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116 出張先で彼女と③

 ほんの30分ほどの成果説明会だった。

 終わってしまえばあっという間のことで……、浅川さんすげーってのが感想だった。


 結局、俺は座っているだけで何にも動くことは無かった。

 説明の後も質疑応答も完璧にこなし、なんであのたくさんの種類の質問に全部答えられるんだって思うほど浅川さんは手慣れていた。


 3年連続って言ってたな。

 この大舞台で大企業のS社の代表として3年連続でこなす彼女の力量を見誤っていたのかもしれない。

 2ヶ月前はバレバレな変装で私は葵です~なんて戯れ言を言ってたのになぁ。


 そしてそんな浅川さんに集まる公聴者の方々。

 浅川さんにデレデレじゃないか。優秀な人材に人は集まり、美人にも人は集まる。

 両方を兼ね備える浅川さんはマジで最強なのかもしれないな……。


 今日の分の展示会は終了し、各々の会社は後始末に入る。

 予定では明日は所長と合流し、展示会用に設定したテスモを再調整してS社に郵送、軽く打ち合わせをしてこのお仕事は完了となる。

 つまり、本格的なお片付けは明日になるのでこの夕方からはフリーとなるのだ。


 さて、どうしたものか。所長と合流して横浜の夜を楽しむとするかな。


「浅川さん、よければ私達と食事に!」

「是非ともお話をさせてください」


 浅川さんに群がる他社の人間達。浅川さんにお近づきになりたい人ばかりのようだ。

 気持ちは分かる。


「フォーレスさんは去年来てた美人社員じゃないのか……」

「俺、あの人が来ると思ったからここに来たのに」


 そんな声も聞こえてくる。そうか、去年は所長が立ち会ったから覚えられているのか。

 説明する浅川さんの後ろに所長が寄り添っている。

 超絶美人の2人が揃って、そりゃ盛り上がったことだろう。


 残念、今年は俺でーす。


「申し訳ありません、本日は先約がありますのでこれで失礼致します」


 浅川さんはぺこりと礼をして下がって、俺の元へと来た。


「花村さん、今日はありがとうございました」

「いえ……。自分は何も出来なくて、浅川さん、ほんと凄かったです」

「ありがとうございます。ふふ、後ろで花村さんが見てくださったおかげで力が入ったのかもしれませんね」


 うひょ。小綺麗な笑みを浮かべる浅川さんにそんなこと言われたら照れまくってしまう。

 まだ浅川さんを諦めきれない男達がこちらを見ている。

 いいなぁって思われてるんだろうな。ま、浅川さんが俺と話してくれるのは所長の存在が大きいわけで……俺の力ではないのが悲しい所だが。


「花村さんは夜、どうされるのですか?」

「そうですね。美作と合流する予定です。ただ、その後は何も考えてませんね」


「で、でしたら……」

「浅川さんは先約があるんですよね? 今日のことや創作のことでもお話したいと思ってたのでちょっと残念です」


「え、……つまり私と話をしたいと」

「ええ、他ならぬ茜さんと話したい」

「ほわっ!?」

「……ってごめんなさい! まだ仕事中でしたね」


 ついうっかり、下の名前で言ってしまった。


 これじゃ下心ありで浅川さんに近づく男と同じだ。

 あくまでお昼の定時報告で所長に連絡した時に今日のことや創作のことで浅川さんと話をしたいと言っていたのを代弁したつもりだったのに……、俺が言ったように言ってしまった。

 これはまずいか? 


 浅川さんは赤らめた頬を隠すように両手で覆っていた。


「まったく……九宝さんの件があったから気持ちの整理をしようと思っていたのに……もう」

「へ?」

「ではご一緒させてください」


「え、でも先約があるんじゃ」

「あれはウソです。ま、元々発表する代わりに夜のお仕事は任すって岸山に言ってます」


「なるほど……そういうことですか」


 そういう取引をしていたんだろうな。

 そもそも浅川さんくらいの美貌だったら引く手あまた、自衛手段は持っておいた方がいい。


「浅川さんはどこで泊まる予定なんですか?」

「駅の側のウルトラホテルに泊まろうと思ってます」

「近いですね。俺は西横インなのでチェックインしてから合流しましょうか」


 俺は会社携帯を取り出す。

 所長に連絡を取ることにした。


「花村です、お疲れ様です」

「お疲れ様」


「今、大丈夫ですか?」

「ええ、展示会の時間に連絡なかったわけだし、特に問題なかったようね」


「はい、浅川さんが凄すぎて、正直自分は必要なかったですね」

「それが浅川さんだからね。必要無いのは去年も一緒だったわ。こっちも問題なく打ち合わせが終わったわよ。まぁ、まだ横浜工場だけどね」

「今、浅川さんが側にいて、3人で飯行きませんか?」


「……」

「所長?」

「ちょっと浅川さんに変わってもらえる?」


 どうしたんだろう。

 俺は言われるまま浅川さんに携帯を渡す。


「お疲れ様です、浅川です」


 向こうの声はさすがに聞こえない。

 すると浅川さんの顔をかぁっと紅くなる。


「もう……美作さん! え、でも二人きりなんて……! あ、もう……。分かりました」


 通話は切られて、浅川さんから携帯電話を返してもらう。


「えっと……美作はいったい」


 顔を紅くしてしどろもどろの浅川さんがじれったく戸惑ってる。


「あの……」

「じ、じつは!」


 浅川さんと声が被った。


「美作さんが……弊社の横浜の社員と食事をするそうで……その、私と二人きりになっちゃいますけどよろしいですか?」

「よろしいですよ、って何か変な回答になってしまいましたね」


 マジか。所長、あれだけ言ってたのに……。

 でも向こうの状況は分かっていないし、営業活動の一環で飲み会が必要になったのかもしれない。

 横浜はいつでも来れるような場所じゃないし、仕方ないか。


「軽く調べた店があって……良ければそちらにいきませんか? 美作も期待していたお店なので浅川さんも喜んで頂けると思います」

「ふふ、じゃあ行きましょうか」


 ふぅ、超絶美女と2人きりの食事なんて数ヶ月前までの俺だったら全力拒否だったけど、慣れたもんだな……。

 やっぱお盆休みの攻防と陽葵との触れ合いが俺の女性慣れを加速させたんだろうなと思う。


「花村さんとご一緒、楽しみです」


 そんな素朴な笑みを浮かべる浅川さんにドキリとしてしまう。

 これは仕事、あくまで仕事の一環だ。

 男花村、精一杯もてなすぞ!




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