118 出張先で彼女と⑤
「私の部屋に来てください」
「いいです。ネカフェ行きます」
「ダメです! 私と夕食付き添ったせいでホテルに泊まることが出来なくなったのですし、私にも責任があります」
「ないですって! 責任があるなら美作だけですから」
「美作さんの担当である私にも責任が!」
「茜さんは所長の親かなんかですか!?」
茜さんがじっと俺を見つめる。
「そんな目で見られても! ホテルで一緒だなんて……俺、茜さんを襲ってしまうかもしれませんよ」
「……美作さんとはラブホ行くくせに、私とは一緒に泊まってくれないんですか」
「なぜそれを!?」
「あ、やっぱりそうだったんですね。葵の推測は当たってたんだ」
所長もさすがにラブホ行ったことは漏らしていないと思うが……突き止めてしまうなんて葵さん、何て解析能力してるんだ!
「結局手を出されなかったんですよね。それなら私と一緒の部屋に泊まっても大丈夫じゃないですか」
「いや……あの時と今は状況が……」
「くっそ、どうする。どこもネカフェ空いてないってよ」
「しゃーねぇ。ファミレスで夜明かそうぜ」
そんな若者の声が聞こえてくる。
茜さんもばっちり聞いていたようだ。
「いくら私でも一緒にベッドで寝ましょうとは言いません。……さすがに無理だし」
「へ?」
「ごほん。私の取った部屋、ツインベッドなんです。1つの部屋に2つベッドがあります。それなら問題ないでしょう」
確かに……。
状況としては夏の浜山シーサイドホテルの状況と似ている。
あの時は一緒のベッドじゃなかったので寝ることに対しては問題なかった。
潜り込んでくる奴らがいたのは問題だったが……。
ネカフェも頼れないのであれば……仕方ない。
昔の俺だったら全力で拒否ってたけど……今の俺なら自制できるはずだ。
ベッドさえ別であるなら!
「分かりました。じゃあ……申し訳ありませんがお願いします」
「はい! でも勘違いされたらダメですので……夫婦ってことにしましょうか」
「おふっ! 夫婦!?」
「何か美作さんや仁科さん、九宝さんに悪い気がしますけど……まぁいいですよねぇ」
「何か楽しそうですね」
「いえいえ、そんなことないですよ」
茜さんがすごくにやけてる気がする。
この気持ちは何だろうか。葵さんだったらからかい目的だと思うし、双子だからそんな気持ちと似ているのだろうか。
夫婦か。ってことは何だろう。花村茜か、浅川飛鷹か。どっちになるんだ。
「じゃ、じゃあ私は花村茜になりますね」
「……な、何だか照れますね。……じゃあ行きましょうか茜さん」
「はい……あ・な・た」
もうそのまま結婚してもいいかなって思うようになってきた。
こうして俺と茜さんはウルトラホテルにチェックインする。
夫婦ってことで疑われることはまったくなかった。
創作だったら高校生の主人公とヒロインが疑われるまでがお約束だけど、俺と茜さんは20代中盤だもんな。疑われるわけもない。
領収書などはまぁ……紛失しても何とでもなるので2人分支払ってチェックインすることにした。
そして俺と茜さんは部屋に入る。
「……」
「……」
俺と茜さんはそのベッドを見て固まった。
茜さんが涙目で俺を見る。
「す、すみません。取った部屋、つ……つ……ツインじゃなくてダブルでしたぁ~」
この仕事以外ポンコツぅぅうううう!
これはやばいかもしれん。