80、ヘルシ玉湯 〜 セイラの救出
いま、俺らは、玉湯の源泉近くにおるんや。
ライトにレア狩りさせるつもりで受注したんやけど、フリーミッションになっとるから、中堅ランクまで、わんさか集まってきとる。
レアの配下と遊んどる奴らは放っておくことにして、問題なんは、レアに挑んどる どこぞのアホ娘や。
ったく、あのアホ、自分のチカラを過大評価し過ぎなんや。ほんま何しとんねん、親の顔が見たいわ……って俺やんけ! はぁ〜寒いこと言うてたら、なんか疲れてきたわ。
「タイガさん、ミサさんがいます!」
「あぁ、せやな。あのアホ、ほんまに…」
「えっ? じゃあ、セイラも近くにいますか?」
「いや、レアの近くにはおらんで」
レンさんが心配そうな顔で、僕の方を見るので、僕はセイラさんを探して『見る』ことにした。
ヘビの髪?を持つ巨大な化け物のまわりには、ミサさん以外に、男性が6人いる。すべて剣士のようだ。
そして少し離れた所に、女性が2人? こちらからでは顔は見えないけど、黒魔導士っぽい。
レンさんの彼女は確か白魔導士だったよね?
さらにレアから離れた場所を探してみたけど……あ! 居たかもしれない。倒れてる女性がいる!
「あの! 倒れている女性がいるので、ちょっと行ってきます」
「え、ライトさん…あの」
「顔は見えないんですが、魔導士っぽいので魔力切れかもしれません」
タイガさんも、セイラさんを探していたようだった。
「あ、あれか…。あの辺り、かなり温度高いし、いろいろおるで」
「わかりました。姿、消していきます」
「あぁ、こっちは、あのアホ、なんとかしに行くわ。レンはどうする?」
レンさんは少し迷ったようだった。
「タイガさんと行きます。ライトさんについていっても、俺に出来ることはないかもしれないですから」
「せやな、それに倒れてる娘は息があるからライトが行けばなんとかなるわ」
「はい」
「ライト、バリア、フルでくれ」
「了解です」
僕は、タイガさんとレンさんに、バリアをフル装備でかけた。
「ライト、ゲージサーチしたか?」
「いえ、まだ」
「あの娘、黄、赤や。魔力切れと、怪我やろな」
「わかりました。行ってきます」
「じゃあ、レン、こっちはこっちで行くで」
「はい! ライトさん、お願いします」
「レンさん、おまかせください」
僕は、透明化!してから霊体化!した。
「えっ? ライトさんが消えた?」
「レンさん、まだいますよ。では、行ってきます」
「は、はい」
レンさんは、キョロキョロしていたが、タイガさんに促され、レアのいる方へと向かって行った。
僕は、少し高い位置をふわふわと飛んでいった。地面に近いと、途中、交戦中の人達がいるから、まぁ当たらないんだけど念のため…。
そして、僕は倒れている女性のもとへたどり着いた。近くを『見て』みたが、魔物達は、少し離れた場所で別のパーティと交戦中の人達に気を取られているようで、そっちへと向かっていた。
僕は、霊体化と透明化を解除し、バリアフル装備をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
僕が女性に声をかけると、倒れていた彼女は、僕を見て、必死に起き上がろうとした。
「だ、大丈夫…」
「魔力切れですか?」
「はい、あと、麻痺毒を受けてしまって足が…」
彼女の左足の太ももが、爪で引き裂かれたように服が破れ、血が流れていた。
「毒を出そうと、出血を止めずにいたら、意識が飛んでしまって…」
「僕は回復魔法はそれなりにできるので、少し見させてもらっていいですか?」
「はい、ぜひお願いします」
僕は、彼女の足を『見た』が、呪詛のようなものはなく、単なる怪我だとわかった。
ただ、引き裂かれた傷は、かなり深い。麻痺毒というより、神経が切断されてしまっているようにも見える。
僕は、クリアポーションを彼女に渡した。
「僕が作ったポーションです。弱い毒は消えますから飲んでください」
「あ、ありがとうございます」
彼女は、震える手でポーションの蓋を開け、一気に飲み干した。
「え? 手足しか麻痺していないと思ってたのに、味覚まで…」
「ん? 変な感じですか」
「はい、なんかフルーツエールを飲んだような…」
「あー、それなら味覚は正常ですよ。そういう味なんです」
「えっ」
「あ、僕はポーション屋なんです」
そう言って、リュックに付けている旗を見せた。
「あ、コペルの行商人さん? あはっ、かわいい瓶の旗も」
僕は、彼女のゲージサーチをした。青、赤。うん、体力は戻ったね。だが、足の傷はポーションでは治っていないようだった。
「あと、これもどうぞ。これは交換で入手したので、普通の味ですけど」
僕は女神様と交換した、魔力1,000回復の魔ポーションを渡した。
彼女は、それも蓋を開け、一気に飲み干した。
「えっ! これは!」
彼女は、ラベルを見て驚いていた。そしてさっきのパナシェ風味のラベルも見ている。
僕は、再び彼女のゲージサーチをしてみた。青、緑。うん、魔力も大丈夫だね。
「体調はいかがですか?」
「は、はい、大丈夫です。あの…魔ポーションなんて…」
「あ、その瓶は回収させてください。交換してもらった人に、これは売らないようにと注意されてたので」
「は、はい…」
「あとは、足の傷ですね。左足の感覚はありますか?」
「いえ、麻痺しています。手の麻痺は治りました」
「たぶん、手の麻痺は毒か魔力切れが原因だと思います。左足は、神経が切断されているようです」
「えっ! じゃあ、私はもう歩けないんですね…」
「ちょっと、再生してみますね」
「え、えっ?」
僕は、彼女の左足に、スッと手を入れ、神経を繋ごうと意識して、再生!を唱えた。うん、神経、繋がったね。そして傷口をふさぐために、回復!を唱えた。うん、完璧。
「これで、どうですか? 立てますか?」
「あ、あの、えっと……手が…透過魔法?」
と言いながら、彼女は立ち上がった。うん、怪我は大丈夫そうだけど、服が血でひどいことになっていた。
彼女は、その場で、足踏みしたりして確認していた。
「はい、あと痛いところはないですか」
「全然、ないです。すごい! 私、こんな魔法使えないです」
「あははっ、よかったです。あ、服もちょっとキレイにしますね」
僕は、彼女にシャワー魔法をかけた。血で染まっていた服は、だいたいキレイになった。シャワー魔法では、完全クリーニングはできないなぁ…。
「えっ! なんですか? いまの?」
「シャワー魔法です。弱い火水風魔法を同時発動すると、こんな感じになるんですよ」
「ど、同時発動? 私、そんなのできないです。それどころか、火と水しか使えないです」
「なんだか偶然の産物なんですけどね〜」
「すごい、何でもできる高位の魔導士さんなんですね!」
「いえ、回復系しかできなくて…」
僕がそう話してると、突然、セイラさんの表情がひきつった。僕は、とっさに、彼女にバリアを張った。
ヒュン! ヒュン! ブォオッ!
