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83、ヘルシ玉湯 〜 横取り冒険者達との再会

「アイツら、おとなしいですね。同じ種族だと思えない」


「源泉で囲まれたときは、凶暴だったわよね」


「もともと臆病な奴やから、擬態して媚びるんや。今はライトの機嫌をうかがうのに必死なんやろ」



 いま、僕は玉湯のリゾートホテル前にいる。施設内に突然、顔が付いた幽霊が発生したと大騒ぎになっているんだ。その正体は、レアモンスターに擬態していた火の魔物らしい。


 奴らは、僕に擬態して媚びているんだという。正確に言うと僕に似た女性の顔のつもりらしい。

 僕がレアモンスターを討伐したから、奴らは自分達を守るために、こんな行動をするそうだ。



「でもキモイですよ。赤黒い霧の胴体に生首が乗っていて、生首がみんなこっちを見てるなんて…」


「ライトさん、でも、あの子たち、小さくてフワフワなボールみたいで、かわいいじゃないですか」


「女の子みたいですよね、ライトさんに似てるかはわからないけど…」


「ライト、急にモテ期が来たんちゃうか」


「生首にモテても嬉しくないですけど」



 さらに、奴らは、どんどん集まってきた。あちこちで客を追い回していた奴らも、仲間が呼ぶのか、1ヶ所に集まってきている。


 そして、人も集まってきた。追われてた客や、施設の人や、この騒ぎを聞きつけた他のエリアにいた人達、さらに、この魔物を討伐しようとする冒険者達も。


 その中には、レアにやられて転がっていた冒険者達もいた。そのそばには、高そうな服を来た紳士がいる。


「英雄パーティの皆さん、あの魔物をすべて消し去ってください。あんなのがいると施設の営業ができません」


 高そうな服を来た紳士についていた執事らしき男性が、冒険者達に話しかけていたのが聞こえた。


「えっ? 英雄パーティってことは、源泉のレア退治をした人達じゃない」


 僕達の近くにいた利用客が、ホッとした様子で話している。あの7人、英雄パーティって呼ばれてるんだ。


「そうね、助かったわ」


「英雄さん達、早くなんとかしてくれよ」


 レア退治の英雄登場に、盛り上がっている。



「アイツら、アホやから調子に乗りよるんちゃうか」


「ん? タイガさん、どういう意味ですか」


「おまえの手柄を横取りするアホやで? こんな人が多い中で、派手なもんぶちかまそうなんて……ほらな」


 ドォオーン!!


 軽い地震が起きた…。英雄パーティと呼ばれたメンバーのひとりが、竜巻のような風を起こし、生首達がいる近くの木を切り倒したのだ。


「えっ! 燃えるんじゃ…」


「アホやな」


 倒された木の下敷きになった生首は、もとの火の魔物に戻った。そう、そのカラダは火の粉を纏っている。

 竜巻の風にあおられ、火はみるみるうちに木を燃え上がらせた。


「ちょっとあんた! 火の魔物に竜巻剣を使うなんて、何考えてんねん、アホちゃうか」


(あ、ミサさん…)


 ミサさんは、竜巻で木を切り倒したメンバーを殴っていた。


 風であおられた火は、他の木にも移ろうとしていた。下敷きになっていた生首達は、仲間を殺された報復のためか、英雄パーティ達の方へと群がっていった。

 そして、火を吐き散らし、またあたりは騒然としてしまった。



「おい、アホ娘!」


 タイガさんが大声で怒鳴った。その声に、英雄パーティと呼ばれていたメンバーは、僕達がいることに気づき、顔をこわばらせていた。


「ちょっと! いるなら、こうなる前になんとかしてよ」


「なに甘えとんねん、自分らの尻ぐらい自分らで拭けや、どアホ!」


「ッ…なんやて?」



 ミサさんが、ツカツカとこちらにやってきた。親子ゲンカが始まると同時に、火の魔物達は、英雄パーティを襲い始めた。奴らは仲間を殺されると凶暴化するようだ。


 彼らは高ランクのパーティのようだ。それなりに腕は立つ。だが、火の魔物の数は圧倒的で、バリアを使えない剣士達には、苦戦する相手だった。


「レア退治をされたメンバーなのに、火の魔物には弱いのですか!」


 なんだか、執事風の人が厳しいことを言っている。まぁ、この辺りの美観が焼き払われそうになっているんだ。怒るのも無理はない。


「ミサ、いまケンカしている場合じゃないわ」


 セイラさんが、親子ゲンカの仲裁に入った。すると、ミサさんは、ハッとしてすぐケンカをやめた。


「そうやな、ってかセイラ、大丈夫なん? 魔力切れ」


「うん、ライトさんが魔ポーションくれたから」


「えっ! めちゃくちゃ高いで? タダで?」


(なんか……ちゃっかり者?)


「うん、レンが払うって言ったけど、ミッション中だからいいって」


 すると、ミサさんが僕の方に寄ってきた。


「あんた、そんなんやと商売人として失格ちゃう?」


「えっ?」


(なんで? 叱られた?)


