133 君との距離②
仁科さんとまともな雑談ができないまま無駄に時間だけが過ぎていく。
そして土曜日、衝撃的なものを見る。
「じゃーーん、今日は陽葵の代わりに私が飛鷹のお世話をするわね」
「……」
陽葵にはマンションの合鍵を渡している。
土曜日は朝食をお願いするために俺が起きるよりも早く来て、準備を始めるのだ。
早い時には7時頃に来るからな。もちろん7時からお給料は出してるので超ホワイトである。
そんなことはどうでもいい。
見たことがない美少女がえっちなメイド服を来て、俺のマンションに来ていた。
いや、見たことがないとは嘘である。正確には2回目だ。
「何やってんですか」
「美作凛音、17歳です!」
ああ、今回はそういう路線か。
「前、飛鷹が言ってくれたじゃない。メイクを落としたら若く見えるって。今までは絶対に見せないと思ってたけど少しでも若く見られるならそれもありかなって」
小柄で童顔な所長はメイクで大人っぽさを演じている。
そのため素の顔は非常に若々しいのだ。女子高生がえっちなメイド服を着ているように見える。
「それにしても際どい服よね。普段の服でもこんなに谷間を見せつけないわよ」
ごくり。
陽葵よりもスタイルの良い所長があのえっちなメイド服を着ることで胸の谷間をこれでもかってほど見せつける。
俺の視線に気付いたか、体をかがめて中腰で俺を見つめる。
所長はくいっと谷間を支え、襟を下げた。
「ど~お?」
目が離せない!
もし高校時代に可愛くて、胸も大きい2つ上の幼馴染のお姉さんがいたら絶対に憧れの存在になっていたのは間違いない。
宮永さんもほんと惜しいことをしたよな。
「うぐううううう!」
その時、俺の寝室からうめき声がした。
いやな予感がして扉をあけると陽葵が縄で縛られて、猿ぐつわされていた。
何ということだろうか。
俺は陽葵の猿ぐつわを外す。
「旦那様! この人、相当悪女ですよ!」
うん、何となく分かってる。口には出さないけど……。
「失礼ねぇ」
「何でこんなことに……」
「今朝、わたしを丸め込んでここまで来たと思えば油断して縛られました」
「だって陽葵が邪魔だったんだも~ん」
可愛らしく言うがやってることは結構とんでもないな。
「わたしがバカでした。旦那様に少しでも御礼をしたいからって殊勝なことを言うから……。旦那様、この女はウソつきです!」
「君が言うかなぁ」
陽葵のウソも結構とんでもないと思うぞ。
仁科さんの対応が冷たくなったのは間違いなく陽葵のウソが主要因だ。
……ウソじゃないところも結構あるけど。それはいい。
「所長……ちょっと前まで距離を置いてたような感じだったのに……」
「距離を置いたって手には入らないんだから仕方ないでしょ。やるからには本気でいく。いつも言ってることじゃない」
所長は本気で俺を落とそうとしているのか。
陽葵といい、所長といい……ぐいぐい来る。
本来であればそれに応えるべきなんだろう。
しかし……俺の心の中には彼女への想いが強く残る。
いや、女遊びが盛んだったり、隠さなければならない副業の件でなかなかオープンにはできないんだけどね。
陽葵の拘束を解いてあげた。
「ところで所長も家事は得意なんでしたっけ」
「仁科や陽葵ほどじゃないけどね。自分のことは自分でやるようにしてるわ。最近は……特によくやってたし」
ああ、宮永さんの件か。
名前を出したくないほど嫌な思い出なのか……単純に俺を気にしているのか……。
「だから飛鷹には私の家事力を見せつけたいのよ」
もしかしたら宮永さんの所に通っていた事実を消し去りたいのかもしれない。
「所長が今……俺の側にいてくれるなら何だっていいです。過去に何があろうと関係ないですから」
「あ、ありがと」
所長が頬を赤くして呟く。
ちょっと発言が際どかったと今更になって思う。こういう所なんだろうか。
「旦那様、もっとわたしにも構ってください」
「おっと」
後ろから陽葵が抱きついてくる。
最近所長がぐいぐい来るから陽葵の甘えとねだりが強くなってるように感じる。
年下で庇護欲を強く感じる陽葵の姿は正直ぐっとくる。
所長も陽葵もどうしてこう……魅力的なんだ。
俺が3人いれば間違いなく全員とお付き合いするのに!
異世界にいけばこの2人を気兼ねなく手に入れることだろう。
しかし、ここは現実。1人の女性しか愛することはできない。
モラルや俺自身のこだわりだ。その想いは目の前の二人ではなく、別の人の方へ向かっている。
「じゃ、飛鷹。朝にしましょ。今日は私がいっぱい奉仕してあげるからね。JKがお世話にしてくれてるみたいに思っていいわよ」
「あ、ああ」
「旦那様、目の前の女は女子高校生じゃなくて女子校生ですよ。10年サバ読んでますからね」
でも28歳が17歳って言うのグッとこない? 俺だけかな。
「どんなに童顔でも実際は28歳の年増じゃ……にゃっ!?」
いつのまにか陽葵の後ろに回り込んでいた所長が……陽葵の脇腹をぐりぐりと揉み始める。
甲高い声と共に陽葵の体はびくんと震える。
「言いたいこと言ってくれるじゃない、小娘ぇ」
「にゃはははは! やめ、やめっ!」
陽葵の弱点はすでにバレてるので所長がそこを突かない手はない。
しかし今回は勝手が違った。
「ひゃはっ……くっ、このう!」
「ひゃっ! こ、こら!」
陽葵がカウンターで所長のお腹まわりを揉み始めた、そのまま腋の方へ手を滑らせる。
「わ、わたしの方が体格は上なんです! 負けない……!」
「ひゃはは! ちょ、やめっ!」
「所長も弱いじゃないですか、ひゃっ!」
所長もそういえば敏感肌だったな。
防戦一方だと笑わせ続けられるため、所長は体をくねらせつつ、陽葵に攻撃を加える。
2人は組み合い、相手の弱い所を責めて声をあげさせる。
リビングの床でえっちなメイド服着た2人が組んずほぐれつくすぐり合う。
どっちも負けじと攻め立て、体力を奪っていく。
この戦い……どうなってしまうのか!
それより素晴らしいもの……スタイルの良い2人が人目気にせず暴れ回るため……その見つめたくなる胸は揺れに揺れる。
ギリギリのスカートからお互いの下着が露わになる。
所長が青で、陽葵がピンクか。
体格で上回る陽葵か、テクニックで勝る所長か。
どっちも息を荒くさせなながらリビングの床の上で汗を流す。
「あ」
ムクムクと頭の中にシーンが浮かんでくる。
よし、新作のヒロインを1人増やして、年齢サバ読みの美女にしよう。
「じゃ……俺、部屋に入るから」
「え」「え」
所長と陽葵の動きが止まるが、俺の頭はすでに執筆したい脳に移り変わっていた。
ありがとう2人とも。美女達の組んずほぐれつはいいインスピーレーションになりました。
俺は執筆部屋にこもって、仕事を開始する。
「ちょ、飛鷹! こら、開けなさい!」
「旦那様、わたし達を放置なんてひどいです!」
ドアをどんどんする音が鳴り響くがもう関係なかった。
それから6時間、俺は部屋から出ることはなかった。
そして2人にめっちゃ怒られた。
でも10話連続投稿のおかげで読者からは喜ばれた。