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第一話 魔女と兄妹

 ある辺境にある村。

 この村はお祭りが大好きであり、2ヵ月ごとにお祭りを行っていました。

 今日は今回のお祭りの最後の日。

 村人たちは祭りの終わりに花火を打ち上げ、締めくくりを見送ります。

 明日からはまたいつもの平日。次の月の祭りに想い馳せながら、村人たちは片づけを行っていました。

 次はどんな祭りにしようか? そんな事を笑顔で話す人々。



 ところが怒りに満ちた顔の老婆が一人、村の外から現れました。

 それは森に住む魔女でした。


「お前たち、どうして私に祭りの事を言わなかったんだい!?」


 大声を出して怒る魔女。

 村人たちは困りました。なぜなら誰かが伝えている物だと、思い込んでいたからです。

 村人たちは困りました。なぜなら魔女はいつも祭りには参加していなかったからです。

 だからてっきり、誰かが伝えたうえで魔女が来ていない物だと思っていたからです。


 憤慨する魔女は、言い放ちます。

「お前ら、皆、不幸にしてやる!」

 そう言って魔女は森へと帰って行きました。




 その日から、悪い事が続きました。


 ある日では、鶏が鳴くのをボイコットし人々が朝寝坊しました。

 ある日では、たくさんの洗濯物が干された時に限ってにわか雨が降りました。

 ある日では、村中の時計が逆回転し、村人たちは時間がわからなくなりました。

 ある日では、鶏が早く鳴きすぎて、皆が夜中に起きてしまいました。

 ある日では、犬がニャーと鳴き、猫が代わりにワンと鳴いて村人たちが腰を抜かしました。

 ある日では、馬が二足歩行で歩き、乗りにくくなりました。

 ある日では、花たちが歌いだし、音痴で聞くに堪えませんでした。




 一週間、いろんな不幸が村を襲いました。

 ほとほと疲れた村人たちは、魔女に止めてもらうように言いに行きました。


 ところが森には、魔女が召喚した門番がおり、皆、追い払われてしまいました。


 どうしたものかと悩む村人たち。

 そこに村に住む二人の幼い兄妹が言います。

「僕たちなら、何度も魔女の家に遊びに行っているし、止められるよ」

「ええ、私達なら魔女さんに怒りを鎮めてもらえるわ」

 その言葉に感心する村人たち。

 しかしこの兄妹はタダでは動きません。

「お小遣いのアップを……」「夕ご飯は豪勢に……」「勉強の時間を短く……」「新しいお洋服が欲しい……」

 欲張りな兄妹は色々と成功時の報酬を求めてきます。

 村人と、特に両親は困りながらも根気よく交渉を続け、二人にいくつか譲歩してもらいながら納得してもらいました。





 そして次の朝。

「行ってきます」「新しいお洋服、ちゃんと準備しておいてね」

 二人の兄妹は村人たちと朝日、そして縦横無尽に空を飛び回る鶏たちに見送られながら森へと向かっていきました。


 それぞれ大きなリュックを背負った兄妹は森の入り口に到着します。

 そこには魔女が呼び出した最初の門番がいました。

 それは矢印の立札でした。

 立札は突然、喋りだしました。

「私は嘘つきな立札、この先に魔女の家はあるよ」

 そう言って立札は笑いました。


 兄妹は悩みます。

 ここ以外に入り口は見当たりません。

 しかし嘘つきだと自身で立札は口にしています。

 それを信じればこの先は魔女の家などないという事です。

 ですがその言葉を信じていいものか?

