第二話
家に着いた俺たちは両親と食卓を囲んでいた。
「ねえ、二人とも雨に降られたでしょ。あの時、私たちと一緒に帰ってくればよかったのに」
「うん、母さんの言うとおり、すぐに帰ってくれば良かったかもね。でも良かったこともあったよ。滝つぼに瓶を捨てた奴がいたから。そのゴミを拾ってきたんだ。まったく、俺たちが大切にしている都城市の誇りある名勝を汚す奴がいるから、もっと節度ある楽しみ方をしてほしいよ」
「まあ、そうだったの。じゃあ、良かった。でも二人とも本当に関之尾の滝を大切にしてくれるから、私もお父さんも嬉しいわ」
「当たり前だよ。小さい頃から父さんと母さんにそう教えられてきたからね。それにいつまでも綺麗な滝で眠らせてあげたいじゃないか、おゆきさんとおしずさん。辛い命の火の消し方だったからこそ、せめていつまでも綺麗な所でさ」
「まあ、本当に経幸は優しいね。それにどんなことにも真面目に向き合ってくれるね。真助も少しは弟を見習ったら」
「な、何だよ。俺だって滝に行ったときはそれくらいのこと思ってるよ」
「へっ!どうだか?母さん、信用しない方がいいよ。最近の真助は・・・」
「経幸、余計なこと言うな。俺たちは双子なんだぞ。考え方だって近いに決まってるだろ。以心伝心だよ」
「ぷっ!まあいいや、そういうことにしておいてやるよ」
「もう、真助も経幸も仲がいいんだか悪いんだか?」
夕食を終えて俺と真助はそれぞれ自分の部屋でくつろいでいた。
「ふう、食べた。でもやっぱり母さんの作るチキン南蛮は美味いな、食べ過ぎちゃったな。あ、そうだ、今日、滝で拾ってきたゴミ、捨てなきゃな」
俺はポケットからその小さな瓶を取り出した。
「それにしてもこの中の人形、女性の人形みたいだけど、小さくてよく分からないな」
俺は机に置いてスマホを使ってムービー撮影して確認した。
「おお!見える見える。それにしても良くできた人形だな、まるで本当の人間が眠ってるみたいだ。それにメッチャ綺麗だなこの人形」
そこに真助が俺の部屋に来た。
「おい、経幸、ちょっといいか」
「ああ、入れよ」
「あのさ、お前、拾ってきた瓶の中身しっかり確認したか?」
「ああ、見たぜ。何だよ真助もあの瓶の中見たのか?」
「ああ、確認した。確認したんだけど、中の人形凄いリアルなんだ。まるで本当の人間を小さくしたみたいなんだ。お前の方はどうだった?」
「ああ、こっちも同じだ。それに俺の拾ってきた中の女の人形、人形にときめいてどうするんだって話だけど、すげー美人なんだよ」
「そうなのか、ちょっと俺にも見せてくれよ」
俺は真助にも俺の拾ってきた瓶の中をスマホで見せた。
「うわっ!本当だな、リアル、それにお前の言うとおり、すげー美人だな。いくら人形でもこのグレードならときめくよ。実はこっちもなんだ。違う人形みたいだけど、すげー美人。俺も経幸と同じで人形にときめいちゃったよ」
そして真助の拾ってきた瓶の中身も確認してみた。
「本当だな。真助の言うとおり、お前の瓶の中の人形もすげー美人だな。でも違う人形みたいだけど、何かこの二つの人形、顔が似てると思わないか?」
「うん、そう言えば、経幸の言うとおり、似てる気がするな。でも、経幸どうする?俺、ゴミだと思って持って帰ってきたけど、こんな綺麗な人形捨てる気なくなってきた。俺、このまま自分で持っておくことにする。じゃあ、部屋に戻るわ」
俺も真助にそう言われて同じことを思っていた。小さいけどこんなにリアルでとんでもない美貌のこの人形を捨てるなんてことは思えなくなっていた。
「いやあ、それにしても気になるな。ダメだ、何をこんな小さい人形に俺はドキドキしちゃってるんだよ」
そして俺はこんな言葉を吐いていたのに、どうしても瓶越しではなくもっと近くでこの人形を確認したくて、この瓶の蓋を開けたい感情に駆られた。
「どうしよう。蓋開けて、この人形、出してみようかな?」
俺は机の上でその瓶の蓋を開けた。そして蓋を開けた瞬間、俺は中身の異変に気付いた。
「え!嘘だろ。ない、人形がない。何でだ?」
そして俺は部屋全体を見渡し、ベッドの上を確認して大声を上げた。その声とシンクロするように真助の部屋からも大声が聞こえた。
「うわあ!」
俺のベットの上には瓶の中で確認した人形?が横たわっていたのだ。それも俺たちと同じ実物大になって。そして真助も俺と同じように瓶の蓋を開けてしまい、同じ現象が起こっていたのだ。その大声を聞き付けた両親が俺たちの部屋に駆け上がってきた。
「経幸、どうしたの、開けるわよ」
「真助、どうした、開けるぞ」
俺と真助は父親と母親にほぼ同時に扉を開けられた。そして俺たちの部屋の光景を目の当たりにした二人も大声をあげた。
「な、何?経幸、何してるの。あなた、この娘は誰?」
「お、おい、真助、お前、いつの間にこんな女性を連れてきたんだ」
「違うよ、母さん、これはな、俺にも何が何だか」
「親父、違う違う、俺が連れてきたんじゃない」
「何言ってるの、経幸、あなたの部屋のベッドに現にその娘、寝てるじゃないの。あなたが訳が分かってないことはないでしょ」
「いやいや、そんなこと言っても」
「真助、何で今更そんな嘘をつくんだ。お前のベッドの上にいるんだぞ。お前が連れて来たんじゃなかったら、誰が連れてきたんだよ。それともその娘が勝手に入ってきたというのか」
「あ、いや、それは、この瓶がな・・・」
俺たちが両親への対応に困っていると、その瓶の中から出てきたと思える二人の女性?人形?は目を覚ました。
「え!何で、私、生きてるの?でもここは何処なの」
そして俺の拾ってきた瓶から出てきたであろうと思われる、その女性は俺の顔を視界に捉えると、いきなり俺の名前を呼んで抱きついてきた。
「まさか!経幸様、逢いとうございました。まさか再びあなた様のお顔を見られるなんて」
俺はいきなりこんな美女に名前を呼ばれて抱きつかれて、完全に舞い上がった。
「お、おい、き、君、いきなり。おい、止めろって。いったい君は誰なんだ」
「え、そんな、経幸様、私のことをお忘れになってしまわれたのですか?私です、ゆきです、おゆきです。あなた様と三世の契りを結んだではありませんか。そんな、おゆきは悲しゅうございます」
おゆきと名乗った女性はそう言って俺の胸の中で涙ぐんだ。
「ちょっと、経幸、本当に誰なの?おゆきさん?って言いましたよね。経幸とはどんなご関係なの?こんなお若いのに話し方がまるで今風じゃないけど」
「経幸様、こちらの方はどちら様ですか?」
「え、ああ、俺の母さんだよ」
「え、経幸様の母上様ですか?でも、ちょっとお逢いしない間に何かこう雰囲気がだいぶ変わられたような気がするのですが?それにお二人とも変わったお召し物で」
「ねえ、経幸、私、このお嬢さんとお逢いしたことある?あなた紹介してくれた?」
母親を含めた三人とも全く会話が噛みあわない状態が続いた。
一方、真助の部屋でも。
「え、嘘?私、生きてるの?滝に入ったのに助かったの?」
真助のベッドに横たわっていた女性?人形?も目を覚まし、辺りを見回した。そして真助の姿を視界に捉えると真助の名前を呼んで抱き着いた。
「し、真助様、真助様ですね。まさか、再びあなた様の温もりを感じられるなんて、夢みたいでございます」
真助も俺と同様にこのいきなり湧いて出た超絶美人に抱き着かれて、紅潮した顔で問いかけた。
「ねえ、君、君は誰なんだい。参ったな」
「そんな、真助様、私のこと、覚えておられないのですか?私です。あなた様の許嫁のおしずでございます。私のこと忘れてしまわれたのですか?おしずは寂しゅうございます」
