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第三話

 そして翌日の日曜日の朝、疲れ切っていた俺と真助は台所での女性三人の華やかな話し声も遠くてなかなか起きられず、九時半頃にやっと目が覚めた。

「そうそう、上手よ、しずちゃん、そうやって、フライパンの向こう側から手前に巻いてくるのよ。そう、ゆきちゃんも上手。二人とも手先が器用ね」

「わあ、ねえねえ、しず姉さん、出来た?私もできたよ。凄いね、こんなもの使ったの初めて。ママ、フライパンって言うのね」

「そうよ、これ一つあればね、他にもいろんな料理に使えるから、便利よ」

「ママ、私もできたわ。ねえ、ママ、どう?」

「うん、しずちゃんも美味しそうにできたわ」

「真助も褒めてくれるかな」

「おはよう、母さん、しず、ゆき」

「おはよう、お袋、しず、ゆき。何だよ二人とも、もっとゆっくり寝てれば良かったのに」

「そうなのよ。私が起こしちゃったみたいなの。朝ご飯の準備し始めたら、音が聞こえたからって、しずちゃんもゆきちゃんも起きて来て。いいよ、また寝なさいって言ったんだけど、手伝いたいなんて嬉しいこと言ってくれるから。二人にお手伝いしてもらってたのよ」

「違うのよ、手伝いと言うか、ママにね、お料理教えてもらってたの。楽しいよ、何か見たこともないお料理器具や見たこともないお野菜も。ほら、見て、これアボカドって言うんだって。こんなお野菜、見たことない。ねえ、真助様、これ美味しいよ」

「あ、そうなんだ。アボカドね、しず、俺さ、この家の息子だから、知ってるよ。俺をいつの時代の人間だと思ってる?」

「あ、そうか、ごめんね、楽し過ぎて真助様と話してる気分になっちゃった」

「はあ、まあ、仕方ないか。まだ、昨日の話だもんな。気持ちが昂るとしずはやっぱり自分の時代のことを思い出すんだね。それに今のでどれだけ真助さんがしずに愛されてたか分かるよ。でも仕方ないことだって分かってるけど、何か、真助さんに嫉妬しちゃうな」

「バカ、真助。また、お前は余計なひと言を」

 そう真助に言われて少ししずの表情が曇った。

「ごめんなさい、真助。私、そんなつもりじゃ・・・」

 しずの表情が曇った途端、母は真助の頭をおたまで叩いた。ポコッ!

「本当に真助は一言多いの。バカ。さっきからしずちゃんもゆきちゃんも何て言ってお料理してたか分かってる。寝てたから分かる訳ないか。一つ料理作る度に、真助は喜んでくれるかな?経幸は美味しいって言ってくれるかな?って、そんなことばかり言って作ってたのよ。純粋にあんた達に喜んでもらうために頑張ってたのよ。二人とも、これだけピュアな娘なんだから、もっとその可愛い気持ちを汲んであげなさい。分かったの二人とも。返事は!」

 俺たちは娘を想う母とはこういうものなのかと思い、その母の迫力に完全に圧されていた。

「は、はい、母さん、分かりました」

「はい、お袋、ごめんなさい」

「バカ、真助、謝るのは私にじゃないでしょ。ほら」

「そうか、ごめん、しず、俺のためと思って作ってくれてたのに、しずを悲しませるようなことを言って。でも俺、その真助さんに嫉妬しちゃうくらい君のことを好きに」

「うん、ありがとう。もう大丈夫。嬉しいよ。じゃあ、私が作ったもの食べてくれる?」

「もちろんだよ、美味しそうだな」

「あの、経幸も、食べてくれる?」

「当たり前だろ。ゆきが俺のために作ってくれたんだろ。ありがとう、ゆきの気持ちに感謝して、いただきます」

「お、さすがだね、経幸。素敵ないただきますの言葉だね。真助とは大違い」

「ちぇ、俺だってしずの気持ちに感謝してるよ。くそ、格好つけやがって、経幸。双子なんだからもう少し兄貴にも気を遣えよな」

「ふん、それくらい、言われないように自分で何とかしろって言うんだ」

「ママ、二人って本当に仲がいいんだよね」

「大丈夫よ、しずちゃん。言い合いばかりしてるけど、お互いの気持ちは十分分かって話してるから」

 そんな賑やかな朝の食卓での声を聞いて父が起きてきた。

「みんなおはよう。朝から賑やかだな。それにいつもと違って栞だけじゃなくて、新しい可愛い女性の声が加わって、今まで以上に華やかな朝の食卓だな。な、母さん、いいもんだな」

