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16 後輩のお悩み相談③

「九宝さん、どうしたの?」

「あ、花村さん……。すみません、すぐ戻ります」


「九宝さん!」


 だっと駆けだしたので強く呼び止める。


「……わたし、またミスをしてしまいました」

「ミス? いったい何のこと」


「何も考えずにあの装置を本社に送ろうとしたんです」

「知らなかったんだから仕方ないさ」

「でも……所長も仁科さんもいったん電源を入れてから判断しようって言って……もしあのまま今日の宅配便に急いで入れてたら解決しなかった可能性があります」


 確かに軽率だったかもしれない。

 本社に送ったとしても同じ不具合は再現したので有償にはならなかったかもしれないが、郵送、チェック、郵送で1週間以上時間がかかった可能性が高い。

 顧客にとっては使いたいタイミングで使えないのであれば1週間以上お待たせする可能性があった。

 なので郵送前に不具合が改善したため最短時間で返却することができる。


「花村さん、すごいと思います。まだ来られたばかりなのに即戦力となってますし、不具合対応の件も花村さんが来て頂いてからすごくスムーズになりました」

「九宝さん」


「私、足手まといになってるなって最近思うんです。所長や仁科さんはすごい分……遅れてしまってるなって」

「あの2人優秀だもんな……。話すだけで分かってくるよ」


「所長は1人の女性として本当に尊敬できますし、厳しいけどとってもためになって……。仁科さんもわたしの配属の時期に転勤してこられて……社歴は違えどやっている仕事は一緒なのにあっと言う間に先へ行っちゃって。わたしは足手まといなんです」


 幹部候補の美作所長は当然ながら仁科さんも同期の中でもトップクラスに優秀な女性だった。

 俺が一年目の時、仁科さんは大きな成果を挙げていたからそれはよく知っている。

 だから……そう思ってしまう気持ちもよく分かる。


 でも、九宝さんは勘違いしていることがある。


「九宝さん、ちょっとお願いがあるんだけど」

「はい」


「受注伝票の作り方、顧客提出の見積の作り方、売り上げ予測の立て方を教えてくれない?」

「へ……へ……?」


「できるよね?」

「そりゃ……わたしの仕事ですから。それしかやってこなかったですし……」


「でも俺はできない」

「っ……」


 九宝さんは一瞬驚いたような顔を見せた。

 多分彼女の認識として出来て当たり前のことだったのだろう。恐らく美作所長も仁科さんも出来るに違いない。


「でも俺はずっと設計・開発にいたからそこで学んだことは分かるけど、新しいことは全然分からないんだ」

「……そ、そうですよね」


「九宝さん。君はまわりの社員からどのように思われているか理解しているか?」

「え? ……フィードバック面談ではよくやっているって部長から聞きました。3人でよく頑張ってるって……」


「そう。つまり浜山SOは3人の女性社員でまわしているという印象なんだ。だから周りからの評価で言えば君は所長や仁科さんと同等なんだ」

「あ……」


 まわりが優秀だとどうしても焦りとなってしまう。

 俺だって新人の頃はそうだった。まわりで成果を上げている同期を見ると憧れると同時に焦りもした。

 あいつもこうなのにおまえは……と怒られもした。


「この狭い中ではどうしても所長や仁科さんを意識してしまうのは仕方が無い。でも君はまだ2年目なんだ。これからもっと吸収していけるはずなんだよ…」

「そ、そうなんでしょうか」


「うん、本社にずっといた俺だから分かる。君は2年目にしては別格に優秀だと思う」

「でもわたし、営業活動だって全然出来なくて、営業業務で精一杯で……」


「営業業務は立派な仕事だ。複雑なプロセスとフローを理解できなければすぐにクレームとなって現れる。だから君はすごい社員なんだよ」


「……。何だか花村さんにそう言ってもらえるとすごく嬉しいです」

「あはは……。俺もまだまだ知らないことばかりだ。何も知らないからこそ見えてくるものがある。君は決して劣っていない、足手まといじゃない」

「……」

「俺は営業1年目で新人みたいなものだ。だから俺に仕事を教えてくれ。それで一緒に頑張ろう!」


「は、はい!」


 九宝さんは笑顔を見せてくれた。

 全部が全部、悩みが晴れたわけでないだろう。

 だけど少しでも九宝さんを取り巻く悩みを取り除くことの手助けはしてあげたいと思う。


「やっぱり花村さんは()()()()さんなままですね」

「へ?」


「ふふ、何でも無いです!」


 笑顔を見せた後輩はとても綺麗だった。

 彼女はきっと仕事も趣味もしっかりこなしていくのだろう。


 俺も負けられないな。




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