03 転勤後の初出勤
4月1日の初出勤日、スーツに袖を通し、ネクタイもしっかりと締めて家を出る。
本社にいた時は結構適当だったが、今回少なくとも1ヶ月はしっかり身を引き締めていこう。
地方のオフィスは緩いことも多く、私服で事務所に来て仕事着に着替えることも多い。
しかし俺が行く浜山SOは女子だけの事業所となる。
まずだらしない格好で行けばそれだけでNGだ。ただでさえ女性受けしない容姿の俺がだらしないなんて思われたら仕事を教えてもらえなくなる可能性がある。
転勤早々嫌われ者になるだけは避けたい。
そしてもう一つは所長が美作凛音であることだ。
美作所長の直属の上司の部長と話した時も美作さんにはまったく敵わないって言ってたから力関係は逆転してるのだろう。
性格きつくって、女帝という噂もあるくらいだ。
下手すればいびり殺されるかもしれん。
でも3月下旬に一度ドキドキしながら美作所長に連絡した時は……。
「あなたが花村くんね。あの装置のこと、開発チームのあなたに詳しく教えてもらうわ。みんな……待ち遠しくしているわよ」
すっげー綺麗な声だった。
仕事が出来るって感じの言葉使いだ。
写真で見たあの美貌であんな声で話かけられたらうっとり赤面してしまいそうだ。
みんな待ち遠しいという言葉に違和感がある。
同期の仁科さんはまだしも、美作所長は声だけ。後輩の九宝さんなんて1度として会ったことがない。
本社にいた時、新人の歓迎会で会ったかもしれないけど……わざわざ女子に話しに行く気概はないので多分会ってないだろう。
そして同期の仁科さんから指定された場所へ到着した。
浜山SOからは歩いて5分の距離でそろそろ現れるはずだ。
「あ、やっほー。花むっちゃん!」
一人、人目を惹く容姿をしたスーツの女性が俺のあだ名を呼んでいた。
仁科一葉。俺の同期にして……絶大な人気を誇る女子社員である。
彼女の伝説は新人研修から伝わっているが……とにかく容姿端麗であることが随一と言えるだろう。
また綺麗になってる……。心を落ち着かせろ。俺は仕事モードで対応するんだ!
「おはよう、仁科さん。久しぶりだね」
「うんうん! あれ花むっちゃん、太った?」
「うっ、去年は社内業務が多かったからね……。そ、それより2年前の本社合同研修の時以来かな」
「だね! もうそんなに経つんだ。早いよね~。でも、これからは同じ事務所の同僚だし、一緒に頑張っていこうね!」
その明るい笑顔に絆されてしまう。なんて美しい……女神様かな。
朝のダークな気持ちが吹き飛んでしまいそうだ。
肩まで伸ばした飴色の髪にくりくりとした瞳、スタイルもめちゃくちゃいいんだよな。
同期の全員が恋してしまいそうなほど仁科一葉は可愛かった。
お、俺は……高嶺の花すぎて何もできやしなかったけど……。
「所長も陽葵ちゃんも待っているから行こっか」
仁科さんだけでもドキドキなのに……美作所長に初対面の九宝さんだったり……俺はどうなってしまうんだろうか。