「そもそも、嘘つきは自分の事を嘘つきだと言うのか?」

 兄妹は悩みます。

 村人たちも昨日ここに来て悩みました。しかし兄妹にはその事実を隠していました。

 欲張りな兄妹は失敗すればいいと村人たちは思っていたからです。


「悩んでても仕方ない、進もう」

 勇気と無謀を履き違えた兄は進もうと言います。道を進めば真実かどうかわかるからです。

「危険だわ、もう少し考えるべきよ」

 聡明で面倒くさがりの妹はそれを止めます。この道が罠であり、他に道があると考えたからです。

 その様子を見て、立札はあははと笑います。

「この先に魔女の家はすぐそこにあるよ、嘘つきな僕が保証するよ、行ってみなよ」

 その言葉に妹は、何か思いついた顔をします。


「立札さん、立札さん」

「どうした可愛くないお嬢さん、もう夜だからお家にお帰り」

「私、実は立札さんにプレゼントがあるの」

「それは嬉しくないね。興味もないよ、なんなんだい?」

「このマッチです」

 兄の背負ったリュックから、妹はマッチを取り出し、火をつけました。

「燃やされたくなかったら、真実の入り口を言いなさい」




 立札から聞き出した茂みで隠された入り口を進み、兄妹は魔女の家へと向かいます。

 森の中のまっすぐな道、森は葉が茂っており太陽の光がところどころ差す薄暗い場所でした。

 兄妹は暗闇を気にせず、砂利の道を進みます。

 すると道の先に人間の大人よりも大きい、二番目の門番である大蛇が現れました。兄妹はその頭を見上げます。

「私は力強き蛇。毒は無いが体は大きく、木をなぎ倒し岩を投げ飛ばす。兄妹よ家に帰りなさい、痛い目を見たくはないだろう?」

 普通なら誰もが怖がるだろう大蛇、だが兄は前に進みます。

「僕は強い戦士! その手は岩を砕き、その足は狼だって蹴り飛ばす! 大蛇よ、僕が相手だ!」

 自信満々に兄ははっきりと言い放ちます。

 これに弱ったのは大蛇です。魔女には言葉で脅すように言われており、怪我をさせるつもりはありませんでした。


「行くぞ、へび!」

 兄は大蛇に向かって走り出します。

 仕方なく大蛇は、兄の服を口で加えるために、大きく口を開けました。

「今だ!」

 兄はいつの間にかリュックから出したタバスコの束を、大蛇の口に放り込みました。


 大蛇の叫び声が森に響きます。

 口を真っ赤にして涙を流し、蛇は木をなぎ倒しながら森の中を逃げて行きました。




「僕は勇者だ、強いぞ、フンフン~!」

 大蛇を追い払った兄は、上機嫌に道を歩きます。

 その後ろを妹はついていきます。

 手にはコンパスを持っていましたが、くるくる回るばかりで全く役に立ちません。

(さっきから風景が変わっていないわ、もしかして同じところを歩かされている?)


 妹が考えていた通りの事が起きておりました。

 最後の門番である木々が動いて道を斜めにし、結果、兄妹は大きな輪の様な道に入り込んでしまっていたのです。


 太陽は真上になり、兄は足を止めました。

「う~ん、おばあさんの家になら、とっくの昔についていてもおかしくないのにな」

「お兄さん、そろそろ、ご飯にしましょう」

「そうだね」

 二人はシートを引いて並んで座ります。

「パンにバターに、ジャムに、ハチミツ」

「ビンの中にはコーヒーだ」

 森の中、もくもくと二人は食べていきます。

「お兄さん、お兄さん」

「どうした?」

「もしも、おばあさんの家についたら、どうしようか?」

「そりゃあ、お祭りの事を言わなかったことを謝らないと」

「でもおばあさんは、会いたがっていないわ」

「いやいや、おばあさんだって本当は謝ってほしいはず」

「でもすでに家についていてもおかしくないのに、家についていないわ。それに立札や大蛇は私達を邪魔したわ」

「……う」

「私達、何度も遊びに行っているのに、もうおばあさんは私達に会いたくないんだわ」

「そ、そんな」

「もう私達なんて嫌いになったんだわ」

「う、う」

 二人はパンを落としました。そして一緒に泣き出してしまいました。

 

