103 わたしにお世話させてください②
約2週間経過した土曜日の朝、九宝さんに家まで来てもらった。
「さて、今日から……借金返済のために働いてもらうことになる」
「はい、何でもやります! いっぱい働いて借金を返済させて頂きます!」
だいたいプランは練ってきた。
元々家事代行ってのは悪くない話だと思っていた。
会社は辞めたくない、けど副業は続けたい。
俺の私生活は副業でギリギリだし、掃除、洗濯、飯が正直ネックになっていたんだ。
……正直外注しようかって考えもあったのは事実。
どういう勤務体系にするか……。
定時から20時は会社での創作時間にあててもらいたい。俺は九宝さんの創作を応援してあげたいからな。
だから平日は20時~22時の2時間勤務だろう。22時以降は危ないし、睡眠時間も必要だ。
土曜日は朝から晩ご飯までの勤務。日曜日は完全休みなんてのはどうかと思った。
ふっふっふ、我ながら完璧じゃないか。平日は主に飯、土曜日は掃除洗濯飯をやってもらえば俺にとっても大きなメリットとなる。
ただ九宝さんに10年、20年も家政婦をしてもらう訳にはいかない。
俺もそうだし、彼女にも人生がある。やはり1年くらいの借金返済が理想だろう。
合計すると平日2時間×5日、土曜日10時間で週20時間勤務。1年を48週して960時間勤務だ。2000万の借金で割ると……。
「よし、時給2万でどうかな。これで1年で借金返済だよ」
「フォーレスの給料より良いですよ!?」
やべ、俺の計算何か間違えてたか?
「一般的な家事代行の給料は1000円から1500円くらいってネットで書いてましたね。交通費を含めたとしても多くても2000円以下だと思います。
「え、それだと10年もかかるじゃん」
「それ、花村さんが言うセリフじゃない気が……本来のお給料でも少しずつ返済していきますし、もう少し早くなると思いますよ。ボーナス払いもしますので」
「真面目だねぇ。頷いておけば……1年で逃げれたのに」
「……花村さんの側にいるのが目的だもん」
「え?」
「何でもないです。家の中を案内して頂けますか?」
九宝さんをマンションの中に案内する。
「すっごい……いいとこ住んでますね」
「九宝さんだって昔はいい所にいたんじゃないのか?」
「九宝家はマンションではないですからね」
エレベータで最上階の8階に到着した。
「俺の家は802号室だから」
「あれ? 花村さんの家って801号室じゃありませんでした」
「そんなことはないよ。802号室さ。緊急連絡先もそうなっている」
それで納得させて、802号室の部屋へと入った。
「わ~~広いですね!」
家賃12万の2LDKの部屋だ。
もうそろそろ住み始めて半年になるかな。
「……?」
「どうした九宝さん」
「何か……違和感があるくらい綺麗ですね」
「な、なんのことかな」
「テレビも冷蔵庫もソファも……テーブルも最近買ったかのような新しさがあるような」
「き、気のせいさ」
「何か生活感がないと言いますか……。飾り気がないといいますか……」
「ほらっ、ここが俺の部屋」
がらっと寝室を開ける。
そこにはベッドに衣服などの収納系やハンガーを置いた洋室となっている。
「もし着替えるとかだったらここか洗面所を使ってくれ」
「分かりました、ありがとうございます」
「さてと……じゃあ洗濯物をお願いしていいかな。男性モノだけど……大丈夫?」
「もちろんです。没落して数年、就職するまでは働く母のために家事をしっかり覚えましたから」
「お、じゃあ期待してもいいのかな」
「お掃除とお洗濯をしてお昼ご飯を作らせて頂きますね」
「ああ、頼むよ。すごく助かる。あとさ」
九宝さんをもう一つの小部屋の扉の前に連れていった。
「土日は基本、俺はこの部屋にいることが多い」
「じゃあ、タイミングを見てお掃除を」
「いや、不要だ。この部屋には一切立ち入らないようにお願いしたい」
「それは……花村さんの別のお仕事に関連してるからですか?」
所長も感づいていたし、九宝さんも分かっているか。
そりゃ2000万の借金を肩代わりしたんだから、俺が何かしら副業をしているのは分かっている。
ちなみに副業の件は会社に届け出をしている。副業の内容はライター関係とだけ会社規定の書類に記入して提出しているので俺がお米炊子であることは誰も知らない。
所長も届け出しているって言ってたし、実際、副業している人はそこそこいるんだと思う。
「その通り、最重要機密だから……絶対に入ってはいけないよ」
「は、はい」
「まぁ、扉に指紋認証ロックと網膜認証ロックと暗証番号を入れないと鍵が開かないシステムになってるし」
「どれだけ厳重なんですか!」
「部屋の中は常時監視されてるし、俺以外の人が入るとスマホに連絡が行くようなシステムになっているから。絶対分かるよ」
「花村さん……ここで何をしてるんですか」
創作です。
九宝がいない時に創作をしたいが、やはりどうしても時間が足りない。
この部屋にさえ入ってこなければ問題はない。絶対にバレることもない。
「もし……それでもこの部屋に入ったら」
「入ったら……?」
「九宝さんはすごく後悔することになる」
「そ、それって……まさかお仕置きとかされたりするんでしょうか。うへへ」
「嬉しそうだね」
「そ、そんなことないですよ」
意外にこの子、そういうの好みだったりするんだろうか……。まぁいい。
「もし君がこの部屋に入ったら、俺は会社を辞めて、この地を去る」
「そこまで!?」
人の記憶ってのは消すことはできない。九宝さんに黙っていてと言っても無理だろうし、弱みを握られることにもなる。
この場合、人の信用に頼るとよくない結果になりかねない。
俺がいなくなる方がいい。今の会社を辞めるのは嫌だけど……俺の性癖書籍が女の子にバレるよりはマシ!
正直、会社の女の子達に俺の性癖がバレても受け入れてくれるかもしれないけど、知られるということ自体に恐怖を感じる。
俺の卑しい心を暴かれたくない。
俺がお米炊子とバレた瞬間、あらゆる財力を使って……ここからいなくなる。
「バレた内容によっては俺はこの世界からいなくなる」
「花村さん、……ほんと何をしているんですか」
死すら選ぶ覚悟がいるのだよ!