おしずと名乗った美女は真助の胸で涙ぐんだ。真助はその美しい涙にさらに舞い上がり、卒倒寸前だった。
「うわあ、どうしよう。参ったな、泣かないでくれよ。ごめんよ。でも、え、何だ?おしずさん?許嫁?どういうこと?」
「真助、どういうことだ?許嫁とは何だ。お前、親の私たちに何の話もなしに、こんな大切な話を勝手に進めていたのか?」
「違う違う、違うって、親父。俺もこの美女に逢うのも話したのも今が初めてだよ。こんな美女に抱き着かれてすげー嬉しいけど、頭の中パニックで、どうしたらいいのか・・・」
「真助様、酷過ぎます。私に逢うのも話すのも初めてなんて。あんなにお優しかったのに。お願いします、私のこと、思い出して下さいませ」
「おい、親父、俺、どうしたらいいんだ。何とかしてくれ」
「ちょっと待て、よし、深呼吸だ。何かさっきから真助もそちらのおしずさん?も俺も話しが噛みあってな・・・、おしずさん?ちょ、ちょっと待て、何か・・・名前が・・・、おしずさんてまさか!」
「あの、真助様、今、親父って?え、こちらの殿方は真助様のお父上ですか?」
「あ、ああ、俺の父親だよ」
「え?真助様のお父上ですか?少しお目にかからないうちに何か印象がかなり変わられたような気がするのですが」
「ちょ、ちょっと待て。落ち着いてとにかく話を整理しよう。な、真助。どうやら経幸の方もさっき大きな叫び声が聞こえたし、様子を見に行った母さんのことも気になる。真助、経幸の部屋に行ってみよう」
そして真助と父、おしずという女性は俺の部屋に来た。
「あ、あの、おしずさん」
「はい、真助様」
「ちょっと、一緒に付いてきてくれるかな」
「はい、真助様、あなた様の傍に居られるならどこへでもついてまいります」
「いや、ま、参ったな。真助様って」
そして俺の部屋の光景を見た真助と父は再び大声を上げた。
「つ、経幸、お前まで」
「経幸、まさか、その女性って?」
「ああ、真助、分かるか?そのまさか!だと思う。って真助こそ、その後ろの女性?」
「ああ、お前の想像のとおり、・・・みたいだ」
そして俺たち家族が状況を少しずつ整理しようと話している傍で、おしずという女性とおゆきという女性がお互いの姿を確認するとその二人の美女はお互いの名前を呼びながら抱き合った。
「おゆき、おゆき、ですよね。あなた生きてたの?」
「まさか!おしず姉さん、本当のおしず姉さんですよね。わーー、逢いたかった」
「私もよ、おゆき、あなたと生きて逢えるなんて。領主様に殺されたと思ってたのに」
そして状況を全て呑み込めていないが、話の内容を聞いているうちに理解しがたい内容だが落ち着きを取り戻してきた父が、一階のリビングにみんなを誘導した。
「何か全く全員の話が噛みあわないし、こちらのお二人のお嬢さんの話の内容と話し方に嘘がないとすると。あ、申し訳ないね。お二人が嘘をついてるとは思ってないんだけど、今の状況を全て信用すると、どうやらとんでもなく不思議なこと、普通じゃ信用できないようなことが真助と経幸の傍で起こったとしか思えない。母さん、真助、経幸、とにかく一度、リビングに行って今までの状況を整理しよう。お嬢さん方、おしずさん、おゆきさんも一緒にね」
そして俺たち六人は一階のリビングに場所を移した。
一階のリビングに場所を移し、俺たちも、そして突如降って現れた美女二人も少し気持ちが落ち着いた。そして美女二人は改めて周りの状況を確認し、俺たちには当たり前と思えるもの全部に驚き、俺たち家族は少しの間、質問責めに遭った。
「ねえ、おしず姉さん、凄い綺麗な家屋ですね。庶民の我々の家屋で、こんな凄いものは見たことないですね」
「本当ね。大きさは領主様のお城には敵わないけど、私たち庶民が暮らす家屋としては随一だと思うわ。ねえ、おゆき、家屋も凄いけど、何か、置いてあるものも見たことないものばかりよ。あの、真助様、この壁にかけてある黒い板は何ですか?」
「ああ、これはテレビっていうものだよ。って見たことないの?」
そう言って真助はテレビを点けた。そうすると映し出された映像を見て二人は、テレビに近づいて隅々まで確認し出した。
「うわあ、お姉さん、見て、小さい人が沢山いるよ。でもどうやって入っているのかな。こんな薄い板の中に。こんな小さい人って私初めてみた」
「本当ね、私もこんな小さい人初めてみた。真助様、この小さい方達はこの薄いもの、テレビというものの中で生活してるのですか?」
「参ったな。おしずさん、マジで言ってるの?まさかの天然?何て説明したらいいのかな。それはね俺たちと同じ人間だよ。違う場所にいる人が映像として写ってるだけだよ」
「マジ?天然?映像?」
おしずは自分がほとんど使うことのない単語に首を傾げた。俺と真助はそのとても可愛らしい仕草に思わず素直な感想が漏れてしまった。
「か、可愛い」
「だな、真助」
そしておゆきに目を移すと、おゆきは台所にある白い箱、そう、冷蔵庫に興味を示していた。
「あの、経幸様、この白い箱は何ですか?開けていいですか?」
「あ、うん、いいよ。それは冷蔵庫って言うんだよ。食べ物を腐らないように冷やしておくものだよ。でもおゆきさんも冷蔵庫初めて?今時、日本にいて冷蔵庫を知らない人なんているの?何か俺たちおちょくられてるのかな」
おゆきは冷蔵庫の扉を開けた。
「うわあ、冷たいよ。凄い涼しい風が出てくる。ねえ、おしず姉さん、見て見て、凄くいろんなものが入ってるわ」
「うわあ、本当ね。凄いね。真助様、この赤くて柔らかいものは何ですか?」
「ああ、それは牛肉、牛の肉だよ。それとその隣の少しピンク色のものは鶏肉、鶏の肉だよ」
「ええ!嘘でしょ。真助様も父上様も経幸様もそちらの女性もこのようなものをどうするのですか?」
「あ、ああ、おしずさん、どうするかって?そんなこと決まってるだろ。食べるんだよ。みんな大好きだよ。凄く美味しいんだよ。それからこっちの女性は俺の母さんだから」
「た、食べる?本当ですか?それにそちらの女性は経幸様の母上様ですか?真助様の父上様と同じで、以前と印象が違うような気が?それからこのお肉のこと、驚きです?以前はこんなものを食べるなんて考えられなかったのに。真助様はお魚がとても大好きだったはずです」
そうおしずと話しているとおゆきは未だに冷蔵庫に興味を示していて、次は冷凍庫を開けた。そして、その中にアイスを見つけた。
「あの、経幸様、これは何ですか?うわあ、凄く冷たい」
「あ、そうだ、今日は蒸し暑いから、おゆきさんもおしずさんも、いいよ、それ食べられるから、食べてみて」
「うわあ、よいのですか、経幸様」
「あ、ああ、どうぞ」
「私もよいのですか、真助様」
「うん、いいよ」
「何か怖いけど、いただきます。うわ!冷たい。・・・・でも何これ!甘くて美味しい、ね、お姉さん」
「本当だ、甘くて冷たくて凄く食べると気持ちいい。真助様、これは何と言う食べ物ですか?」
「ああ、それはアイスクリームという食べ物だよ。」
「アイスクリーム?こんな食べ物初めて食べました。凄く美味しいですね」
この質問責めを少しの間、傍観していた父が再び口を挟んだ。
「あのちょっと、おしずさんも、それからおゆきさんもいいかな?こっちに座ってくれるかな?」
「あ、はい、真助様の父上様、あ、え?でももう一つだけ聞いていいですか。こちらのお宅は真助様ご家族の家なのですか?」
「ああ、そうだよ」
「私がお逢いできない間に凄い家屋をお建てになられたのですね。経幸様と経幸様の母上様はご自分のお宅に戻らなくて良いのですか?父上様がお待ちではないのですか?」
