11 歓迎会②
服の話とか恋愛的な話とかそーいうのを期待したんですふぁ……。
何でこの美女達、ガチトークでハイファンタジーの話をしているんだろう。
え、今時の女子ってこんな会話するのが普通なの?
俺の書いてるラブコメの女子トークってやっぱり夢の世界の話でしかないの?
「あ、あの……」
「花むっちゃんごめんね! いつものくせで作品構想を話しちゃった」
「いや、それはいいんだけど……作品構想?」
「私達はみんな書くジャンルが違うの。でも……読まないわけじゃない。だから順番に作品構想を話し合ってるのよ」
「この前は異世界恋愛、その前は現実恋愛と順番に話をしてるわけです」
結構なガチトーンでミーティングでもしてるのかなと思ったくらいだ。
そうか……発想を変えれば彼女達は趣味の話をしていると思えばいい。
随分ディープでぱっと見彼女達がそんな話をしてるなんて誰も思わない。
「花村くんもハイファンタジーをよく読むんでしょ? 男性視点で何かアドバイスないかしら」
「お願い! あたし……今度こそランキングに乗りたいの! ネタをちょうだい!」
「ええ……」
どうしたものか。
これが本業であれば1ミリも隠さず答えるけど、隠したい作家業のことである。
まぁ、仁科さんに手を合わせてうるうるとお願いされたら正直弱い。
「何も追放ざまぁじゃなくても、異世界転生なんていいんじゃないの? 昔はすごく多かったって聞くよ」
「うーん」
仁科さんは歯切れの悪い言葉で唸る。
「ダメだよ。私は追放ざまぁを書き続けて結果を出さないとダメなんだ」
どうして……そこまで?
そこを深掘りする意味はないので別の点を考えるとしよう。
でも追放ざまぁで結果を出したらならやっぱり……。
「内容もそうですけど……やっぱり読むとタイトルでしょうね。いくら中身を凝ったものにしてもタイトルで離れられては意味がありません」
「それは分かってるんだけど……でも……難しいなぁ」
「さっき仁科さんはランキングの上位は全て読んでるって言ってたよね?」
「うん、そうだけど……」
「それはすごいことなんだと思う。作家って書くのに必死でなかなかインプットが出来なくなりやすいんだ」
「そ、そう?」
「そうね。私も書くまではずっと読みあさってたけど、書くようになってからは読む時間が圧倒的に減ったわ。読んだとしても商業作よね」
美作所長も俺の言葉に頷いてくれた。
俺も自分で書くまではそうだったけど……、書き始めてからはほとんど読めなくなってしまった。
読んだとしても純粋に作品を楽しむのではなくて……自作との差や勉強目的の側面が出始めてしまっている。
純粋な気持ちで作品を読んでいたあの頃に戻りたい。
「ランキング上位の作品が楽しめるのであれば仁科さんがなぜ楽しめているのかを分析してみたらいいと思う。多分そこにヒントがあるんじゃないかな」
「うーーん、難しいけど見えたような気がする。……ありがとう花むっちゃん!」
うん、何とかいいアドバイスをすることができたようだ。
彼女の力になれて本当によかった。
俺はコークハイボールに口にふくむ。
「花村さん、お詳しいですね。まるで……WEB小説を知り尽くしているお方みたいです」
「ぶほっ!」
しまったぁ!?
怪訝な顔をした九宝さんにつっこまれてしまった。
「もしかして花村さん……」
「うぐっ!?」
「凄腕レビュアーだとか!?」
「す、凄腕ではないけどたまにレビューはするかな」
「やっぱり!」
作品投稿し始めてからまったくレビューしてないけど……。
でもこれは逆に隠すチャンスかもしれない。
「へぇ……何て名前で活動してるの? 教えなさいよ」
「それは無理です。俺だって男ですから……好きな作品偏ってますし……言いづらいじゃないですか」
「花むっちゃん、どんなエッチな作品にレビューしてるの?」
「してないよ! 言えるわけないだろ!」
4人の間で笑いが起こる。
ふぅ……何とかごまかせたようだ。
俺のアカウントを見せろって言われる可能性もあったからちょうどいい。
ただ仁科さんのせいで俺がエロレビュアーになったのは誤算だが……。
ダミーのアカウントを作りたいが……そのWEB小説サイトは複垢が厳しいんだよなぁ。
彼女達の前ではお米炊子のアカウントは出さないようにしないと……。
さすがに小説の話が延々と続くわけはなく、次第にプライベートの話に移っていく。
こうなると俺が口を出すタイミングはまったくない。
でも分かったことがある。
美作所長に仁科さん、そして九宝さん。
この3人、すごく仲がいいんだ……。
それが分かっただけでも大きなことだなって思う。
「ちょっとトイレに行きます」
「いってらっさーい」
ふぅ……やっぱり緊張する。
仕事の話だったら気軽にできるんだけど……プライベートの話は入りづらい。
個室を出て、トイレへ行こうとした矢先のことだった。
「おお、にいちゃん!」
「へ? 俺?」
顔も知らないおじさんに突如絡まれてしまう。
「あんた……今、この個室から出てきたよな?」
「ええ、まぁ」
「じゃあ……この中の美女達と知り合いってことだよな!」