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幼馴染メイドと夜明けまで


 家に帰ってきたのは夕方頃だった。


「ただいまです」


「ここはお前の家か」


 などと、ツッコミを入れつつ夕食の支度をする。


 その間、いい匂いを嗅ぎつけてかハッサムが度々キッチンへ襲来していたので、揚羽にハッサムと遊んでおいてもらうことにした。


「にゃ〜?」


「ふふ。可愛いですね。にゃーにゃー」


「にゃ〜? にゃっにゃっ」


 尻目に揚羽を一瞥すると、ソファの上で仰向けに寝転んだ揚羽がお腹の上にハッサムを乗せて遊んでいた。


 なんだろう。


 揚羽とハッサムの周りに和やかな空気が漂っている。


 しばらくして夕食を作り終えて揚羽を呼びに行くと、遊び疲れたのかどうか定かではないが、揚羽がハッサムをお腹に乗せたまま寝ていた。


 ハッサムも揚羽のお腹の上が気持ちいいのか、幸せそうに寝ている。


 ちょっと起こすのが忍びない。


「……はあ。おい揚羽、今寝ると夜寝れないぞ」


「むにゃ」


 揚羽がだらしない顔をしたまま目を覚ました。


 それからいつも通り夕食を一緒にとり、お風呂に入って就寝。


 僕は自室の電気を消して、「さあ寝るか」とベッドに潜り込んで目を瞑った。


 そうして何事もなく今日が終わるかと思われたのだが――。


 コンコンッ……と、なんの前触れなく部屋の扉が叩かれた。


『しゅ、修太郎くん。まだ起きてますか?』


「まだ起きてるけど。どうした?」


『は、入ってもいいですか?』


「別にいいけど」


『本当にいいですか? なにか片付けなければならないものとかあったら今のうちに片付けておいた方がいいですよ』


「その気遣いができるなら僕のベッドの下とか漁るな」


『それじゃあ開けますよ……?』


 そう言って部屋の電気を点けて揚羽が僕の部屋の入ってっきた。


 服は以前とは違って露出の少ないパジャマである。


 手には枕を抱えていて、まるでホラー映画を見た後に怖くて眠れなくなってしまった子供だ。


「どうした? なにか用か?」


「あの……じ、実はお昼に見た映画のせいで怖くて眠れなくなってしまいまして……その、できれば一緒に寝てもらえないかと……」


「……」


 僕は天井を仰いだ。


 なうほど、「まるで」ではなく怖くて眠れない子供だったらしい。


「お前……一七歳にもなってなに言ってんだ」


「だ、だって! あれは映画が悪いです! ホラー映画だと知っていれば見ませんでしたよ!」


「そりゃあまあそうだろうけど」


「目を瞑るとあのワンシーンを思い出してしまうのです。こ、怖くてとても一人では寝れません!」


 揚羽は枕を抱えたままプルプルと肩を震わせて言った。


「そう言われても……ただでさえ、一緒に暮らしてるってだけでも問題なのに。一緒に寝るのはダメだろ」


「興奮しちゃいますか?」


「じゃあ、おやすみ」


「ま、待ってください! 私を置いて一人で寝ようとしないでください!」


「なんにせよ。一緒に寝るのはダメだろ」


「だ、大丈夫です! ちょっと添い寝してくれるだけいいですから!」


「だからダメだろ。それは」


「添い寝して後ろから抱きしめてくれればいいので!」


「もっとダメなやつ」


 僕は呆れ混じりに言うと、揚羽が途端にシュンとなって肩を落としたかと思ったら、枕の顔埋めて上目遣いでこう言った。


「どうしても……ダメですか?」


「……僕のベッドでいいか? 臭かったら言ってくれ。で、後ろから抱きしめて寝ればいいんだったよな?」


「急にやる気じゃないですか……あの、やっぱり添い寝だけで大丈夫です……」


「そうか? じゃあ、ほれ。早く入れよ」


「さっきまで照れていた修太郎くんはどこに……!?」


「死んだ」


「死んだ!?」


 揚羽は顔を真っ赤にしたままブツブツなにか言っていたが、電気を消してのそのそと僕のベッドの中へ入ってくる。


 僕と揚羽は背中合わせにして寝るものの、あまり大きなベッドではないため少しでも動けばお互いの背中が触れてしまう。


 そんな距離感で揚羽の体温を感じていると、今度は僕が眠れない気がしてきた。


 一方、揚羽はというと――。


「すやすや」


 ベッドに入って数分で眠りに入っていた。


 ひょっとして僕は異性として認識されていないのだろうか。


 はたまた僕が意識しすぎているだけだろうか。


 それとも揚羽がずぼらなだけだろうか。


「ったく……」


 僕は自由人な揚羽に悪態を吐いて目を閉じる。


 その直後。


「あの……修太郎くん」


「ん? なんだ。寝たんじゃなかったのか」


「この状況で眠れるほどの豪胆さはありませんよ……それより、少しお聞きしたいことがありまして」


「なんだよ。改まって」


「その……私がお手洗いに行っている間のことなんですけど」


「あれはなにみなかったことにしてくれたんじゃなかったのか?」


「あの時はそうしようと思ったのですが、やはり気になりまして」


「お前ならなにがあったかくらい予想がつくだろ。別に聞かなくても」


「ということは、やはり東條家絡みのことですか」


「……」


 あえて沈黙で答えると、揚羽は苦笑の声を漏らした。


「どうしてなにも言わないのですか?」


「別に。特に理由はないけど」


「嘘です。修太郎くんはなにも考えていなさそうなアホ面を浮かべながらも、実はいろいろ考えている人です」


「今の褒められてた?」


「ベタ褒めですよ?」


「だとしたら褒め方が下手すぎる」


「そうですか?」


「そうだよ。だいたい、お前は僕のことを過大評価している」


「というと?」


「僕はなにも考えていなさそうなアホ面を浮かべながらも、なにも考えていない人ってこと。自分の進路すら決まってないんだから」


 僕は虚空を仰ぎながら小吉のことを思い浮かべる。


「僕の周りは進路を決めて歩き出してる。なんだか僕は迷子の気分だよ」


「自分だけ進路が決まっていないからですか?」


「うん」


 頷くと背中越しに揚羽がクスクス笑ったのが分かった。


「ほら、やっぱりいろいろ考えてるじゃないですか」


「なんでそうなる」


「だって、修太郎くんは自分の進路のこともあるのに、私のような面倒事にも首を突っ込んでいるじゃないですか」


「それは考えてるんじゃなくて、考えなしに行動した結果だな」


「ふふ。そうですか」


「そうだよ」


 揚羽はそこでなにか思い出したのか、「あ」と声をもらした。


「そういえば、修太郎くんの進路なのですが」


「なに? なにかいい案でも出してくれるのか?」


「いえ、ふと昔のことを思い出しまして。子供の頃は正義のヒーローになりたいって言ってましたよね?」


「あー言ってた気がする」


「どうですか? 進路『正義のヒーロー』」


「バカにしてんのか」


「昔のことといえば他にも――」


「あー……そんなこともあったなぁ――」


 この日、僕と揚羽は夜が明けても眠ることなく昔話に花を咲かせた。


 おかげで翌日、学校で授業を受けた際にはほとんど寝ていて記憶がなかった。


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