表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/286

86、ヘルシ玉湯 〜 レンフォードの秘密

 僕はいま、湯の谷の底にいる。湯の花を採取するミッションを終えたところなんだ。後はタイガさんと温泉で合流して、ロバタージュに戻るだけだ。


 いま、湯の花のフリをした魔物が、少し離れた場所で暴れ始めたため、湯の花はどんどん崩れていっている。


 そのため、湯の花を採取しに来た冒険者は、湯の花が再び咲く明日朝まで、待たなければならなくなってしまったようだ。


 こういう騒ぎはよくあるようで、この場所には、露店だけじゃなく、簡易宿泊所もあるようだ。

 でも、ここは硫黄の臭いがすごいんだ。宿泊するには勇気がいるんじゃないかと思う。



「ライトさん、どっちから戻りましょうか?」


「ん?」


「さっきは、交換したかったので、草原から降りてきましたけど、地下道のトロッコで戻る方法もあるんですよ」


「トロッコ?」


「はい、ただ、有料なんですが……ビュイーンって進むので、速いですし、楽しいんですよ」


(トロッコ乗りたいって言ってるよね?)


「レンさん、トロッコって、初めて乗っても怖くないですか?」


「大丈夫です! 楽しいですよ」


「じゃ、じゃあ、トロッコで戻りましょうか」


「うんうん、そうしましょう!」


 レンさんは、急にワクワクした顔になっている。僕と似てると言われたりするけど、こういうとこは違うよね。僕は、好奇心より、安全第一だもんね。


(でも、ビー玉、拾いたいな…)


「レンさん、トロッコの前に拾いたいものがあるんですが、いいですか?」


「はい、素材ですか?」


「うーん、まぁ、そんな感じです」


「じゃあ、ついていきます。どこですか?」


「えーっと、土の中なので、透過魔法で行ってきます」


「そっか、じゃあ、俺はお土産屋をのぞいてますね」


「はい、すぐに拾ってきますね」



 僕はレンさんと別れ、ビー玉の…宝玉の光の方へと近づいていった。透明化!霊体化! を念じ、谷底の土の中へと入っていった。


 ビー玉を掴む瞬間だけ、手を半分だけ実体化する。そして掴むとスッと上に戻った。

 霊体化だけを解除し、うでわの小箱を手探りで探し、ビー玉を入れ、うでわを閉じた。


『ライト、ひとつだけなのか?』


(はい、今いる場所には、ひとつだけでした)


『ふむ。熱くも何ともないのじゃ』


(…熱い方がいいのですか?)


『別に、そんなことは言ってないのじゃ! それより生首の配下じゃがの…』


(配下にした記憶はないですけど…)


『それは甘いのじゃ。他の場所にも、アレが伝染しておるのじゃ』


(は? 意味がわからないのですけど…)


『ヘルシと繋がる魔族の国の火山にも、ライトの生首が飛び回っておるのじゃ』


(えっ! 繋がるって、あ、イーシアみたいに出入り口があるんですか?)


『うむ。あるんですのじゃ。地上から伝染したからの……仕方なく調査団の通行を許可したのじゃ』


(調査団?)


『魔族の国から、人型の事務官が調査に行くそうじゃ。まぁ、テキトーによろしくなのじゃ』


(え? どうすれば?)


『うーむ…。火の魔物を従えるのが人族だと困るらしいのじゃ。だから支配権を取り返しに行くのじゃろ』


(へ? 僕、殺されるんですか?)


『ライトはアンデッドでもあるのじゃ。死ぬわけないのじゃ! まぁ、テキトーによろしくなのじゃ。あ、落とし物係だとは言うでないぞ』


(え? 何かマズイのですか?)


『番犬ならバレてもよいが、落とし物係はマズイのじゃ! 殺そうと狙われるのじゃ! ってことでまたね、なのじゃ!』


(え……まじっすか)




 僕は、とりあえず透明化を解除し、レンさんを探しに行った。お土産屋さんって……露店かな?


