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157 お米炊子

「一葉、話がある」

「何、改まって」


 日曜日、一葉が作ってくれた朝食を食べ終えて……コーヒーを飲みながら雑談を楽しんでる所だった。


「それよりぃ、日曜のチューが足りない」

「仕方ないなぁ」


 日曜のチューはコーヒーの味がある。


「ってちげぇよ」

「なによ、人の胸を揉みまくるくせに」

「すいません」


 キスをすると胸に触れたくなるのは何でだろうな。不思議だね。


「俺さ……一葉には隠し事はしたくないんだ。隠していることがあると心が重くなるし、直視できなくなってしまう」


「そんなんだ。じゃああたしも聞いていい?」

「うん」

「陽葵ちゃんとは実際ドコまでヤったの?」

「なんて質問しやがる」

「気にな~る、気にな~る」


「えっちは1度も無い。キスもない」

「それ以外はあるんだね」

「はい」


 ってそんな話をしたいんじゃないんだ。

 い、一応一葉と付き合い始めてからいたずらはしてないからな!

 陽葵が寂しそうな顔をしているのにちょっと胸が痛むけど!


「それを聞くってことは……ひーくんの副業について教えてくれるんだね」

「うん。やっぱ気になってた?」

「そりゃね。陽葵ちゃんへの2000万も含めて何をしているのかなぁって思うよ」


 正直隠し通せなくなってきた理由として、書籍系の仕事がさらに舞い込んできたのだ。

 付き合ってからできる限り一葉の側にいたかったんだけど……これ以上放置はできないレベルになっている。

 もしかしたら別れると言われるかもしれない。

 ……だからギリギリまで一葉との恋人生活を満喫したかった。


「言いたくなければ言わなくていいんだよ」

「え?」

「人に迷惑をかけるお仕事でなければ……。あとは浮気とかじゃなきゃあたしは気にしないし」

「そ、そうなのか。浮気とかは絶対しない! 俺にとって一葉が一番だから」

「それならいいよ」


 ああ、俺の彼女やっぱり理解してくれて、最高だ!

 これなら話さずにやっていけるかもしれない。


「じゃあ……これから平日の夜と土日は仕事部屋にこもる形になると思う」

「は?」

「でぇじょうぶ! メシと寝る時はちゃんと出てくる」

「はぁ?」


 一葉の口からから重い声が漏れる。


「つまりあたしはひーくんにとってメシ担当と抱き枕担当ってわけね」

「すみませんでした。全て話をさせて頂きます」



 ◇◇◇



 一葉を連れて、801号室へと向かう。

 どういう反応をされるか正直ドキドキだ。


「もしかして801号室もひーくんが借りてたの?」

「そういうことだよ」

「この高い家賃のマンションを2室って……」


 カードキーを使って、中に入る。

 目の前には……俺の作品のヒロインのタペストリーが玄関先の壁に立て掛けられている。


「フィアだ……」


 一葉が見えているのは彼女が大好きな作品【宮廷スローライフ】のメインヒロインのフィアだ。

 美しく気高いヒロインで作品の中でも圧倒的に人気のキャラクターだ。あとおっぱいがでかい。

 フィアを主人公にした外伝作品もあるし、たくさんのイラストにフィギュアやグッズも存在する。


「すっご……」


 部屋中には至る所に俺の作品のグッズを置いている。

 グッズは大量のショーケースの中に保管しており、1種の展示場みたいになっている。

 だって……作ってもらったものを台無しにしたくないんだもん……。


 ただ加速的に増えていくのでさらに一室借りようかなって思っていたりもする。

 もうそれか家買うか!


