漫才「行商」
漫才5作目です。どうぞよろしくお願いします。
街角に立っている青年が電話をかけ終わったところに、おばちゃんが声をかけた。
「あんちゃん」
「はい?」
「あんたガラケーかね」
「ええ、そうです」
「スマホいらんかね」
「いや、まだ使えるからいいです」
「安くしておくから。新品で一万円」
「え? そんなに安いの?」
「自家製だからね」
「スマホって個人で作れるものなんですか?」
「量子コンピューター付だ」
球体のスマホを見せる。
「球形なんですか?」
「うん。転がせるんだ」
「すごいですね」
「野菜を作ることに比べたら簡単なもんだよ」
「そんなものですかねえ」
「DNA解析キットなんかもあるよ。これは五千円」
「へー」
「定番のガマの油もあるよ」
「ガマの油?」
「そう、筑波の名産だ」
「筑波から来たんですか」
「あんた、筑波をなめたら恥をかくよ」
「そんなつもりはまったくありませんよ」
「JAXAはあるし、筑波大や国の研究機関だってわんさか揃っているんだ」
「たしかに」
「世界の最先端頭脳が集まっているんだぞ」
「そうですね」
「まいったか」
「筑波にいると、住民も高等技術を身につけられるんですか?」
「公開講座っていうものがあるんだ」
「ああ、市民対象の勉強会ですね」
「そこで教わった通りにやれば、ロケットだって作れるんだ」
「自家製ロケットですか?」
「そ。ちょっと高価だけど、買うのなら、家まで飛ばしてあげるぞな」
「それはちょっと」
「あ、信用してないな」
「ちょっとだけ疑っているかも」
「うちの辺りでは、UFOだってビュンビュン飛んでいるんだぞ」
「はあ」
「今日だって駅までUFOで行って、そこからつくばエクスプレスで来たんだ」
「だったらUFOでここまで来ればいいのに」
「あんたばかだな」
「どうしてですか?」
「おっきな風呂敷包みをしょって、電車で来るのが行商スタイルだ」
「確かに」
「UFOで来たんじゃ雰囲気がだいなしになるじゃろ」
「そうでした」
「まったくもう、都会の人間の考えはなっちゃいない」
「すみません」
「古いものを大事にせんといかんぞ」
「自分はUFOを使っているくせに・・・ブツブツ」
「なんか言ったか?」
「いえ、なんでもありません」
「さ、帰るとするか。たまには家まで歩いてみようかな」
「ここからですか? けっこうあるでしょう」
「電車に頼ってばかりいたら体がなまってしまうからの」
「心配だなあ」
「疲れたらUFOを呼ぶから大丈夫」
「ずるいや」
読んでいただき、どうもありがとうございました。