こんな恋の始まり方
「おい、アイツそろそろ酒回って訳分からなくなってきてんぞ。」
先輩の鈴木さんが怪しい笑みを浮かべ、ビールを口に含んだ。
「いや、でも訳分からない時に告っても意味ないんじゃ・・・」
「バッカ!。そこが良いんだよ。事後報告ってやつだよ、あん時OKしてくれたじゃん!?っと。」
軽い詐欺まがいな恋愛開始を薦めてくるこの鈴木さんは、入社した会社の直属の上司にあたり気を許したが最後、個人的事情にまで口を挟んでくる様になってしまったところだ。
「いいか、恋愛なんて始まってしまえば、後は何とかなるんだって。」
ぱくぱくと枝豆を口にしながら鈴木さんは、続けた。
「心が通じ合えば問題ないだろうよ。」
「何か、こっ恥ずかしい事言ってますけど。」
ベチ
軽く叩かれ酔が一瞬覚めた気がした。
手洗いに立った真紀ちゃん戻ってこないなーと手洗い場を眺める鈴木さんを横目に、訪ねた
「まさか、その方法で今の奥さんを?」
「んな訳ないやろ。コレやコレ。」両手でお腹辺りを膨らますジェスチャーだった。相談する人、間違えた。確信した。
「女1人口説けなくてどうすんだよ?。」煙草に火を着けながら鈴木さんがもっともらしい事を言うが今やその言葉に説得力を感じないのは確かだった。
「結婚は、いいぞぉ。家族ができるだろ、子供ができるだろ。俄然頑張りたくなるんだよ。」結婚指輪を見つめる鈴木さんの横顔が何故か一瞬寂しく見えた。会話の内容と表情が、合致してないなんて・・ますますこの人が、分からなくなってきた。
おっ。
鈴木さんが声を上げた、マナーモードにしてたスマホを取り出し確認し始めた。
「嘘だろ!」
鈴木さんの声にビックリしたのは僕だけでなく店内全員の視線を集める程だった。
「何すか?大きな声だして?」他人事の様に訪ねた。
「真紀ちゃん帰ったって。信じられるか?手洗いに立ってそのまま帰るって!?」
いよいよイライラしてきた鈴木さんは、今度は俺やと言わんばかりに手洗いに立った。
間もなくして僕のスマホに連絡が入った。相手は何と真紀ちゃんだった。
「も、もしもし。」恐る恐る出てみる。
「あ、斉藤君?。ごめんね勝手に帰っちゃって。ねぇ、斉藤君も抜けて来なよ2人で飲み直さない?。」何と彼女は、全く酔など回ってなかったのだ。そんな彼女の提案に僕はたまらず飛び付いた。
手洗いから戻ってきた鈴木さんと店から出て適当な理由を付け早々に別れた。小走りで真紀ちゃんの待つ待ち合わせ場所へ向かった。こんなドキドキしたのは初恋振りくらいかも知れない。
真紀ちゃんだ、真紀ちゃんに駆け寄った。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・お待たせ。」
優しく微笑みかける真紀ちゃんが居た。
こんな恋の始まり方。
この2人の未来や如何に。それはまた別の話。