「人情と、金は、キッチリ区別せなあかんで。そんな甘っちょろいことでは行商人なんてできへんで」


「えーっと…」


「こら、アホ娘! こいつの手柄を横取りしといて、なに説教しとんねん」


「あー、まぁそれは場の流れやんか」


「もう、ミサ、ケンカしないの! それより、あの人達、放っておいていいの?」


「火の魔物、こんなにいると剣士には不利ですよ」


「じゃあ、レン、なんとかしてや」


「いや、ここは協力していかないと…」


 施設の人達が、切り倒されて燃え上がる火をなんとか消火していた。温泉地だから、水がいっぱいあってよかった。


 火の魔物達は、擬態したまま、冒険者達に火を吐きまくっていた。何体も斬り殺されても全く怯む様子はない。より一層、怒った顔で襲いかかっていった。


 冒険者達は、あちこち火傷を負い、だんだんと体力を奪われていった。



「アイツら、そろそろヤバそうやな。ゲージ赤になった奴もおるで」


「えっ」


 僕は、彼ら6人のゲージサーチをした。あ、ひとり赤がいる。竜巻を飛ばした人だ。他は黄かオレンジ。



「僕、回復、行ってきます」


「はぁ? 助けるならミサが行くべきやろ、同じパーティなんやからな」


「それなら、私が」


「セイラはあかんで! あんな凶暴化した奴らの中に入ったら死ぬで」


「僕、行ってきますから」


「ほんま、おまえ、甘っちょろいな」



 僕は、バリアをフルでかけて、彼らの方へと向かった。もう、みんな倒れそうになっている。


「大丈夫ですか」


 すると、彼らは、ヒッと固まっていた。


(何? )


「すみません、ほんとに、すみません」


(横取りのこと?)


「まさか、すぐに残骸が消えると思わなかったです」


「いらないのかと思って…」


 僕は、ゲージ赤の人を、回復!した。そして、オレンジのふたりも回復!


 すると、火の魔物達が攻撃をやめた。そして1ヶ所に集まり始めた。僕が奴らの方を見ると、奴らはオロオロとし始めた。


(僕の感情を読み取っているのかな)



 僕は、火の魔物達の方に向かっていくと、奴らはさらに焦って、互いにぶつかりながらオロオロと飛び回っている。


「どこからここに来たわけ? 魔物が施設の中に入っちゃダメなのがわからない?」


 奴らは、僕の言葉を理解しているのかいないのか、わからない。でも僕が怒っているのはわかるらしい。

 さらに、パニックになっているようだ。


「キミたちの住処は、火山でしょ! ここは人の場所だから、入ってきたらダメでしょ」


「おい、ライト、そいつら、言葉を理解する知能はないで。説教しても無駄や」


「でも、なんかわかっているみたいですよ。泣きそうになってますし」


「それは、おまえに殺されるんちゃうかとビビっとるだけや」


「はぁ…」



 すると、僕の元へ、さっき冒険者達に厳しいことを言っていた執事風の人が近寄ってきた。


「あの、失礼ですが、貴方は珍しいポーションを当ホテルで臨時販売された方ですよね?」


「え、あ、はい」


「そして、源泉のレア退治をされたのも、貴方ですね?」


「あ、まぁ、たまたまですが」


 すると、執事風の人が、営業スマイルを浮かべて、うんうんと頷いている。


「やはり。あの冒険者達では、レア退治をするには力不足じゃないかと少し違和感があったんですよ」


「はぁ」


「それに突然現れた魔物達は、始めはフワフワと何かを探しているだけのようでしたからな」


「ん?」


「この源泉の火山に棲む魔物は、真の恐怖を感じると、その絶対的なものに服従しようとして擬態するのです」


「あ、はい」


「レアモンスターに擬態していたはずの魔物達が、今は人の顔に擬態している。奴らが怖れる相手が変わったということです」


「はぁ」


「魔物達は、あの冒険者達を襲った。怖れる相手に襲いかかるわけがありません。だから彼らはニセモノだとわかりました」


「なるほど」


「そして、貴方が討伐者だということもね」


「はぁ。しかし…あの魔物達は、なぜここに?」


「おそらく、貴方の住処を整えるためではないでしょうか。こちらに宿泊されましたよね?」


「あー、はい、なるほど」


「魔物達は、知能は低いですが、だからこそ必死なんですよ。たぶん、貴方が死んでしまうか、新たな侵略者に遭遇するまでは、ずっとあのままだと思います」


「え! 生首のまま?」


「ははっ。ええ、ですが、いま、貴方がこの施設で暴れた奴らを叱ってくださったことで、奴らは学習したようです。ここで暴れると貴方に殺されると…」


「え? 僕は殺してないですよ?」


(殺したのは、冒険者達じゃん)


「誰が見ても、危機感の少ない我々でもそう感じます。魔物達を殺した冒険者達は、貴方を怖れていた。魔物達は、ますます貴方を怖れたはずです」


「え? それは横取りの件かと…」


「魔物達は知能は低いですが、感情を読み取る能力は高いのです。理由は不要なんですよ、冒険者達が貴方を怖れている事実だけでね」


「はぁ」


「当施設としては、あの火の魔物は厄介でしたが、おかげさまで助かりました。奴らは、もう施設内で暴れることはないでしょう」


「それなら、よかったです」


 僕が、奴らの方をチラッと見ると、奴らはオロオロするが、さっきほどのパニック状態ではなかった。



「おい、ライト、いつまでも喋ってんと、湯の花、取ってこいや」


「えー、ちょっと休憩…」


「アホか。おまえにアイツら付いて行きよるで」


「えー」


「湯の花、取りに行って、アイツら捨ててこい」


 そう言うと、タイガさんは、湯の花用にギルドから渡された透明な保護用の魔法袋を、僕に放り投げてきた。


「あ、はい…」


「ライトさん、俺も湯の花ミッションですから、ご一緒しますよ」


「レンさん、心強いです」


「私は…」


「セイラは、うちと一緒にロバタージュに帰るで」


「えっ、あ、うん、わかったわ」


「ほな、俺は、温泉でのんびり酒飲んでるわ」


「はぁ」


(タイガさん、早く酒飲みたいから、さっさと行けってこと……だよね。まぁいいけど)

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