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14 後輩のお悩み相談①

 浜山SO(セールスオフィス)に来て2週間。仕事にもかなり慣れてきた。

 別に新入社員でもないわけだし、当たり前と言えば当たり前だ。

 ただ営業活動についてはまだ顧客との顔合わせをしきっていないのでまだまだ一年生気分である。


 本社と地方事務所での違いというのが認識出来てくる。

 本社は当然上役も多く、社内規定などもある程度厳守する必要があるのだが地方だとそのへん、いくらか緩い。

 美作所長は締める所は締める性格なので他の地方で聞くようなゆるゆるな所はないがそれでも本社に比べれば気が楽である。


 残業とかも今の所はほぼない。月末はさすがにやるようだが……本社の激務部署だった頃に比べればかかなり減っている。

 残業代が減る分、人によっては困るかもしれないがそもそも俺は副業の方が稼いでいるのでぶっちゃけお金はそんなに求めてない。


「お電話ありがとうございます。株式会社フォーレスです」


 事務所にかかってくる電話を受けることが多いのは九宝さんだ。

 営業業務という立場ではあるが、事務員も兼任している。

 1人あたりの仕事量が多いので捌くのも大変だ。だけど残業せずに終わらせるので優秀なのは間違いない。


 言葉遣いも丁寧で、相手先もびっくりするほどの美女が電話に出ているなんて思ってもいないはず。


「はい……はい……。承知しました。確認させて頂き、折り返しさせて頂きます」


 九宝さんの表情があまり宜しくない。

 何かあったんだろうか……。


「花むっちゃん、ちょっとテレビ会議するから手伝って」

「ああ!」


 こっちはこっちで仕事をしないとな。



 ◇◇◇



 昼食が終わり、昼のミーティングを開始する。


「Y社で『テスモ』の引き合いが入ったわ」


 フォーレスの主力製品の1つ『テスモ』

 小型の分析装置で浜山SOのメイン顧客の中で研究目的で購入することが多かった。

 持ち運びが出来るということで最近引き合いがかなり多い。


 最新機種の『テスモ-1000X』の設計・開発の一員だった俺がこのSOに来たのも浜山の地元企業であるY社やS社での購入が増えたのが要因である。


「法規制が変わったせいで需要が伸びたのはウチとしてはありがたいけど……急よね」

「今は何とか捌ききれてますけど台数が増えると保守関係が面倒になりそうですよね。花むっちゃん。簡易メンテの取扱説明書は出来てる?」

「ああ、用意してるよ。次の定例会に向けてのアジェンダを組んでみました。所長、確認お願いします」

「ええ、分かったわ」


 ふー。週一月曜日の昼食後に事務所内でミーティングを行っている。

 所長も仁科さんも考えながら手を動かせるタイプだからマジで有能だな。

 この2人の動きを参考にしながら俺も知識を合わせれば決して追いつけないわけではない。


 疲れるけど、頑張るしかないなぁ。


「そういえば……陽葵はまだかしら」


 いつもいの一番に会議室に現れて準備を行う九宝さんが現れない。

 俺は断って様子を見にいくことにした。


 九宝さんは事務机でずっと電話をしていた。

 電話中なら仕方ないか……いや。


 九宝さんは随分と困った顔をしている。今にも泣きそうな顔で指を動かしてメモを取っている。

 顧客からの問い合わせであれば確認して折り返ししますで逃げ出せばいいだけだ。

 そんなに難しい話ではない……。


 そうだ。この事務所の電話のディスプレイは通話先が表示される。

 そこには本社のサービスチームの部署名が書いてあった。

 ざっと九宝さんのメモを確認する……。


「九宝さん、替わって」

「え、でも」

「いいから」


 相手が顧客でないなら社内の人間であれば問題ない。

 九宝さんから強引に受話器を受け取る。


「お電話替わりました。浜山の花村です」

『は? えっ……』

「その声は桐生さんですね。女の子いじめて何してんすか」


 サービスチームは本社にある部署で主に装置の問い合わせ対応や現地での修理対応をメインの業務となっている。

 その立場上当然古巣の設計・開発チームと関連性が高い。

 というかフロアーが一緒なので全員の顔は分かってる。


『花村って……浜山に行ったのか』

「そうです。送別会やったじゃないっすか。それで何をそんなに長引かせてるんです?」

『いや、そっちの事務の子の言ってることがわかんねぇんだよ。テスモの不具合だけど何言っても要領得ないしさ……』


 やはりそういうことか。問題点が浮き彫りとなる。


「桐生さんレベルの確認方法を事務の子に言っても分かるわけないでしょ。どうせまた電圧値とか、内部設定に係数とかサンプルの性質とか聞きまくったんしょ」

『うっ』

「前、それで地方事務所からクレームあったの忘れたんですか? 地方から電話を受けたら、顧客に確認してほしいことをメールする。電話で無理やり教えようとするから女の子もパニックになるんすよ」

『分かったよ。ったく花村も生意気になりやがって』

「そりゃこの仕事5年目っすもん。今回の不具合は自分で対応するんで、今後は手はず通りにお願いします。じゃ、部署のみんなに元気にやってるって言っておいてくださいね」


 がちゃんと受話器を戻した。

 ったく、何でもメールをめんどくさがって電話で何とかしようとするおっさんどもが……。


「ごめんなさい……」

「ん? ああ、あれはサービスが悪いからいいよ」


 九宝さんが項垂れてしまう。

【テスモ】は使用するにあたって難しい装置ではないが、内部設定などはそこそこ作り込まれているため問い合わせなどがあったときの対応は難しい。

 特に本社で製品教育を受けていないのに分かるはずがない。


 俺だってパソコンの不具合が発生しても奥深くまで分からないもん。そこは仕方ないのだ。


「最近テスモの不具合の問い合わせが多くて……。でもサービスの方に連絡を取っても何を言ってるか分からないって言われることが多くて」


 そうか、それで不安な顔をしていたのか。

 サービス部隊は職人肌の人が多い。どうしても顧客の問い合わせ情報を正確に受け取り、伝えてほしいと思っている。俺も新人の時になんだこのクソ装置、どういう設計思想してやがるって散々怒られたもんだ。

 知識を付けて言い返せるようになったり、コミュニケーションを取ると扱いやすいチームになるだけど……本社と地方ではどうしても温度差が出来てしまう。


 もしこれが対面だったら九宝さんの美しさにサービスチームも困惑してもっと優しく聞いたことだろう。

 さすがに声だけじゃな。


「あ、ミーティングでしたね。すぐ行きます!」


 このあたりは経験で何とかするしかない。

 美作所長も仁科さんだって設計やサービスレベルの知識は恐らくない。

 だけど……うまく情報を引き出すくらいの知識はあるので話を合わすことができるのだ。

 まだ2年目の九宝さんでは厳しいのかも知れないな……。


 だけど、何とかしてあげたい。


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