93、ロバタージュ 〜 ステイタス(E)
「では、リュックを下ろして、そちらの丸い円の中にお願いします」
「はい」
僕は、いま、ギルドでランクアップ時の能力検査を受けている。ピカピカと光を当てられ、測定完了。
「新しい登録者カードは、すぐに発行できますので、ギルドの中でお待ちください」
「はい」
能力検査を終え、僕は、タイガさんとレンさんの居るギルドの事務所へと戻った。
媚薬ポーションを、結局2本飲んだセシルさんは、まだ少し苦しそうにしていた。
でも、さすが王宮の上級魔導士、何か魔法を唱え、回復スピードを上げているようだった。
そういえば、上級魔導士って……どういう立場なんだろう? 年齢的にはタイガさんと近い感じだから、偉い人なのかな?
「ライト、検査完了か?」
「はい」
「カードはすぐできるんか?」
「はい、ギルド内にいるようにと言われました」
「また能力が上がっているのでしょうね、少し楽しみですね」
「えっ、ノームさんがなぜ楽しみなんですか?」
「ライトさんには、早く何でも受注できるようになってもらいたいんですよ」
(なんか、うさんくさいよね、ギルマスって)
「はぁ」
「お嬢さん、じゃなかった、えっと、ライトさん」
「へ? あ、はい」
「貴方には一度、会いたかったんですよ。フリード王子が、影響を受けたというポーション屋だと聞いていましてね。ちょっと私の想像とは違いましたが」
「あー、僕は変な噂とかで誤解されてるのですが、こんな感じです。基本、残念なので…」
「あ、いえ。戦闘力のない子供だとは聞いていたので…。生意気なガキだと思ってたんですよね……実は、王宮ではライトさんは、そういうイメージになっているのです」
「へ? はぁ」
「こんな可愛らしい子だとはね。アマゾネスが知ると大変なことになりそうだ…」
「セシル、だからアレクあたりがそういうイメージを張り付けとるんやろ。変に否定するなよ? アマゾネスは、あかん」
「王宮にアマゾネスが居るのですか? あちらの国の民族ですよね?」
「レン、あっちの国から、かなり渡ってきてるんや。下僕や奴隷が欲しいんちゃうか」
「アマゾネス? 女性ですか?」
「アマゾネスを知らないのかい?」
「あ、はい」
「もともとは、この国の住人じゃないからね。地上にあるもうひとつの国から渡ってきて、理由をつけて居座ってしまってね」
「理由って?」
「王宮の警備を強化するべきだと、まぁ、傭兵のような扱いなのだけどね……ちょっと素行が悪くて」
「ん?」
「アマゾネスは、絶対的な女尊男卑なんや。男は、そのへんの虫ケラ扱いやで。カチンとくると、簡単に殺そうとするんや…」
「そういう価値観なんですね、強そう」
「彼女達は、武闘派でしてね。通常戦闘力は、タイガさんと互角に近いレベルですね、みんな」
「アホか、1対1なら、負けへんわ。あいつら、魔剣禁じといて、何人もつるんで来よるんや」
(…近いレベルなんだ)
「王宮内で、タイガさんに魔剣使われたら、城が吹き飛びますからね、当然禁止ですよ」
(あ、魔剣使うと、タイガさんが圧勝なのかな)
「はぁ、もうアイツらの話はええわ。寒気がしてきたやんけ」
「あはは。タイガさん、でも彼女達は、相手を見て態度を変えてますから、自業自得な部分もあるかもですよ?」
「もう、ええって言うてるやろ。寒すぎて風邪ひくわ」
(あはは……苦手なんだ)
僕は、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。あ、別に、タイガさんを助けるために話を変えるわけじゃないんだけど。
「あの、セシルさんって、上級魔導士なんですよね? 偉い人なんですか?」
「ん? 私が偉い人だと思ったのかい?」
「上級魔導士っていうくらいですから…」
「王宮には、上級魔導士は100人近くいますよ。魔導士を指導する立場というだけの役職ですよ」
「は? 何言うとんねん。上級魔法すべてを修得した奴が、上級魔導士やろが」
「すごっ」
「まぁ、そうとも言いますね。上級魔導士は全員、一度は王宮勤めすることが、義務になってるんですよ」
「心配せんでも、ライトは、上級魔導士には絶対なれへんで。攻撃魔法が無理やからな」
「僕は、そんなこと考えてませんよ。行商をして、お金を貯めて、将来は自分の店を持ってバーテンするんですから」
「あー、店の前に、魔道具買えよ?」
「わかってます!」
「魔道具、買い替えるのかい?」
「こいつ貧乏やから、魔道具はリュックしか持ってへんねや」
「え? それだと、冒険者なんてできないでしょ?」
「…近いうちに、必要なものは買います」
「しかし……セシル、もう平気そうな顔しとんな。なんやねん」
(なぜかタイガさんが……くやしそう)
「だいぶ復活しましたよ。今思えば、ずっと、声が聞こえていたのがなくなり、頭もクリアになりました」
「そーかー」
「よかったです。復活、早いですね」
「キツかったから手を尽くしたよ、まだムラムラするけど…。あんな状態だとまともに魔法も使えないよ、魔導士を無力化できるんじゃないかい」
「えっ」
「確かに、そういう使い方もできるやろけど、別のリスクもあるからな」
「あー、女性がいると、これではマズイですね」
「あぁ、敵味方関係なく、襲う奴もおるやろからな」
「お話し中すみません、ライトさんの新しいカードが出来たようですが」
「あ! すみません。事務所にいると呼び出し聞こえないんですね、すぐに行きます」
「こっちに持ってこい、皆さんがご覧になりたいようだ」
「あ、はい、かしこまりました」
「ノームさん、僕、取りに行ってきますから」
「そんな遠慮は無用ですよ」
そう言うと、ギルマスは嘘くさい笑顔を張りつけたまま、職員さんに持ってくるようにと再び指示をしていた。
その笑顔、めちゃくちゃ感じ悪いって気づいてないのかな。何か企んでいるのが丸わかりなんだよね。
「おまえ、何たくらんどんねん、気持ち悪い顔しとんで。自分で気づかへんのか?」
(あ、タイガさんが僕の心の声を…)
「そんな言い方は、ひどいですね〜。もともとこういう顔なんですよ」
そう言うと、ギルマスは何かの本を棚から出してきた。タイガさんは、チッと舌打ちをしている。
(ん? 何?)