 それを聞いた木々は戸惑いました。木々は互いに話し合い悩みます。

 そして幼い子供たちの話ぐらい聞くべきだと考え、動き出しました。

 木々は左右に別れ道を開きます。

 その先には、魔女の家が見えます。


「見て、お兄さん! 森が別れていくわ!」

「本当だ! それに先に家が見える!」

「きっと、私たちの声を聞いた森が道を作ってくれたんだわ!」

「うん、そうだよ! ありがとう!」

「木々さん、ありがとう!」

 パンを口にくわえ、シートをリュックに放り込み、兄妹は家へと走り出しました。



 二人の口角が歪んでいました。パンを咥えていないとバレかねないほど。

 実は二人は森に来る前に、事前にある打ち合わせをしていました。

 それは道に迷ったら、上記の事を口にし、最後に泣き出そうと。

 つまり森に対して泣き落としを仕掛けたのです。兄妹はこの森が生きているのを以前から知っていました。

 それは功を奏し、こうして魔女の家へと道が開けたのでした。




「お前たちかい」

 魔女の家の玄関には、老婆が座り込んで待っていました。

 その横には普通のサイズ程に小さくなっている蛇がいます。蛇の口ははれ上がっていました。

 魔女の目は細く、疑わしそうな表情で兄妹を見ておりました。

「来るとしたらお前たちだと思ったよ」

「うん、おばあさん、お祭りの事はごめんなさい! だから村人達は僕の小遣いの為に許して!」

「おばあさん、お久しぶりです。ごめんなさい! お洋服の為に村人を許して!」

「もう少し、欲望を抑えられないのかい!?」

 ため息を老婆はつきます。

「許すわけにはいかないよ。そもそもお祭りは私を楽しませる為にやっていたのに、その私を忘れるなんて言語道断だよ」


 魔女はこの辺り一帯を支配しておりました。

 そこに人間たちが住み着いて来たのです。

 追い出そうとする魔女に、村人たちは懇願し、住むための許可を望みました。

 そこで魔女は、毎年、自分を楽しませるために努力する事を望みました。

 こうして、村人たちは大道芸を毎年行い、それを魔女は遠くから千里眼で覗いて楽しんでいました。

 それから五百年。村人たちは当初の目的を忘れていましたが、祭り自体は今まで続いていたのです。

 魔女の事は祭りが好きな人間だと思われている程度でした。



 機嫌の悪い魔女。

 すると兄妹は言います。

「ええ、だから」「ここで祭りをやろうとおもったんだ」

「……は?」

 兄妹はリュックを地面に置いて開き、荷物を取り出します。

 それは大筒と花火の玉でした。

「では今から」「花火をやります」

「ちょっと」

 筒を地面に立て上に向け、花火の玉を放り込みます。

 そして妹がマッチに火をつけ、それも放り込みました。


 花火は空に向かって放たれました。

 しかし高度が低く、魔女の家が衝撃によって崩れました。



 森の中に逃げて、耳を両手で塞ぎ地面に伏せていた兄妹。

 轟音が止むと立ちあがり、土煙が晴れるのを待ちます。

「……お前たちは、森を火事にでもするつもりかい?」 

 煙が晴れると、青筋を立てた魔女が立っていました。


 兄妹はおそるおそると言った感じで、魔女に近づきます。

「ごめんなさい」「予想より近かったです」

「……」

「では」「次の出し物を」

「やめろぉ!」


 ため息をついた魔女は指を鳴らします。傾き崩れた魔女の家が元通りになりました。

「もういい、わかった。許すからお前たちは帰りなさい」

「ええ?」「本当に?」

「ただし、村人に言いなさい、何か面白い事をしなさいと、それまで保留とするよ!」

「ありがとう!」「おばあさん!」

「ふん!」

 手をひらひらと振り、帰るように促す魔女。

 兄妹は何度も謝り、お礼を言いながら森の中を村へと帰宅していったのでした。




「うまくいったねお兄さん!」

「ああ、お前の言うとおりだよ!」

 兄妹は森を抜けると、いやらしい笑い声をしました。

 実は魔女に祭りの事を伝わらないようにしたのは、兄妹だったのです。

 そうして魔女の怒りがあり、それをよく遊びに行く兄妹が治める事で、両親から色々と報酬を貰うのが目的でした。

 そしてそのマッチポンプはうまくいき、こうして魔女は怒りを治めたのでした。

 それらを事細かく口にし、計画の成功を喜び、兄妹は笑いあったのでした。




 もし二人の兄妹に間違いがあったとすれば、それを口にしてしまった事。

 それを隠れて見送りに来た蛇が、聞いてしまった事でした。









 村の鶏や、猫や、犬や、馬が、人の言葉を喋り、兄妹のたくらみを暴露しました。

 それを聞いて真実を知り村人たちは怒りました。

 当然、報酬は無し。お小遣いはカット。ご飯は抜き。

 さらに公衆の面前で二人は両親に尻叩きを百回されました。

 

 その様子を千里眼で見ていた魔女は、腹を抑えて笑い転げたとの事です。



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