「本当に。しずちゃんもゆきちゃんもお料理教え甲斐があるのよ。凄く飲み込みが早いのよ。本当にどんなことにも一生懸命だし、絶対に素敵な奥さんになれるわ」

「嬉しい、ママにそんな風に言ってもらえて」

「本当に。ねえ、ママ、迷惑じゃなかったらもっといろんなこと教えて下さい」

「そんな遠慮した言い方しなくていいよ、ゆきちゃん。迷惑なんて思う訳ないでしょ。娘と楽しんで家事ができるんだから、母としてこんな嬉しいことないわよ」

「何だよ、もう本当の母娘みたいだな。昨日が初対面なんてとても思えないな」

「うん、私も今、真助の言ったとおり、しずちゃんのこともゆきちゃんのことも本当の娘みたいに感じちゃう。これもきっと二人の魅力なのね。本当に見た目も可愛いけど、この性格がもっと可愛いもんね。それが周りを明るくしちゃうんだねきっと」

「あ、あのさ、親子五人で盛り上がるのはいいんだけどさ、栞、俺の朝ご飯は?」

「ああ!ごめん、あなた。二人にお料理教えるのに夢中で、あなたの分用意するの忘れてた、と言うか、時間がなかった」

「そ、そんな、栞、それはないよ」

「パパ、ごめんなさい。じゃあ、私たちがパパの分、今から作る。ね、ゆき」

「うん、ねえ、ママ、いいかな?」

「まあ、嬉しい、いいの、お願いしちゃって」

「やった!パパ、いい。ママが作った朝ご飯じゃないけど食べてくれる?」

「嬉しいな、もちろん、喜んでいただくよ。息子の結婚前なのに娘の手料理が食べられるなんて夢みたいだ」

 そして楽しい朝ご飯を終えた後、少し六人でリビングでくつろいでいた。

「はあ、美味しかったな。ご馳走様でした、しずちゃん、ゆきちゃん」

「ご馳走様、しず、とても美味しかったよ」

「ゆきも、ご馳走様でした。母さんの作ったダシ巻きより美味しかったよ」

「ちょっと、経幸。それはないでしょ」

「母さん、怒るなよ。それくらい美味しかったってことだよ。それに母さんが教えたからって意味で言ったんだけどな。母さんに対する褒め言葉のつもりもあったんだけど」

「ほら見ろ、俺の言ったとおりだ。また、経幸の分かりにくい、意図が伝わらない話だよ」

「フフフ、本当だね、真助の言うとおりだ」

「おい、ゆき、笑うなよ。お前のこと褒めたのに、凹むわー」

「本当に楽しいね。嬉しい、グスン」

「ね、姉さん、泣いちゃダメ」

「だって、まだ、昨日だよ、私たち。突然、平和に四人で生活してた家に私たち、見知らぬ姉妹二人が入りこんだのに。その翌日の今日、もう私たちとこんなに楽しく接してくれてるんだよ。何か嬉しいけど、申し訳なくて」

「もう、しずちゃん、遠慮はなしよ。そうさせてるのはあなた達二人の魅力だって言ったでしょ。よし、今日は日曜日、家族の当主はお父さんだけど、家庭、この家の中での当主は私なんだから。いい、今日からの行動を指示するわよ。今から、私とお父さん、しずちゃんとゆきちゃんは二人の生活でとりあえず必要なものを買いに行くから。お父さんはその荷物持ち要員ね。それから、真助、経幸はどちらかの部屋、引越しね。片方の部屋はしずちゃんとゆきちゃんの部屋にするから。私たちが買い物に言ってる間に片づけなさい」

