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98、女神の城 〜 なるほど、それで治療院?

「こいつら、何? めちゃくちゃ俺になついてくる!」


 新人『落とし物』係のアダンは、この世界に転生してきて二度目の女神の城で、舞い上がっていた。


 初めての、虹色ガス灯の美しさに惹きつけられたわけではない。虹色ガス灯広場に、ふわふわと飛んでいる不思議な魔物に、すっかり心を奪われていたのだ。



「めちゃくちゃかわいい!」


 アダンは無意識のうちに、自分の腕の中に、この子達を閉じ込めて、ぎゅーっと抱きしめていた。


 10体ほどの、まるくて小さな子達は、女の子のようだった。不安そうな顔をしたり、お気楽そうにヘラヘラしていたり、興味深そうに彼を見つめていたり…。


 頬を突っついてみると、ゴムボールのように、ぷにぷにとしていた。そして、この子達は、かまわれると嬉しそうに、ふにゃっと笑う。


 明るい茶髪に色白の顔は、こびとのように見えるが、胴体はない。いや、胴体は赤黒い霧状のふわふわしたものなのか? まるで赤黒いふわふわドレスを着ているかのようだった。


「女神の城だけあって、不思議な魔物もいるんだな」


 アダンは、この子達をサーチした。弱い火の魔物のような性質があるようだ。弱い魔物だという点も、アダンの心をガッツリつかんだ。


「あまり、強く抱きしめたら死んじゃうかもな。気をつけてやらないと」


 広場では、あちこちに、この子達がいるようだった。そして、あちこちで、可愛がられている様子が目に入ってきた。


「この城の、ペットみたいな感じか。癒し系の魔物なんて、いるんだな」




「アダンくん、こっちよ〜」


「あぁ、わかってる」


 アダンは、名残惜しそうに、この子達を腕の中から解放した。すると、ふわふわとあちこちに散らばっていった。中には、アダンを振り返っている子もいる。


「やばい、かわいい。可愛すぎる」


 アダンは、緩んだ頬を引き締め、ナタリー達の方へと向かった。あの、油断できない先輩もいる…。


「あいつ、死霊のくせに、ほんと、うざい」





 僕は、ちょっと驚いていた。あの横暴で生意気すぎるアダンが、生首達を腕に抱きしめて、とても優しい顔をしていたのだ。


(意外すぎる…)


 アダンは、闇竜人、ダークドラゴンだ。ドラゴンって気性が荒いものだと思っていたんだ。でも、生首達のことを、めちゃくちゃ気に入っているようだった。


 あ! クールなヤンキーが、実は可愛いキャラクターものが好きだったり……というのと同じなのかな。




「おまえ、アイツらのこと、気に入ったようやな」


 タイガさんが、なんだか挑発的な言い方をしていた。やはり、アダンが生首達を抱きしめていたのを、不思議に思ったのだろうか。


「えっ? あ、あぁ、懐かれて困ったぜ」


「ふぅん、そーかー」


「ふふっ。私はアダンくんを連れて、ちょっと、居住区の倉庫に行ってくるわ〜」


「何しに行くねん」


「アダンくんの防具の素材を探しにいくのよー」


「あー、クマの倉庫か」


「そうよ〜。じゃあねー」


「ナタリーさん、また」


「ふふっ、また後でねー」



 クマさんというのは、確か、いまの『落とし物』係の中では、一番の古株だという、ベアトスさんことだよね。


 僕と同じリュック持ちだけど、僕とは違って、貴金属や鉱石を錬金するんだったよね。売りにくい物が出来ると、ここに大量に持って来るって言ってたっけ。


(その専用の倉庫があるんだなぁ……すごい)



