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87、ヘルシ玉湯 〜 結局、なんだったんだ?

 いま、僕の目の前には、普通ならありえない人達がいる。地底から、魔族が次々と出てきているんだ。


 彼らは、地上で人に擬態した火の魔物の調査に来たと言っている。


 女神様によると、彼らは、火の魔物の支配権を人族から取り返したいのだという。

 ここヘルシと繋がる地底の火山にも、このチビ生首が飛び回っているらしい。この種族は、感情が伝染していくようなんだ。

 魔族としては、魔物が、人族に媚びているということが許せないのだろう。


 そして、いま、僕は魔族の国スイッチを入れている。そう、はったりスイッチだ。


 探しているのは僕だと申し出たのに、彼らは僕を卑下するだけで、信じていないようだった。


 すると、チビ生首達が、まるで僕を守ろうとするかのように、僕の前に集まってきたんだ。




「まさか、おまえのような人族のガキが、コイツらの主人だと?」


「そうみたいですね」


「なっ? なんだ、その態度は! あまりにも戦力差がありすぎて、恐怖さえ感じないようだな」


(はぁ、みんな魔族って、こんなんばっかり?)


 僕は、なぜか怖いとは思わなかった。もちろん、彼の戦力は知らない。でも、いま僕は魔族の国スイッチを入れているから、強気だった。それに彼は、大魔王様に比べるとあまりにも小者だった。


「なんだ? 次官様の覇気に、声が出なくなったのか?はっはっは」


「事務次官ってことですか? なら規律を守るべき立場ですよね。そもそも地底から地上に出ることは禁じられているはずですよね」


「通行の許可は取ってある!」


「誰が申請を?」


「我が魔王さまが、大魔王様に進言なされたのだ」


「で?」


「なんだ! その態度は!」


「メトロギウス様が、妹さんにお願いされたということですか?」


「なっ? なぜ、人族のガキが!」


 大魔王様の名を出すと、魔族は急に警戒したのか、何か相談を始めた。

 光はまだ消えない。ひとり、またひとりと、魔族が出てくる。一体何人の調査団なんだろう?



 その隙に、レンさんが小声で話しかけてきた。


「ライトさん、なぜ大魔王様の名を? 貴方は一体?」


「会ったことがあるんです。僕は、半分アンデッドなんで…」


「ええーっ!?」


「すみません、黙っていて。怖がられると思って話せなくて…」


「いえ、俺も、ライトさんに怖がられると思って、魔族の血が濃いハーフだと話せなくて…。あはは、なんか似てますね」


「ですねー」


「ってことは、やはり……女神様の…」


「はい。秘密ですけどね〜」


「了解です。でも……彼らには、それを言う方が早く引き下がると思いますけど」


「冒険者達が、いっぱい居ますからねぇ…」


「あ、そうですよね」


「ふぅ、でも、仕方ないかなー」




 相談が終わったのか、さっきよりも魔族の数が増えたからか、次官と呼ばれたリーダー格の人が、こちらを向いた。


 冒険者達や、店の人達は、少し離れた場所で遠巻きに見ている。話し声は、完全には聞こえない距離だ。でも、魔道具や魔法で、聞いてる人もいるだろうな。



「おまえ、何者だ?」


「僕ですか? 冒険者ですよ」


「魔族の事情をなぜ知っている?」


「さぁね」


「おい! また舐めた口を! 俺はいつでもおまえごときの口は封じることができるのだぞ!」


「はぁ、それで、何なんですか」


「何? 貴様っ!」


 僕は念のため、バリアをフル装備、僕とレンさんにかけた。


「で、何の用事ですか? あなた達が次々と増えるから、気分悪いんですけど」


「おまえ!」


「ケンカ売りに来たんですか? 買ってあげましょうか? うっかり命を落としても責任取りませんけど」


「なっ!」


「おい、やめておけ。コイツは、認識阻害をしているぞ。俺にさえ、ダミーの数値しか見えない」


(いやいや、それで合ってるんだけどな、たぶん)


