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幼馴染と昼食


 服を着替えた揚羽と一緒に改めてフードコートへ向かった。


 服屋で長居しすぎたようで時刻は一三時半になろうかという頃合い。


 ただ、お昼のピークがすぎたのか、フードコートの席はちらほらと空いていた。


「修太郎くんはなににしますか?」


「うどん」


「それでは私も」


 数分後。


 二人で熱々のきつねうどんを注文し、トレイを持って空いている席に腰を下ろした。


 その間、終始周囲から痛い視線を向けられていたのだが――言わずもがな原因は揚羽である。


「はあ……メイド服から着替えてもこれかよ」


「たしかにこれは……ちょっと鬱陶しいですねぇ」


 大人っぽいカジュアルな服の揚羽は控えめに言っても美人だ。


 周囲の視線が集まるのは仕方ないと言える。


「周りの目を気にしても仕方ないでしょう。それより、早く食べないと麺が伸びてしまいますよ?」


「それもそうか」


「それにこの後はデザートのチョコレートパフェが待っているのですから!」


「ハッサムの買い物じゃねえのかよ」


 まあ、僕も食べたいからいいけれど。


 それから僕たちは麺を啜ってうどんを完食。


 トレイを戻して件のパフェを注文する。


 僕はいちごパフェで、揚羽はチョコレートパフェを注文した。


 再び席に戻って早速パフェを一口。


「ん〜幸せですね〜」


「あれだけ食っといて、その体のどこに入ってるんだか」


「あ、修太郎くんのパフェもおいしそうですね? 一口分けてください」


「やだ」


「私のパフェを一口分けてあげますから……ほら」


 揚羽は言いながら自分のスプーンですくったパフェを僕の口元まで差し出してくる。


「ほらほた、あーんですよ。あーん。嬉しいですか?」


「お前それがやりたかっただけだろ」


「バレました? 修太郎くんが喜ぶかなと思いまして」


「そんなで喜ぶか。中学生でもあるまいし」


「顔真っ赤ですよ?」


「……」


 僕はそっぽ向いた。


 揚羽はそれが面白かったようでクスクスと笑った。


「ふふ。修太郎くんって口ではクールぶってますけど、顔に出やすいですよね? それが昔から可愛くてつい意地悪してしますのですが」


「別にクールぶってないから」


「目が泳いでいますよ」


「……」


 口を開くと墓穴しか掘らないので、僕は口を閉ざすことにした。


 とりあえず、いろいろと誤魔化すためにパフェを口にする。


「あれ? 修太郎?」


 ふと、僕の名前を呼ぶ聞き慣れた声を聞いてそちらへ振り向くと、そこには小吉が立っていた。


 動きやすそうな薄手のシャツに下は飾り気のないズボン。


 だというのに、むしろお洒落な印象を受ける私服姿の小吉が僕に気づいてこちらに近づいてきた。


「おーこんなところで修太郎と会うなんて思わなかったよ〜」


「僕の方こそ。こんなところでなにやってるんだ?」


「いや〜暇だったからちょっと買い物ついでの暇つぶしに〜。修太郎こそ、そっちの人は誰なんだー? 彼女か?」


 と、小吉は揚羽に目を配る。


 揚羽は突然現れた小吉にきょとんとしている。


「違う。彼女じゃないよ」


「あれ? そうなのか? ずいぶんと楽しそう喋ってたから、そうなのかな〜って思ったんだけど」


「楽しそう?」


「いや、修太郎に似てる人がいるなーって思って見てたんだけど、修太郎が女の人と一緒にいるとは思えなかったし、なんなら『あーん』しようとしてたからさ。まさか修太郎とは思わなくて」


「……」


 まさかさっきを見られていたとは。


 僕は頬を引きつらせて揚羽に視線を向ける。


 当の揚羽は素知らぬ振りをしており、小吉に向かって自己紹介を始めた。

「初めまして。私は瀬戸揚羽と申します。修太郎くんの友達でしょうか?」


 なんて完璧な外面なのだろうか。


 揚羽は百点満点の笑顔を顔に貼り付けて、完璧な応対をしている。


 いわゆるお仕事モードの揚羽だ。


 小吉もこの揚羽に気圧されたようで目を瞬いている。


「えっと……そうです。俺は修太郎の友達で、辰威小吉って言います」


「敬語などは結構ですよ? 同い年ですから」


「え!? 同い年!? すごい大人っぽい雰囲気があるから年上かと……」


「ありがとうございます」


 そう言って揚羽が頭を下げた後、小吉が圧倒されたようすで僕に口を寄せる。

「な、なあ、この瀬戸さんと修太郎ってどんな関係なんだ?」


「それは――」


 はて、どう答えたものだろうか。


 端的に答えるなら幼馴染なのだが、知り合った経緯などがややこしいし――友達あたりが妥当ではないだろうか。


 僕はそう結論をつけて「友達」と答えておいた。


すると、この回答に小吉がなぜか頭上に疑問符を浮かべた。


「修太郎に友達……? 俺以外にいたのか?」


「おい」


「修太郎くん……やっぱりお友達は一人でしたか」


「うるせぇ」


「でも、安心してください。私だけはずっと修太郎くんの側にしてあげますからね」


 揚羽はニヤニヤとした顔つきでわざわざ自分の席から僕の隣に移動して見を寄せてくる。


 この女、僕をからかってそんなに楽しいのだろうか。


「うぜぇ」


「ふふ。照れ隠しですか? 本当に素直ではありませんね」


「これは本音だ」


「照れているわけではないならこっちに顔を向けてください。なぜ明後日の方向を眺めているのですか?」


「ちょ……近づくな」


「ふふ。顔が真っ赤ですよ?」


 などと揚羽にからかわれていると――。


「えっと、修太郎と瀬戸さんって本当に彼氏彼女とかじゃないんだよな?」


「さっきも言っただろ? ただの友達だよ」


「そうですね。私と修太郎くんは友達です」


「それにしては仲が良すぎるって言うかぁ……距離感が恋人同士な気がするんだけど……」


「いや、全然そんなことないけど?」


「そうですね。そのようなことはありませんね。至って普通かと」


「だけど、瀬戸さんの雰囲気も修太郎に対してはなんか柔らかい気がするし……付き合ってるって言ってもまったく違和感ないんだけど……」


「だから、付き合ってないって。僕たちはただの――」


「そうですね。私と修太郎くんはただの――」


「「友達」」


 僕と揚羽が声を揃えてはっきり否定すると、小吉はなにかを察したのか「あ〜なるほどね〜全て理解した」と顎に手を当てた。


「修太郎も大概だけど瀬戸さんも素直じゃないタイプか……」


「ん? ないか言ったか小吉?」


「いーや、別になんでもなーい。二人とも苦労しそうだなーって思っただけだよ」


 小吉は呆れたようすでため息を吐くと、


「あれ……? でも、修太郎の想い人って黒髪だった気がするんだけどなぁ」


 などと呟いて、「俺そろそろ行くわ! また学校でな!」と言って去っていった。


「ふう……まさかこんなところで顔見知りと会うなんてな」


「そうですね。いいお友達をお持ちのようで、私は安心しました」


「誰目線だよ」


「さて? 誰でしょう? そんなことより修太郎くん」


「なに?」


「パフェ。溶けてしまいましたね」


「あ」


面白かったらブックマークとポイント評価をしてもらえると、とてもやる気が……出ます!

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