「俺らは、ババアんとこやな」


「あ、はい」


「珍しく仕事しとるから、呼び出したからな。そこの治療院で待ち合わせや」


「えっ、大丈夫なんですか?」


「はよせな、おまえ、イーシアに水汲み行く時間なくなるで。明後日、いや、もう明日から、迷宮やで」


「あ、そうでした」



 僕達は、虹色ガス灯広場から居住区に入った所にある治療院へと向かった。ここは、そういえば、ジャックさんの手術のあと、魔力切れで、僕が運ばれた場所だ。


 生首達は、広場で楽しそうにしているので、まぁいいかと、放置しておくことにした。


 タイガさんについて、治療院の中へと入っていくと、あの初老の紳士がいた。


「タイガ、どうした?」


「あー、病気ちゃうで。ちょっと場所借りるわ、もうすぐババアも来るやろ」


「おや、新人くんも一緒だったのですね」


「はい、こんにちは、じゃない、こんばんは」


「あはは、こんばんは」


 初老の紳士は、外をチラリと見ていた。ガス灯の色を見ていたのだろう。ガス灯は、紫から赤に変わろうとしていた。赤が新しい日の始まり。今は、夜明け前といったところだろうか。



「なぜここで?」


「広場近くで一番、がら空きな場所やって、ババアが言うからな」


「今日は、そうでもないのだけどね」


「えっ、病人ですか? 魔力切れ?」


「病人ですねー。というか、強い呪いを受けた人達がさっき運び込まれたのですよ」


「強い呪いなんて、どこでや?」


「遭難した冒険者の救助で、どこかの迷宮に入ったみたいなんですけどね。突然の崩落後に、他の迷宮に飛ばされ、気づいたときには強い呪いで動けなくなったそうです」


「は? なんで他の迷宮ってわかるんや? 他の階層ちゃうんか?」


「帰還の魔道具で、ここまで戻ってきたんですが、魔道具の記録を見ると、行った場所とは違うとこから戻ってきたんですよ」


「見せてみー」


「えーと、はい、これですね」


 そう言うと、初老の紳士は、小さな丸い金属のようなものを、タイガさんに渡した。


 タイガさんが、それに魔力を込めると、ふわっと地図のようなものが浮かんだ。これを持つ人が移動した記録のような動線が現れた。

 その線は、途中で途切れ、全く別の場所から、この城への動線がのびていた。


「はぁ、やっぱり、あそこ絡みか…。そうやと思ったわ〜」


「何か知ってるのか?」


「いや、わからんってことが、わかってるだけや。明後日、いや明日か、ここの調査に行くんや」


「タイガさん、王宮の?」


「あぁ、あちこちの迷宮と、転移陣か何かで繋がってるみたいでな…。今まで何もなかった迷宮も、急に行方不明者が続出しとるんや」


「うわ…」


「はぁ、犠牲者がここにもおるとはな…。あ、ババア、それでここを指定しよったんか。抜け目ないやっちゃ」


「あ! 新人くん、回復のエキスパートでしたね。診てもらえますか? 呪術士を探しに行こうかと思っていたんですよ」


「えーっと、呪術はわからないですが…」


「さっさと、なんとかしたれや」


「僕にできることなら…」



 僕は、奥の部屋へと案内された。ん? 部屋が封印されている? ドアには不思議な紋が浮かんでいた。


「この中に、病人がいるのですが、さっき部屋ごと封印したのです。近くにいた他の人まで、呪いの影響で体調を崩してしまったので…」


「なるほど…」


「あ、すぐに封印を解きますね」


「あ、いえ、大丈夫です。このままで」


「えーっと…。やめると?」


「いえ、みてきます。では」


 僕は、半分霊体化し、ドアをすり抜けた。


 ドアの向こうでは、初老の紳士が、えっ? と小さく声を出したあと、あーそうだった、と言っていた。


「ライト、こっちの声は聞こえるやろ?」


「はい、聞こえます」


「何かあったら呼べよ。一応『見て』おいたるけどな」


「私も『見て』いますから、ご安心を」


「あ、はい」



 僕は、部屋の中を見渡した。ベッドが6つ、それぞれカーテンで仕切ることができるのだが、カーテンはすべて、開けられていた。


