92、ロバタージュ 〜 やはり、あの幻術士
僕はいま、ロバタージュのギルドに、ミッション報告に来ている。今はその精算手続き待ち中なんだ。
いきなり転移魔法で現れた王宮の上級魔導士セシルさんと、タイガさんが話をしていたかと思ったら、タイガさんは彼に、媚薬効果つきのポーションを飲ませたんだ。
僕は、何がなんだかよくわからなかった。
「セシル、さっきの話、もう一回してみ」
「えっ? えーっと……何の話でしたっけ?」
「じゃあ、俺と最後に会ったんは、いつや?」
「えっ? タイガさんとは、あれ? 鮮明に覚えているのは、フリード王子が、ご学友達と雷神の迷宮に行くときの護衛パーティのとき…です」
「そんな昔か…。そのあとは、あやふやか」
「いえ、記憶はあります。でも……何か夢のような…」
「その後、どこかで気を失わんかったか」
「その後ですか? あ、魔道具を買いたくて、玉湯の即売会に行ったときに、時間感覚がおかしくなって半日分の記憶がないことがありました」
「誰か知らん奴と話したか?」
「施設内で、即売会の場所を聞いたくらいですかね…」
「ふぅん。おまえ、何色や? 」
「え? オーラですか?」
「あぁ」
「確か、緑色だったはずです」
「じゃあ、青に操られたな。玉湯か…。さっきまで居たんやけどな」
(ん? 操る? 操り士?)
「タイガさん、俺、ちょっと心当たりがあります」
「なんや、レン」
「湯の谷で、幻術士に会ったんです。ハーフのようでしたが、なんだか少し違和感があって…」
「タイガさん、外からの迷い子です。ゲージ5本でした」
「なるほどな、玉湯で布教活動か…」
「ん? 布教活動?」
「まぁ、ええわ、わかった。そいつは泳がせとこか」
セシルさんは、洗脳解除の後遺症なのか、記憶がこんがらがってしまっているようだった。だが、少しずつ思い出し、記憶も繋がってきたようだ。
「あ! あの新迷宮の調査隊が、全滅してしまったのです。その捜索に向かった隊とも連絡がつかず…」
「その話は、聞いたで」
「えっ、あ、あれ? タイガさんを誘い出して……孤立させれば番犬でも…? あれ? 何を私は…」
「指令を口に出してみて、どうや? 」
「私は、操られているのか」
「まだ声か何かは、聞こえるんかいな」
「はい、遠くで話し声が聞こえます」
「ピンク色の頭はどうなったんや?」
「さっきのクリアポーションで、大丈夫です」
「はぁ? なんでや? 1本しか……あー、洗脳受けてるとあまり効かへんのか」
「私は呪い耐性が少しありますから。まさか洗脳されるなんて……まだ続いているのでしょうか」
「一旦解除したのを、再び遠隔操作で洗脳しようとしてるみたいやな。遠隔操作が可能な術式、もしくは解除されても自動で再洗脳できる術式かもな」
「私は、どうすれば…」
「ライト、まだあるやろ?」
「あ、はい」
僕は、媚薬効果つきのポーションを2本魔法袋から出した。
タイガさんに渡すと、さっきのと合わせて4本、タイガさんは、セシルさんに渡していた。
「洗脳されてる他の奴にも飲ませておけ。何人も解除されると、遠隔操作は諦めるやろ。再洗脳の術式が組まれとるなら、またおまえにポーション飲ませるだけや」
「だれが洗脳されてるかは、わからないです」
「ここ最近、玉湯に行った中で、オーラが青、緑、紫の奴らや」
「あ! 新迷宮の調査隊の生き残り2人は、私と一緒に玉湯の即売会に行きました」
「じゃあ、その即売会の同行者、他には?」
「5〜6人で行ったと思うので、4本もあれば大丈夫です」
「そうか。あ、飲ませる前に、ラベルは読ませたらあかんで。 洗脳されてる奴は、それに気づいてへんからな、媚薬とわかって飲むアホはおらん」
「はい、承知しました。あ…」
「なんや」
「玉湯に来いって。玉湯に行かなければ! 私は…」
「はぁ……あかんな、こりゃ。ライトなんとかせい」
「へ?」
「術者はセシルのこと、諦める気ないようやから、なんとかしたれや」
(むちゃぶり…)
「僕は、そんなことできないですよ…。幻術なんて、わからないです」
「ポーションが解除できるんやから、おまえもできるはずやろが」
「えー」
タイガさんが、アゴをクイクイっとしている。セシルさんは、玉湯に行かなければ!を連呼していて、ちょっと怖い。
はぁ、とりあえず声が聞こえるのがマズイんだよね…。聞こえなければ、再洗脳はされないよね。
何かの術式を組み込まれているなら、頭のどこかに、何かあるはずだよね。受信器的な何かが…。
僕は、セシルさんの頭にスッと左手を入れた。
おとなしく見ていたギルマスが、うぇ? っと変な声を上げた。タイガさんが、ギルマスを睨んだことで、彼は何か言おうとした言葉をのみこんでいた。
僕がタイガさんの方を見ると、頷かれた。ギルマスは黙らせるから好きにしろってことかな?
セシルさんの頭の中を『見ながら』手をゆっくり移動させていった。
ん? やっぱなにかある。僕の手を阻む場所があった。半分霊体化しているのに、通れないんだ。何だ? 変な模様? 侵入禁止ってこと?
