15 後輩のお悩み相談②
外周りから帰ってきた矢先、奥のスペースで3人がウンウン唸っていた。
「どうしたんですか?」
「お客様から装置の不具合ということで事務所に送ってこられたのです」
九宝さんはダンボールの準備をしている。
S社から引き取ってきたテスモの一期古い機種らしい。
今まで問題なく使えていたのにここ最近、別の場所へ移動して、サンプル分析を行うとエラーが発生して止まってしまうらしい。
「ちょっと気になってね。本社のサービスチームに送ると完全に有償作業になっちゃうから。本当に不具合ならそれでいいんだけど……」
古い機種だが製造年月はまだ新しい。
基板故障で有償にしちゃうと結構金がかかるんだよなぁ。
年式的にクレームとなる可能性がある。
「どちらにしろ。あたし達じゃ分からないですよねぇ……。花むっちゃん分かる?」
「そうだね。電源だけ入れてみようか」
コンセントを繋いで電源を入れる。
内部設定を覗いてみると不可解なポイントが見つかった。
「ああ、そういうことね」
「花村さん、分かるんですか?」
「ああ、有名な不具合だね。不具合が再現するか確認しよっか」
まずは不具合が再現するように内部設定をいじる。
分析値の校正用サンプルを装置に組み込み、測定開始。
「あ、アラームが出た」
「そういうことです。多分バージョンバグですね」
特定の設定で測定を走らせると測定する成分と数値がアラームの閾値とかみ合わずアラームが発生してしまうというもの。普通で考えればその閾値はありえないんだけど……あり得てしまった状態で市場に出しちゃったんだよな……。
聞けば今までその設定で分析をしたことがなかったようだ。
特殊条件下でしか使わないから遡りも積極的ではなかったと思うし、仕方ない。
「バージョンアップすれば多分直りますよ。各事業所にメンテナンス用ノートPCって送ってましたよね。あります?」
「持ってきます」
九宝さんが持ってきてくれたのでさっそくUSB接続でケーブルを装置と繋ぐ。
俺の仕事で使っているノートPCにはバージョンアップファイルは全て入ってるのでメンテナンス用ノートPCに移動させて、装置と通信させる。
オペレーションモードで装置を立ち上げる。
「先輩が作った指示書があるからそれ通りにコマンド入力すればOK」
コマンドを入力し、バージョンアップを開始する。
あとは勝手にアップデートしてくれるので待つだけでいい。
「よし、完了」
「花むっちゃんすごーい!」
装置を再起動して再現するかどうかやってみた所、アラームが出なくなり正常判定となった。
「さすがね、花村くん」
「ははは、前のチームにいたら誰でもできるんで大したことないですよ」
美作所長と仁科さんに褒められて、有頂天となってしまう。
本当に大したことないんだけど、褒められるのは悪くない。
「本社に送らなくてよかったですね」
「そうね。バージョン問題だったら遡り対策になるわけだし、有償にしなくてよかったわ」
事務所で再調整して、お客様に返却すれば良いだろう。
念のため1週間様子見で客に動かしてもらえばそれでいいかな……。
明日、お客様のところへ持って行くということで段取りを取るため九宝さんに話そうと思ったが、彼女はそこにいなかった。
自分の席にもいない。外に出て……きょろきょろと探していると九宝さんが壁に背を当て俯いていた。