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101 九宝陽葵を救いたい⑥

 それから時は少し過ぎて、九宝さんの家のことで大騒ぎとなったが、最終的には落ち着いた形となった。

 娘のことを何とも思っておらず、金の力で九宝家に戻りたかった九宝さんの父親も渋々と引き下がる。

 これ以上揉めるようであればしかるべき手段を取るわけで、向こうもまずいと思ったのかもしれない。


 お金の話もほ~~~~んといろいろあったけど、ややこしい話なので割愛。

 九宝さんやお母さんを説得し、俺がお金を立て替えたことでこの出来事はほぼ解決に至った。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 いろいろあった翌週の営業日、俺に九宝さん、仁科さんに所長と4人で話をする。

 九宝さんは最終結果を2人に報告することになった。


「じゃ、じゃあ……陽葵ちゃんは辞めなくていいんだよね! 結婚しないってことはこの会社にいられるんだよね」


「は、はい……。でもご迷惑をおかけして騒ぎを」

「そんなのどうでもいいよ!」


 仁科さんは九宝さんに抱きつく。


「よかった、本当に良かった。陽葵ちゃんとお別れするなんて……絶対ヤダ! 一緒に仕事しようよ!」

「仁科さん……」


 仁科さんはわんわん泣いて、九宝さんを強く抱きしめる。

 仁科さんは本当に悩んでいたからな……。仲の良い先輩、後輩だったから気持ちが昂ぶっているんだろう。


「陽葵」

「所長……」


 仁科さんが抱きしめたまま、九宝さんと所長は向き合う。


「所長、申し訳ありません。退職の手続きなどでお手を取らせてしまって……」

「……そうね」

「許されるのであれば……わたし、ここで働きたいです。所長の下でいっぱい、いっぱい……お仕事したいです」


 所長は少し俯く……。そして目尻に浮かぶのは涙。


「当たり前じゃない。退職届なんて初めから受理してないわよ!」

「所長……」

「あなたには教えることいっぱいあるんだから。厳しくいくからね」

「は、はい!」

「でも……本当によかった」


 所長はハンカチで目を押さえた。

 所長も本当に悩んだことなんだろう。九宝さんが出した退職届を本当にギリギリまで保留していたようだ。

 心からこの結果を喜んでおり、所長の立場から感情を大きく揺らさず……でも我慢しきれない嬉しさが涙として出ているのかもしれない。


 所長も仁科さんも本当に心優しい人達だ。

 俺達はこの件があってさらに団結できたような気がする。


「……花村さん」


 九宝さんは俺に声をかける。


「花村さんには本当に……御礼を言ってもいいきれないほどのことをして頂きました」


「それほどでも……って言いたいとこだけど、それが俺の九宝さんに対しての期待でもある。これからも一緒にがんばろう」

「はい! 花村さんには一生をかけて……ご恩をお返ししますね」


 この時、よく聞かなかったのが悪かったのかもしれない。

 ……俺はこの後すぐにとんでもない事態に巻き込まれることになるなんて思いもしなかった。



 ◇◇◇



 九宝さんが完全に職場復帰して1週間、日常は全て元に戻った。

 もうすぐ9月ということで暑さも少し和らいできたかと思う……。


「しかし2000万かぁ」


 思った以上の出費だった。

 くれてやるって大見得きってぶん投げたけど、今思うと大それたことをしたと思っている。

 いくらミリオンセラーの書籍化作家とはいえ、スポーツ選手くらい稼げるわけじゃないからな。

 税金でかなりもっていかれるし……、今年はちょっと節制した方がいいかも。


「うん?」


 カニカワの山崎さんからのメールか。

 えっと……ああ、書籍、コミカライズ、グッズの印税もろもろを振り込みましたってか。

 えーーと明細みると……0が一、十、百……。


「2000万なんて本気ではした金かもしれん」


 どうやら俺はさらに上のステップに進んだかもしれん。

 もう生涯金に困らないかもしれないな。最近始めた育成ゲーム、鬼課金しちゃおうかな~。


 そんな気分で帰っていると自宅マンションの前で……誰かが待っていた。


「……え? 九宝さん」


 そこには九宝さんがいたのだ。

 今日の仕事、九宝さんは先に帰っていたはず、……どうしてここに。


「九宝さん、何かあったのか? まさか……また父親が」

「お疲れ様です。いえ、父関連は完全に解決しました。解決していないのはわたしの問題だけです」


「へ?」


「全ての準備が終わりましたので……これからの人生、花村さんに全てを捧げさせて頂きます」


「は?」


「だって……わたし、花村さんに2000万で貰われましたので……。今日からわたしは花村さんの性奴隷です」


 やばいな、この子何言ってんだろ。


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