 あちこちの露店を見て回っていたが、レンさんの姿はない。それに、温泉たまごも売っていない。


(うーん…いないなぁ)


 外の露店は、だいたい見てまわったから、あとはあの建物かな…。宿泊所の看板が出ている建物の入り口付近には、たくさんの人だかりができていた。


 その入り口付近では、何か揉めているようだった。僕は近づいてみると、その中に、レンさんが居た。


「レンさん」


 僕が声をかけると、レンさんと共に、何人もの人が僕の方を見た。なんだか、様子がおかしい?


「ライトさん、そこで待っててください」


(えっ…でも…)


 僕がどうしようかと立ち尽くしていると、この騒ぎを見ていた人に声をかけられた。


「兄さん、あの警備隊の知り合いか?」


「あ、はい。あの…」


「まさか、あんたも警備隊か?」


「いえ、僕は行商人です」


「なんだ、じゃあ、あんたも騙されてるんじゃないか」


「え? 何をですか?」


「あの警備隊、人族じゃないらしいぜ」


「えっ?」


「その様子じゃ、知らないらしいな。湯の花に化ける火の魔物がな、あの警備隊には攻撃を仕掛けないんだよ」


「はぁ…」


「ピンときてねーみたいだな。湯の花に化ける火の魔物は、この谷の上にいる大量のザコの進化種なんだよ」


「へぇ」


「いわゆるこの谷の覇者だからな、プライドが高いんだ、魔物のくせに。暴れ始めると手に負えないんだ」


「はぁ」


「花のフリをしていないときに近づくと、絶対、火の玉を飛ばしてくるんだぜ」


「ほぅ」


「なのに、あの警備隊が近づくと、道を譲ったんだ。おかしいだろ?」


「ん? 彼が強いからでは?」


「はぁ? Sランクの俺にも火の玉を飛ばしてくるんだぜ? 強いかなんて、わかってねーよ」


(あ、自慢?)


「で、何を揉めているんですか?」


「あの警備隊が、魔族だってことだよ」


「ん?」


「人族のフリしてるが、俺はサーチ持ちでな。アイツの戦闘力を測ってやったんだ」


「へぇ。強いんですか」


「あぁ、俺より強い…。魔族に違いない」


「魔族だとマズイんですか?」


「当たり前だろ。地上を支配しようとしてるらしいぞ。その手下ってことだろ?」


「うーん。魔族の血が混ざってる人って多いみたいですし、そっち系では?」


「あ! ハーフか……地上で生まれたなら人族か…。おーい! おまえら、そいつ、ハーフかもしれんぞ」



 ハーフかもしれないと聞いて、人々の態度は少し変わった。なるほど、地底からの侵略を恐れてるだけなのか。


 すると、突然、硫黄の臭いがツンと、きつくなった。そして、目の前の入り口近くの湯気が出ている地面が光った。


(嫌な予感がする…)