「う、嘘だろ、そんな、えーーー」

「えーー、じゃない。二人ともしずちゃんとゆきちゃんに告白したんでしょ。それも本気で。それなら、もっとそれくらいの本気を見せなさい。いい、分かったの?」

 もう、俺と真助は母の強烈なプレッシャーに従うしかなかった。

「は、はい、分かったよ、母さん」

「分かったよ、言う通りにするよ」

「それから、真助、経幸。はい、とりあえず、今、財布に入ってる有り金、全部、出しなさい」

「な、何だよそれ」

「そうだよ、俺たちの金、どうする気だよ」

「いいから、出しなさい。文句は言わせないわよ。あなた達の愛するしずちゃん、ゆきちゃんのために使うんだから。それにあなた達も自分で働いてお金をもらってる立派な社会人でしょ。自分の彼女のため?いや、まだ彼女じゃないけど、これから彼女になってほしい二人に使うんだからね。ほら、黙って出す」

「仕方ない、母さんの言うことは正論だ」

 そして俺と真助は財布の中に入っていたお札を全部母に渡した。

「おお!ラッキー。二人合わせて十万よ。お父さん、凄いよ」

「まあ、俺はいいか。今日は本当なら街に繰り出してナンパして成功したら女とディナーするつもりで多めに下ろしてたお金だから。それがしずのために使うことになっただけだから。いいよ、お袋、しずのために全部使って」

「はあ、そうか、まあ、ゆきのためのものを買うためか。仕方ないな。外付けのHⅮを買換えようと思ってたんだけどな。また次回にするか」

 そして両親としず、ゆきは買い物へ、家に残った俺と真助は部屋の整理を始めようとした。しかし玄関の閉まる音がしたと思ったら、突然、また玄関の扉が開いてしずとゆきが飛び込んできた。

「ゆき、大丈夫、怪我はない?」

「はい、大丈夫です。姉さんこそ」

「うん、でも何なのあれは。あんな凄い早さで、何なの、あれは生き物ではなかったわよね。あんな大きいもの、何か、荷車みたいな感じだったけど、でも、馬に轢かれてた訳でもないのに、勝手に動いていたわよね。それも中には人が乗ってたわ」

「そうです。何でしょう?あれは、馬に変わる移動手段なのでしょうか?でもあんな凄い乗り物、どこの国のものでしょうか」

「お、おい、しず、ゆき、どうしたんだい?」

「あ、真助、経幸、外に、外に、とても凄いスピードで人を乗せて動く荷車みたいなものが、勝手に沢山、道を往来していて。違う国が攻めてきたのでは?」

「あ、ああ、車のことか。そうか、昨日、そのこと、話してなかったね」

 すると突然、しずとゆきが消えたので、両親が入ってきた。

「ねえ、真助、経幸。しずちゃんとゆきちゃん・・・、あ、ああ、いたいた。どうしたの?出かけようとお父さんと車に乗りこんだら、しずちゃんとゆきちゃんの姿が見えなくなったから」

「ああ、どうやら、その車の動いてるところを見て驚いたみたい。この時代で出かける時に一番気を付けなきゃいけないものを昨日説明するの忘れてただろ」

「そ、そうか、そうだね。ごめんね、しずちゃん、ゆきちゃん、あれは車っていう移動手段。今の時代を生活する上で一番必要な移動手段と言っていいかな。初めて見て驚いちゃったね。人がぶつかると死んじゃうこともあるから、怖い乗り物ではあるんだけど、その辺りを気を付けて使っていたら、これほど便利な乗り物はないのよ。ほら、行きましょう。一度、乗ってみれば分かるから」

「ごめんね、いきなり動いてるの見て怖かったね。さあ、買い物に行こう。しずちゃんもゆきちゃんも怖くないように安全運転で行くから。大丈夫だよ、六百年前の日本と違って人が殺戮を繰り返すような、そんな国盗り合戦はないから」