「タイガさん、セシルさんの頭の中に侵入禁止の場所があります」
「封印か?」
「ここに、変な模様が…」
「ん? あー、めちゃくちゃ奥やんけ。あんま『見え』へんで。ただ、そんなとこに模様ってことは、さっきのポーションで、上層が削られて奥の術式だけが残ったって感じやな」
「ん?」
「その封印が、ポーションの効果も防いだんやろ。もしくは複数の封印があったのかもな」
「うーん。じゃあ、この辺、切り取りますね」
「は? 脳やろ?」
「ちゃんと、再生しますから」
「ライトさん、あの…」
「レンさん、大丈夫ですよ。もし失敗したら蘇生しますから」
レンさんは心配そうにしていたが、タイガさんは僕を信用してくれたみたいだった。
セシルさんは、いま再洗脳されてる最中らしく、反応はない。
「ライトさん! 上級魔導士ですよ? 万が一のことがあると、ギルドとしても…」
「じゃあ、ノームさんは知らなかったということで、あっち行ってください」
「あ、いや、責任逃れをするつもりでは…」
ギルマスもおとなしくなったので、僕は、魔法袋から、いつものナイフを取り出した。
サッと火魔法で消毒し、模様の辺りを確認した。血管だらけ、神経だらけ…。これは、もう仕方ない、さっさと切り取って、再生だな。
僕は、右手でナイフを持ち、模様に近づいた。侵入禁止のまわりを切ろうとしたが、どう動いても侵入禁止が、邪魔するようについてくる。
こいつストーカーじゃん。僕はイラっとした。すると、ナイフから闇が広がってしまった。やばっ!
だが、僕の闇が触れると、侵入禁止が消え、そして模様に左手が触れた。そのとたん、僕の頭の中に、ガンっと殴られたような衝撃を受けた。
(な、何?)
『おまえは何者だ?』
(模様が念話? 術者はどこにいるんだろ)
すると、僕の頭の中に、映像が流れた。玉湯の、湯の谷の崖の上だった。そこには、あのときの彼が居た。
『おまえは何者だと聞いている』
僕は、念話って、できないんだよね…。無視しよう。向こうからは僕のことがわからないんだな。
まぁ、僕も、映像が流れたから、あの外からの迷い子だと見えたんだけど。
僕は、模様に再び触れた。これを消すには……どうすればいいんだろう? やっぱ切るか。
侵入禁止が消えたので、僕は、模様のまわりを少し凍らせ、ナイフをスーッと入れた。
模様部分を切り取り、そして、再生! うーん、色がおかしい、血が流れてない?かと思ったら、再び模様が現れた。
(うそ! 模様も再生?)
切り取って、頭から取り出した脳の一部には、模様がついている。僕は、切り取った方の模様に触れてみた。やはり、頭をガンと殴られたような衝撃がくる。模様は、摘出しても生きている。
(どうしよう)
「ライト、どないしてん?」
「模様を切り取って、傷口を再生したら、模様まで再生してしまったんです」
それを聞いて、セシルさんが驚いた。
「え? その左手に持っておられる肉片、私の脳なんですか? 切られたの全く気づかなかった…」
「あ、はい。でも、既にキチンと再生しましたからご心配なく…。ただ、切り取っても無駄でしたが」
「術者はわかるんか?」
「はい、見えました。あちらからは念話の呼びかけのみでしたが、無視しました。僕、念話できないから」
「あー、それ、返事してたら、洗脳されるやつやで」
「え…」
「まぁ、ライトは洗脳されへんやろけどな。とりあえず、セシル、あれ飲んどけ」
「また飲むのですか」
「あぁ、もう封印は消えとるやろ、そのポーションで完全に洗脳解除できるはずや」
「わかりました」
セシルさんは、カンパリソーダ風味の媚薬ポーションを一気に飲み干した。
今度は特に霧も出なかった。彼の頭の中を『見て』みると、模様は消えていた。うん、解除成功だね。
「この模様は、消えないですね」
セシルさんから切り取った肉片の模様は消えていなかった。
「それ、もらうわ。術者と繋がってるからな」
そう言うと、タイガさんは、魔法袋から正方形のプラスチックケースのようなものを出した。
その蓋を開けると、中から風船のようなものが……いや、目がある、動いている、魔物だ! が出てきた。
タイガさんが、その風船の魔物を僕の左手に近づけると、肉片をパクッと丸飲みしてしまった。
「え?」
「こいつ、なんでも食うんや。食うても消化できへんから、ヤバイもんの保管庫がわりに使えるんや」
「へぇ。どうやって取り出すんですか?」
「取り出すのは、コイツを割るか、透過魔法やな」
「なるほど」
「で、セシルはどうなったんや?」
「あ、模様は消えてます」
「いや、副作用の方や」
僕は、セシルさんを見た。少し顔が赤い…。僕は、慌ててクリアポーションを渡した。セシルさんは無言で受け取り、飲み干した。しかし、まだまだ辛そうだった。
「セシル、2時間くらいで効果は切れるから、我慢しとけ。俺と違って呪い耐性あるんやろ」
「は、い……はぁ、はぁ、はぁ、キツイ、です…」
(いくら耐性あっても、2本は…)
そこへ、ミッション報告の手続きをしていた職員さんが、戻ってきた。
「ライトさん、レンさん、精算完了です。登録者カードお願いします」
僕は、登録者カードを渡し、報酬として金貨11枚と銅貨50枚を受け取った。
職員さんは、テキパキと、カードに経験値を入れる手続きをした。
「ライトさん、Dランクまでアップできますが、どうされますか?」
「あ、えーっと、1つ上げてください」
「Eランクでいいのですか?」
「はい、身の丈に合わないランクは、つらいので…」
「へ? あ、いえ、すみません。そんなことないと思いますが……では、Eランクにアップしますね」
「はい」
「カードを作り直しますが、能力検査はされますか?」
「あ、はい!」
「では、こちらへ」
「はい」
(体力、どれだけ上がったか楽しみ〜)




