96、ロバタージュ 〜 生意気すぎる後輩アダン
いま、お姉さんねー、新人『落とし物』係のアダンくんを連れて、ロバタージュのいつもの店に来たのよー。
タイガに、ライトくんを連れて来てもらって、アダンくんを紹介しようとしたんだけど、アダンくんが、なんだかライトくんを敵視しちゃってるの。
まぁ、バカ兄貴が、ライトくんのことを敵視した発言ばかりをしてたから、それって逆に言えば、ライトくんを認めてるってことだから……アダンくん、拗ねちゃったんだと思うわ〜。
ほんと、バカ兄貴のせいで、初めましてなのに変な先入観が邪魔しちゃったのよね。
アダンくんが自信家な所は、ドラゴンの気質だし、だいたい転生してきたばかりの子って、ふつう勇者だとか魔王だとか言ってるから、そのあたりは、別にいいんだけどー。
そういえば、ライトくんって、一度も勇者だとか魔王になりたいって言ったことないわねぇ。バーテンになりたい、としか聞いたことないわ〜。
「アダンさん、でしたか。新人さんが、そういうことを先輩に言うのは、どうかと思いますよ」
「あなたは……あなたが先輩なら、従いますよ。ノルマが終わるまでなら、だけどね」
(やっぱ、サーチ…。マスター強いんだな)
「アダンくん、このレンくんは神族じゃない普通の魔族だから…じゃないハーフだったわね、発言に気をつけてね。魔族が知らないことは言っちゃダメよ」
「ナタリー、その練習のために、レンも連れて来いって言うたんかいな」
「ふふっ、まぁ、そんなところね〜」
「わかってるよ、雑種でしょ? そのわりには、まぁまぁか。友達にしてやってもいいぜ」
「あははっ、アダンさん、若いですね〜」
「あ? まぁ、15歳だけど? あんたよりは若いけど? それが何?」
(意味わかってないよ、この子…)
「おまえ、アホやろ」
「はぁ? なんだと? 人族の分際で」
(ありゃ、魔尊人卑、ザ・魔族だね、この子)
「アダンくん、タイガは脳筋だけど、強いわよ?」
「え? あ……ほんとだ。すみません」
「おまえ、力こそすべて、だと思っとるんか?」
「当然だろ? あ、当然です、よ」
「はぁ、じゃあ、ライトにも敬語を使って、ひざまずけや」
「な? なんでこんなゴミに?」
(…ゴミって)
「ライトも、言われっぱなしでええんか? バシッと言い返したれ! 先輩やろ」
「はぁ」
僕は、新入りアダンくんの方を見ると、目が合った。めちゃくちゃ睨んでる。はぁ、もうやだ。
「何か俺に言うことあるわけ? せ・ん・ぱ・い」
僕は、ナタリーさんを見ると、手でごめんなさいをされた。
マスターは、やれやれ、という顔をしている。
先程まで、僕のことをグダグダ言ってた3人は、僕のことをすっかり忘れたかのように、新人くんに冷やかな目を向けていた。
レンさんを見ると…あれ? 言うたれ! みたいに指をクイクイしている。
最後にタイガさんを見ると、アゴでクイクイしている。
(はぁ、仕方ない…)
僕は、魔族の国スイッチを入れた。そう、はったりスイッチだ。このスイッチを入れないと、僕は何も言い返せない…。
「アダンくん、でいいかな?」
「なに」
「あのさー、チカラこそすべてなら、アダンくんは、僕より、下だよ?」
「はぁ? 何を言ってんの? おまえ、死霊だろ? 俺はドラゴンだぜ? 頭おかしいんじゃね?」
「見えてないの? 僕のチカラ」
「は? しょっぼい数値なら見えてるぜ。回復だけ異常値だよな」
「僕の闇は?」
「おまえ、闇竜に何言ってんの? 闇属性持ちだというくらい、見えるに決まってるだろ」
(やばっ、ムカついてきた…)
「じゃあ、闇の反射って知ってる?」
「は? 聞いたことはあるけど……それがどうしたって? 話がそれてるぜ」
「それてないよ、僕は、闇の反射を使える」
「だから、何?」
「……僕は、キミをいつでも殺せるって言ってるんだよ」
「はぁ? 頭おかしいだろ?おまえ、そんな戦闘力で、何言ってんだよ」
「僕は、闇を持つ相手には強いんだ」
「どういうことだよ」
(あ、ちょっと聞く気になった?)