「あの、おしずさんとおゆきさん、どうやら、その辺りも色々、お互い質問しながら、説明しないといけないようだから。まずはこちらに座ってくれないかな?」
「あ、はい、分かりました」
「よし、まずは突然、この美しいおしずさんとおゆきさんが真助と経幸の部屋に現れた経緯から整理しよう。真助、経幸、お前たちが説明しろ。当事者はお前たちなんだから」
「うん、分かった。じゃあ、経幸、お前の方がこういうことの話は上手いから、頼む」
「分かった。あのね、父さん、母さん、今日、晩御飯食べてる時に、滝つぼでゴミを拾ったって言っただろ」
「ええ、そう言ってたわね、経幸」
「実はそれ、これなんだ。このインクを入れるような瓶、これを一つずつ、真助と一緒に拾ってきたんだ。中身はね、あの・・どう説明したらいいのかな?んーー、何ていうのか、こちらのおゆきさんとおしずさんにもの凄く似た人形が寝ているように横たわって入っていたんだ。という説明しかできないな。とにかく、もの凄い小さいけど、凄くリアルで、今、こちらにいるおしずさんとおゆきさんにそっくりで凄く綺麗だったんだ。それを部屋で確認したから、ゴミとして拾ってきたんだけど、何か捨てるのが勿体なくなって。そうして見ているうちに瓶の中から一度出してみたくなって、蓋を開けてみたんだ。多分、真助もそうだろ」
「ああ、そうなんだ。全く経幸と一緒」
「そうしたらね、父さん、母さん、信用してくれないだろうな?」
「いや、父さんは全部受け入れるぞ。いいからとにかく全部話してみろ、経幸」
「分かった。でね、蓋を開けたら、自分で取り出してもいないのに、その人形が消えていて、それで、部屋をぐるっと見渡したら、俺のベッドにおゆきさんが横たわっていた、という訳なんだ」
「俺も経幸と全く同じだ。蓋を開けて人形が消えてて、辺りを見渡したらベッドにおしずさんが寝てたって状況だった」
「なるほどな、そうか」
父はそう言いながら俺たちの話に少し頷きながら次はおしずとおゆきに質問した。
「あのね、おしずさん、おゆきさん、先程のお二人の話に出ていた領主様って、誰のことですか?」
「父上様、そんなことをおしずに聞くのですか?分かっておられるはずなのに。私たちの住むこの土地の領主様と言えば、北郷資忠様に決まっております」
父はおしずがこんな真顔でこの質問に答えた姿を見て、自分の中である程度、今までの状況をストーリー立てた。
「おい、母さん、真助、経幸、これはどうやら凄いことになってるぞ。お前たちの拾ってきたその瓶、中にはどうやらとんでもないものが入っていたんだ。どういう訳でそんなことになったのかは俺にも分かる訳がないけど、その中にはこちらのおしずさんとおゆきさんが入っていたとしか考えられないな。なあ、真助、経幸、今までおしずさんとおゆきさんと話してて不自然さを感じないか?こんなに若くて綺麗なお嬢さんたちなのに、平然と真顔で対応する古風な話し方、それに今の話の内容、名前だよ、お二人の対応に嘘がないとしたら、関之尾の滝で拾った瓶だ。多分、いや、絶対に・・・」
「ええ!親父、嘘だろ、そんな訳あるかよ」
「そうだよ、父さん。そんなことある訳ないよ。きっとこの二人が俺たちを騙してるんだよ」
「じゃあ、このおしずさんとおゆきさんはお前たちの部屋にどうやって入ったんだ。今まで整理した状況から考えても、そう結論づけるしかないだろ。それにお前たち、この二人に俺と母さんが駆け付ける間に、自分の名前教えたのか?そんな時間あったのか?そもそも初めておしずさんとおゆきさんを見た時、お二人は寝てたんだろ?それにお二人のお前たちの呼び方だよ。同年代の女性に名前に様をつけて呼ばれたことなんてあるか?それもこんな当然のように呼んでるんだぞ。ということはだ・・・」
そうやって父と俺、真助が議論してるとおしずとおゆきは俺の発した自分たちが俺たちを騙してるという言葉に悲しみを抱き、二人で俺の手を握って自分たちを信用してというように見つめてきた。
「経幸様、今のお言葉、酷いです。おゆきと私が経幸様や真助様、それにそのご家族を騙すなんて、そんなことしません」
「そうです。お姉さんの言うとおりです、経幸様。あなたの妻になると誓った私が経幸様を騙すなんて。お願いです、信じて下さいませ」
俺はこんな美しい二人に懇願の目で見つめられて素直に返事することしかできなかった。
「おしずさん、おゆきさん、この通り、ごめんなさい。二人のことを疑ってしまって。分かったよ、二人の言うこと、これからは信用するから。だから、二人とも、俺の手、放してくれないかな。こんな綺麗な二人に手を握られたままだと、緊張して話せないから」
「ごめんなさい、経幸様」
「はあ、おい、経幸、冷静に話をまとめると、この状況はどういうことなんだ」
「ああ、いいか、俺なりに父さんの話も考慮してまとめてみたんだけど、こういうことなんじゃないかな。
まず、俺たちの拾ってきた瓶には父さんの言ったとおり、おしずさんとおゆきさんが入っていた。そのまま置いておけば何ともなかったんだろうけど、俺たちが蓋を開けてしまったために、閉じ込められてた瓶から出てきて、俺たちの部屋に現れた。
そして二人のこのビジュアル、話しぶり、それから今まで何も言わなかったけど、この服装がコスプレじゃないとすると、この二人は関之尾の滝に身を投げたという神話に出てくるあの美女?じゃないかと」
「嘘だろ、そんな、まさか!本当の話だったのか?それに六百年も前の神話だぞ。何でそんな時代の二人が生きてるんだよ。それに仮にそうだとして、六百年前にこんなインク瓶みたいなものが日本にあったとはとても考えられない」
「う、うん、それはまあ俺もそう思うけど、俺はおしずさん、おゆきさんに誓ったんだ、二人の言うことを信用するって。となるとそう結論づけるしかないだろ」
「でもよ、本当にそうなのか?やっぱり俺たち、この二人に騙されてるんじゃ・・・」
そう真助が言うと、今度は真助が二人に言い寄られた。おしずとおゆきは真助の腕を組みすり寄っていた。
「真助様、何でそんなに私とおゆきのことをいじめるのですか?以前はあんなにお優しかったのに」
「そうです、真助様。私もあの滝に投身する前はあんなにお優しい兄上様ができることをとても喜んでいたのに。おゆきも真助様にそんな言われ方をしたら、悲しゅうございます」
さすがに真助も瓶の中の人形の状態でもときめいていたので、突然現れた実物にこんな甘え方をされては疑念を自分の中から抹殺するしかなかった。
「ごめんよ、おしずさん、おゆきさん、そんな悲しい顔で見つめないで。俺が悪かった。こんな素敵な女性を悲しませるのは俺のポリシーに反する。それに今の状況をありのままに受け入れた方が苦しくなさそうだ。経幸、お前の考え、全部、話してくれ。俺は双子の兄だからお前の考えを全て受け入れることにする」
「へっ、調子のいい奴だな。いつもは俺の言うことなんてまともに受け入れないくせに。まあ、いいや、俺の考えを一通り話すよ。多分、この二人が瓶に入っていたのは、ちょっと乙女チックかもしれないけど、神様が助けてくれたんだと思う。だって二人ともこんなに穏やかで可愛いんだ。きっと神話と照らし合わせると多分、やっぱり濡れ衣を着せられたんだと思う。それを神様は見ていて命を助けてくれたんじゃないかな。で、今回、おしずさんの命日と言われるこの日に、真助、お前がおゆきさん、おしずさんみたいな彼女がほしいなんて変なお願いしたから、瓶が俺たちの前に浮いてきて、俺たちのお願い事を叶えてくれたってことなんじゃないかな」
