勝てぬなら 逃げてしまえ 勇者達
「何だよあれ!?」
「…暴食の魔獣グラディックスだ!」
暴食の魔獣?
暴食ってあの暴食?
七つの大罪の暴食か?
だとしたらヤバいぞ、大罪の名を冠する奴は大抵の場合で強キャラだぞ!
実際にオハン達がガタガタと震えているし、絶対に強いって。
こういう時ってどうすればいいのか…
ラノベではまず、ステータスの確認!…か?
でもそういえば記念すべき一回目の職業の鑑定士があったんだった。
今まで全然覚えてなかった。
早速確認と。
14大魔獣・『暴食』グラディックス
攻 140683 攻防 128566
魔 135105 魔防 127360
速 28576 運 25269
特殊能力
暴食(不明) 飢え喰らうモノ(不明) 生態系の破壊者(不明)…etc
なんだこのステータスは、本当に化け物じゃないか。
でも何故だろう。経験が少ないからか?それともあまりにも敵のステータスが圧倒的だからか?他の皆程絶望感を感じ無い。
でもこのままここに居ても喰われるだけだし、もう一度森の中に入る事になるけれど、引き返そう。
「オイ!逃げるぞ!早く!」
だが、俺の声を聞くことの出来たのはオハンとヤーングールの2人だけだった。前衛職だからか?
とにかくまだ動けない3人は俺がヴィンダを、オハンがリーンを、ヤーングールがグラスを抱えて逃げる。
グラディックスはまだグレイトウルフの群れと交戦中だが、直ぐに終わるだろう。
なんせグレイトウルフは噛み付きや体当たりといった直接攻撃しか出来ないのだが、グラディックスに触れた瞬間に身体の中に取り込まれていくのだ。
そう、触れた瞬間にである。やっぱりあの身体はスライムなのか?
とにかく、今のうちに距離を取らなきゃ。
「一旦戻るぞ!」
後ろのことが気になるが、振り返ってる余裕が無い。
あれからどれだけ走ったか…。
魔物が居なかったのは多分グラディックスのことに気が付いていて隠れていたんだろう。
それでも来た道を走って戻ったことで、あの神器を見つけた場所まで来た。
ここまで来れば大じょーーー
「グゴガアアアァァァ!」
うぶじゃなかった。
てか、どこから声を出しているんだ?
いや、そんな事より、まずい!もう直ぐ近くまで来ている。
いやもう色々と反則だろ!
森の木が邪魔で進みにくくなるかと思ったのに、コイツにはそんなの全然関係なかった。
木を喰いながら進むって…
「ふざけるなぁ!」
文句を言ったって仕方がないのはわかっているけど言わずにはいられなかった。
このままじゃ本当に追いつかれて喰われてしまう!
グラディックスがその大きな顎を開けてこっちに向かって来る。
「死んでたまるかぁ!」
『死にたくない。』
そう叫んだ時だった。
《ーーー転移だ!転移しろ!》
「!!」
あのマッドパスさんの時の様にどこからか声が聞こえた。
酔っていた時の幻聴だと思っていたが幻聴じゃなかったのか?
いや、今はそんな事よりも転移だ。
クソ!なんで気付かなかった!
だが、テレポートの魔法は少し詠唱が長い。
今詠唱していたらまず、間違いなくグラディックスに喰われるだろう。
オハンとヤーングールに時間を稼いでもらわないと。
「オハン!ヤーングール!テレポートをする。少し時間を稼いでくれ!」
とても危険な事を頼んで本当に申し訳ないが、そうしなければ全員生きて帰る事は出来ないだろう。
「ク、クソ!かかって来やがれやぁ!」
「ここは通さん!少し時間を稼ぐだけ!簡単な事である!」
よし、早速詠唱を…
いや待て!まだ伝えていないことがあった!
「2人とも!直接触れたら喰われるぞ!気を付けろ!」
「クソ!相性最悪じゃねぇか!」
「承知した!」
今度こそ伝えるべきことは伝えた。
後は2人を信じて慌てず確実に詠唱する。
そして、詠唱を始めたと同時、遂にオハンとヤーングールがグラディックスと交戦を始めた。
テレポートは転移させることの出来る範囲が少し狭いので、詠唱しながらグラス達を一ヶ所に集めなければならない。
そう思って3人を一ヶ所に集めようとしたら、
「こ、このまま震えていられない!」
「申し訳ない!」
「じ、時間稼ぐ!」
震えていた3人が復帰したのだ。
『頼む』
詠唱を途切れさせる訳にはいかないので視線で言ってみたつもりだが、伝わっただろうか?
それからは3人が戦いに加わり、少しだけオハンとヤーングールに余裕が出来た。
それでもかなりギリギリなのだが、こっちの攻撃はどれも殆ど効果が無く、向こうの攻撃は一つ一つが致命的な威力なのだ。
実際にオハンが一度攻撃を食らったが一気に体力を削られ、死にかけという危険な状態になった。直ぐにリーンが回復をしたが、防御特化と言ってもいいオハンが一撃でこうなったのだから、他の誰かが食らったらひとたまりもないだろう。
幸いなのは、グラディックスの攻撃が大振りで避けやすい事だ。
そしてやっと長い詠唱が終わった。実際には体感した程の長さは無いのだろうが、やはり緊迫したこの状況では1秒が10秒の様に感じてしまうのだ。
「詠唱が終わった!今そっちに行く!」
そう言って皆の所に駆け寄る。
『これで逃げられる。助かった。』
そう油断してしまった。
全員が範囲にあと少しで入るというギリギリというところで、グラディックスが尻尾を鞭の様にしならせて、こっちに突き刺す様に攻撃してきた。
咄嗟に避けたが、一瞬の気の緩みのせいで少し反応が遅れてしまった。
そしてその少しの遅れがこの魔獣には攻撃を当てるのに十分な時間なのだ。
「ぐあっ!」
突き刺す様に出された尻尾は俺の左腕を肩から引きちぎり、そして喰っていく。
激痛に耐えながら全員が範囲に入った事を確認して魔法を発動する。
「『テレポート』ぉぉ!」
そして視界が真っ白になり、少しの浮遊感を感じて直ぐに視界が晴れてあの屋敷のリビングが見えた。
「うお!?て、テレポートか?ってどうした!その腕は!?」
「うわぁ!腕が無くなってるじゃないか!」
ちゃんと他の5人が居るのも確認して、リビングにいた面々の声を聞いて安心した俺は痛みに耐えられず、意識を手放した。