「そ、そうなんですか。ビックリしました。別の国からの刺客かとも思ったから」

「ふう、良かった。何だ、そうか、今の時代は平和なんですね。でもどうやって動いてるんですか。周りには牛も馬も見当たりませんでしたけど?」

「うん、動力の話か?難しいな。まあ、その辺りは車の中で、親父頼むよ。それと怖がらなくても大丈夫だから。今、親父が言ったけど、親父はクソがつくほど日頃から安全運転だから。その親父が安全運転するって言ってるんだ。多分、歩いた方が早いって思うくらいの運転すると思うからさ」

「真助、お前、俺の運転を馬鹿にしやがったな。俺みたいな模範ドライバーを馬鹿にするな。俺のようなドライバーが増えれば事故は激減するはずなんだぞ。もっと尊敬しろ」

「はいはい、いいから早く買い物に行けよ。俺たちだってお袋に言われたミッションを遂行しないといけないんだからよ。ほら、しず、ゆき、安心して親父とお袋と、出かけてきなよ」

「うん、行ってきます」

「ほら、ゆきも」

「うん、それでは、行ってまいります。経幸」



「しかし、朝の車の話もそうだけど、まだまだ、色々、しずとゆきには教えることいっぱいありそうだな。頼むぜ、経幸」

「な、何だよそれ。お前も俺や父さん、母さんにばかり頼らずに必要なときはしずとゆきに優しく教えてやれよ」

「分かってるよ。でもさ、さっきのお袋の指示さ、いくら何でも傲慢すぎないか?」

「まあ、そうかも知れないけど、いいんじゃないか。言い方は傲慢だったかもしれないけど、しずとゆきのためを思って母さんがよく考えて言ってくれたことだ。多分、普通に頼むのが母さんも恥ずかしかったんじゃないか。俺たちのことを分かってて、あんな言い方したんだよ、きっとさ」

「ああ、まあな。よし、じゃあ、どうする。さっさと始めないと、夕方、お袋たちが帰ってくる前に引越し、終らないぜ。どっちの部屋を空けわたす?。ああ、いいや、俺の部屋を片付けよう」

「え?珍しいな、真助がそんな積極的なこと言うなんて。部屋を決める時も俺もあの部屋がいいって言ったのに、あれほど俺には譲ってくれなかっただろ」

「だって俺の部屋とお前の部屋だったら、俺の部屋の方が広いだろ。じゃあ、どう考えたって俺の部屋を空けるのが妥当だろ。だってしずとゆきのためだ。二人をお前の部屋で窮屈な思いをさせる訳にはいかないだろ?経幸、お前だってそう思うだろ」

「おお!真助、お前、ナイスだぜ。久しぶりに兄貴として尊敬したよ」

「何か、久しぶりにという言葉が妙にムカつくけど、まあ、いいや、それで納得してくれるんだな」

「ああ、俺もしずとゆきに窮屈な思いはさせたくないと思ってたんだ。だから真助の部屋を使ってもらうのがいいと思ってた」

「よし、じゃあ、話は早い。早速、始めようか」

 そして俺たちは四人が出かけてから早速、真助の部屋を片付け始め、四人が帰ってくるギリギリに俺の部屋への引っ越しを終えた。

「ふう、経幸、何とか終わったな」

「ああ、何とか、あ、帰って来たみたいだな。よし、玄関に行こうぜ」

 そして俺と真助は四人を出迎えた。

「お帰り、父さん、母さん、あれ、ゆきとしずは?」

「いい、心して迎えなさいよ。絶対にあなた達、ポーッとしちゃうわよ。ほら、いいわよ、しずちゃん、ゆきちゃん、入って」

 そう言うとしずとゆきが玄関から入ってきた。その姿は出かける時のスッピンで母の服を着ていたものとは違い、どうやら買った服に着替えて更にコスメ店で化粧品を購入した時にメイクをしてもらったようで、とにかく、出かける前より更に超絶美しくなって帰ってきたのだ。俺と真助は母が言ったように完全にその美しさに意識をどこかに飛ばされてしまっていた。