 いや、違う…。仕切られていたはずなのに、開けたんだ、奴らが…。


 ベッドに横たわっている人それぞれから、黒い影が出ていた。光に照らされての影ではない。

 身体から、上にゆらゆらと昇りたつような黒い霧のような影のようなものが出ているのだ。


 僕は、一応、外のふたりに確認してみた。


「あの、部屋の中に、ベッドに寝ている人以外の人って、『見え』ますか?」


「はぁ? 何言うとんねん。おまえしかおらんやろ」


「さっき体調崩した人が、何か居るって言ってましたが……誰か居ますか?」


「はい、6人の身体から、6体の黒い霧のような影が、上にゆらゆらと昇り立っています」


「なんですって! 新人くん、それマズイです。すぐこちらに戻ってください」


「あー、もう囲まれてしまいましたので……なんとかしてみます」


「いや、でも…」


「大丈夫や。ビビリのライトが、ビビってへんから任せとけばええ」


「そ、そうなんですか…? でも、6体も…ネクロマンサーかリッチかもしれない」


「アンデッド系やろ? 大丈夫や」



 僕は、ゲージサーチしてみた。


 ベッドの上の人達は、赤、赤。やばいな、体力も魔力も20%を下回ってるってことだよね。

 そして、ゆらゆらしてる奴らは、青、青。うん? 魔力ゲージがふたつあるのが1体いる。


 僕は、バリアをフル装備かけた。そしてベッドに近づいていった。


 ゆらゆらとした奴らは、影を伸ばして、僕のまわりを常に囲んでいる。でも、だからといって、何かを仕掛けてくるわけでもなかった。


(まぁ、無視しておこう)


 僕は、ベッドに横たわっている人を『見た』


(えっ? 何、これ…)


 身体の中は、真っ黒だった。呪詛の塊なんてもんじゃない…。身体の中がすべて呪詛に埋め尽くされ、体内のあちこちで出血していた。


 こんな状態で生きているのは、神族だからだ。こんな状態でも死ねないんだ…。


 彼らは、しかも意識があるようだった。僕が近づいてきたのがわかると、ダメだ、離れろと、口パクで注意をしてくれた。


「大丈夫ですよ、僕は、これでも、番犬ですから」


 僕がそう言うと、驚いた顔をされていた。まぁ、新人くんだと思われてるもんね。


 そして、僕の言葉に、奴らも反応した。


『女神の番犬だと?』


 僕は、奴らをチラッと見たが、やはり奴らは、何かを仕掛ける様子はない。


(やっぱ、無視しよう)


 僕は、ベッドの上の人の身体にスッと手を入れ、身体全体に行き渡るイメージをして、蘇生!を唱えた。


 パリン! パリン! パリン!


 あちこちで、呪詛が割れていく音が聞こえる。そして、回復! を唱えた。うーん。一度では消えないか…。いや、奴らが邪魔してるのかもな。


 だけど、ゲージは、緑、赤になり、身体の中の出血も止まった。まだ半分くらい残っているけど、他の人も治療していく方がいいよね。


 半分治療できて、喋れるようになった人に、クリアポーションを渡した。


「これを飲んで、少し待っててください。つらそうな他の人を、少し楽にしてから、続きの治療します」


「あぁ、わかったよ。ありがとう。もう普通に動けそうだよ」


「残念ながら、ここの6人全員に、何かが取り憑いてるみたいなんですよ…。結構、高位のアンデッドかも」


「えっ、どこに?」


「うーん。怖がらせたくないので、秘密で。先に他の人の…」


「あ、そうだな、悪かった」


「いえ、ポーション飲んでくださいね」


「あぁ」


 そして、僕は、他の5人も同じように治療し、ポーションを渡していった。やはり、半分くらいしか治らないな。


 ポーションを飲んで、さらに少し改善されたようだが、まだあちこちに黒い塊がある。


 僕は、ぐるりと取り囲む黒い影達を見た。


(奴らを排除するしかない、か)

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