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135 君との距離④

「浅川さん、どうしてここに!」

「たまたま外を歩いていたら社会人ラブコメしてそうなお二人を見つけて声をかけさせて頂きましたぁ」

「ら、ラブコメなんてしてません!」


 仁科さんが顔を紅くしてぷんぷんと怒る。


「うん、やっぱり仁科さんはそういう顔をしてる方がいいですね~。最近、めっきりお会いする回数が減って寂しいのですよ」


 仁科さんはS社の方も担当しているので浅川葵さんの所へ行く回数が減ってきている。

 代わりに俺が葵さんと会う回数が増えてきた。


「花村さんとはよくお会いするんですけどねぇ」

「ふふ、そうですね」

「姉から羨ましがられて困ります。そうだ、今度会社間で入れ替わりしてみようかなぁ」

「バレたらエライことになりますよ」


 でもこの2人優秀だから普通に身代わりできそうな気がする……。

 胸のサイズが全然違うからすぐバレるだろうけど……。


「じゃあ、自分はここで失礼します」

「あれ? 花村さんは私に会いにきてくれたんじゃないんですか?」

「今日はアポ取ってませんが……」


 分かってるのに言うもんなぁ。

 仁科さんがしらーとした顔で見ているじゃないか。いかんいかん。


 俺は2人に背を向けて、今日訪問予定の担当者に電話連絡してみる。ちょっとだけ早くついてしまったので今からお伺いしていいかどうかの確認もある。

 ……連絡をした結果。


「どうやら先方の会議が長引いているみたいで打ち合わせ時間を30分ズラして欲しいって……」

「そうだったんだ。花村くん、どうする?」

「うーん、コンビニで時間潰すかなぁ」


「なら、久しぶりに3人でお話しましょう」


 そんなわけで時間つぶしにお邪魔させてもらうことになった。

 こうなると……お仕事の話よりも雑談がメインとなってしまう。


「それにしてもフォーレスさんは大変なことが続きましたね~」

「その節は……ご迷惑をおかけしました……」


 夏の俺のミスから始まり、陽葵や所長の騒動。

 葵さんは取引先としても少なからず影響は受けていたと思う。

 茜さんや葵さんにはご迷惑をかけてしまった。本当に申し訳ないばかりだ。


「いえいえ、無事に済んで良かったと思います。ずっと5人で仲良く創作したいですからね~。ま、最近リアルの色恋沙汰でまともに創作してるの私と仁科さんだけですから」

「花むっちゃんのせいだからね」

「それに関しては申し訳ないけど俺も困ってるんだよ!」


 言うて茜さんはしっかり幼馴染ざまぁを書いてるような気がするけど……。

 葵さんが俺と仁科さんを交互に見る。


「でもその問題解決に花村さんが尽力したそうですね~。さすがです」

「そんなことないですよ」

「姉も美作さんを助けて欲しいと花村さんから頼まれてびっくりしたと言ってましたし」


 そうだ、所長の時は茜さんに執筆で勇気付けて欲しいとお願いしたんだった。

 自分の執筆スタイルをねじ曲げるお願いだったのに茜さんは怒らずに幼馴染が寵愛されるお話を書いてくれた。

 本当に良い人だよな。


「陽葵ちゃんも所長も言ってたんですけど、あのお米炊子先生が偶然短編を書かれてたのが大きかったみたいですね」

「偶然?」


 葵さんが返す。


「はい、2人とも悩んで苦しい時にちょうど2人を模したような主人公のお話が偶然投稿されたみたいで……随分勇気をつけられたみたいです」

「へぇ」


 何だかその話はして欲しくない気がする。

 あの時、俺は2人のためを想い、伝えるために全力を注いで短編を作り上げた。

 性癖がまったくない! って読者に随分驚かれたけど……。


「まるでずっと側にいてくれたような感覚だったって2人とも言ってました」

「仁科さんも含めて大ファンだもんね! その想いが伝わったんじゃないかな、あはは!」

「花村さん、どうしてそんなに汗をかかれているんです?」

「夏だからかな!」

「もう11月だよ……」


 何かこれ以上話すとボロっと言っちゃいそうだし、いったんここは逃げるとしよう。

 ちょうど時間もいい頃になったし。

 俺は立ち上がり、葵さんに会釈する。


「ではそろそろ自分は本来の案件の所へ向かいます。時間を取らせて頂きありがとうございます!」

「あ、うん」

「は~い、花村さん、頑張ってくださいねぇ」


 逃げるようにこの場から出ることにした。




「花むっちゃんどうしたんだろ……」

「お米炊子か……」

「葵さん?」

「ああ、何でもないですよ。……でもちょっと気になりますね、調べてみようかなぁ」


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