「えっ、本当か」


「隠していない回復力だけは見えるがな……異常値だぞ。おそらく不死だ」


 なんか、またコソコソと他の魔族が話しかけたりして、相談タイムに突入している。



「で? もう奴らの主人がわかったんだから、調査終了ですよね? さっさと帰ったらどうですか」


「そういうわけにはいかぬ。火の魔物の支配権を、こちらに返してもらわねば」


「はぁ、どうぞ。好きにしてください。僕は別に、配下なんていりませんから」


「へ? いま、なんと?」


「支配権の譲渡方法なんて知りませんけど、勝手に持っていってくださいって言ったんですが」


「譲るということですか」


「それを取り返しに来たんでしょ? なら、さっさとアイツらに言い聞かせでもして、お引き取りください」


「アイツらは……より強き者にしか…」


「あなた達の方が強いんでしょ? 誰かが引き受ければいいじゃないですか。もう、帰ってください」



 魔族達は、何かを相談している。譲渡方法なのか、誰に移すかとか、話し合っているのか…。



 パタパタ、パタパタ



(ん? この走り方は…)


「やっぱり、ライトだー」


「やっぱり、ライトだー」


「わっ! クライン様! ルーシー様! どうして?」


「だって、あの魔物の顔って、ライトだと思ったんだ」


「そーよ、そーよ」


(なんか、懐かしい)


「お元気でしたか?」


「おう! あ、爺ちゃんが、アイツらの主人がライトなら、配下1号にしていいって言ってたぞ」


「ん? そうなんですか。第1配下は絶対ダメって、言われてましたが…。2号とか3号でも大丈夫ですよ」


「いいって言ってた」


「そーよ、そーよ、言ってたよ」


「でも、僕が1号だと、クライン様の格が下がってしまうんですよね」


「そんなの気にしなくていいぞ」


「そーよ、そーよ」


「ありがとうございます。嬉しいです」


「じゃあ、決まりだからねっ! わかった?」


「はい。クライン様、かしこまりました」


「やったー!」


「やったね、クライン」


「おう!」


(相変わらず、元気いっぱいで、かわいい)



 このチビっ子ふたりの来襲に、レンさんが驚いていた。それ以上に、このやり取りを見ていた魔族達の方が驚いていたようだけど…。


「ライトさん、こちらのおふたりは? 悪魔族に見えますが…」


「はい、そうですよ」


「ライト、この人だれ? 雑種だね〜」


「ライト、この人だれ? ちょっとだけ強いね」


「僕の友達です」


「レンフォードと申します。もしかして大魔王様の…」


「うん、爺ちゃんだよー」


「うん、爺ちゃんだよー」


「ふふっ、逆ですよ? 大魔王様の、孫だと答えるところです」


「おわっ! 間違えたー」


「ちょっと間違えた気がしてたー」


「えー、ルーシーずるい」


「お姉さんだもん」


「ご姉弟なんですか?」


「レンフォード、違うよー、いいなずけ」


「そーよ、そーよ」


「えっ? 許婚! あ、名前、長いですから、レンでいいですよ」


「わかった、レン」


「わかった、レン」


(相変わらず、息ピッタリだね〜)



