127 上司で幼馴染で大切な姉さん⑤
「同じ幼馴染というのであれば俺の側にいて欲しい!」
俺は自分の想いを吐く。
姉さんは驚いたような表情を見せて、少しだけ考えこむ。
肩を下ろし、戸惑うように……目を瞑って口が緩もうとするのを必死で潰そうとしている。
いったい何を我慢しているのか……俺には分からない。
姉さんは何を思い、何を遠慮をしているのか。
数秒の時を経て、所長は口を開いた。
「私は……義昭を選ぶわ。花村くんじゃなくてね」
「……あ」
「花村くん、あなたは仁科や陽葵、茜さんをもっと大事にしてあげなさい」
◇◇◇
それから先はあまり覚えていない。
姉さんが宮永さんとの思い出を延々と話し始めたからだ。
きっと少しでも宮永さんに対する不満を和らげようとした姉さんの好意なんだろう。
だけど俺は正直宮永さんの話を聞きたくはなかった。
俺以外の男の話なんて聞きたくない。そんな言葉を吐ければどれだけよかったか。
でも結局、俺の気持ちは伝わらなかった。
見透かされていたのかもしれない。
俺の気持ちがその場しのぎでしかないことを……。
姉さんのことは大好きだ。上司としても同僚としても幼馴染としても……、でもそれは仁科さんや陽葵に抱いている気持ちと同じ。
所長に恋愛感情があれば遮二無二……止めにかかったのだろう。
でも宮永さんに取られるのだけは我慢ならなかった。
きっと俺と同じぐらい所長を好きな人であればこんな気持ちにはならなかったかもしれない。
そんな自分の気持ちのあやふやさが嫌になる……。
どうする……どうする。
日だけが過ぎていく。
仁科さんや陽葵とも話をしたが解決策が出るはずもなかった。
姉さんは俺ではなく……宮永さんを選ぶと決めてしまったのだから……。
俺に出来る事はもう……何もなかった。
俺はもう……何も無い
だけど……最後の最後まであがいてやる。
それでもダメなら仕方ない。ワガママかもしれない、自分勝手かもしれない。
例えそうであっても美作凛音を……彼女を幸せにできないような幼馴染の元へ送るわけにはいかない。
「……やるか」
俺は家のパソコンを開き……無心でキーボードに自分の想いを打ち込んだ。
花村飛鷹の言葉が届かないならお米炊子の力を使えば……変えられるかもしれない。
陽葵の時だって……彼女に力を与えることができたんだ。
創作の力で姉さんの想いを変えてみせる。
幼馴染の本当の幸せってやつを俺が教えてやる!
だけど今回はそれだけじゃ駄目かもしれない。
「もう一つ、手段があるはずだ」
俺はスマホを手に取り……彼女に連絡を取った。
この危機に力になってくれるのはきっと彼女だけだ。