100 (陽葵視点)九宝陽葵を救いたい⑤
花村さんが父の手を掴んでいる。
「んだぁ、てめぇ!」
「花村さん……どうして」
「以前、君のお母さんと連絡先を交換したんだ。それで君が危ないって連絡をもらった」
母様……。いっぱい、いっぱい心配をかけちゃった。
もっとしっかり話をするべきだったんだね……。わたしは全部間違えていた。
「離せ小僧!」
「おっと! 暴れるのはいいけど、俺だけじゃないからな」
バタバタと足音がする。
そこには同じアパートに住むみんながいた。
「陽葵ちゃんを泣かせてんじゃねぇぞ!」
「陽葵ちゃんの敵は俺の敵だ!」
「父親なんかぶっとばせ!」
「九宝さんを見つけられたのは彼らのおかげだ」
今回の件で……アパートのみんなにも心配をかけてしまった。
でも……こうやって助けに来てくれて本当に嬉しい。
わたしは一人じゃないんだ。
「小僧と貧乏人どもが邪魔をしやがって! 陽葵、来い! 九宝の家に戻りたくねぇのか」
「戻りたくないです」
はっきりと言ってやった。
「あんな人を人と思わない、腐った家に戻るつもりなんてない! 帰ってください」
「陽葵ぁぁぁっ!」
父が怒号のような声を吐く、怯むわけにはいかない。
「どれだけイキろうが、てめぇの母名義の借金がある限り逃げられねぇんだよ!」
「だから夜の店でもなんでも!」
「ハッ! そんな猶予があるかよ! 一気に2000万だ。それがある限り、てめぇ絶対九宝から逃げられねぇ!」
「くっ」
2000万……。そんな大金あるはずがない。
いくら夜のお店で稼いだとしてもすぐに払えるわけがない。
取り立てが来たら……母も耐えきれないだろうし、みんなにも迷惑がかかってしまう。
「く、くそ」
「おれたちに金があれば」
「何か手はねぇのか」
アパートのみんなも悔やんでいると……一人、ゆったりと父に向かっていく。
その人……花村さんは落ち着いてた。
「あん、何だ小僧。てめぇが2000万用意できるってか! できるわけねぇよなぁぁぁぁ!」
花村さんは父の前に立つ。
「見るからして凡庸っぽい小僧じゃねぇか! てめぇみたいな貧乏人、お呼びじゃねぇんだよ!」
「はん」
父の言葉に花村さんは鼻で笑った。
「やっす。どんだけの借金かと思えば……たかが2000万かよ。額がちっせーよ」
「なんだと!?」
花村さんはスマホを操作して父に見せつけた。
「2000万くれてやるよ。俺からしたらただのはした金だ。それで借金は返せるんだろ?」
スマホに表示されたのは口座の預金残高らしい。
父は表示された額を確認し驚愕する。
花村さんがわたしの手を掴んだ。
「その2000万で彼女をもらいうける」
「え?」
「九宝陽葵は俺がもらう! 誰にも渡しはしない!」
花村さんがわたしを見て、頷いた。
わたしは父に想いの全てをぶつける。
「わたしは……みんなと一緒に強くなります! だからもう……わたしのことは放っておいてください!」