「どう?真助」

「どうですか?経幸」

「あれ?真助?経幸?」

 母は俺と真助の目線の前で手を振ったが、反応がなかった。

「ちょっと、真助、経幸」

「ママ、どうしたの?真助と経幸、動かないよ」

「あらあ、どうも刺激が強すぎたみたい。しずちゃんとゆきちゃんがあまりに美しすぎて気に入っちゃったみたいね。コラ、おーい、真助、経幸、戻ってこーい」

「あ、ゴメン」

「あ、ゴメン、母さん」

「どう?真助、経幸、あなた達が惚れちゃった二人がこんなに美しくなるなら、お金だしたこと、今は私に感謝しかないでしょ」

「ああ、お袋、いや、すげーな。化粧してなくてもしずもゆきも破壊力凄かったのに、化粧して服も変わると、、な、経幸、どう表現したらいいか」

「ああ、いや、何も言えないよ。何かこの美しさをどう表現したらいいか分からないよ。こんなに素敵なゆきとしずを見られるなら俺たちもっと仕事頑張ってまたお金出すよ」

「しずちゃん、ゆきちゃん、二人とも凄く二人の姿、気に入ったって。良かったね」

「そう、真助、喜んでくれた?」

「ああ、当たり前のことしか言えないけど、凄く綺麗だよ、しず」

「俺も、上手い表現が見つからない。とにかく素敵だ。美し過ぎるよ、ゆき」

「良かった、二人に喜んでもらえたなら、私たちも嬉しい。ね、ゆき」

「うん、ママ、ありがとう」

「ううん、私は買い物に連れて行っただけだから。お金を出したのは真助と経幸だから。ね」

 俺と真助はそれぞれ更に美しく変身したしずとゆきに腕を組まれてお礼を言われた。

「ありがとう、真助」

「ああ、いや、どういたしまして」

「ありがとう、こんな素敵なお召し物?お洋服って言うんだっけ?それと美しくなれる筆を」

「ああ、ゆきが気に入ってくれてるなら何よりだよ。あ、筆ね?言い方違うと思うけど、まあいいか?」

「それで、どう?真助、経幸、部屋の方は?」

「ああ、何とか片づけたよ。俺の部屋を空けたから」

「やっぱりね」

「何だよ、お袋、やっぱりねって」

「そのままよ。だってあの部屋、比べたら真助の部屋の方が断然広いじゃない。多分、あなた達のことだから、しずちゃんやゆきちゃんに窮屈な思いはさせられないってことで、真助の部屋を空けると思ってたから。だからどっちの部屋を空けるか、指示までしなかったの。二人なら当然、そっちを選択すると分かってたから」

「そうか、母さんはそんなとこまでお見通しだったのかよ」

「それと、ベッドも二つとも入れておいたからさ。一人だけベッドじゃ可愛そうだろ。しずとゆきは二人ともイメージ的に布団はないからな。俺たちは布団でいいけどさ」

「さすが、やるじゃない、真助、経幸」

「ごめんな、しず、ゆき。まだ、部屋は何もなくて殺風景だけど、部屋に必要なものはこれから俺たちが揃えるからさ。欲しいものがあったら遠慮なく言ってくれ」

「おお、二人とも、しずちゃんとゆきちゃんの彼氏らしくなってきたじゃないか。まだ二人とも真助と経幸を彼氏として迎えるかは?だろうけど、真助も経幸もこう言ってるし、しずちゃん、ゆきちゃん、遠慮なく何でも頼んじゃいなよ」

