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22 (美女視点)花村さんって家に帰ったら何してる?

 それは花村飛鷹が転勤して1ヶ月半が過ぎた頃の話だった。


「じゃあ、今日は帰りますね~。お疲れ様です」


「あら、早いわね。何かあるの?」

「ええ、ちょっと大きなイベントがね……。忙しくなりそうです」


「そう、おつかれさま」

「花むっちゃんおつかれ~」

「おつかれさまです」


 定時を少し過ぎた17時30分。

 女性陣は帰宅ラッシュを避けるために時間をズラして帰宅しており、その時間つぶしに執筆活動が常習化している浜山SOだが、花村飛鷹の存在が3人の意識を少し変えていた。


「花村さん、今日早いですね」

「そうだね~。いつも18時過ぎくらいに出るのにね」


 執筆活動をしていない……と思われている花村は定時ラッシュを避けるために少し時間をズラして帰ることが多い。

 平日は自炊が難しく、外食やコンビニで買って帰ることが多いため17時過ぎで帰るに少し早いらしく、スマホゲームをして帰ることが多い。


 女性陣3人で食事をすると確定している時は19時頃まで一緒に残ることもある。


「花村さんって家に帰ったら何をされているんですか? 結構時間ありますよね」

「うーん、前聞いたらゲームしてるって言ってたよ。オンラインゲームじゃないの」

「そのわりに何のゲームをしているか聞くとはぐらかすわよね」


 この前美作が花村に聞いてみたところ、えっとえと……ス○ブラとか? としどろもどろで答えるのみだった。


「私もス○ブラは好きだからたまにやってるし、オンラインでやろうって誘ったけど食いつき悪いのよね」

「所長が負けがかさむと怒りそうですもん。それが嫌だったんじゃ」

「仕事じゃないんだからそんな怒らないわよ!」

「オフラインがメインか……親しい人達とはやらないかもしれませんね」


「あとは頑なに家の侵入を拒否るわね」

「え、所長、花むっちゃんの家に行こうとしたんですか?」


「冗談で言っただけよ。仁科や陽葵は聞いたことないの?」

「あたしは……料理の話になったときに作って花むっちゃんちに持っていってあげよっかって言ったんですよ。ものすごい勢いで拒否られましたね。ちょっとショックでした」

「花村さんの家に何があるんでしょうね」


「まぁ年頃の子だし、AVとかじゃないの? エロ本とか」

「弟が言うには最近、デジタル化が進んでるから家に置いてないのも多いみたいですよ。もちろん、パッケージで買う人もいるみたいですけど」


「へぇ」「そうなんですね」


 男の兄弟のいない美作と陽葵は唸る。


「でも花村さんの家って結構……大きいですよね。地図アプリで覗いてみたんですけど」


 陽葵はスマホのアプリを起動させ、緊急連絡先に載ってある、花村の住所を打ち込んだ。


「手慣れてるね。陽葵ちゃん、調べたの初めてじゃないでしょ」

「は、はじめてですよ!?」


 浜山市のこの地区は珍しい高級マンションがある地域なのだ。

 駅からもそこそこ近く、デザイナーズマンションが並んでいる。


「へぇ、このマンション。月額12万ぐらいするんだ。私のより高いじゃない」

「マジですか! あたし6万ギリギリなのにぃ……」


 仁科は東京出身のため、会社の補助を受けている。

 上限が決まっているのでそのギリギリを余儀なくされる。


「花村さんって浜山出身だから補助は出ないんじゃないですか?」

「そのはずよね……。それで月12万ってウチの給料だけじゃまず無理よね」


 美作と陽葵は浜山出身。

 美作は一人暮らしだが、陽葵は実家暮らしとなっている。

 花村の年齢であればまだまだ給料は少ない。残業もほぼないので月額12万のマンションを払うとかなり苦しいはずである。


「副業でもしてるのかしらね」

「家に帰ったらそれをしているのかもしれませんね」

「家に入れたくないってことはその副業関係が原因なのかなぁ」


「でも花村さんって不思議ですよね」

「何が?」

「この前祝日込みで4連休だったじゃないですか。普通4連休でリフレッシュするはずなのに……連休明け、死んだ目をしてるんですよね」

「分かる分かる~。花むっちゃんって平日の方が元気だよね。土日明けいつも疲れてるイメージがあるよ」

「なんかえすえすが10本……また増えてたって呟いてたわね」


「ま、噂を話すのはいいけど、彼に対して詮索するのは厳禁よ。誰もが言いたくないことはあると思うし、本業をしっかりやってくれたら何の問題もないわ」

「分かりました」

「は~い」


 この3人にも言いづらい過去がある。だからこそ花村が話してくれるまでは無理に聞かない。

 聞かれて嫌なことは絶対にしない。彼女達の矜恃でもある。


「さてと……今日も執筆はいい感じ……って! 仁科、陽葵、ツイッター見なさい!」

「え?」

「なんですか」


 美作に釣られて、全員がスマホをのぞき込む。

 そこにはお米炊子のアカウントと一緒に、彼の人気作『宮廷スローライフ』の書籍、コミカライズ重版だけでなく、何とアニメ化進行中の情報まで出ていたのだった。


「すごっ、お米炊子先生、アニメ化作家になるんだ!」

「やったーー! あたしの最推し作品がアニメ化するーーーっ!」

「進行中だからまだ先だと思いますけど、また忙しくなりそうですね」


 こうして3人の美女達は自分達の推しの作家の活躍に上機嫌となり、さらなる執筆活動に繋げていくのである。


 その推しの作家が側にいることに気付くことはない。

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