「マジか!だとしたら、経幸の言ってることがすべて今の現象の真実だとしたら、俺たちの願い事を超えてしまってるってことだ」
「何だよそれ。どういう意味だよ、真助」
「だってそうだろ。俺たちはおゆきさん、おしずさん、“みたいな”彼女ができますようにってお願いをしたんだぞ。お前の話を全部信用したら、ここにいるのは“みたいな”じゃなくて、モノホンのおゆきさんとおしずさんってことだろ。完全に俺たちの願いを超えてるじゃないか」
「なるほど、そういうことか。確かにな」
そんな俺たちの話を聞いたしずはまた悲しそうな顔をして話し出した。
「え、真助様、私という許嫁がいるのに、そんなお願い事をしてたのですか?酷い、酷過ぎます。って、でも仕方ないですね。私、妹のおゆきを死に追いやった領主様が許せなくて、領主様に近づいて、領主様のお命を奪おうとしたけど、失敗して、妹と同じように関之尾の滝に投身させられたのですから。私がいなくなって、新しい妻を迎えようとするのは至極当然のことですもの。ごめんなさい、真助様。私がどうしても妹の敵を討ちたくて無謀なことをしたばかりに辛い思いをさせてしまってたんですね」
「え、お姉さま、私のためにそんなことを。でもそうしたら何で私たちは生きているのですか」
「あのさ、おしずさん、おゆきさん、さっきから中々その辺りの話が噛みあわないんだけど。まあ、そうか、二人とも俺と経幸のことを許嫁と言ってるけど、そもそも俺たちは二人の許嫁なんかじゃないもんな。何と言っても二人が生きてた時代の六百年後の人間だから」
「そんな、真助様、私が死んだと思ったから新たな許嫁を探すことは仕方ないと思います。でも私と交わした夫婦になると約束したことまで消そうとするなんて、あんまりです」
「そうですよ、真助様。まさか!経幸様、あなた様までそんなことを考えていらっしゃるのでは?どうなんですか?そんなことを経幸様まで思っていらっしゃるのでしたら、私もこれからどうしたらいいか・・・」
「ちょっとちょっと、待ってくれ、おしずさんもおゆきさんも、もう少し俺の話を聞いてくれ。あ、でもそうだその前に確認したいことが。あのねおしずさん、おゆきさん、真助も俺も君達に名前なんて教えてないよね。何で俺と真助の顔を見ただけで名前が分かったの?」
「え、そんなこと、だって真助様は真助様じゃないですか。愛する方の顔、忘れるはずがありません」
「そうですよ、名前なんて初めてお会いした時にお互いお伝えしたではないですか」
「おい、真助、どうやら、この前、おまえが名前負けしてるんじゃないかって言ってたこと、あれ、却下しないといけないな」
「な、何で?」
「だって、今のおしずさんとおゆきさんの話を信用すると、俺たち、中身は別としてもお二人の許嫁、六百年前の真助さんと経幸さんと超ソックリってことだよ。二人の対応を見てたら、そう思うしかないだろ。ね、父さん、どう思う?」
「ああ、何か、俺も冷静にお前の話もおしずさん、おゆきさんの話も聞いてたけど、話が噛みあわないし、それに普通ならとても信じられない内容すぎて頭が混乱してる。でも、今の経幸が言ったことは多分そうだろうな。そうじゃないとおしずさんとおゆきさんの行動はとても理解できない。だって二人ともいきなり抱き付かれただろ?」
「あ、ああ、でも本当にこんなことが現実なのか?だって、この状況を全て素直に受け入れると俺たちが今まで伝え聞いてきたおゆきさんの神話も真実と違ってるようだし。だっておゆきさんとおしずさんが姉妹だったなんて、そんなこと聞いたこともないし」
「でも、ねえ、あなた。どうするの?私もとても信じられないけど、このお二人がそういうことだとしたら、おしずさんもおゆきさんもどこにいけばいいのかしら。警察に相談するの?」
「そうだな、んーー、警察か?まともに説明したってとても受け入れてもらえるとは到底思えないし・・・。でもこのままここにいてもらうことも・・な」
「皆さん、どうされたのですか?」
「あ、おしずさん、おゆきさんにこれからどうしてもらうのかをね、相談してたんだよ」
「え、父上様、それはどういうことですか?」
「いや、お二人にここにいてもらうのか?それとも・・・」
「あ、それはもちろん、私もおゆきも真助様、それから経幸様とまだ夫婦になっていませんので、自分たちの家に戻ります」
「なあ、父さん、母さん、どうやら俺もまだ夢を見てるみたいだけど、おしずさんもおゆきさんもとても俺たちを騙してるなんて思えないよ。本物の神話のヒロインと信じるしかないよね。だから、そうとして、まずはおしずさんとおゆきさんに、今、自分たちが置かれている状況を理解してもらわないといけないと思うんだ。理解してもらうのに時間がかかるかも知れないけど、まずは今、お二人が生きていた時代のおよそ六百年後だと言うことを理解してもらわないと、これからも話がこんな噛みあわない状態を続けてしまうと思うから。それと、父さん、母さん、警察に相談するのは待ってくれないか?さっき父さんが言ったようにこんな状態でお二人を警察に連れていっても、まともに取り合ってもらえる訳がないよ。そんなことしたらいろんなこと調べられて多分病院行きだよ、だからお願いだ、少しの間、お二人をこのままここに置いてくれないかな?お願いします」
「そ、そうだな。今はそれが一番いいかもな。親父、お袋、俺からもこの通り、頼む」
今度はここまでの話を聞きながらおゆきが俺たちの話の内容に首を傾げた。この仕草がまたとても可愛くて俺たち二人は萌えた。
「あの、皆さんの話されてることが全く理解できないのですが?六百年後?警察?理解できない言葉が?」
「か、可愛い、可愛すぎる。あ、そんなこと言ってる場合じゃないな。な、頼むよ父さん母さん、お二人が落ち着くまでさ、それからその後のことはゆっくり考えてもらうと言うことで。お願い!」
「分かったよ。それに俺たちももっと冷静に考えないといけないみたいだからな。な、母さん、経幸と真助の頼みだ。二人の頼み聞いてやろう」
「はい、あなたがそう言うなら」
「ありがとう、父さん、母さん。じゃあ、まずはおしずさんとおゆきさんに説明だな。あのね、おしずさん、おゆきさん、これから俺の言うこと、理解しがたいと思うけど、本当のことだから、俺のこと信じて聞いてね」
「あ、はい、経幸様、私はいつでもあなた様のことをお慕いしております。何か真剣なお話のようですね。経幸様のお顔を見れば分かります。姉さん、真剣にお聞きしましょう」
「そうね、真助様も父上様もそれに経幸様の母上様もお顔が真剣な表情ですもの」
「おしずさんとおゆきさん、今、お二人がいるこの場所は信じられないと思うけど、お二人が思ってる時代、お二人が話してた領主様、北郷資忠様が治めてた時代から六百年後なんだ。いや、今の時代と時間の経過の数え方が違うのかな?とにかく、二人が思ってる時から物凄い時間が経過してるんだ」
「もう、経幸様、そんなこと、今、真剣な話だって言ったではないですか。そんなおふざけは」
俺はおゆきにそう言われて、ちょっと照れもあったけど、更に真剣におゆきの目を見つめた。
「あ、つ、経幸様、そんな顔で見つめられては」
そして俺は更におゆきの肩を掴んで真剣に伝えた。
「頼むよ、おゆきさん、本当の話なんだ。真剣に聞いてくれ」
「あ、え!まさかそんな」
「うん、だからね、俺たちも何でこんなことになったのか戸惑ってるんだ。だからね、酷なこと言うけど、今この場所におしずさんとおゆきさんの大切なご家族はもういないんだ。もちろん、お二人が御夫婦になろうとしていた真助さんも経幸さんもね」