「グスン」

「ちょっと、姉さん。せっかくのお化粧、取れちゃうよ」

「ゴメン、だって真助さんも経幸さんも優しいんだもん」

 真助は涙ぐむしずの頭を撫でた。

「もう、しずは泣き虫だな。それに俺と経幸のこと、今、さん付けになってたし」

「あ!真助、お前、何気なく、しずの頭撫でやがって。いいな」

「あ、あの、経幸。それなら私の頭、撫でてみて。こんなことは催促しちゃダメなのかな?いいよ、経幸がそんなことで喜ぶなら」

「あ、い、いいよ。そんな、ゆきにそんなこと言われたら、いざ、しようとすると緊張しちゃうからさ。ゴメン、気を遣わせちゃったな。さあ、しずもゆきも、それから父さんも母さんも一日中、歩き詰だったんだろ。お風呂溜めておいたからさ、お風呂入ってきなよ」

「ええ!嘘、経幸、あなたがそんな気遣い、どうしたの?ああ、そうか、ゆきちゃんとしずちゃんのためか?ね、図星でしょ」

「まあ、否定はできないけど、それに母さんも父さんもしずとゆきのために頑張ってくれてるから。まだ、しずとゆきがここに来て二日目だけど感謝してるんだ、こんなにすんなり二人を受け入れてくれて」

「そう、経幸の言うとおり。俺だって。だから、お袋、今日は晩御飯、作らなくていいから。今日は久し振りに俺が作るからさ」

「ええ、真助、本当か?もの凄い久し振りだな。お前が作ってくれるって言うなんて」

 この発言にはしずもゆきも驚いた。

「嘘!真助、お料理できるの?」

「そ、そうよ。まさか、本当にできるの?」

「そうよね、ごめんね。しずちゃん、ゆきちゃん、そう言えばまだ真助と経幸のこと、名前以外何も教えてなかったね」

「いいから、親父もお袋も、しずもゆきもとにかくお風呂、俺たちの話はご飯食べながらにしようぜ。みんなが順にお風呂入ってる間に作っておくからさ」

 そうして俺がお風呂から最後に上がると五人で勝手に真助の話で盛り上がっていた。

「おお、やっと出てきたか経幸、もうみんなお腹空いてるみたいだったから、先に食べてもらってたからな」

「ごめんね、経幸」

「あのね、真助もパパもママも気にするな。先に食べていいからって言うから。私とゆきは経幸が出てくるまで待ってるって、頑張ってたんだけど、パパもママも真助も強引なんだもん」

「いいよ、しずもゆきも、二人の気持ちだけで俺は救われたよ。これで二人も俺のこと気にしてくれてなかったら・・・」

「な、しず、ゆき、俺の言ったとおりにしたら満足しただろ、経幸。俺たち双子だからよく分かるんだよ」

「え、おい、まさか、今のしずとゆきの対応、芝居なのか?」

「ハハハ、ほらな俺の言ったとおりだろ、しず、ゆき。こいつダブルで騙されただろ。俺と違って本当に素直でクソ真面目なんだよ」

「まさか、真助、お前の策略か」

「そうだよ、しずもゆきもどうしてもお前のこと待つって言うからさ。俺が必死にお願いして俺の悪ふざけに付き合ってもらったんだよ」

「ごめんなさい、経幸さん、私と姉さん、それでもあなたを騙すなんて嫌だって言ったんだけど、あなたの騙された顔が面白いからって。でもやっぱり止めておけば良かった。だって経幸さんの騙された顔、私、見てるの辛くて笑えないんだもん。本当にごめんなさい。私のこと、許せないなら、打っていいです」

「私も、ごめんなさい」

 そう言って二人は俺の前に立って眼を瞑って顔を突き出していた。そんな二人が可愛すぎて、そんなことはできる訳がなかった。

「いいよ、全部、このバカ兄貴が無理矢理、二人を巻き込んだんだろ。しずとゆきがそこまで謝ることじゃないから。ありがとう、本当に二人には癒されるよ」

 俺はそう言っていきなり真助の後頭部を張り倒した。

「痛っ!何だよ、経幸、騙されてムカついたのかよ」

「ああ、超ムカついた。でもそれは俺が騙されたからじゃない。こんなことに純粋なしずとゆきを巻き込んだお前にムカついたんだよ。お前のつまらない悪戯に二人を巻き込むな、このバカ兄貴。少しはその、ない頭で考えて周りに気を遣え。本当にしず、ゆき、ごめんね」