バリアを張った直後、火が降ってきた。そう、雨じゃなくて、火の玉が降り注いできたんだ。
振り返ると、離れた場所で交戦していたはずの魔物がウヨウヨいる。
ウニョウニョの方が適切な表現かもしれない。レアモンスターとそっくりな、メドゥーサみたいな化け物がいた。
だがサイズは人並みだ。子供なのかもしれない。それが、5〜6体はいる。
「もう、無理だわ」
「ええ、無理ですね……逃げましょう」
「えっ? どうやって? 囲まれたわ」
「手を出してください」
「えっ?」
「失礼します」
再び奴らの火の玉が降り注いできた。その粉塵にまぎれて、僕は、彼女の手をつかみ、透明化!霊体化!を念じた。
彼女は壊れたテレビのように半分霊体化した。やはり透明化はできないか…。
「えっ、あの…」
「大丈夫ですよ、ここにいます。手を離さないでくださいね。仲間と合流します」
「え、わ、え? 空を?えー?」
僕は、彼女を連れて、ふわふわと上空へと上がった。下から、奴らが火の玉を投げてくるけど、当然、僕達には当たらず、すり抜ける。
僕は、タイガさんのいる、レアモンスターの近くに移動することにした。こいつらは、彼女の姿は見えるから ついてくるはずだ。タイガさん達に、なんとかしてもらおう。
「あの、私、空を飛んでますし、火の玉が当たらないです。透過魔法をかけてくれたんですか」
「はい、まぁそんな感じです」
「飛翔もできるんですね」
「飛翔というより、ふわふわ浮かぶ程度ですけどね…。攻撃は当たりませんから、遊覧飛行を楽しんでください〜」
「あはっ。はいっ! 空を飛んだの初めてです。すごく楽しくなってきました」
「ふふっ、それは良かったです」
「あの、お名前をうかがっても構いませんか?」
「あ、そういえば名乗ってませんでしたね。ライトです」
「え? ポーション屋でライトさんって……どこかで見たことある人だと思ってたんですが、ミサの…じゃなくて、タイガさんのお知り合い?」
「はい、ロバタージュでお会いしましたよね」
「やっぱり! すみません、ぼーっとしていて」
「いえ、僕もバッタリ会ってもわからないと思います。ここには、タイガさんとレンさんと一緒に来たので、あなたを探したんですよ」
「え? レンさんって…警備隊のレンフォードさん?」
「はい。僕、レンさんと親しくさせてもらってるんですよ」
「えーっ! そうなんですね、もしかして私のことも?」
「はい、聞いてますよ〜」
「そうだったんですね。なんだか驚きました」
「ん?」
「あ、いえ……嬉しいです。あなたみたいな人が、彼の友人で…。彼、かなり人見知りで、友達が少ないから」
「僕も、友達は少ないんですよね〜。田舎から出てきてまだ日も浅くて…それに僕も人見知りが激しいんですよね」
「あはっ、そういえば雰囲気が、彼とすごく似てますね。話し方とかも」
「ん? そうですか?」
「はい、だから、なんだかとても親しみやすいです」
「あはは、光栄です」
そして、タイガさんが見える場所にたどり着き、霊体化と透明化を解除した。
レアと交戦中かと思ってたら、なぜか見守り中のようだった。
僕が彼女を連れてきたことに気づいたレンさんが、駆け寄ってきた。
「ライトさん! セイラ!」
「レンさん、お待たせしました」
「レン、ライトさんってすごい人だね! 完璧に治してくれたの」
「ライトさん、ありがとうございます」
「いえいえ、ほとんどポーション頼りでしたから」
「そうだ! 魔ポーションも飲ませてもらったの」
「えっ? あとでお代払います!」
「いえ、ミッション中だから、それはいいですよ。通常時ならもらいますけど〜」
「いやいや、ミッションの報酬より高いでしょ?」
「あ、僕が作ったものじゃなくて、交換してもらったものだから、気にしないでください」
「ほんと、ライトさんには、借りばかりできちゃいますね」
「え? 僕も、レンさんには、借りばかりできてしまうと思ってました」
「あははっ。続きは、奴らを片付けてからですね」
「はい、それに……レアの子供かもしれない化け物、こちらに来ます…」
「えっ?」
「さっき、囲まれたの。ライトさんが居なかったら余裕で死んでたわ」
と、話していると、またあの火の雨が降り注いできた。
(もう、追いついてきたんだ…)