「う、嘘!経幸様、そんな酷い冗談は止めて下さい。だって現にここに経幸様も真助様もいらっしゃるではないですか?」
「そうですよ、経幸様。皆さん、見たこともないお召し物を着ていらっしゃいますが、私のお慕いしている真助様は真助様に変わりはありません」
「ごめんよ、おしずさん、おゆきさん、俺と真助、そんなお二人が間違えるほど、お二人が愛する真助さんと経幸さんに似てるんだね。でも本当なんだ。俺たちはお二人が生きてた時代から六百年後の人間なんだよ。お二人も自身が死んだと思っていたみたいだから、中々、今の状況は飲み込めないと思うけど、その間にもの凄い時が流れてしまったんだよ」
「まさか!そうしたら、私たち、死んだと思ってたけど六百年もあの滝つぼで眠ってたってことですか?」
「う、うん、俺たちも何でこんなことになったかは理解できないけど、二人はこの小さい瓶の中でずっと眠ってたみたいだね。こんな小さい瓶の中にどうやって入っていたのかも含めて、分からないことだらけなんだけど。おしずさんもおゆきさんも信じられないと思うけど、今までみんなで話して来たことを総合するとそう思うしかないからね」
「そんな。そうしたら、私たちは帰る場所がない?ということですか。おしず姉さん、私たち、どうしたらよいのでしょう。今のお話だと経幸様だと思ってた経幸様は経幸様ではなく、真助様だと思ってた真助様は真助様ではないということだし、真助様の父上様も経幸様の母上様も私たちとは縁もゆかりもない方ということですよね。ああ、自分で何を言ってるのか分からなくなってきてしまいました。お姉さま、私たちこれからどうすれば・・・」
「うん、だからね、今、父さんと母さんと話してたんだよ。このままだとおしずさんもおゆきさんも行く場所がなくて途方に暮れてしまうだろ。だからね、しばらくの間、ここにいたらいいよ。父さんと母さんの了解も取れたしね」
「でもそんなこと、よいのですか?でもここは真助様のお宅ですよね。経幸様が話を進めてますが、真助様の父上様、良いのですか?」
「おしずさんもおゆきさんも、真助のことも経幸のことも、自分たちの許嫁という体でいまだに話してるけど、ごめんね。今、経幸が説明したけど私たちは二人の生きてた時代から六百年後の人間だから、ここにいる真助と経幸は兄弟なんだ。全く似てないけど双子なんだよ」
「ええ!」
「うん、だからね、おしずさん、おゆきさん、ここは俺たち兄弟の家だから、安心して。それにお二人が六百年も眠っていたこの瓶を拾ってきたのも、それにお二人の大切な方だった真助さん、経幸さんにソックリなことも、その名前まで同じってことも、何か俺たち運命を感じるから。だよね父さん、母さん。名付け親本人だから異論はないよね」
「あ、そうね、経幸」
「そうだな、それに私と母さんの出会いもあの関之尾の滝だもんな。これを運命と思わない方が不自然かもな。だから、おしずさん、おゆきさん、うちの家族もお二人も初対面でまだお互い知らないことだらけなんだけど、まずはゆっくり焦らずここで一緒に生活しようか?」
「よ、良いのですか?」
「大丈夫だよ。遠慮しないで。だってお二人を勝手にここに連れて来たのはうちのこの息子たちだからね」
「親父、勝手にとは何だよ。俺たちは大切な滝を守るために・・・」
「分かった分かった。ちょっとした冗談だろ。それに今は少し落ち着いて、真助も経幸もその瓶、持ち帰ってきて超ラッキーって思ってるだろ。だってな、中身はまさかのこんな超絶美女二人だったんだもんな。どうだ、俺の言ったことに反論してみろ」
そうして俺と真助はお互いアイコンタクトした後、おしずとおゆきを見て大きく頷いた。
「父上様の言うとおりであります。異論ありません。俺たち今日は最高に運が良かったです。」
「そうだろ、そうだろ」
「止めてください。父上様も真助様も経幸様も、私もおゆきもそんな大層なものでは」
「ほらほら、お父さんも真助も経幸も、そんな話は勝手に三人だけでして下さい。おしずさん、おゆきさん、お腹空いてるんじゃない?だって六百年も眠ってたんでしょ」
「あ、はい、実は」
「やっぱりそうよね。そうね、夕食に食べたチキン南蛮の材料、今度の分として冷凍保存した分があったわ。あれ使っちゃおう。じゃあ、男性三人はおしずさんとおゆきさんのお話相手としてリビングで色々、教えてあげてて。お二人もいろいろ聞きたいことがあるだろうから」
そうして、俺と真助、父はおしずとおゆきに今の時代のいろいろなことを教えた。もちろん、自分たちがモデルとなっている神話のことも。そして俺たちは神話のモデル本人からその真実について聞いていた。
しばらくして母の料理が完成した。
「さあ、出来たわよ。おしずさん、おゆきさん、こちらへどうぞ。チキン南蛮とご飯とお味噌汁よ」
「母上様、ありがとうございます。美味しそう、でも・・・」
「そうね、お姉さん」
「あ、そうか、おしずさん、おゆきさん、白米と味噌汁は大丈夫だけど、これか。チキン南蛮。見たことないよね。六百年前は魚を食べる文化はあっても肉を食べる文化はないはずだから。でもね、おしずさん、おゆきさん、絶対に美味しいから、それね鶏の肉なんだけど食べてみて」
「はい、でもお姉さま、私怖いわ」
「おゆき、経幸様の言葉を信じましょう。それに母上様が私たちのために作ってくれたのよ。そんなこと言ってたら失礼でしょ」
「ごめんなさい、そんなことも考えずに。いきなり馴染みのないお料理はちょっと気遣いが足りなかったわ」
「ほら、おゆき、いただきましょう。母上様、ありがとうございます。いただきます」
「私も、いただきます」
そしておしずとおゆきは母の作ったチキン南蛮を目を閉じて一口頬張った。
「な、何これ!おゆき、食べた?」
「はい、お姉さん、食べました。何ですかこれは、こんな美味しいものが。お魚も私大好きですけど、お肉とはまた違った美味しさですね、ね、お姉さん」
「本当に。母上様、とても美味しゅうございます。初めて食べましたけど、ち、チキンバンバンですか?今まで食べたもので一番かもしれません」
「まあ、嬉しいこと言ってくれるわ。でもおしずさん、チキンバンバンじゃなくて、チキンな、南蛮ね」
「あ、はい、チキン南蛮ですね」
俺と真助はそのおしずとおゆきの食べてる姿もあまりに可愛くて見惚れていた。
「可愛いな、おしずさん」
「可愛い、おゆきさん」
「真助様も経幸様もおやめください。恥ずかしいです。私たちの食べてるところなんて見ていて何が楽しいのですか?」
「いや、おしずさんもおゆきさんも食べてる姿も可愛いからさ、見てて飽きないよ」
「止めて下さい、経幸様、真助様まで」
「もう、二人とも。二人に落ち着いてご飯食べさせてあげなさい」
「分かったよ。でもさ、おしずさんとおゆきさん、俺たちの呼び方さ、もう少し柔らかくした方がいいんじゃないかな?今時、こんな若い女性がさ、同年代の俺たちを様呼びとか、親父とお袋のこと、父上様と母上様だぜ。やっぱりこれくらいの年代の女性はパパ、ママって呼び方がしっくりくるんだけどな。それと俺たちのことは名前を呼び捨てでいいんじゃないかな。おしずさんとおゆきさんは歳はいくつなのかな?」
「バカ、真助、女性に歳を聞くな。見た目で大体分かるだろ。おしずさんもおゆきさんも多分俺たちと同じくらい、同年代だってことでいいだろ。呼び方は変えてもらった方がいいかも知れないけど。あ!でも違うか、同年代じゃないか、お二人は六百年も前の女性だから」
そう言うと俺は真助に突っ込まれた。バシッ!