「くそ、まさか経幸にこんなに説教されるとは思わなかったぜ。でも、すまん。お前の言うとおりだな。ごめん、しず、ゆき、俺の悪ふざけが過ぎたな」

「まあ、許してやるよ」

「経幸、お前が言うな」

「俺が言って当然だろ。騙されたのは俺なんだからよ」

「パパ、ママ、本当に二人って楽しい兄弟ですね。家の中がとても楽しい」

「本当だね」

「それで、もう真助、お前のことは粗方教えたのか?」

「ああ、とりあえず俺の仕事のことな」

「そう、聞いたよ、経幸。真助は料理人なんだね。凄いね。この顔で料理人なんだもん」

「ちょ、ちょっと待て、ゆき、この顔でって?何か妙にそこが引っかかったんだけどな」

「あ、ゴメンなさい、悪い意味でではなく、だって真助もカッコいい素敵な男性でしょ。それでこんなに料理も上手なんて、凄いなって思ったの」

「そ、そうか。嬉しいな、ゆきにそう言ってもらえて」

 それを見ていてしずは真助の来ていたTシャツの裾をつまんで焼きもちを焼いた。

「もう、真助!嫌だ、ゆきにそんなこと言われてそんな顔して。私だって素敵だって思ってるよ、ゆき以上に」

「ありがとう、ゴメンごめん。ただ単にゆきの言葉も嬉しかっただけだよ。でも何か嬉しいな。今のって、しずが俺に焼きもち焼いてくれたってことだよな」

「そうみたいだね、真助。でもしずちゃん可愛いね。真助も、しずちゃんにそんなこと言われて、鼻の下伸ばし過ぎ」

「ちぇ、やっぱり、真助は卑怯だよな。最近は料理人はモテるもんな」

「何だよそれ。卑怯って何だよ。別に俺は小さい頃から興味があったことを仕事にしただけだろ」

「ゴメン、まあそうなんだけどさ。羨ましいな、しずにもゆきにまで素敵だなんて言われてよ。俺も料理に興味を持ってたらな」

「おい、経幸、今更、そんなこと言ってんじゃねーよ。お前だって立派な仕事があるだろ」

「あ、そうだよ、経幸はどんなお仕事してるの?」

「そうよ、教えて」

「あ、いや、そうだな。あ、でも俺の仕事か、いや、しずとゆきに俺の仕事説明するの難しいな」

「そうか、そうだよな、経幸、お前の仕事は俺と違って現代社会の象徴的な要素を凝縮したものだからな」

「そう、真助の言うとおり。お前の仕事は料理だから、しずとゆきの時代からあったものだけど、俺の仕事は・・使う機材やその仕組みから全部説明しないといけないもんな」

「な、何?説教臭い経幸でも私たちに説明するのに難しいことなの?」

「ちょ、ちょっと、おい、ゆき。君は天然なのか?それとも元々毒舌なのか?ゆきに思い切り説教臭いなんて言われると俺、すげー凹むんだけど。そもそも真助、お前が俺のことをそんな表現するからだぞ」

「ゆき、いいぞ、言いたいことを言える関係って最高なんだぜ」

「やかましいわ。それはその通りだけど、言っていいことと悪いことくらい分別は必要なんだよ。全く何ていう兄貴だよ。まあ、ゆきは可愛いから言われて凹むけど、許せちゃうけどな」

「ねえ、そんなことより、経幸の仕事、どんな仕事なの?」

「はあ、そんなことよりって。もういいや。うん、俺の仕事はまあ、後で俺の部屋で説明するよ。ここで話だけで説明するより、パソコン使いながらの方がまだ少しはゆきとしずにも伝わると思うから。じゃあ、俺も頼むわ、真助、久し振りにお前の料理、食べさせてくれよ」

 そして俺は久し振りの真助の料理を満喫してから、四人で、今日から俺と真助の部屋になった、元、俺の部屋に行って、ゆきとしずに俺の仕事を説明した。上手く伝わったのかは、ゆきとしずの頭の中に?がいっぱいついていたかもしれないが。その後も少し四人でいろいろ話をしていると一階から母の声がした。

