表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/286

89、ヘルシ玉湯 〜 キール風味のポーション

 僕はいま、レンさんと湯の谷の底のトロッコ乗り場の待合室にいる。


 トロッコが来るまでの時間に、ちょっとリュックの整理を始めたんだけど、なんだか変な新作が出来ていたんだ。ラベルが、なぞなぞみたいで…。


 それに、瓶がまた透明なんだ。リュックくんのマイブームなのかな?



「また、新作が出来ていました」


「えっ! 飲んでみましょうよ〜」


「ただ、嫌な予感がするんです……前回の新作と同じく瓶が透明で…」


「んん?」


「前回の新作、変な効果がついていて、飲んだタイガさんに叱られたんですよね〜」


「何がついてたのですか?」


「媚薬効果…」


「えっ、あ、あのときの人生終わるで〜って言ってたやつ?」


「はい。あはは、モノマネうまいですね」


「ははっ、いえいえ。うん、確かに、媚薬なんて飲んだら、何をしでかしてしまうか…」


「ですよね、僕には効かないのでわからないんですけど…。中程度の呪い属性だったんで」


「ライトさん、そんなに呪い耐性、高いんですね」


「闇属性持ちですからねぇ」


「あ、そうでしたよね」


 僕は、新作の説明を読む気になれずに、しばし、ジッと見つめていた。こんなことをしてても仕方ない。僕は覚悟を決めて、怪しげなラベルに魔力を流した。



『化x100』


 変身ポーション。男女逆転。体力を10,000回復する。変身効果は、弱い呪いの一種。効果時間は1日。

(注)効果継続中に再び飲むと変身効果は上書きされる。最後に飲んでから1日で効果は消える。



「はぁ? 何これ……えっ? いちまん?」


 僕が、ぽかんとしていると、レンさんが興味深そうに寄ってきた。


「俺にも見せてください」


「はい、また変なポーションが…」


 僕がレンさんに、新作を渡すと、説明を読んだレンさんは、めちゃくちゃ驚いていた。そして…


「飲んでみましょうよ〜」


「え? まじっすか? レンさん、女性になっちゃうかもしれませんよ」


「どんな感じになるか興味あります」


「えー」


「それに、弱い呪いなら、クリアポーションですぐ解除できるんじゃ?」


「あ、そっか。これは弱い呪いですもんね。だからクリアポーションを大量に作ってるのかな、リュックくん」



 僕は、リュックの中を探すと、何本か出来てるのを見つけた。また、赤い色…。媚薬効果のよりは少し淡い赤かな?


 レンさんがあまりにもワクワクしているので、仕方なく、新作と、クリアポーションを渡した。


「ありがとうございます。では、さっそく〜」


 僕も、1本開けてみた。僕の場合、1万も回復するポーションは、あまりにももったいない気がするんだけど…。


 瓶を開けたら匂いで、わかっちゃった。この匂いでこの色は…白ワインとカシスの香りで赤いカクテル、うん、キールでしょ? 僕は、一気に飲み干した。

 思った通り、キールだ。キールロワイヤルかとも思ったけど炭酸入ってないもんね。



 キールというのは、カシスリキュールに白ワインを入れて作るカクテルだ。アルコール度数は、中程度かな? 甘くて飲みやすいけど、結構強いから、飲み過ぎには注意が必要だ。


 おうちカクテルとしては、飲み残した白ワインを翌日に飲むときに、カシスリキュールを少し入れて混ぜれば完成。これだと白ワインの味の劣化も気にならないから、オススメだ。


 また、白ワインではなく、赤ワインを使うと、カーディナルというカクテルになる。


 カシスシロップと、白ぶどうジュースを混ぜると、キール風のソフトドリンクもできる。こっちは使うジュースによってはかなり甘くなるので、炭酸割りにしても美味しい。


(うん、思いっきり、キールだね)



「ライトさん、俺、どうなりました?」


(あれ? 女性の声…)


 隣を見ると、レンさんの服を着たおとなしそうな女性がいた!