「痛っ!痛ってーな。何だよ真助」
「真面目か?バカかお前は、どんだけクソ真面目なんだよ。お前こそ失礼だろ。いくら六百年前の女性だからって、そこを年齢にカウントするバカがどこにいるんだよ。こんな美しい女性を前にしてよ」
「そ、そうか、ごめんね、おしずさん、おゆきさん」
この俺と真助のやり取りを見て、おしずとおゆきは初めて笑ってくれた。
「フフフ、真助様と経幸様って仲が良くて、楽しい方ですね」
「本当ですね、お姉さん」
「だからおしずさん、おゆきさん、俺たちの呼び方さ、様なんてつけなくていいよ。真助、経幸でいいよ」
「でも、そんな」
「いいって、歳も一緒くらいだからさ」
「はい、分かりました。し、真助」
「おゆきさんも分かったかい」
「はい、それでは呼ばせてもらいます。経幸。何か緊張しますね。初めて同じ歳くらいの男性の名を呼び捨てにしました。あ、それならし、真助も経幸も私とお姉さんのことは?よそよそしいですよ。私たちの呼び方こそ、呼び捨てにして下さい。ね、お姉さん」
「そ、そうね、おゆきの言うとおりね。この時代の呼び方だと・・・しずとゆきでいいのかしら?ね、そうでしょ、真助」
「あ、そうだね、じゃあ、し、しず、これからよろしくな」
「はい」
「はい、次は経幸も」
「あ、何か俺も緊張するな。これから宜しくね、ゆき」
「おう、いい雰囲気になってきたな真助も経幸も。何かお互いカップルみたいになってきたじゃないか」
「父上様、あ、いや、パパ?で良かったのかな。カップルって何ですか?」
「あ、まあ、簡単に言えば夫婦になる前の仲のいい男性と女性のことかな」
「ああ、そうなんですか。でも嬉しいです、真助となら。ああ!ママ、ごめんなさい、お、あ、違う、ゆき、食べ終わったんだから」
「そうね、ごめんなさい、ママ。ご馳走様でした。また、ママの料理、楽しみにしてます」
「私も、ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「なあ、母さん、何か不思議な出来事続きだったけど、嬉しいもんだな。何か娘ができたみたいで。こんな可愛いお嬢さんにパパって呼ばれるのも悪くないな」
「そうね、良かったわ、私の作ったチキン南蛮も気に入ってくれたみたいで。それにあなたの言ったとおり、娘っていいわ。これで私にも家庭で味方ができたわ」
「おい、母さん、そんな言い方すると私や真助、経幸がいじめてるみたいじゃないか」
「ごめんなさい、そういう意味じゃなくてね、同姓のお友達ができたって感じかな?ね、これからよろしくね、しずちゃん、ゆきちゃん。さあ、もう十時よ。お二人も眠りから覚めていきなり初めて体感する三時間だったから疲れたでしょ。ねえ、あなた、先にお二人、お風呂に入れてあげていいかしら」
「も、もちろんだよ」
「しずちゃん、ゆきちゃん、案内するわ。こっちよ。あ、でもちょっと待って、お風呂あがった後の着替えどうしようかな。まあ、今日は仕方ないわね。私のスウェットでいいかな。よし、これでね。お風呂から出たらこれを着てね」
「あ、はい、ありがとうございます、ははう、あ、違った。ママ。早くこの呼び方慣れないと。ね、お姉さん」
「そうだね」
そして脱衣所から三人の楽しそうな会話がかすかに聞こえてきて、俺と真助はその内容に釘づけになった。
「さあ、しずちゃん、ゆきちゃん、ここで服を脱いで」
「はい」
そして服を脱いだ二人を見て母はそのことに気づいた。
「わあ、やっぱり二人とも綺麗ね」
「やだ、何か恥ずかしいわ、ママ」
「そうよ、ママ、あんまり凝視しないで下さい」
「ごめんね、あんまり二人とも綺麗だから見惚れちゃった。でも、そうか!あの時代は当然ないのか。ごめんね、ちょっと待ってて」
そう言って母は自分の部屋に戻ってあるものを持ってきた。
「二人ともこれからはこれが必要ね。今日はとりあえず私ので勘弁してね。一応新品だからね。明日、二人に合うものを買いに行こう」
「な、何ですかこれは?」
「うん、これはね、しずちゃんとゆきちゃんの時代にはなかったと思う。何て説明したらいいのかな?女性の大事な部分を覆って女性を美しく見せるものと説明すればいいのかな。南蛮渡来の下着というものよ。この胸につけるのがブラジャー、この小さいものが下に履くパンティ、ショーツとも言うのよ。やっぱり、しずちゃんもゆきちゃんも今からこの時代で過ごすんですもの。そのノーパン、ノーブラで過ごすのはね、ちょっとうちの盛りのついた息子には刺激が強すぎると思うから」
そんな刺激的な会話が聞こえてきて俺と真助は父の目を盗んで脱衣所の前の扉の前に来て更に聞き耳を立てていた。
「わあ、こんな風に付けるんだ。本当だね、お姉さん、このブラジャーとパンティ?を付けてると女性って、こんなに綺麗に見えるんだね」
「ちょっと、しずちゃん、ゆきちゃん、しーー。静かにそっちに入って扉を閉めて」
そうすると突然、脱衣所の扉が開いた。扉が開いた途端、そこには母が仁王立ちしていた。俺と真助は前から母にビンタ、その後に背後から近づいていることに気づかなかった父に布団叩きで頭を叩かれた。
「痛っ!痛い」
「痛ってー」
「このエロ息子たちが。こんなとこで何してるの。もう、しずちゃんとゆきちゃんのこと覗こうとしてたのね。でも残念、下着姿になってたのは私でしたーー」
その母の下着姿を見て俺たちは吐く真似をした。
「おえーーー、見たくないものを見てしまった。テンション下がるわー」
この言葉に父がキレた。
「痛」
「痛っ!な、何回叩くんだよ、親父」
「やかましいわ。俺の大切な栞の美しい下着姿を見て、おえーー、とは何事だ。いくら息子でも俺のマイハニーへの侮辱的発言は許さんぞ」
「ごめん、親父」
「父さん、許して、俺達が悪かった」
「問答無用」
「経幸、逃げるぞ」
「ごめんなさい」
「もう、どうしようもない息子たちね」
「もうママ、いいですか?」
「ごめんね、スケベな息子たちで。でも仕方ないわよね。突然、しずちゃんとゆきちゃんみたいなとんでもなく綺麗な女性がうちに現れてここに住むことになって、それで今お風呂に入ろうとしてるんだから。さあ、お風呂準備しないとね。使い方教えるね」
そして二人はお風呂の使い方を母に教えてもらいながら、蛇口を捻ると出てくる水、ボタンを押すだけでお湯が出てくる浴槽に感嘆の声を上げていた。
