黙詠唱
なーーーーーーーにが無詠唱だ!!
あんなんできる訳無いだろ!ふざけるな!ファルマ様天才!俺には無理!
頑張れば出来る?諦めるな?しじみがトゥルル?努力は裏切らない?
努力では埋められ無いどうしようもない溝ってもんがこの世には存在するんだよぉ!!
そんなことを考えながら今日も今日とて無詠唱習得の為にファルマ様の修業をこなす。
「…」
習得しようとしているのは無詠唱であるからして、魔法を発動させる時には一切喋らない。
手を出した体勢でじっとしているだけ。
これがなかなかキツい。
シンプルに体勢がキツいし、進歩もあまり感じられない。声も出せない。
結論から言うと、前回の最後の行でも言ったが、心が折れたのだ。
今、俺が無詠唱習得の修業中に何を考えていると思う?
当ててごらん。
…
……
………
どうやってこの修業を終わらせるのかを考えているのさ!
と言ったものの、実はそろそろ終わらせる口実が出来そうなのだ。
感覚でしか無いけれど、何となく何かが掴めそうな感じがするのだ。
分かりやすく説明すると無詠唱というゴールまでは遠いけれど途中のキリのいい地点に着きそうな感じだ。
ほんの少しだけ取り戻したやる気で諦める為に頑張るという若干おかしい努力をする。
それから、一週間後。
「やった!」
遂に『魔力感知』というスキルを手に入れた。
これで、これで終われる。
だが、まだだ!落ち着け。
このまま『魔力感知』を習得した事だけを報告してみろ、たぶん
〜〜〜〜〜脳内シュミレーション中〜〜〜〜〜
「ファルマ様!『魔力感知』というスキルを習得できました!」
「おお!流石勇者様!このまま『無詠唱』習得まで頑張りましょう!」
「えっ!?」
「早速修業を始めましょう!」
〜〜〜〜〜脳内シュミレーション終了〜〜〜〜〜
なんて事になるだろう。
そうならない為には、「『無詠唱』習得まで頑張りましょう!」と言われる前に修業終了する事を切り出さなければならない。
〜〜〜〜〜脳内シュミレーション中〜〜〜〜〜
「ファルマ様!『魔力感知』というスキルを習得できました!」
「おお!流石勇者様!このm…」
「しかし、勇者としての使命が残っております。途中で修業を終了させてしまうのは心苦しい限りですが、今回の修業を無駄にしないよう頑張らせていただきます。」
「そうですか。それでは勇者様!今後のご活躍を期待しております!」
「ありがとうございます!」
〜〜〜〜〜脳内シュミレーション終了〜〜〜〜〜
よし、完璧だ!
善は急げ。早速報告に行くぞ!
「ファルマ様!『魔力感知』というスキルを習得できました!」
「おお!流石勇者様!」
「しかs…」
「『魔力感知』を習得出来たのならば『無詠唱』もすぐそこですぞ!」
「えっ!?あっ、いや…」
「このまま後継者が出来たのならば、安心して隠居出来ます。さぁ!あと一踏ん張りですぞ!」
あ、あれー?
つ、つまりこのまま修業続行ってことか!?
う、嘘だ!何故完璧な脳内シュミレーション結果と違う結果になる!?
しかも、後継者だの安心して隠居だの言われたら「キツかったので辞めまーす。」なんてとてもじゃないが言えない。
ほら、見てよファルマ様の顔!勇者という立場とはいえ、他人の俺の成長を心から喜んでくれている。
…ずるいじゃないですか。
そんな顔されたら頑張らない訳無いじゃないですか。
よし!
「ええ!あと少しよろしくお願いします!」
それから更に2ヶ月が経った。
自分は今、ファルマ様の前で修業の成果を発表しようとしている。
「…」
まず『魔力感知』で体内と周囲の魔力の流れを感じとる。
次に発動する魔法を選ぶ。
今回は見た目が派手だからという特に深くもなんとも無い理由で炎の魔法を選んだ。
最後に体内の魔力を自力で操作して詠唱して発動する魔法の魔力の流れと同じ魔力の流れで周囲の魔力に干渉する。
後は出来上がった魔法を的に向かって放つ!
ここまでが『無詠唱』の手順だ。
放たれた炎の弾は真っ直ぐ的に向かって行く。
的の中心より左にズレたが着弾。
そこそこ大きな音を立てて爆発する。
威力も悪くない。
「ヘッ綺麗な花火だ。」
某野菜の星のエリート王子様風の感想を呟いてみた。
別にこれがやりたかっただけで炎の魔法を選んだ訳じゃ無い。無いったら無い。
「速度、精度、威力どれも十分です。本当に習得されるとは、決して楽な修業ではなかったとゆうのによく頑張りましたな。」
「はい!今まで本当にありがとうございました。」
「良いのです、若者を導くのは年長者の務めですからな。よし、今夜はお祝いですな。私の秘蔵の酒も開けましょうかね。」
「あっすいません。お酒はその、飲めなくて…。」
「なんと!?損な体質ですなぁ。では代わりに上等なジュースを用意しましょう。」
「ありがとうございます。」
この時、自分の心にあったのは達成感でも喜びでも無く、ファルマ様に対しての申し訳なさだった。
一見、無事『無詠唱』を習得出来たように振る舞っているが本当は『無詠唱』を習得出来ていない。
では、さっき一言も発さずに魔法をどうやって発動させたのか?