 みんなが光に気を取られている間に、僕はレンさんのもとへと駆け寄った。



「レンさん、大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。それに……ライトさん、すみません」


「ん?」


「僕、魔族です…」


「え?」


「母はハーフで、父は魔族です…」


「そうなんですか〜。だから強いんですね」


「えっ?」


「はい?」


「あの……怖がらないんですか? 」


「えーっと……レンさんはレンさんですし」


「…ライトさん、変わってますねー。もしかして、犬ですか?」


「ん? 」


「あ、いえ、まさかね。すみません、忘れてください」


「あの、レンさん、質問していいですか?」


「はい」


「魔族だと、何か困るのですか?」


「へ? いえ……ただ警備隊は、ハーフで登録していますが…。血が濃いことがバレると少しややこしいけど」


「仕事がなくなる?」


「いえ、地上生まれですから、それはないかと…。部署が変わりそうですね」


「窓際族に?」


「窓際族? えーっと、討伐班にされちゃいそうです」


「あ、戦闘系の部署?」


「はい」


「うーん、じゃあ、内緒にしておきましょう。もしかして、タイガさんは知ってます?」


「あ、はい。速攻で見抜かれました。俺も、セイラも…」


「え? セイラさんも?」


「俺の生まれ育った集落は、みんなハーフなんです。ハーフの隠れ里だから…」


「そうなんですね」


「本来なら、もう一つの国に移住しなきゃならないんでしょうけど…。でも魔族というより人族に近い人の方が多いから、あっちの国に行くと滅ぼされるって」


「そっか…。魔族は、チカラこそ全てなり、ですもんね」


「え? どうして、それを?」




 ギャー! うわぁ〜!!


 突然の叫び声に、僕達の話は中断させられた。


 光の中から、人族に見えない異形の者達が、ひとりまたひとりと現れたのだ。いろんな種族がいる。


「魔族が、地底から出てきたぞ!」


「あの警備隊が、呼んだんじゃないか」


 突然の異形の戦闘力の高い者達の出現に、冒険者達や、ここで商売をしている人達はパニックになっていた。


 腕に自信があるはずの、さっき僕達にからんできた高ランクの奴らも、固まってしまっていた。



 みんながパニックになるのを、魔族達は、シラーっとした目で見ている。そして、そのひとりが空に向けて、空砲のようなものを鳴らした。ドガン!


 その大きな音に驚き、みんな一斉に固まった。僕も、驚いて、声が出なくなった。


 すると、空からハラハラと赤黒い雪が舞い降りてきた。そう、チビ生首達だ。


 そっか、レンさんやセイラさんが、奴らをかわいいと言っていたのは、魔族の血のせいなんだ。



 だが、僕の予想は大きく外れた…。固まっていたはずの冒険者達が、口々に、生首達を見て緊張を忘れている。


「ひゃー、かわいい魔物が降ってきた」


「上の火の魔物、おとなしくなって可愛くなったよな」


「レアを倒した人族に擬態してるんだよ、こっちから手出ししなきゃ無害だぜ」


「人族に媚びてるのか、かわいいじゃねーか」


(うそ…)



 その様子を見て、生首達を呼び寄せた魔族が、口を開いた。


「我々は、侵略に来たのではない。コイツらの調査に来たのだ。レアモンスターを討伐し、コイツらの主人になった人族を探しに来た」


(げっ! やっぱり…)


「隠し立てをすると、この地の地形が変わりかねないぞ」


(はぁ……ザ・魔族! って感じ…)



「冒険者だ! 顔は知らねー」


 魔族達は、ぐるりと見渡した。冒険者達はすっかり威圧されてしまっていた。


「顔は、コイツらを見ればだいたいわかる。だが……人族は顔の区別がつかぬ」


「ここに連れて来い。それが出来ねば、おまえ達、全員の命をもらう」


(むちゃくちゃじゃん)



 僕は、レンさんを見た。でも、レンさんは首を横に振っている。


 奴らは僕を探しに来たんだ。さっき女神様が言ってた調査団なんだろう。

 僕を見つけて、生首達の支配権を取り戻すまでは帰らないだろう。そんな支配権、さっさと渡すよ。ってか、そもそも生首の配下なんていらない。


 僕は、レンさんをもう一度見た。レンさんは僕の意図がわかったようだった。今度は頷いてくれた。


「ライトさん、一緒に行きます」


「レンさん、心強いです」



 僕は、奴らの前に歩み出た。レンさんも、それに続いた。


「はぁ? おまえらが知ってるのか? そっちは、ハーフか、ふぅん」


 僕は、魔族の国スイッチを入れた。ん? なんのスイッチかって? もちろん、はったりスイッチだ。


「あなた達の目は節穴ですか? 僕を探しに来たんですよね?」


「なっ? なんだと? 人族のガキが!」


 すると、赤黒い雪が、チビ生首達が僕の前に集まり始めた。まるで僕を守ろうとするかのように…。


「やっぱり、かわいいですね、コイツら」


「え? うーん…」


(えー……生首だよ?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