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99、女神の城 〜 まさかのスカウト

 僕はいま、居住区の治療院にいるんだ。


 この場所で女神様と待ち合わせらしいんだけど、僕は、なぜいつものようなカフェじゃなくて治療院なのかと、不思議だった。


 でも、中に入ってみると、女神様の意図がわかった。強い呪いを受けて動けない病人がいたんだ。


 しかも彼らには、黒い霧のような影が取り憑いていた。奴らが邪魔をしているのか、病人の治療がイマイチうまくいかなかったんだ。




「新人くん、もう大丈夫だよ。助かったよ、ありがとう」


「ポーション、これ、例の有名なやつだな? フルーツエールみたいで美味くて驚いた」


「皆さん、動けるようになってよかったです。でも、まだ、全然、片付いていないんですよ…」


「ん? どうした? やたらと上の方を見ているが、何かいるのか?」


「はい、皆さんから、霧のような影が立ち昇ってるんですよ…」


「えっ! 取り憑かれているということか?」


「そのようです。奴らが皆さんの身体から離れてくれないと、治療ができないようなのです」


「そ、それは……呪術士を探してこないと…」


「僕、ちょっと、話してみます。皆さんは、もし可能なら眠って、体力、魔力を回復してください」


「え、あ、そうだな…。俺達にできることは、身体を休めることだな」


「はい」


 彼らは、立ち上がっていた人達も、ベッドに戻っていった。先程までとは違い、顔色も良くなってきていた。



(さて…)



 僕は、ゆらゆらしている奴らを見た。奴らも、ずーっとこちらの様子を見ている。


 奴らの中のゲージが3本あった奴がおそらく本体だろう。さっき、女神の番犬と言ったのは、そいつだけだったのだから。


 僕は、魔族の国スイッチ、はったりスイッチを入れた。こうしないと、素の状態の僕では、うまく交渉できないんだよね。

 別に、僕の頭の中に切り替えボタンがあるわけではない。気合いを入れたってことだけなんだけど…。


 そして、ゲージが3本ある奴に向かって、話しかけた。


「あの、貴方はなぜ、彼らに取り憑いてるんですか?」


 すると、奴は、しばらく間をおいて、返事をしてきた。


『貴方達ではなく、貴方と言ったか?』


「はい、言いました」


『なぜだ? この姿が見えるなら他の5体も見えているのだろう?』


「質問に対して質問を返すというのは、礼儀としてあまり良くないと思いますよ」


『な、なんだと?』


「貴方1体しか話せないのかと思いまして」


『ふむ…』


「それに、いま、話しているのは、ここにいる個体ではありませんよね?」


『ッつ、なんだと?』


「どこにおられるのですか? この星の上には貴方は居ないのですか?」


『ふん、何を言い出すかと思えば…。この星の上に居なければ、操れまい』


「貴方くらいの力量があれば、外からでも、人形を操ることはできそうですが」


『女神の番犬、か。なるほど、よく我のことを見抜いておるようだな。我の元に来ないか?』


「えっ? 引き抜きですか?」


『ふむ、おぬしのような者が、バカな女神の世話をする必要もなかろう』


「えーっと、買いかぶり過ぎですよ。僕には、たいしたチカラはありません」


『我の呪いを消し去るチカラは、見事であるぞ』



(な、何? マジでスカウトする気?)


  よく、誰かが引き抜かれたって聞くけど、まさか、僕にまでそんな声がかかるなんて、思わなかった。


 番犬って言ったからだろうな。びっくりだね。


 ここは、魔族の国スイッチをパワーアップして、ちょっと交渉してみようかな? お引き取りくださいって、ね。



「それは、貴方の人形の呪いでしょう? 貴方が自ら手を下したわけではない。違いますか?」


『まあ、それはそうだが』


「貴方が自らかけた呪いなら、そう簡単には消せそうにありません。ですが、人形にかけさせた呪いなら、どうしても弱まりますからね」


『そうか? まぁ、我が直接かけるよりは、雑になってしまうか…』


「ええ。ですが、その人形がかけた雑な呪いも、僕には完全に解除できませんでした」


『それは、我が、おぬしの解除の妨害をしたからだ』


「えっ? 遠隔地からですか? 半端ない能力ですね」


『まぁな。我は、これでも神だからな』


「ええっ!」


『あ、いや…。おぬしに乗せられて、口を滑らせてしまったではないか!』


「え、あ、すみません。そんなつもりでは…」


『ふむ、まぁよい。で? 我の元に来ないか?』



 スカウト、しつこいなぁ。相手の顔が見えないと、表情が読み取れない。


 前世の僕は、家電量販店の店員をやってたことがある。そのときのしつこい客を思い出した。

 こういう相手は、拒否すると逆に、さらにしつこくなる。共感する素振りを見せながら、やんわりと かわすのが交渉術だと教わったことがある。


 それにしても、赤か 青か? どちらの神なんだろう。あ! そうだ!