お風呂からリビングに戻ってきておしずとおゆきはソファに座った。俺と真助はその風呂上りの二人の艶っぽい姿に釘づけになっていた。
「さあ、しずちゃん、ゆきちゃん、いいよ。ここに座ってて。どう、何か飲む?」
「はい」
「何がいい?冷たい麦茶、オレンジジュース、それとも温かいお茶のがいいかな?」
「あ、ママ、私、麦茶でお願いします」
「ママ、私はオレンジジュース?で。ってでもオレンジジュースって何?」
「そうか英語じゃ分からないか?んーー、ゆきちゃん、オレンジジュースってのはね、そうね、蜜柑なら分かる?」
「はい、分かります」
「そう、オレンジジュースってのはね、蜜柑の搾り汁よ」
俺はこのおゆきの少し天然ぎみの返事に笑いながらツッコんだ。
「ぷっ!ゆき、その返事はおかしいだろ。どんなものか分からない状態でそれを頼むか?普通さ」
「だって聞いたことのない飲物の名前だったから、気になったので、つい」
「もう、経幸、そんなこと言いながら、ゆきちゃんのこと、また一段と可愛いと思ったくせして」
俺は母に核心を突かれて真っ赤になった。
「う、うるさいよ」
「あら、図星ね。さあ、父さんも真助も経幸もちゃちゃっとお風呂に入っちゃって」
「母さん先に入ってこいよ。あ、そうだ、さっき父さん母さんのことマイハニーとか言ってただろ。暑苦しいところ見せてくれたから、たまには二人でお風呂入ってきたら。おえっ!」
「お、お前、真助、自分で言っておいて、その最後のおえっ!てのは何だ。本当に真助は経幸と違ってこういうどうでもいい内容の話はペラペラと言葉が出てくるんだよな」
「な、何だよ、親父だって俺のこと思い切りディスってるじゃねーか」
「お互い様だろ」
「フフフ、真助様と父上様って何かご友人どうしみたいですね」
「ほら、しず、また俺と親父の呼び方」
「ああ!申し訳ございません。パパ、真助だった」
「うん、それでいいんだけど。その前の申し訳ございません、もゴメンくらいの方がいいかな?ほら、親父、お袋、今はちょっと茶化したけど、本当にたまにはお風呂入ってきたら。俺たちは最後でいいからさ」
「分かった。じゃあ、栞、入ろうか」
「そうね、じゃあ、真助、経幸、しずちゃんとゆきちゃんのこと、お願いね。くれぐれも変なことするんじゃないわよ」
「バカ、母さん、そんなことわざわざ釘を刺さなくてもする訳ないだろ」
「どう?しずもゆきもお風呂に入って少しは落ち着いた」
「はい、でも今のお風呂にもビックリしました。勝手に水やお湯が出てくるんですもの。それにシャンプー?それからボディソープ?ですか。とてもいい匂いで、髪や体をそれで洗ったらとても気持ちよくて。凄く幸せな気分になりました」
「そう、それは良かった。っておい、真助、お前、しずの頭の上で何やってるんだよ」
「あ、だってよ、風呂上りのしずから凄くいい匂いするから、その髪からの香りをちょっと嗅いでたんだよ」
「ヤダ、止めて下さい、真助さ、あ、まただ。止めて、真助」
「だって、風呂上りのしず、凄く綺麗だし、凄くいい匂いだし、たまらなくて。もちろん、ゆきもね」
「真助、お前、やめろって。いくらここ二、三年、彼女のいない生活だったからって、盛りのついた犬みたいで、気持ち悪いぞ」
「ごめん、だってよ。しずもゆきもこんなに可愛いんだぜ。俺さ、しずのこと一目見てさ・・」
「バカ、お前、いきなり何を」
「だってよ、こんな不思議な出来事が起きてるんだ。運命感じちゃうだろ。きっと滝でのお願いが叶おうとしてるんだよ。お前だって瓶の中に入ってたゆきにすげーときめいてたくせに」
「バカ野郎、ゆきに思いきり聞こえてるだろ」
「いいだろ、あのなしず」
「な、何ですか?真助」
「俺ね、しずのこと一目見て大好きになっちゃったんだ。お願いします。俺と結婚を前提にお付き合いしてもらえませんか?」
「ば、バカ、真助、お前、何言ってるんだよ。もう少し、しずとゆきの気持ちを考えてやれよ。しずもゆきも自分たちが生きてた時代の六百年後にいきなり投げ出されてまだ四時間くらいしか経ってないんだぞ。自分の気持ちばかり優先しすぎだ」
「そ、そうか、そうだよな。経幸の言うとおりだ。ごめん、しず、今のは忘れてくれ」
「グスン」
「え!、しず、泣いてるのか?ゴメン、そんなしずを泣かせるつもりはなかったんだ。ゴメン、変なこと言って」
「ち、違うの。私、嬉しくて。だって私もゆきもいきなりこんな見たこともないものばかりに囲まれた六百年後の世界にいきなり放り出されて、その状況を今少しずつ整理できてきています。だからこそ、そう考えたら、私たち、この世界では家族も親族も、そして私たちの愛した真助様もゆきの愛した経幸様も、誰も知ってる人がいないということですよね。それを考えたら、私とゆきは誰も頼る人がいないということ。今日は皆さんが私たちをここに置いてくれるって言って下さったから良かったですけど、その後、慣れてきたらどうなるんだろう・・・って考えたら」
このしずの言葉に俺と真助は同じことを考え、同じ言葉を放った。
「しず、しずが不安に思ってること、そんなこと、俺たちがする訳がないだろ。ゆきもな。いいんだよ、しずもゆきも、二人が慣れてきて別のところに住みたいと思うまで、ここにいていいから」
「え、でも、それでは、真助も経幸もパパもママも迷惑なんじゃ・・?」
「そんなことある訳ないだろ。だってこんな状況を作ったのは少なくとも二人をここに連れてきた真助と俺だよ。それに父さんも母さんも娘が出来たみたいだって喜んでただろ。あれだって二人の正直な気持ちだよ。さっき真助だって暴走しただろ。しずにいきなり愛の告白しちゃったし。それに俺だってゆきのことが・・・、しまった!真助に偉そうなことほざいて」
「へ、経幸、ほらみろ、お前だってやっぱりかよ。正直な気持ちが漏れちゃったな」
「ゴメン、ゆき、話してたらつい」
「え、じゃあ、経幸は私のことを?」
「経幸、ゆきに聞かれてるんだ。ほら、ここまできて黙ってるんじゃねーぞ」
「分かったよ。ごめん、ゆき、さっき真助に説教じみたこと言った自分なのに。俺も真助がしずに言ったことと同じ。俺、ゆきのこと一目見て、大好きに、惚れちゃったんだ。まだ、俺のこと何も分からないかも知れないけど、少しずつここで生活してみて、もし、俺のこと好きになってくれたら嬉しいな、なんて思ってるんだけど。だから、ゆきも嫌になるまでここにいていいから」