「真助、経幸、もうすぐ十二時よ。明日、仕事でしょ。そろそろ寝なさいよ。それにしずちゃんとゆきちゃんも疲れただろうから、休ませてあげなさい」

「はーい、分かったよ、母さん。だって、それじゃあ、しずとゆきも今日もいろいろあったから疲れただろ。でもどうだった?父さんと母さんとお買い物、楽しかったかい?」

「うん、それはもう。もう周り全部見たことないものばかりで新鮮だったし、お洋服なんてこーーんないっぱいあって。何か変だなって思うものもあったけど、何故かお洋服見てると楽しくて。ね、ゆき」

「うん、何かね見てるだけでも楽しくて。それにお化粧、お店の人にメイク?って言ってたよね、それ、してもらって自分の顔が、自分じゃないみたいになって、何て言うのかな?叫びたくなるくらい楽しかった。それにパパもママもね、笑顔で可愛い可愛いって言ってくれるから凄く幸せな気分になったよ」

「真助、やっぱり女の子ってさ、いつの時代も変わらないんだな。初めて触れるものでも、自分のことを素敵にしてくれるものは感覚的に分かるんだよ」

「そうだな、言えてる。じゃあ、そろそろ寝ようか。明日は俺たち仕事だから」

「そうなんだ、真助と経幸は明日、お仕事なのか。ねえ、お仕事は明日だけ?」

「ああ、あのね、しず、ゆき、今の時代の仕事は五日間働いて二日休みというのが基本かな?ただ、仕事の種類によっていろいろ変わってくるんだけど。俺は働いてる店が決まった休みがないので、基本、決まった日数、休みたい日を申告して休むんだ。経幸は基本、土日休み、あ、しずとゆきは一週間という概念が分からない?」

「うん、何?その一週間?」

「今の時代は一週間と言って、一日ごとに曜日というものがあてはめられていてね、生活する周期を七日単位で区切っているんだ。例えば、経幸の仕事だと、土日休みと言ったのは、今日、が日曜日だったから、明日は月曜日という日でね、そこから五日間働いて、またその後、土曜日と日曜日が仕事休みということになるんだ。俺の場合はそれが決まってないから、自分で休みたい日を決められるということ。おい、経幸、何で俺がこんな説明をしなきゃいけないんだ。これは本来、お前の役目だろ」

「バカ、誰がそんな役割分担したんだよ。真助、お前にしてはまあまあの説明だったかな。合格点をやるよ」

「ふん、偉そうに、弟のくせして」

「うるせーよ。双子なんだから、そんな言い方ありえねーよ」

「それじゃあ、私たちは明日からどうしたらいいの?」

「うん、そうだな。まだ、二人はここで生活する上でいろいろ分からないことがあるだろうから、母さんに色々教えてもらうといいよ。俺たちが仕事してる間ね。母さんと一緒にいて、この家での生活に慣れないとね。明日、仕事に行く前に俺たちから母さんにお願いしておくからさ」

「ああ、まあ、でもそんなこと言わなくてもお袋のことだから、分かってると思うけどな。娘が二人もできたって喜んでたくらいだから」

「うん、でも、大変じゃない、ママ。私たち、部屋でじっとしてた方がいいんじゃないのかな?」

「バカだな。そんなことしてたら、余計に気を遣って、母さんが悲しむよ。頼むよ、しず、ゆき、遠慮しないで母さんに甘えてやってくれよ。その方が母さん絶対に喜ぶから」

「うん、分かった。明日から私たち、ママにいろんなこと教えてもらって、ママのこと助けられるような娘になれるように頑張るね」

「うん、ありがとう。それじゃあ、明日からも宜しくね、しず、ゆき。おやすみ」

「うん、それじゃあ、私たちも寝るね。おやすみなさい、真助、経幸」

 そして俺たちにとって激動の七月第三土曜日、日曜日が終わった。

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