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お風呂掃除の幼馴染メイド

もうすぐで5月のですね……


 揚羽が今晩泊まる部屋を片付けてしばらく。

 時刻を確認すると一六時を迎えていた。


「そろそろ勉強でもするか……」


「勉強ですか? 相変わらず修太郎くんは真面目ですね」


 と、ソファでだらだらしつつテレビを眺めていた揚羽がそんなことを言った。


 僕はリビングの椅子に座ってテーブルに頬杖をつき、呆れた眼差しを彼女に向ける。


「ここはお前の家か。くつろぎすぎだろ」


「大丈夫です。他のお家でこんな醜態は晒しませんから」


「ここでも晒さないで欲しかった」


 僕はため息を吐きつつテーブルに勉強道具を置く。

 数学の参考書と問題集に筆記用具。

 揚羽は尻目でそれらを確認すると、興味深そうに問いかける。


「テストでもあるのですか?」


「まあ、ゴールデンウィーク明けの明日にな」


「休み明けにテストとは大変ですね」


「お嬢様学校にはないのか?」


「少なくとも私のところではありませんよ」


「ふーん」


 元々、頭がいい学校だからテストが必要ないのだろうか。


 たしか、揚羽の通っているお嬢様学校の偏差値は全国のトップレベルだと聞いたことがある。


 僕は相槌を打って問題集を開く。


 それから数十分ほどはテレビから聞こえる音だけが部屋に響いていたが、やがて僕の鼻腔を甘い香りがくすぐった。


 なんの匂いかと振り向くと、僕の傍に「ふむふむ」と呟く揚羽が立っていた。


 揚羽は僕の手元にある問題集を覗き込んでいる。


「んー……ここ解答が違いますよ」


「見ただけで分かるものなのか?」


「分かりますよ」


「……」


 僕は紙に式を書かないと分からないんですが。


「あの、揚羽さん」


「はい、なんですか?」


「よかったら勉強を教えてもらえないでしょうか」


「ふふ……もちろん。構いませんよ。今晩お世話になるのですから、これくらいはお手伝いしますとも」


「それはとても助かるんだけれど。だったら家事を手伝ってくれ。具体的にはまだ風呂掃除が終わってなくて――」


「いやです」


「即答かよ」


「勉強を教える方が楽ですから。ちなみに、修太郎くんはどの教科が苦手なのですか?」


「えっと……数学とが一番苦手で、英語は文法と長文読解が怪しい」


「なるほど。それでは、一通り教えますよ。テスト範囲を教えてください」


 僕は問題集を指差してテスト範囲を揚羽に伝える。


「ふむふむ。要は一年生の復習がメインなんですね」


「まあ、まだ二年生になって一ヶ月だからな。新しいことはほとんどやってない」


「それならたいして難しくもないと思うのですが……どこでつまずいているのですか?」


「マイナスとマイナスを掛けたら、どうしてプラスになるんだ?」


「思っていたよりも序盤でつまずいていますね……。もうそういうものだと思ってください」


「分かった」


 それから僕は揚羽に分からないところを教えてもらった。


 そうこうしているうちに、気づけば時刻は一八時になっており、窓の外が薄暗くなっている。


「もうこんな時間か。勉強は切り上げて、風呂の掃除して飯の支度でもするかな」


「よろしくお願いします」


「せめて上辺だけでも手伝う素振りを見せろや」


 額に青筋を立てて述べると、揚羽は呆れ混じりにため息を吐いた。


「はあ……仕方ないですね。お風呂掃除だけはやりましょう」


「なんで僕が悪いみたいになってるんだろう」


「さあ?」


「張っ倒すぞ」


 僕はテーブルに広げていた勉強道具たちを片付け、風呂掃除を揚羽に任せて夕食の準備をすることにした。


 キッチンに移動し、まずは冷蔵庫の中身を確認する。


「……チャーハンでいいか」


「私はピザとコーラで構いませんよ」


「早く風呂掃除してくれ」


 リビングの門口に立って注文してきた揚羽。


 というか、ピザとコーラってコンビネーションがやばい。


 テレビ前のソファに横たわり、だらしない恰好でピザを食べている揚羽の姿が容易に想像できる。


 揚羽は「ぶー」と唇を尖らせてお風呂のある脱衣所の方へ。


 僕はそのまま調理へ入る。


 思えば料理もずいぶんと熟れてきたものだ。


 調理を初めて数十分ほど経って、二人分のチャーハンをそれぞれお皿に盛り付けて、リビングのテーブルに置く。


「夕食はできたけど……あいつ遅いな」


 お風呂掃除なんてたいして時間もかからないだろうし、ましてやあの揚羽ならすぐに終わらせてしまいそうなものだが。


 気になってお風呂まで様子を見に行ってみると、


「おーい、揚羽さんや。風呂掃除の方は――」


「だらー」


「……」


 浴槽の中に入った状態で、浴槽の縁にアゴを乗せてスライムみたいになっていた。


「おい」


「あ」


 と、揚羽は僕に気がついたみたいで顔を上げた。


「なぜ風呂場でだらけてるんだお前は」


「ご、ごめんなさい……掃除中に面倒臭くなってしまいまして。あと、浴槽がひんやりしていて気持ち良くてつい」


 僕は天井を仰いだ。


「はあ……風呂掃除はもういいよ。僕がやっておくから。それより、ご飯ができたから食べようか」


「い、いえ! ちゃんとお掃除の任は果たしますとも!」


 揚羽はそう言って立ち上がってお風呂の掃除を再開するものの、最初のキビキビした動きはどこへやら。


時間が経つにつれて、だらっとした動きになって行く。


 僕はそんな彼女に苦笑し、


「別に無理してやらんでもいい」


「し、しかしお世話になるというのに、さすがにこれはちょっと……」


「自覚があるのか」


 言うと、揚羽はコクリと頷く。


「まあ、あれだ。変に気を遣う必要は別にないよ。迷惑はかけられ慣れてるし、僕だって迷惑はかけてる」


「で、でも……」


「それにお前はこういう雑用みたいなのに飽きて逃げてきたんだろ? なら、無理してやる必要はない。部屋の掃除はやってもらったわけだしな。今日はそんなもんでいいよ」


 もちろん、手伝ってもらいたいのは本音だし、僕が家事をしている折にだらだらされるとイラッとするが。


「僕はお前がだらけ癖の酷いダメ人間だって分かってるから。だから、気にすんな」


「あの……それはそれでとても傷つくのですが……」


「じゃあ、そのだらけ癖を直せ。とりあえずほら、折角作ったご飯が冷める」


 僕はそう言って風呂場を出ようと踵を返す。


 揚羽も僕に付いて浴槽から出ようとしたところで、


「あ」


 濡れた滑りやすい浴槽に足を取られて揚羽が前のめりに転んだ。


 反射的に振り返って手を伸ばして揚羽を抱きとめる。


「あっぶね……大丈夫か?」


「ひゃ、ひゃい……か、顔がちかっ」


「……? なにか言ったか?」


「な、なんでもないです……」


 よく分からないけれど揚羽の顔がとても真っ赤になっていた。


 その後は、テーブルを挟んで向かい合って座り、僕が作ったチャーハンを食べた。


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