「ん〜…。あの、貴方は、オーラは何色ですか?」


『は? なぜ突然、オーラが出てくる?』


「え、相性ってあると思うので…。僕は仕えるなら、同じ色の人がいいです」


『我は、青だ。おぬしもその魔力は、青であろう?』


「あー、違うんです。僕は黄色です」


『なんだと? 女神と同じか』


「ん?」


『いや、なんでもない。だが、我の元に来れば、今よりも上位の地位を与えてやるぞ? 望みを叶えてやれるぞ?』


「え? 僕は、地位はいらないのです…」


『じゃあ、何が欲しい? 望みを言ってみろ』


「僕は……バーテンになりたい」


『は? バーテン? 酒を出すあれか?』


「はい」


『……そんなもの、どこででもできるであろう?』


「まだ、僕は未熟で、技術の習得の途中なんです…」


『そ、そうなのか…』


「はい」


『………。………だが、いまは、女神の番犬をやっているのだろう?』


「はい、でも、そのうち隠居して、バーテンになりたいと思っています」


『………そうか。……まぁ……この話は、考えておくがよい。おぬしの夢が、変わるやもしれんからな』


「はい」


『…うむ』


「あの…」


『なんだ? 気が変わったか?』


「いえ、あの、人形を退けてもらえませんか? 貴方の人形のせいで、僕は、彼らを治せません」


『は? それは、我のテリトリーを侵害した罰だ。のうのうと生かしておくわけにはいかぬ』


「え、じゃあ、僕は、仕事が出来ません…」


『あー、だがな…』


「貴方は、そんなにも……無慈悲なのですね」


『い、いや……』



 まぁ、交渉しても引き下がるわけはないか。やっぱり僕は、こういうの苦手だなぁ…。

 顔も見えないから、余計に難しい…。魔族の国スイッチ、はったりスイッチも万能じゃないんだよね。

 仕方ない、何回かに分けて呪詛を消していこう。



「もういいです、僕は…」


『待て! わかった。おぬしに免じて、人形を退けてやる。そのかわり、考えておけよ?』


「僕に、バーテンになるのを諦めろということですか?」


『い、いや…。そんなに、闇を出すな。我は、そんなにも、おぬしを追い詰めているのか?』


「えっ?」


『あー、もうわかった。人形は回収する、また会おう!』



 そう言うと、6体の影は、スッと消えた。


 僕のまわりには、僕の深き闇が溢れ出ていた。やばっ! 僕が気づくと、僕の闇は、スーッと消えた。


(いつの間に、闇が…?)



 まぁ、でも、とりあえず、お引き取りいただけて良かった。僕は、ベッドの上で休んでいる人達の治療を再開した。


 今度は、呪詛は綺麗に消し去ることができた。彼らは、いつからか、みんな眠っていた。これで魔力も回復すれば、もとどおりだよね。



 バンッ!!



 突然、派手な音で部屋のドアが開いた。僕が、最後の病人の回復を終え、ゲージサーチで最終確認をしているときだった。


 ベッドの仕切りカーテンから出ていくと、やはり想像したとおりの人が居た。



「治療は、終わったのじゃな? バーテン志望の、お・ぬ・し」


(あ、完全に聞いていたんだ…)


「あ、はい。いま、チェックも完了しました。ゆっくり眠れば、もう大丈夫です」


「ふむ。それなら、あっちの診察室の方へ来るのじゃ。ここで話すと、起こしてしまうのじゃ」


「はい、了解です」



 ドアの外には、タイガさんと、治療院の初老の紳士が居た。ふたりも、話を聞いていたようだ。

 奴は、念話だったのに、なぜ? と一瞬思ったが、女神様が実況中継したんだろうな。


 僕が、そう考えていると、僕の様子に気づいたタイガさんが事情を説明してくれた。


「ババアが、中継しとったで」


「やっぱり。そうなのかなと思いました」


「新人さんをスカウトとは、気の早い神ですね」


「ライトが番犬だと言うたから、『落とし物』係じゃないと思ったんやろ」


「なるほど。『落とし物』係だと、通常スカウトでは、手に入りませんもんね」


「ん? そうなんですか?」


「うでわをしているのが知られていますからね、拉致監禁でもして、女神様との通信を断ち切らないと、女神様が邪魔しますからね」


「なるほど」


「神々は、女神のうでわのことを、首輪って言うとるで。首輪付きは、なびきやすいが捕まえにくいってな」


「へぇ…。なびきやすいのですか?」


「おまえも、なびいとったやないけ?」


「ん〜、僕は別に…」


「ライトは、なびいてはおらぬのじゃ。こうしょうじゅつ、とかいうやつじゃ」


「はぁ? あ、交渉術か。おまえセールスマンでもやっとったんか? あ、安売り屋の店員か」


「ええ、まぁ」


「あの術者は、この星に忍び込んでいるようじゃな」


「はい」


「おまえにしては、よう聞き出したやんけ。青の呪術系の神で、こんなことをしそうな奴って、だいたい絞り込めるやろ」


「うむ。腰巾着のような小心者じゃろな。たいした奴じゃない、小者じゃ」


「そいつが、迷宮の異変の原因なんか」


「おそらくそうじゃろ。ただ、あやつは単独行動はせぬ。他にも忍び込んだ神が居るやもしれぬのじゃ」


「はぁ、邪魔くさいことになりそうやな」


「しつこくライトを勧誘しそうじゃ」


「あー、それは別に、俺は関係ないし」


「ライトの世話係は、誰じゃ?」


「はぁ? もう、ええやろ。卒業や」


「ライトの体力が残念すぎるのを、なんとかするって言うておったのは誰じゃ?」


「あー……はぁ」



 そんな大きなため息をつかなくてもいいのでは…。まぁ、僕も、ため息しか出ないけど…。

 僕は、タイガさんをジト目で睨みつつ、女神様にポーションを渡すことにした。


「イロハカルティア様、査定に出せない変なポーションを、渡しに来たんです」


「なんじゃ、おぬしもクマと同じなのか? ここは、ゴミ捨て場じゃないのじゃ」


「だって、魔法袋の容量が…」


「そんな小さい物しか持ってないのが悪いのじゃ」


「でも……リュックくんが、変なのばかり作るから」


「やっぱり、リュックは反抗期なのじゃ!」


(えーっと…。そんなことないとは言えない…)

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