「レンさん? 女性になってます。声も…」


「ライトさんは変わらないですね〜。俺、どんな姿か、自分で見れないです。ミラー魔法、使えたりします?」


「ミラー? あ、鏡? 使ったことないです…」


「じゃあ、玉湯のホテルロビーのガラスで見るしかないかぁ」


「ん? もしかして、そのまま、ホテルロビーに行くつもりですか」


「え? 変ですか?」


「いえ、別に変ではないですが…。服がぶかぶかかも…」


「あー、ほんとですね〜」


 そう言ってレンさんが立ち上がると、背もかなり低くなっていた。でも、僕と同じくらい…。


「動きにくいとかはないですか?」


「大丈夫です。逆に身体が軽くて動きやすいかも〜」


「じゃあ、よかったですが…」


「うん?」


「いえ、見慣れない女性がいると、なんだか落ち着かないです」


「あははっ、俺は、居心地いいです」


「あ、いや、そういうことを言われると、なんだか勘違いしてしまいそうなので…」


「っぷぷ。このポーション、楽しい!」


「えー」



 ガタゴト ガタゴト ガタゴト



「あ、トロッコが戻ってきた! ライトさん、行きましょう」


「あ、は、はい…。あの、腕を掴まないで…。な、なんで腕を組むんですかー。ダメですよ」


「え? なぜですか?」


「いま、レンさん、女性なので…」


「だから、この方がカップルっぽくて、面白いじゃないですか〜」


「いえ、あの、腕を組むのは…」


「ん? 嫌ですか?」


「あの……あ、当たってますから…」


「なにが?」


「腕に、あの、えっと、柔らかなものが…」


「キャハハッ! ほんとだ〜」


「ちょ、その女の子のような笑い方って」


「ぷぷっ。ライトさん、女性にからかわれること、多くないですか?」


「あー、確かに…」


「あははっ。やっぱりー」


「えーっと…」


「ライトさんが、女性からどう見えるか、少しわかっちゃいましたよー」


「は、はぁ」


「っぷぷ」



 トロッコからは、たくさんの冒険者が降りてきた。こちらから乗るのは、まだ僕達だけしか客はいなかった。


 発車間近になって、冒険者達が駆け込んできた。彼らは、僕を見てハッとしていたが、その横に女性がいるので声をかけるのを遠慮したみたいだ。

 でも、コソコソ話が聞こえてくる。


「あの人、レア退治した人だろ? あれ、彼女か?」


「冒険者風だけど見ない顔だよな。おとなしくて従順そうじゃねぇか」


「そういや、あの警備隊はどこへ行ったんだ?」


「別ルートで帰ったんじゃねーか」



 レンさんは、このコソコソ話を聞いて、めちゃくちゃ楽しそうにしていた。


「俺って、おとなしくて従順そうなんですね。ぷぷっ」


「えっと、うん、上品な感じです」


「あ、じゃあ、俺じゃなくて、わたくしって言わなきゃ」


「えーっと……どんだけ気に入ってるんですか」


「だって楽しいんだもの。別人になるのって」


「ま、また、女の子の話し方…」


(ダメだ、完全にワクワクしてるよ……あ、トロッコだからかな)



 やっと発車時間になった。ガタゴト、ガタゴトと、汽車のような音を立ててゆっくり進み始めた。


 そして、トロッコが光った?と思った瞬間、ビューンっと急加速した。


 え? 何? と僕が混乱していると、すぐまたガタゴト、ガタゴトに変わり、リゾートホテルの地下のトロッコ乗り場に到着した。



「えっ? 何が起こったんですか?」


「ライトさん、到着ですよ。ワープ魔法ですよ」


「転移?」


「あー、転移と同じような原理だと思いますけど、ちょっと違うみたいですが」


「確かに、転移酔いしなかったです」


「たぶん、距離の差じゃないかと思います。 ワープ魔法は、せいぜい馬車で半日くらいの距離までしか使えないそうですが、転移魔法は、どの転移魔法陣にでも飛べるから」


「あ、なるほど。ワープ魔法って近距離用なんですね」


「それから、転移魔法陣は、街の中には作れないけど、ワープ魔法はどこでも使えるんですよ」


「確かに、転移は街の外に出なきゃですよね」


(だから女神様の変な猫は、街の出入り口まで転移魔法を使わないんだな〜)


