ文庫の山崎さんに相談してみた所、本作のイラストレーターとして時房こと……絵師「スペシウム」が決まった。


 カニカワの山崎は性格はなかなかクソ編集なのだが腕は確かで数多くの作品を当ててきた敏腕編集でもある。

 その薦めもあり、俺、お米炊子とスペシウムによる【同天】の宣伝漫画をツイッターなどSNSで公開、これがめちゃくちゃバズった。


 先に書籍化し、WEB投稿サイトの総合年間1位の【宮廷スローライフ】の人気と合わさって発売前重版をたたき出し、マジで売れに売れた。

 重版もそろそろ2桁になるんじゃないかなってくらいには売れてしまったのだ。

 ちなみに俺の方がきっかけのはずなのにツイッターのフォロアーは4万弱。

 スペシウムは何と20万を超えている。やはり漫画家、絵師というのは強いなってのがよく分かった。


「しっかし、美女3人って花村の作品みたいだな。誰と付き合うんだ?」

「釣り合わないとか学生みたいなこと言わないけどさ……。この年で交際だったら結婚も考えないといけないだろ。この趣味を前提に交際してってなかなか言えねーよ」

「花村の収入だったら年数千万だろ? 少なくとも5年は高収入確定してるから迫ればいけるんじゃねーの?」

「そりゃ時房みたいに嫁さんも子供もいる奴は自信あるかもだけど、俺は女性関係は無理だってコミュ力低いし」

「花村はその自信のなさが問題だな。……大学でもっと遊んでおけばよかったのによ」


 大学時代かぁ……

 陸上一筋だった俺はずっと近くの自然公園の中を走り回っていた気がする。

 まぁ、目の保養になりそうなくらい綺麗な文学少女がベンチに座っていて、半分それ目当てで走ってたんだけどな……。

 通報されたくなかったので声かけはできなかった……。1回だけ会話したけど結局それっきり。

 さらに才能はなかったのでいい結果を残せず引退だ。

 筋力、体力はそこそこついたので今でもその名残は残っている。


 時房は漫画家のアシスタントをしていた時の縁で同じアシスタントの女の子と結婚して、1児の父親となっている。

 苦しい生活してたくせにちゃっかり家庭を作ってるのが羨ましい。


 WEB作家は結婚している作家が多い。同じことしているはずなのにあの人達はどこで伴侶を見つけてくるのだろうか。

 ツイッター上でお米先生は羨ましいってよく言われるけど、俺からすれば伴侶と子宝に恵まれている方が羨ましいわって思う。

 どうやったら交際ってできるんだろう。不思議な感覚だ。

 無いものねだりで隣の芝は青いってことなんだけど。


「更新完了~~~!」

「おつかれ、時房」


 スペシウムは週1回土曜日12時にツイッター上で【美月さんと太一くんはかつて幼馴染だった】を掲載している。

 4歳の頃に結婚の約束をするほど仲の良かった男の子と女の子がふとしたことで距離を置いてしまい、同じ学校に通いながらも12年間経ってしまう。

 お互いを想いながらも疎遠になってしまい、高校2年生の時ふとしたことで交流がスタート……ぎこちなさがありながらも両片想いラブコメでこれもめちゃくちゃバズった。


 カニカワの山崎さんからの提案で俺がシナリオプロットを考えて、スペシウムがそれを漫画にして掲載。

【同天】と合わせてスペシウムの名前を売るのに貢献したのだ。元々漫画のスキルは高かったのであとはシナリオの構築力が必要だった。

 カニカワ系列でコミックが出ることになり、これもバカ売れだ。早々に10万本突破してくれたおかげで時房の暮らしはかなりマシになった。

 俺は俺で原作担当として案を出すだけとなっているので負荷的もちょうどいい感じとなっている。

 ただ、結局売れすぎてノベライズ版を出すことになったから一緒なんだけどな……。漫画が先か小説が先かってところだ。


 美作所長がこの漫画が尊いの! って推しまくってくるんだよなぁ。


「あ……」

「花村、何かミスってるとこあるか?」

「ああ、漫画の方じゃないよ。山崎さんからメール来た」

「ははは……何となく分かるわ」

「締め切り5月15日でこれとこれお願いしまーーすって今日が5月16日だぞ!? 過ぎてるやつ送ってきてんじゃねーよ!」

「あの人有能だけど、そこんとこマジでクソだもんな」

「悪い、ちょっと集中するよ。この内容だったら今日で終わらせられると思うし」


 もう少し話したいところだったけど、お仕事が来た以上やらねばならない。

 スペシウムも漫画連載持ってるからそこそこ忙しいし、今日はここまでかな。


「花村、実は再来週に浜山で50人+α限定のサイン会やるんだけどよ」

「マジ!? 東京から来るの!? 実家に帰ってくるんだよな。飲みいこーぜ」

「ああ、それはもち。他の奴らにも声かけよーぜ。んで土曜日の昼にやるんだけど編集部にお願いして【同天】と【美月さん】の宣伝もさせてもらうことになったんだ」

「部署同じだもんな。助かるよ」

「だったら花村も来ないか? 顔出しNGって言ってたからスタッフって形でさ」


 それはありがたい提案だ。

 俺は身バレは絶対嫌なのでSNS上でも姿や声を晒したことはない。

 ラジオ出演の話もあったけど、丁重にお断りさせてもらうことにしている。


 だけどファンの生の声が聞けるのは願ってもないことだ。スペシウムのサイン会ではこのキャラ書いてくださいって言う時にそのキャラへの愛を語ることが通例となっており、俺の考えたキャラ達への愛を聞くことができるのだ。


「すっげー美女がいたら連絡先聞いておいてやるよ」

「お、おお……」


 再来週の土曜日か……楽しみにしないとな。


「花村」

「ん?」

「おまえの稼ぎなら専業できるだろ。そうすりゃもっといろんな案件が出来る。おまえの性癖はやばいけど、話を作る才能はやっぱあるよ」

「性癖はいわないでくれ」

「7chのスレで性癖の超融合体って書かれてるのに?」

「ワキ舐めの打線見たら……ちょっと自分で書いておきながら引いたわ……」


 ま、でも止めないんだけどね……。

 本当言うとこれだけの案件を抱えて兼業でやるのはかなり厳しい。

 俺は兼業作家ってことで結構スケジュールがかつかつで入っている。

 俺の土日祝日はほぼ消える形となっている。最近はゲームはできないし、旅行もいけない。

 2週間後に時房が来るって分かったからスケジュールを調整するが、いきなりだったら断っていたかもしれない。


 だけど。


「俺は辞めないよ。今の仕事が好きってのもあるし……」

「うん」

「今、すっげー楽しいんだ。同僚達と成果を挙げてもっと業績を伸ばしたい」

「美女に絆されてるだけだろ。ま、体に気をつけろよ」


 時房との通話は切って、腰を労るゲーミングチェアーに座って伸びをする。

 美女に絆される……か。

 ま、美作所長に仁科さん、九宝さんともっと仕事をしたいってのは事実だな。


「よし、お仕事しますか!」


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