「異なる闇と闇がぶつかると、かなりのエネルギーになるよね」
「より強い闇が、相手を飲み込むだけじゃね?」
「僕は、そこに蘇生魔法を起爆剤としてぶち込んで、属性を反転させることができるんだ。これが闇の反射だよ」
「反転って、なんだよ」
「聖魔法に変わる。相手の闇が強ければ強いほど、強い聖魔法が撃てるんだ」
「そんなの、闇竜の方が、死霊なんかより闇は強いんだから、反転させる前に飲み込むだけだぜ」
「僕の闇は、ひとつじゃないんだ。ふたつの闇が重なった深き闇を持ってるんだ」
「はぁ? 何言ってるんだよ? 」
「こないだ、僕の闇が暴走しちゃってね……もうひとつの闇が出てきて雷雲になってね、それでレアを倒したんだよね」
「そのレアって、火の魔物の主人?」
「そう」
「意味わかんねーよ。あれヘビだろ? 闇属性じゃない、水属性なはずだろ。だから、水に弱い火の魔物が従ってたんじゃないか」
「水属性だから、雷撃に弱いでしょ」
「あ……雷雲って」
「闇属性には、聖魔法を撃つ。水属性には、雷撃を使う。僕の戦い方は、そんな感じだよ」
「え……あの話って、本当のこと?」
アダンは、ナタリーさんの方を見た。
魔族の国で何を聞いたんだろう? あ、ハンスさんが、そういえば、火の魔物と…生首達と念話してたよね。生首達から聞いたことが、大魔王様に伝わった?
「だから、そう言ったじゃない? ライトくんは、ある意味最強なのよー」
「大魔王が、油断できないって言ってたのも?」
「ふふっ。ライトくんは、もうひとつ特技があるのよ〜。説明するより、実演の方がわかりやすいわね」
そう言って、ナタリーさんは、僕の方を見た。
「えーっと、気配を消せってことですか?」
「そうねぇ、アダンくんのお腹が痛くなるようなこと、くらいまでしてみてくれるかしら? アダンくんは、それを防御ね〜」
「ナタリーさん、ここで俺が暴れてもいいんすか?」
「ダメよ〜、店が壊れちゃうわ。ライトくんに近寄らせなければいいだけよ〜」
「なんだ、そんなことかよ」
「じゃあ、スタートの合図するわよ〜。準備はいいかしら〜?」
「はぁ」
「ふんっ、そんなもん」
「じゃあ、始めっ」
その瞬間、アダンは、バリアを張った。まぁ、普通そうするよね。
僕は、透明化! そして霊体化! を念じた。
「えっ……消えた。サーチもかからない。どこかに行ったんだ! ワープしたんじゃね?」
「ここから動いてないよ」
僕がそう言うと、アダンは、ギクッとしていた。そして再びバリアを重ねていた。
そして僕を追い払おうと、僕の方に手を振り回していた。でも、僕には当たらない。
「やっぱり、いないっしょ……えっ、はぅっ」
僕は、アダンのお腹にスッと手を入れ、少しずつ冷やしていった。
「このまま、手を上に動かせば、キミの心臓があるよね。僕、凍らせるくらいはできるんだよね」
そう言うと、アダンは僕から逃れようとするが、狭い店内だから、当然、そんなに動き回れない。
手を振り回すが僕には当たらない。彼のお腹は、どんどん冷えていった。
それにつれて、彼の表情は焦り、額から汗が流れていた。
「ライトくん、もうそのへんでいいわよ」
「はい、わかりました」
僕は、アダンからスッと手を抜いた。そして少し離れて、霊体化と透明化を解除した。
アダンは、僕の姿が見えると、ホッとした表情を浮かべたが、すぐに、キッと睨んできた。
「そんなの反則だろ! 」
