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115 出張先で彼女と②

 新横浜駅近くにある。大型展示場。

 時には同人誌即売の展示場にもなれば今回のようにS社と同じ業種のメーカーから企業向けの説明会にも使われる。

 しかし1ブースとはいえ、これだけ大きな場所の一画で企業向けの研究結果を説明するなんて浅川さんは本当に凄い人だと思う。


「こうやって2人で歩くのは……夏の時以来ですね」

「ええ、あれからもう2ヶ月。10月になって涼しくなりましたね」


 浅川さんの言葉にそんな風に返す。

 あの時はデートという形であったが、今回はお互いスーツ姿で仕事モードだ。

 ちょっとした情報の探り合いなんてことも発生するかもしれない。


 ま、所長とやり合っている浅川さんに俺が敵うはずもないんだけど。


「駅で花村さんを見かけた時はびっくりしました」

「仁科と思ってたと言ってましたもんね」

「ええ、最近弊社でお見かけすることが増えてきましたからね。……そういうことかなって思ってきています」


 う、鋭い。

 そう、最近フォーレスでも営業活動の配置転換が行われ始めている。

 所長の業務の一部を仁科さんがどんどん引き継ぎ、仁科さんの業務をどんどん俺が担当し始めている。

 まだ公になってないし、所長に直接聞いたわけではないが、恐らく1年以内に所長は他の営業所へ行くか、浜山だけでなく名古屋や他の地方も見ることになる課長クラスに昇格のどちらかだと思っている。

 出世の場合は大きな案件以外で外に出ることは少なくなるので相談と承認と謝罪訪問がメインの業務となるだろう。

 俺個人としては側にいてほしいから出世を望むかな。


 来年の春には陽葵が完全に外に出るようになり新人か別の人間が浜山に来て、陽葵がやってた業務を行うことになるだろう。


 業務内容は日々変わっていく。


「でもそっちの方がラッキーだったかも」

「え、今何か」

「何でもありません、ふふっ」


 まるであの掛河花鳥園の時のように浅川さんは表情を崩して笑みを浮かべた。


「花村さんが側にいてくれるおかげで緊張せずにすむかもです」

「あはは、そう言って頂けるなら来た甲斐があります。美作と比べて力不足かもですが精一杯フォローさせて頂きますので」

「はい、お願いします!」


 ひゅー、やっぱ浅川さんは綺麗だなぁ。

 S社にいって浅川さんの元で働きたくなってしまう。

 それを言ったら3人からボロクソに詰られそうなので言わないけどね。


 展示場についた俺と浅川さんは一時的に離れることになる。

 当たり前だが俺は俺で役目があって、浅川さんは浅川さんで役目がある。

 また後でと軽く言葉を返した


 特に説明会の発表者である浅川さんは緊張もするだろうし、大変だろう。

 説明会までまだ数時間以上あるので展示会をぐるっと一周することにした。


 あれ、あれは……。見知った男性の方がいたので声をかけてみた。


「岸山さん、おはようございます」

「ああ、花村さんか。今日は花村さんが来てくれたんだね」

「そうです。あ、ウチの美作が岸山さんと最近、会えてないって寂しそうにしてましたよ」

「そうなんだよ~。美作さんと会いたいのに……」


「何花村さんに絡んでるんですか部長」


 俺と岸山さんで会話をしていると側に浅川さんがやってきた。


「あはは……フォーレスさんとコミュニケーションしてるんだよ、なぁ花村さん」

「え、ええ」

「本来、私ではなく部長が研究結果を発表すべきだというのに……、他の企業を見習ってほしいですね」

「あ、浅川さ~ん」


 涙目になる岸山さん。


 そう、岸山さんは浅川さんの上司にあたる、S社の部所長である。

 結構な上役なんだけど、どうやら浅川さんに頭が上がらないようだ。

 ウチの美作所長に頭が上がらない上司陣を思い出すようである。


「やっぱり浅川さんがずっと発表をされてるんですか?」

「ええ、ここ3年はずっとですね。いい加減違う人にお願いしたいんですけど」

「まぁまぁ、君がやってくれたおかげで3年連続でウチの部署の注目度が上昇してるんだからさ」

「だったら部長は私のケアをして頂かなければなりませんね。宿の予約くらいご自分でお取り下さい」


 浅川さん自分の上司にはキツイ!

 岸山さんと浅川さんってセットなイメージがあるから秘書的なこともしているのかもしれないな。


 でもそれが2人のベストなコミュニケーションなのだろう。

 浅川さんは言わずもがなで岸山さんも相当に優秀な人だ。設備投資のお金の使い方が抜群に上手いと所長も言っていた。

 大会社の部長ってのは柔な人間がなれるものではないのは間違いない。


「花村さん、仁科さんだっけ。最近ウチに来るようになったかわいい子」

「ええ」

「フォーレスは美女しかいないのかなと思ったよ。美作さんといい、仁科さんといい……花村さんは羨ましいな」

「あはは……。それを言ったら岸山さんだって浅川さんがおられるではないですか」

「でも性格きついからなぁ。仁科さんみたいにニコニコの女の子はすごくいいよね!」


「なるほど、そういうことですか。ではフォーレスさんに再就職しましょうかね」

「あ! だめだめ、君が抜けたらウチが崩壊しちゃう! このとーり!」

「迂闊なことは言ってはいけませんよ。私だっていつまでもいるわけじゃないんですから」


 50代の男性が20代の女の子にペコペコしているこの構図、面白いな。


 こうして展示会の開始時刻が過ぎ、S社のブースに人が集まってくる。

 ブースでの説明会までまだ時間があるのだが、続々と人が集まっていた。


 ……全員浅川さん目当てか!


 いや、本当に美人だもんな。

 本社にいた際も設計・開発として現場に行ったことはあったが浅川さんレベルに美しい人に出会ったことはなかった。

 そんな人と盆休みにデートできたなんて俺はラッキーだろう。



「では花村さん、宜しくお願いします」

「ええ、何かあればすぐフォローしますので」


 発表の時間がやってきた。

 俺の役割は説明する浅川の後ろにテスモを置いておき、何かあった際に浅川さんに助言をする役目を持っている。

 基本的に俺が発表することはないので気楽なものだ。

 むしろ浅川さんの後ろ姿を近い距離で見て、聞くことができる役得ってやつだろう。


 ……いいお尻してるなぁ。胸も大きいし、立ち振る舞いも綺麗だし浅川さんって完璧じゃないか!?

 なんてゲスな妄想も口に出さなければ許される。



 S社のブースには百を超える椅子が並べられ、続々企業人がやってきて座っていく。

 すでに椅子は埋まってしまい、気付けば立ち見している人が多く存在していた。


 すっげーな。アイドルのステージ見に来てる感じだろうか。


「花村さんが側にいてくれたら……私、頑張れますから」


 浅川さんは少し顔を赤らめて呟いてくれる。

 スーツ姿でびっちりと決めて、栗色の髪は美しく流れていた。


 すっげー、嬉しいことを言ってくれるな。

 俺を褒めても仕方ないのに……、でも支えになれるなら支えてあげたい!


 がんばれ、浅川さん!


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