「ライトさん、お久しぶりですね」


「わっ! ハンスさん、いつの間に?」


「この子達のすぐ後ですわ。なんだか、先にお邪魔した奴らが失礼なことを言っていたようですが…」


「ははっ、僕も失礼な言い方をしましたからね」



 ハンスさんと挨拶をしたすぐ後に、さっきの彼らが近づいてきた。しかし、さっきまでとは随分と違う。

 やたらとハンスさんの方をチラチラと見ている。


「あの、ハンス様、火の魔物の支配権ですが…」


「何か問題でも?」


「え、いえ、あの…この人族が主人というのがですね…」


 すると、ハンスさんは、声のトーンを落として、内緒話をするように話し始めた。


「おまえ達は、火の魔物の主人が…ライトさんが何者か、まだわかっていないのか?」


「えっと、ちょっとマズそうな人族だとは…」


「何を言ってる? ライトさんは、神族だ。女神イロハカルティア様の番犬なんだよ。ですよね、ライトさん」


「えっ? あ、はい」


「ひっ、番犬? うぇ〜」


「大魔王メトロギウス様も、おふれを出されたのに覚えていないのか? ライトはうっかり者だから気をつけよ、と」


(な、何? まだあの門番の話、してるの?)


「はわわ! 覚えています! 力加減をうっかり間違えて、門番を瞬殺してしまった死霊! 」


「死霊のくせに、蘇生魔法を使って、門番を生き返らせ、治したから文句ないだろうと言っていたという傲慢な…」


(僕、そこまでひどい言い方はしていないはず…)


「あの、大声で死霊って言わないでください。ここでは、僕は人族なんですから」


「はっ、はい」


(何? 素直で気味が悪い…)


「ライトさん、あの火の魔物ですが…」


「支配権をそちらに移しに来られたのでしょうから、どうぞ、移してください」


「いや、メトロギウス様は、もし主人がライトさんなら、別にこのままでいいとおっしゃってたんですわ」


「えー…でも…」


「ちょっと、呼びましょうかね〜」


 そう言うと、ハンスさんは、何かの呪文を唱えていた。すると、チビ生首達が、 ふわふわと寄ってきた。それに、チビ生首達の進化種だという湯の花に化けていた魔物まで…。


「おまえ達の主人をどうするべきかを話しにきた」


『ライト サマ ニ オツカエ シマス』


「念話できるんですか」


「ええ、花に化ける奴は、少し知能がマシなんですわ。ちびこい奴らとは常に意識を共有してますからね、コイツに聞けば、ちびこい奴らの意思がわかるんですわ」


「へぇ…って、ええ? 僕に仕えるって言いました?」


『ハイ、ライト サマ ニ オツカエ シマス』


「だそうですわ」


「いや、でも僕、コイツらの面倒見ないですよ? そもそも、滅多に会うこともないでしょうし」


「それは問題ありませんよ。ただ、コイツらに脅威が襲うと……ライトさんを呼ぶかもしれませんけどね」


「えー」


「まぁ、レアモンスターが暴れる程度ですわ。たいしたことは起こらないかと」


(いや、たいしたことですよ、それ)


「はぁ」


「もし、ライトさんが動けないときなら、クラインが動きますわ」


「主君が、自らですか?」


「はい。ただ、戦闘力はまだまだなので、サポートはしますがね。これもクラインの成長に必要なことなんですわ」


 クライン様の方を見ると、ルーシー様と、レンさんとで、何やらコソコソお話中だった。なんだか、悪い予感がする。


 そして、結局、支配権も変わらず、彼らは魔族の国に戻ることになった。


「ライト、あれ、あるー?」


「ありますよ、どうぞ〜」


 僕は、魔法袋から、ポーション3種を10本ずつ出した。


「必要な人で、分けてくださいね〜」


「おう! わかった」


「では、また、石山にもお立ち寄りくださいね」


「はい、ホップをいただきに行きますね」


「ライト、またな〜」


「ライト、またな〜、ばいばい」


「はい、クライン様もルーシー様も、また」



 そして、魔族達は、光の中にスーッと消えていった。


 結局、なんだったんだ。チビ生首達が、僕の配下決定ってことの確認? はぁ…。


「ライトさん、俺、彼らに遊びにおいでって誘われちゃいました。それからライトさんのことも教えてもらって…」


「えー、遊びに行くのはいいんですけど…。何を聞いたんですか? 悪い予感しかしないですけど」


「あはは、武勇伝ですかねー。悪鬼の種族の〜」


(また、あれか…門番話…)

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