138 (美女視点)温泉旅館 ~それぞれの想いと願い~③
美女達の泊まった旅館は風呂場がいくつか存在する。
宿泊客や風呂のみの利用客のための大規模な温泉場と家族や親しい人達が使う小規模の浴場が備えられていた。
今回、美女達は旅館の招待券に付随していた特典による家族風呂使用券を使用し、5人で楽しく温泉を楽しんでいた。
「しかし……本当に花村さん逃げましたねぇ」
美女達の雑談の最中、浅川葵は思い出したように語る。
この場は個室ということもあり、男女共用のお風呂となっている。
唯一の男である花村飛鷹は速攻逃げ出した。
「でも……一緒に入りますって言われても……正直困りますし」
姉である浅川茜は少し顔を赤らめて呟いた。
「あら、私と陽葵はもう慣れたから……どんとこいだけど」
「え? 九宝さんのお仕事ってそういったのもやってるんですかぁ?」
「お背中流しますよって一回風呂に突入したことがあったんですけど、逃げられましたね。2回目以降は鍵をつけられちゃいました」
「陽葵ちゃん……やりすぎだよ」
仁科の呆れ声に陽葵はてへっとあざとっぽく笑う。
仁科と美作にとってはこの陽葵は当たり前だが、直の面識が少ない葵と茜はこの姿を意外に感じていた。
「これが恋の力なのですねぇ。お姉ちゃんも頑張らないと」
「む、無理に決まってるじゃない!」
「しっかし飛鷹も奥手よねぇ。美女5人が側にいるっていうのに……もう少し肉食でもいいと思うだけど」
「肉食じゃないからこそ……ぐいぐいといけるんですけどね。肉食だったらわたしも所長も茜さんもとっくに処女を散らしてますよ」
「確かに」
美作はその通りと頷く。
「え? え?」
「お姉ちゃん、ホテルに連れ込んだでしょ」
「あ……」
葵の指摘に同じベッドで寝たことを思い出し、顔を隠すように恥ずかしがる。
「それを言うなら仁科もよね。私達の中で一番最初に動いたのは仁科だし」
「あぅ」
一歩下がった所にいたと思われていた仁科はその美作の話で思わず仰け反る。
慌てて立ち上がった。
「そ、その話は……もうかなり前の話ですし!」
「まぁいいけど……。それより」
美作はじっと仁科の一点を見つめる。
「あなたまた大きくなったんじゃない? 誰かに揉まれた?」
「大きくなってません! 上司がセクハラするー!」
「いいですねぇ。私なんて姉に奪われましたからねぇ……」
葵が目を細めて、茜の胸をじろっと見つめる。
妹の奇行に茜は思わず胸を隠した。
「奪ってないわよ!」
「双子なのにカップ数が違いすぎる。大きい方と小さい方と言われ……どれだけ煮え湯を飲まされたか……」
葵はわざとらしく泣き真似をする。
「大きさで言うなら……わたしもそうですね。仁科さんや所長より小さいですし」
「……。九宝さんはEカップとお聞きしましたが」
「は、はい」
「Eカップは巨乳の部類です! 小さいなんて言葉を使ってはいけません!」
「す、すみません」
「罰としてみなさん……私に揉ませてください」
「バカなこと言ってないの。私からすればあなたのCカップぐらいの方がいいわよ。肩が凝って仕方ないし」
茜はぐっと肩が凝っているアピールをする。
5人の中で最も長身であり、仁科につぐ胸の大きさを持つその姿はまさしく理想の美女に相応しい。
「肩こりますよね~。あたしももうちょっと小さい方が良かったです。服とかも結構困るんですよ。男を扇情するとかよく言われますし」
「あたしからすれば所長や陽葵ちゃんの細さの方が羨ましい」
「そう? 運動すればいいのよ。あと食事制限もね」
美作は休日はしっかり運動をしており、食事もバランスよく取っている。
努力することが好きな彼女だからこそできる方法だろう。
仁科ははぁっとため息をついた。
「わたしは……」
陽葵はそこで詰まる。
「言っていいと思いますよ。わたしは何もしてませんが細いままですって」
「許すまじ!」
「だってお肉つかないんですもん。それにいいことばっかじゃないですよ」
陽葵は続ける。
「旦那様ってわたしの脇腹ばっかり揉むんです。わたしがくすぐったいのダメなの知った上でモミモミしてきますからね」
「陽葵の反応かわいいからね~。私も飛鷹の気持ちが分かるわ」
「もう、本当に苦しいんですんにゃっ!?」
「あ、ほんとですねぇ」
いつのまにか後ろにまわった葵が陽葵の脇腹をぐにっと揉んだ。
この中で一番年下ゆえにからかわれてしまう。
「そんな可愛らしく反応したら……そりゃいじめられますよ。楽しいですもん」
「やぁん、ちょっ……にゃっ!」
「こら葵、やめなさい」
「はーい」
「ううう……」
「いや、本当にすべすべの肌で……柔らかかったですね。一万円払えば九宝さんを好きにできるって魅力的ですね」
「もうアレは旦那様専用価格ですから!」
「……ちょっと羨ましいかも」
「あ、茜さん?」
ぼそっと呟いた茜の言葉を仁科は聞いてしまう。
だが……それ以上聞くことはできなかった。
「それで」
美作はぴしゃりと話題を変えるような口調で喋る。
「仁科は飛鷹のことどう思ってるの?」
「どうって……」
「何もしないなら私も陽葵もごり押しするだけだし。飛鷹が性欲我慢できなくなったら……決まりね」
「……」
「仁科さんは花村さんのことを好きだったんじゃないんですか?」
陽葵の直球の言葉に仁科は静まる。
「わかんないの……。本当に好きなのかどうかも分からない。だってあたしは所長や陽葵ちゃんみたいに積極的にいけないもん……」
仁科はぼそりとその心情を吐く。
「男の子はきっと好意いっぱいの方がいいんだと思う。でもあたしはそんな勇気が出ないもん」
「ま、気持ちは分かるわ。私も……そうだったし」
美作はそっと仁科の側に寄って、彼女の頭を撫でる。
その姿はまるで姉のように優しかった。
「自分のペースでいけばいいわ。でも……後悔だけはしないようにしなさい」
花村飛鷹が本当は誰が好きかを知っているのは美作と陽葵だけである。
陽葵はそれを他の3人に告げる気はまったくない。
しかし美作は……直で告げるつもりはないが、仁科の苦しみを理解しているためか……年上として上司として優しくなってしまう。
「……お姉ちゃんも頑張らないとね」
「……」
「この機会に告白するんでしょ」
「うん」
そんな仁科や美作の姿に茜もまた覚悟を決める。
「んじゃー、私はお姉ちゃんの力になろっかな。花村さんにはお伝えしたいこともあるしね」
各々ヒロイン達は次へのステップを歩み始める。