「ライトさん、こちらにギルドの規約が集められているのです」
「はぁ」
「この部分をご覧ください」
「ん? はい」
えーっと…。特定登録者?
特定登録者に該当する冒険者は、ギルドの守護者及びギルドマスターの補佐に就くことを義務とする。
ギルドの守護者の補佐は同じパーティでのサポート、ギルドマスターの補佐は、ギルドマスターが指定したパーティのサポートを行う。
特定登録者とは、能力成長の著しい者、特殊な能力を持つ者、特殊な種族の者、以上のいずれかの条件を満たす者で、ギルドマスターが推薦し、王宮の承認を得た者。
「あの、読みましたが…」
「ありがとうございます。ライトさんを特定登録者として、推薦しようと思っているのですが」
「おまえなー、ライトを便利使いして、自分のポイントを稼ぎたいだけやろが」
「ん?」
「ライト、断っとけ。ロクなことにならへん」
「それは困ります。それにお忘れですか? 3つ条件が揃ってしまえば、断れませんよ?」
(何? なんか嫌な予感がする)
「ここで、この話をするってことは、私に承認してくれってことかい?」
「はい。セシルさんが承認してくださったら、推薦者としてはこれ以上ないほどの…」
「おい、ノーム、おまえ、ええ加減にせーや」
なぜ、こういう議論になってるのか、僕には全くわからない。レンさんの方を見ると、目があった。
「レンさん、これ、どういうことなのですか?」
「特定登録者の承認は、誰が承認するかで格のようなものがつくんですよ。推薦した人が高い格を得ると、ギルマスの階級が上がります」
「階級? ギルマスってギルドのトップですよね?」
「王宮での階級です。26階級あって、ちなみに俺は、警備隊なので一番下の26級からスタートで、今も26級なんですが」
「なるほど…。ということは、セシルさんがもし承認されると、高い格ということなんですね」
「セシルさんがというより、同じ職種の人が、です。普通、魔導士を魔導士が承認しませんから」
「ん?」
「魔導士は、魔導士以外が承認するんです」
「そういう決まりですか?」
「決まりじゃないですけど……うーん、なんて言えばいいのかな…」
そこまで言うと、レンさんは言いにくいことなのか、言葉を選んでいるようだった。
すると、僕達の話を聞いていたセシルさんが口を開いた。
「魔導士が魔導士を承認するということはね、私がライトさんに圧倒的に劣る部分があると、認めることになるんだよ」
「えっ!」
「ひどいよね、ギルマスは、気持ち悪い笑顔でサラリと、私がライトさんより劣っていると言うんだから」
「そんな、まさか。僕は残念で有名なんです」
「ライトさん、あまり自分を卑下した言い方をしない方がいい。場合によっては、相手への侮蔑になってしまうよ」
「えっ、そんなつもりは…」
「ふっ。まぁ、ライトさんのステイタスは知らないから、とりあえず、それを見てからだね」
「おい、セシル、おまえなー」
「私も、そろそろ助けてくれる人が欲しいと思ってたんですよねー。神族になら甘えても、不名誉じゃないでしょう?」
(な、何? まだ裏があるの?)
「ライト、魔導士に承認されたら、さらにややこしいんや。はぁ、もう知らんで」
「ええ〜っ」
「あの、そろそろお渡ししても構いませんか?」
「え、あ、はい、すみません、気づきませんでした」
僕は、そういえば、さっきからずっと立っていた職員さんから、新しい登録者カードを受け取った。
さっそく、顔写真のとこに触れて、ステイタスを表示してみた。
[名前] ライト
[ランク] E
[HP:体力] 770
[MP:魔力] 8,910
[物理攻撃力] 55
[物理防御力] 150
[魔法攻撃力] 22
[魔法防御力] 2,500
[回復魔法力] 38,300
[補助魔法力] 8,700
[魔法適正] 火 水 風 土 他
えー、どうして? 体力ほとんど上がってないじゃん。
MP魔力は、3,000くらい上がって、物理防御力が1.5倍! 物理攻撃力と魔法攻撃力は5だけ上がってる。魔法防御力が2倍、回復魔法力は1.5倍くらいか、補助魔法力が2倍くらい。
うん、着々と成長…。でも体力なんで10しか上がってないんだよ。あんなにうさぎ狩り、頑張ったのに…。
僕は、ステイタスを見て、どんよりしていると、タイガさんに、カードをひょいと取られた。
「おまえ、全然あかんやんけ。山にでもこもるか?」
「はぁ、ほんと……ひきこもりたい…」
「何言うとんねん、山ごもりでもして、修行しとけってことや、残念すぎるやんけ、これ」
「はぁ」
(……頑張ったのに)