「ん? そう?」
「そんなことできるなら、最初から言えよ! 闇がどうとか、ほざいてんじゃねーぞ」
「僕は、その気になれば、キミを簡単に殺せる。それをナタリーさんは、キミに見せたかったんだと思うよ」
「ッ……なぜ!」
「そんなの決まってるよ、キミを守るためだよ。今のキミだと、すぐに死ぬことになるからね。上には上がいるって、わかってないでしょ」
「俺より、おまえの方が、上だと言いたいのか!」
「違うの?」
「っくそ、おまえっ!」
僕は瞬時にバリアをフルでかけた。アダンが殴ってきた拳は、バリアに阻まれる。
「ッつ、なんなんだよ!」
「殴られたくないから、バリア張っただけだよ」
「くそっ、なめやがって!」
「クソガキ! おまえ、ええ加減にしとけよ? これ以上騒ぐ気なら、しばくぞ」
タイガさんが、怒鳴った。ひぇー、僕は、思わず固まってしまった。アダンも、あまりの大声に驚き、顔をヒクヒクさせていた。
「タイガ、声が大きすぎるわよ、びっくりするじゃない」
そう言いつつ、ナタリーさんは全く驚いた様子はないんだけど…。
「こいつが、しつこいからやろ」
「急には、受け入れられないわよね〜。ドラゴンは、プライドが高いものー」
「まぁ、新人さんより、ここの隠居者の方が、ショック強そうですけどね。オレも驚いたし」
「怒鳴ったくらいで、おおげさやろ」
「タイガの怒鳴り声なんかには、今さら驚かないよ。ライトさんのチカラだよ、番犬の中でもかなり上じゃないか?」
「ライトかいな。まぁ、相手が多いとほとんど役に立たへんけどな。1対1なら、命狙われて逃げれる奴は、そうおらんやろな」
「ナタリーさんなら、どうなんすか?」
「ん? なぁに?」
「もし、アイ……あの先輩に命を狙われて逃げれるんすか?」
「そうねぇ、ふふっ、どうかしら〜」
「アダン、おまえアホやろ。ナタリーは逃げれるに決まってるやないか。幻惑使いやぞ?」
「幻惑?」
「魅了ともいう、悪魔族の厄介な能力や」
「じゃあ、タイガさんは、どうなんですか」
「はぁ? 俺は無理に決まってるやろが、アホか」
「えっ…」
(はぁ、なんかまた、おおげさな話…)
『出せよ』
(ん? あ! リュックくん、ごめん。異空間ストックしてる?)
『あぁ』
(いっぱい? だよね)
『あぁ』
(ごめん、すぐに出すね)
「あの、すみません。リュック整理していいですか?」
「はぁ? なんや、突然」
「リュックくんが、怒ってて…」
「空いてる席のとこ、使っていいよ」
「マスターすみません。こちらの席、借ります」
「何? リュックくんって? バカじゃねーの」
「アダンくん、ライトくんにそんな言い方しないの」
「ナタリーさん、別にいいですよ。たぶん反抗期じゃないかな?」
「あー、そういうお年頃かしら〜?」
「何? 余裕かまして先輩ぶってるわけ?」
「なんだか、悪ガキだなって思ったら、怒る気がなくなってきちゃって」
「なめてんのか!」
(はぁ……この子は、引き際を知らないのか)
「……アダン、いい加減にしなさい。なんなら、いっぺん死んでみる? 僕、蘇生は得意だよ?」
「な……なに…を…」
そう言いかけて、彼はそのまま黙り込んでしまった。
(やっと、おとなしくなったかな?)
僕は、リュックの整理を始めた。うん、どっちゃり入ってる。異空間ストックも、かなりあるかも…。
(リュックくん、かなり怒ってるよね…)




