工場と猫
「ボーンボーン」
夕刻の鐘がなった。子供たちは遊びを終わりにして家に帰る。
ここは沢山の工場がある灰色一色の町。
誰も喋らないし笑わない、目も合わせない。
この町の人にはそれが普通だ。
先ほどの子供たちも皆無言で工場ごっこをしていた。
他の町とは連絡をとらない。他の町に行ったら戻って来られなくなるという噂があるから誰も見に行きもしない。噂と言ったが、喋らないのでどこでその噂を知ったのかは誰もわからない。
この町の子供は生まれた時に泣かない。笑いもぐずりもしない。
この町の親は子供の顔をみない。母親は産む時も無表情だ。
そんなつまらない町で少年は生まれた。
少年はこの町の病院で生まれ、この町で育った。今は15歳にして工場で働いている。
朝、人の流れに沿って工場に向かい、作業着に着替える。
夕方、人の流れに沿って家に帰る。
少年は実にマニュアル通りに生活している「普通の」町人だった。
今日も少年は工場で働いてきた。そして何も考えず家に帰ろうとした。
『15406番、24865番の分もやっておいてくれ』
機械的な声で少年に声をかけたのは工場長ロボット。
この町では喋る人はいないが喋るロボットはいる。もっとも、工場長ロボットだけではあるが。
15406、少年の番号だ。
少年は席に戻り、死んだ工員の分の仕事を機械的に行う。