その答えがこのスキル『黙詠唱』だ。
このスキルは時の如く頭の中で詠唱をするスキルで『無詠唱』とあまり変わらない気がするが、実際はかかる手間が違う。
『黙詠唱』はさっきの『無詠唱』の手順の最後に詠唱することも追加されるのだ。
ただ、実はこのスキル『無詠唱』の下位互換の性能なのに今まで存在していなかったのだ。
推測でしかないが、『器用貧乏』の効果によって性能が下がった結果例外的に生まれた新スキルなのだろう。
つまり実質『黙詠唱』は俺のユニークスキルのようなものなのだ。
それを利用して『無詠唱』を習得したと嘘をついたのだ。
しかし、これには訳がある。
実はもうあまり修業する時間が残っていないのだ。
最初、修業を辞める言い訳に使った勇者としての使命だが、あながち嘘という訳でもなかった。
あの時はまだ余裕があったが、今はもう時間に余裕が無い。
本当は『無詠唱』を習得して喜ばせたかった。
だが、『無詠唱』を習得出来ずに途中で終わらせてファルマ様を悲しませたくなかった。
あの時、諦めずに辞める言い訳なんか考えずに頑張っていたら習得出来ただろうか。
今更後悔しても遅いがそれでも考えてしまう。
この失敗を繰り返さないよう、今回の件は戒めとして心に刻み込もうと思う。
若干気まずかったが夜の祝宴を楽しみ、次の日の朝。
遂に出発の時が来た。
「ファルマ様、本当に今までありがとうございました。感謝してもしきれません。」
「良いのです。私も物覚えの良い弟子を持てて貴重な体験が出来ました。」
弟子…そうだ。本当に後継者ができるようにさり気なく弟子を取るように促してみるか。
「ファルマ様、これからも弟子を取ることを勧めます。」
「何故でしょうか?」
何故!?何故…う、うーん。
「それは……優秀な人材を欲してるからですよ。」
無難な答えでは無いだろうか?
「ほっほっほ。では、これからも勇者様のお役に立てるように有望な者に声をかけてみますかね。」
ホッ。どうやら弟子を取ってくれるようだ。
後継者ができることを願おう。頑張ってくれたまえ、まだ見ぬファルマ様の後継者候補よ。
「では、最後にファルマ様。今までご指導ありがとうございました。必ず成果をあげて誇って貰えるよう頑張ります。」
せめて、後継者になれなかった分、嘘をついた分を成果でファルマ様に返そう。
「ええ、頑張ってください。私の弟子が凄いということを知らしめてくだされ。」
「ッ!ええ!任せて下さい!必ず結果を出します!それではお世話になりました!」
こうして、長かった『無詠唱』習得の修業が終わった。
明日からはまた、勇者としての活動に戻る。
ファルマ様への宣言通り結果を出せるように今まで以上に頑張らなければ。
※ファルマ視点
「行かれたか…。」
勇者たいち…。面白い人物であったな。勇者だというのに自分のことを過小評価し過ぎておる。
「弟子を取れ、か…。」
まったく、下手くそな嘘なんぞ付きおって。
『無詠唱』を習得出来てない事なんぞ最初からお見通しじゃ。
儂が後継者なんぞ言ったから悲しませたく無いとでも思ったのじゃろうな。
今代の勇者も優しすぎる。
こんな事に何故いちいち罪悪感なんぞ感じるのだか。
異世界出身者は皆難儀な性格をしておる。
「儂なんぞもっと度し難い事をお主らにしていたというのに。」
初代勇者ヨウキ。初弟子としてとても期待していたというのに病であっさりと死におった師匠不孝の大馬鹿者。
アイツが死んだと聞いた時は何も考えられなかった。
時間が経ってアイツはもう戻らないという事を理解すると今度は激しい後悔に苛まれた。
どうして病気の事に考えが至らなかったのか。
もしかしたらアイツの病死を防げたのではないか。
考えても仕方のないタラレバを何度も何度も考えては自分を責めた。
周りは儂のせいでは無いと言うが、気休めにもならなかった。
そんな時だ二代目の勇者が召喚されたのは。
初代勇者の師匠として期待されたからなのか、当たり前のように教育係として儂が選ばれた。
それ以降二代目以降の勇者をヨウキの代わりのように扱ってきた。
本人を見ているようで勇者と異世界人という部分しか見ていなかった。
ヨウキ以外一度も名前で呼んだことなど無かった。全員勇者様呼びだ。
こんな事に付き合わせてしまって申し訳ない。
ヨウキよ…どうしたら勇者としてでなく一人の人間として接することが出来るのだ?
「希望だったおまえの存在が今は儂を蝕む呪いの様だ。」




