前田と鈴木の放課後雑談
「あたらしいアイドルグループ考えたで」と、前田が言った。
「てっかグループて。アイドルユニット言うやろ、いまどきのヤングなら」
鈴木が言った。
「いやヤングて……そっちのほうが問題あるやろ……まあええわ。とにかく、わしらでも所属できそうなグル……ユニットや」
「わしら、て、自分と誰や。てっか自分、まだアイドルになりたがっとんのか。おかしいやろキャラ的に」
「わしと矢来、それから玖来に決まっとるやないか。あとなんなら為光も入れたってもええけど」
「わては入っとらんのかい、あんな言いかたで!」
「ワレもいれたってもええで」
「わても入っとるんかい! って突っ込もう待ちよったのになんか負けた気分やわ腹立つ」
鈴木は突っ込み崩れからのずっこけのポーズをした。
放課後の教室、クラブ活動に遊びに買い物に図書館に帰宅にその他にと教室を出ていったもののあとに、うだうだと雑談やおしゃべりや討論や放心その他しているものが半分ほど残っていた。
「んでな、グルー……ユニット名は病院坂四九。コンセプトはミステリーアイドルや」
「なんかおどろおどろしいな。四九いうんはあれか、四苦八苦のシクか」
「ううむ、それもええな。でもわしの初期設定では日本語の不吉な数字、死につながる四と、苦しみにつながる九やな。別の言いかたすると、ヤンキー用語の夜露死苦のシク、みたいな」
「あるいは四十九日の四九にも通じるってことでもええな」
「ワレも乗り乗りやんか」
「んでミステリーアイドルてなんや」
「メンバーは眼帯してたり、あちこち包帯ぐるぐるしとったり、その包帯にところどころ血が滲んどったり、長く伸ばした髪の毛で顔がまったく見えんかったりするんよ」
「ミステリーアイドルいうよりホラーアイドルやろそれじゃ。ミステリーいうからには鉢巻に二本のナショナルランプを鬼の角みたいに挿したり、腰のところで体を融着させて結合性双生児にしたらええわ」
「そっちのほうが怖いわ、わしでも引くわ」
「もっとミステリーにふさわしい思て考えたったんやないか」
「ほかにもまあ、鳥打帽かぶったり、下駄におかま帽かぶっとったりすんねん」
「コスプレか。なら猿股尻っ端折りや着流し巻羽織りなんかもええな」
「広げ過ぎじゃ。却下。捕物帳まで広げると話がややこしなるわ。それにメンバーは基本、マント着用やき」
「体おおわれとんのか」
「んでな、マントのしたは超ミニスカのブレザーじゃ。頽廃的な外見と健康的なお色気のギャップでファンもイチコロってわけじゃ」
「お色気て。おっさんか」
「あたりまえじゃ。アイドルのメインターゲットはおっさんやけな」
「んじゃあ、そのミニスカを尻っ端折りにして生パン見せるってのはどうや」
「エロすぎるわ。てか捕物帳から離れろやワレ」
「コスチュームはそれだけなんか。ふつう楽曲ごとに変えへんか」
「むむ。じゃあ曲ごとにマントのしたを変えるちゅうんでどうじゃ。セーラー服とかテニスルックとか」
「発想が完全におっさんのそれやな」
「ターゲット層とシンクロしとるんじゃ」
「いやなシンクロやな。スクール水着とかどうや」
「エロすぎるわ。さっきから極端なんじゃ。ワレのほうがよっぽどおっさんやないかい」
「姉妹ユニットとして暗闇坂四九ってのはどうよ」
「おお、ええな。じゃあそれはワレ、リーダーにしたるわ」
「そういや四十九って七掛ける七やんか」
「それがどうした」
「えらいことに気がついたで」
「なんじゃ」
「七よりひとつ小さい六と、七よりひとつ大きい八を掛けると、四十九よりひとつ小さい四十八になんねん」
「それがどうした」
「これって、わての知る限り、アズファーアズアイリアライズ、数を変えても成り立つねん」
「どういうことや」
「つまりな、六六?」
「三十六」
「五七?」
「三十五」
「じゃろ? 八八?」
「六十四」
「七九?」
「六十三」
「どうじゃ?」
「おおー。たしかにそうじゃ。えーと九九八十一、八掛ける十は八十。五五二十五、四六二十四。四四十六、三五十五。……えらい発見したやないかワレ」
「コホン」
そのとき下から咳払いが聞こえた。ぼんやりと椅子の背にもたれていた矢来だった。
「おまえらさ、カッコエックス足す一カッコ閉じカッコエックス引く一カッコ閉じイコールエックス二乗引く一、つー公式知らんの? チューガクで習っただろ?」
「なんやそれ」「口で言われてもわかるか」
すると矢来はおもむろに鞄からノートとペンケースを取り出すと、シャーペンで、大きめの文字で数式を書いた。
(x+1)(x-1)=x^2-1
どうよ、という顔で前田と鈴木を振り返る。
「てかやっぱ聞いとったんやな」と前田が言った。
「おい、このフォーミュラについてなんかないのかよ。はいコメントどーぞー」
「聞いてない振りしとったんじゃ」
鈴木が言った。
「チッ」
矢来は前田と鈴木をぎろりと不機嫌ににらんでなにか言いかけてやめた。ノートとペンケースを鞄にしまうと、教室を出ていった。
「仲間に入りたいんなら会話に入ってきたらええのにな」「あいかわらず素直やないな」
前田と鈴木はそれぞれ自席に急いで戻って自分の鞄を持つと、矢来のあとを追った。
〈了〉