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18 追放された同期②

「あ……あ……」


 仁科さんが顔を青くしてパクパクと口を開いている。

 嫌がらせにもほどがある。本人が傷つくと分かってやっているのか……。

 何てことをしてくれたんだ。


 仁科さんと目が合った。


「あ、あたし」


「よし! 就業時間も終わったし、仁科さんご飯行こうか!」


 俺も仁科さんも混乱していたんだと思う。

 思わず出た言葉だった。仁科さんは頷いてくれたので仕事はいったん放り出して外に出ることにした。

 所長と九宝さんに断りを入れて、事務所を出る。


 道すがらお互い無言だった。

 いつもは明るい仁科さんが黙りこくってしまうのなんてよっぽどだと思う。


 俺は心の中を落ち着かせながら何の話をすべきか考える。

 難しい……創作だったらややこしい所は時間をふっとばす手を使えるのに……現実はそんなに甘くないと痛感する。


 事務所の裏にある鉄板焼きのお店に入ることにした。


「……この店初めて」


 仁科さんも初めてだったようだ。

 ぱっと見た感じ大衆っぽいお店だし、スーツ姿の女の子が帰りに入るような店じゃない。

 けど中に入ってみれば個室もあって結構のんびり出来るのだ。


 東京の本社にいた時もそうだけど、会社の近くの店を散策するのは趣味ともいえる。

 個室に通してもらった。


「この前来た時はトンテキが美味しかったんだ。焼き串もいいよ、焼き串」

「花むっちゃん、一人で来たの?」

「ぐ、平日だったし……」


 地元の友人はみんな愛知、大阪、東京の方へ行っているので基本俺はソロ活動が多い。

 東京の時だって執筆活動忙しかったから創作仲間以外の友人はできなかったし、ちょっと寄ってごはん食べる時は1人が多かった。

 一人焼肉すら余裕でこなすのでこういう店に1人で入るのもワケない。


 出来上がった料理を鉄板の上に並べて、ジュっと音がして食欲をそそる。

 ソースをかけて……香ばしい匂いが部屋の中を漂う。


「スーツに匂いついちゃうなぁ」

「明日は休みだしクリーニングだね」


 金曜日だからこそこの店に来たってのもある。

 もう少し時間が経つと混み始めるので今の内に食べてしまうといい。


「あ、おいしい」

「だろ?」

「うん」


 くりくりとした丸い瞳に見抜かれて同期のアイドル、仁科一葉とこうやってご飯を食べれるのは何と幸運なことだと思う。

 やっぱ……本当にかわいいなぁ。

 同期だけど仁科さんは短大卒なので2つ下となる。今年で24歳。アラサーになりかけている自分とはわけが違う。


「花むっちゃんはさ」


 ふいの言葉に視線は自然と仁科さんの方へ向く。

 ……仁科さんは少しだけ言葉を出すのに躊躇していた。

 声に出すか迷っているのか。


「転勤が決まるまで私がこの浜山SO(セールスオフィス)にいるの知ってた?」

「いや……転勤するまでは知らなかったよ。ずっと本社の総務にいると思ってた」


 正直上司からの転勤の話があった時、びっくりしたくらいだった。


「そうだよね……。実はあたし、総務から追放されたようなものなんだ」


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