 さて……そろそろ気付くだろう。


「ひーくん、お米先生の大ファンすぎでしょ」

「あ、そっちに行ったかぁ」


 俺は徹底的に執筆のことを隠していた。

 俺が少しでもモノカキをしていると漏らしていたらすぐにバレていたかもしれない。

 今日までバレなかったのは俺自身の行動が作家と結びつかなかったからだ。


 所長にも陽葵にも気付かれなかった。

 お米炊子にそこまで興味のない葵さんにバレたのは痛手だったが。


 すぅっと息を吐く。


「一葉。俺がお米炊子だ。WEB作家かつ【宮廷スローライフ】を含む複数の作品を書き上げた作家……その人だよ」


「……」


 一葉が呆然と口を開いている。

 ……そして数秒の時を経て、声に出す。


「【宮廷スローライフ】の13巻の原稿……ある?」

「ああ、まだ半分くらいだけど」


 12巻は先々週に発売したばかりで13巻は今月が締め切りなのでかなり頑張らないといけない。

 この家の一室に待避させていたタブレットを一葉に見せてあげた。


 一葉は掴み取り、じっと見つめる。


 よく考えたらこれ……よくないな。

 完成前の原稿を見せるって……まぁいいか。


「あの一葉」

「黙ってて」

「はい」


 どうしよう。

 そして1時間近くが過ぎた頃……。

 一葉の読みが止まる。そして俺の方を向いた。


「続きは!?」

「今、書いてます」

「早く!」

「は、はい! って違うだろ!」


「あ」


 俺の返しに一葉はようやく我に返ったようだった。

 急に震え出す。


「ひ、ひーくんが……お米炊子先生……? 本当に」

「ああ、その通りだよ」


 一葉の瞳が潤んでくる。これはどういった感情だろうか、悪感情じゃなきゃいいけど。

 一葉は俺に指をさす。


「ひーくんはワキ舐め太郎だったんだ!」

「それ言うのやめて」




 ◇◇◇



「何だか……まだ感動が収まらないよ」


 一葉は来週発売予定のコミカライズの見本誌を見て、感嘆の言葉を吐いていた。


「もう……もっと早く言ってくれたら良かったのに」

「いや、言えないよ。お米炊子の作品……結構際どいし」

「そ、そうだね。そっか……つまりお米先生の性癖はひーくんの性癖。あたし彼女としてあの性癖を今後受けなきゃ」

「それ以上考えてはいけない」

「それは陽葵ちゃんでいいか」


 俺の彼女は異常性癖プレイを陽葵になすりつけた。


 あくまであれは創作だ。

 彼女に全部を求めようとは思わない。

 ワキさえ舐めさせてくれたら十分なんだよ。


「お米炊子先生」

「え、あ、はい」


 一葉が俺の書籍【宮廷スローライフ】を手に取る。


「先生の書籍が大好きです。ずっとずっと……大ファンです。これからも応援し続けます」

「あ、ありがとう」

「でも」


 一葉はばっと俺を抱きしめてきた。


「あたしはひーくんの方が好き」

「……ありがと」


 何となくだけどもう一人の自分にも勝てたような気がする。

 やっぱり……恋人になってもらってから話してよかった。


「ねぇひーくん」

「なに」

「ひーくんがお米炊子だってこと、所長や陽葵ちゃんにも話しちゃだめかな?」

「……。そうだな。それは俺も思っていた」


 2人にはすごくお世話になったし……これからのことも考えたら話をしてもいいんじゃないかなって思う。

 2人のことは信用しているから無闇に吹聴しないだろうし……、話してあげたい。


 一葉がいいと言うのであればさっそく呼びだそうと思う。


「それにね」

「うん」


「時々3人でお米炊子先生がどんな人か話してたんだけど……あたしだけ知っちゃったからね。多分気まずくなるの!」


 ああ……それもあるのか。

 今の一葉の立場だと黙っててしんどいんだろうな……。


「一葉はお米炊子はどんな人だって思ってた?」

「三度のメシよりワキが好き」

「俺は?」

「ワキ舐め太郎」


うーん一緒だねぇ。


「まぁ、それは半分冗談として……うっかりバラしそうになるから……できれば話したいかな」

「早急に2人を801号室に呼び出そうか」


「ひーくんが私にだけ話してくれたのは花丸だね。……あたしが一番初めにお米炊子って知ったわけだから自慢になるよ!」


「あ……一番は葵さんだな。温泉旅行の際にバレちゃった」


 一葉の顔が真顔になる。


「ひーくんってさ」

「へ?」

「初体験はあたしかもしれないけど……みんなに初めてをバラまいてるよね」

「いやいや、そんなことは……」

「所長にはワキ舐め」

「あっ」

「陽葵ちゃんには性癖プレイ」

「いっ」

「茜さんには初キス」

「うっ」

「葵さんにはお米バレ」

「えっ」


「この女ったらし!」


「返す言葉もありません……」

「もういいよ。そんなひーくんが好きだし……他のみんなのことはあたしも好きだから」

「一葉」

「……同じひーくんを好きになった創作仲間だからね。ひーくんはハーレム作れて楽しいかもだけど!」

「お、俺は一葉に一途だから!」


「それならいいよ、許してあげる」


 はぁ……俺がゾッコンになった子には一生敵わないなって思う。

 ずっと一葉を好きでいたい……。心からそう思った。



 そして、その日の夜。


 一葉のアドバイスでどうしても話したいことがあるからすぐに来て欲しいとメッセージを送ったら

 2人ともマッハで来た。


「飛鷹……、仁科と別れるってマジ?」

「旦那様……、仁科さんと不仲って本当ですか?」


「ひーくん、やっぱこの2人帰していいよ。出入り禁止にしてもいい」

「まぁまぁ」


 あのメッセージを送れと言ったのは一葉じゃないか。

 あんな言葉で言ってるけど所長も陽葵も表情は明るい。


「2人を呼び出したの他でもない。今日、報告したいことがあったんだ」


「やっぱり別れるんですね」

「別れません! 結婚とかの方がありえるでしょ!」


「冗談よ。ちょっと期待しちゃったけどマンションの下で陽葵と会った時点で消えちゃったわ」

「ですね、なので仁科さんを徹底的にからかおうと思いました」


「ひーくん、みんながいじめる」

「よしよし」


 まぁこれも彼女達なりのコミュニケーションなのだろう。

 よし……じゃあ、行くか。


 3人を連れて801号室へ突入する。


「2人とも聞いてくれ……。俺は」


 今日、俺のファン3人に全てを告げた。


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