「俺は、じゃなかった…わたくしは、トロッコの方が転移より好きです、わ」


「…レンさん……無理して女の子の話し方しなくていいですから〜」


「あははは。練習が必要ですね」


「いやいや、練習しなくていいですから〜」



 トロッコ乗り場から、階段を上ってホテルロビーに向かった。

 あ、今まで気づかなかったけど、ロビーのフロント前のガラス、裏側からだと光の加減で鏡になってる。


 レンさんは、鏡の前に立って、服装を整えていた。ぶかぶかな服だけど、ウエストのベルトをしぼったり、袖を折り返したりしている。


(姿を見たのにまだ解除しないつもりかな…)


「レンさん、そろそろ元に戻ったらどうですか?」


「タイガさんにも見せないと〜」


「えーっと…」


(さっさとタイガさんを探そう)


 僕は、まだ服の調整をしているレンさんの横で、タイガさんを探して『見た』


 こんなたくさん人がいる中から、探すなんて無理な気はしていたんだけど、やはり見つけられない…。


(はぁ、だよね、タイガさんどこに……ん?)


 急に、僕の頭の中に、映像が流れてきた。店の中で、数人の女性と飲んでいるタイガさんの映像。


(え? 何? これ、どこ?)


 すると、スーッと視線が動いていって、店の入り口の看板の映像が流れた。あ! 一緒にごはん食べた店だ! でも、なぜ映像が……ん?


 映像は、近くをふわふわ飛んでいたチビ生首を映した。そして映像が切り替わると、店の入り口の前で、お気楽そうな顔をしているチビ生首が映った。


(え? もしかして、チビ生首達が?)


 すると、お気楽そうな顔が、めちゃくちゃ嬉しそうな表情に変わった。まるで褒めて褒めてと言っているかのような、ちょっと自慢げな表情でもある。


(すごい能力だね…)


 僕がそう思うと、チビ生首は、クルクルと飛び回った。これは、たぶん、はしゃいでいる。


(ありがとう、もういいよ。場所はわかった)


 そう頭の中で思うと、映像はスッと消えた。


(スパイみたい……だから、わざわざ魔族が、支配権を取り返しに来たのか…)



「レンさん、タイガさんは、前に一緒にごはん食べた店で飲んでるみたいです。行きましょう」


「ん? は〜い」


 僕達は、タイガさんのいる店に向かった。でも、さっき居たはずの生首達は居ない。あの映像って、まさかニセモノじゃ?


 店内に入ると、さっき見たままの状態だった。僕に気づいたタイガさんは、立ち上がり、怪訝な顔をしている。


「ライト、おまえ、何ナンパしてんねん? 湯の花は終わったんか」


「終わりましたよ。それにナンパしてません」


 僕達は、タイガさんの近くへと移動した。


「タイガさん、わたくしのことがわからないの? ひどいわ」


(ちょ、ちょっと、レンさん…)


「あらあら、タイガ、こんなお嬢さんにまで…。ちゃんと、誠意を示しなさいよー」


「はぁ? 俺はこんな女……知らんと思うんやけど、ごめん、誰やったっけ?」


「タイガさん、あの…」


「あたし達は、いくねぇー。タイガ、ごちそうさま〜。ちゃんと話し合いなさいよー」


「なっ……あぁ…」


 そう言うと、彼女達は、お店を出て行った。



「で、誰やっけ?」


「レンフォードです」


「……ん?」


「レンさんですよ。新作ポーションでこんなことに…」


「はぁ? なんやねん、おまえら! めちゃくちゃ焦ったやないけ。あー、もー、クソガキども!」


(だって、レンさんが…)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