「経幸、お前、回りくどいよ。もっとストレートにいけよ。恋はど直球だよ。ゆき、回りくどくて分かりにくかったと思うけど、要はね、俺がしずに言ったことと同じ。経幸もゆきと結婚を前提に付き合いたいってことを、分かりにくく伝えたってこと」
「分かりにくくって何だよ」
「そうじゃねーか。お前は俺と違って頭の出来はいいんだけど、話が気難しいというか、説教臭いときがあるからな」
「うるせーよ、中身の薄い話が得意なお前に言われたくないわー」
「グスン」
「え、おい、ゆきまで、何泣いてるんだよ。ほらみろ、やっぱり、真助、お前がゆきに告白しろなんて俺に推すから」
「ち、違うの、違うから、経幸。私も嬉しいの。だって、私もしず姉さんと同じこと考えてて不安だったから。でも本当に私のことなんか。だって私たち、経幸たちの時代に全く溶け込めていない人間なんだよ。この時代の人にとって当たり前のこといっぱい聞いちゃうことになると思うの。きっと面倒臭いって思ってすぐに私のこと嫌になっちゃうよ」
「そんなことないよ、ゆき。さっきからそんなところも含めて見てて可愛いなって思ってたし」
「そうそう、ゆき、その辺は大丈夫だよ。さっき俺が言っただろ。こいつは説教臭いって。良く言えば細かいことを説明するのが好きだってこと」
「真助、お前、俺のことディスリ過ぎ」
「ありがとう、経幸、真助。私、もっと経幸に好きになってもらえるような、そんな自分になれるように頑張るから。面倒臭がらずにいろいろ教えて下さい。あの、それと、さっきから話してる中で出てくるディするって?どんな意味なの」
こんなこと言うゆきの話し方と仕草に俺はまた一層想いを募らせた。
「か、可愛いな。あの、ディするって言うのは、悪口を言うことかな。でもそんな強い意味で使うものじゃないよ。俺たちの話の中での使い方は親しみのある悪口って言うのかな?そんな感じの悪口をディするって言うのかな。それから俺がゆきのこと好きって言ったこと、嫌じゃないの?」
「うん。だってこんなに私のこと思って優しくしてくれるんだもん。それに外見は私の大好きだった経幸様そのものだもん。嫌いになる要素なんてないです」
「そうよね、ゆき。私もそうよ。だからこれから私もいっぱい些細なことで迷惑かけると思うけど、私たちがこの時代に馴染めるようにお手伝いお願いします。ね、真助」
「か、可愛い過ぎるだろ。ああ、もうダメだ。頼む、しず、ずっと俺の傍にいてくれ」
「もう、真助。少しは気持ちを抑えろ。また言葉が暴走してる」
しばらくして父と母が風呂から出てきた。
「はあ、さっぱりしたわ。ほら、二人も入ってきなさい」
そして俺と真助はお風呂に入った。その間にしずとゆきは父と母にさっきの俺たちの告白を伝えていた。風呂から出てきた俺たちはまた父に頭をド突かれた。ガシッ!
「痛っ!」
「痛ってーな、な、何するんだよ親父、気分よく風呂から上がってきたのに」
「気分よくじゃねーわ。このKY息子たちが」
「な、何が?」
「聞いたぞ、しずちゃんとゆきちゃんから。お前たち、いきなり告ったんだってな。バカか?お前らは。まだ、しずちゃんとゆきちゃんはこの慣れない時代に現れて四時間くらいしか経ってないんだぞ。そんな状態の二人の気持ちにお前らの想いまで押し付けてどうするんだ。お前ら、しずちゃんとゆきちゃんを苦しめたいのか?」
俺たちは父にそう言われて、反論できなかった。最もな正論だと自分たちも思ったからだ。でも、その父の俺たちへの説教をしずとゆきが制止してくれた。
「あ、はい、父さん、そうだよね。その通りだよね、ごめんなさい」
「親父、ごめん、言い出しっぺは俺なんだ。どうしてもしずのことが大好きになってしまって、つい、自分の気持ちを優先しちゃったんだ。ごめん、反省してます」
「本当にこの二人は。外見も性格も双子なのに全然違うんだけど、フッとしたときに出る自分の気持ちに正直なところは似てるんだよな。でもいいか・・・」
「あの、パパ、もういいです」
「そうです、パパ、私たち別に苦しんでなんていません。むしろ気持ちが楽になりました。だって私たちのこと大好きだから、いつまでもここにいていいよなんて言ってくれたから。帰る家のない私たちにとって、今は私たち、頼れる人、場所はここしかないから。二人にあんな風に言ってもらえて不安な気持ちが和らぎました。だからもう真助と経幸のこと、叱らないで下さい」
「そ、そうか、しずちゃんとゆきちゃんがそう思ってるなら、まあ、いいか。ありがとうね。でもいいか真助、経幸」
「はい」
「そんな今の状況にまだ不慣れな二人に告白したんだ。お前たち二人でしっかりしずちゃんとゆきちゃんがここでの生活が楽しくなるようにしっかりサポートしてやれ。これはこの家の主である私からの命令だ。分かったな」
「けっ!いつもはそんなに偉そうなこと言わないのに。可愛い娘ができたと思って格好つけやがってよ、親父。でも言われなくても全力でサポートするよ。な、経幸、自分が惚れた女性にはいつでも笑顔でいてほしいもんな」
「あ、ああ、もちろんだ。たまには真助もいいこと言うじゃねーか」
「たまにって言うな」
「ありがとうね真助」
「経幸も、ありがとう」
「さあさあ、もう遅いし、寝ましょうか」
「そ、そうだね、母さん。あ、でもしずとゆきの寝るとこ、どうするの?」
「そ、そうだな。よし、当主の俺の一存で決めた。真助と経幸、お前たちはこのリビングで雑魚寝だ。お前らの部屋は今日だけは二人の寝室にする。しずちゃんは真助のベッドで、ゆきちゃんは経幸のベッドで寝て。いいな、真助、経幸」
「うん、分かった。異論なし、でいいな真助」
「当たり前だ。しずとゆきにリビングで雑魚寝なんてさせられるか。久しぶりに親父の言うことがすんなり入ってきたぜ」
「黙ってろ真助。久しぶりの件は余計、お前は一言多いんだよ。ほら、二人ともしずちゃんとゆきちゃんを案内してやれ」
そして俺と真助は自分の部屋に二人を連れていった。
「ゆき、それじゃあ、また明日ね。中々寝つけないかもしれないけど、おやすみ」
「うん、ありがとうね、経幸、おやすみなさい」
「おやすみ、しず。今日は短時間に受け入れ難い出来事がいっぱいだっただろうから疲れただろ。ゆっくり休んで」
「ありがとう、真助。おやすみなさい」
そして俺たち重留家はこれまでとは全く異なる二味も三味も違う不思議な七月の第三土曜日を過ごした。