79、ヘルシ玉湯 〜 まさかの和朝食
バン! バタン!
「ライト、朝めし行くで」
僕がリュックからポーションを魔法袋へと移していたら、タイガさんが戻ってきた。
「あ、おかえりなさい」
(どこ行ってたんだろ? でも下手に聞くと……悪い予感がする。そっとしておこう)
「タイガさん、お邪魔してます」
「ん? なんや。ライト、男を連れ込んどるんか?」
「ちょちょっと、変なこと言わないでくださいよ」
「えっ…」
「ん? レンさん、どうしたんですか?」
「いえ、タイガさんに反論する人なんて、初めて見たかも…」
「ははは…」
「レン? あー、レンなんちゃらって長い名前の警備隊の新人か? おまえ、冒険者歴、わりと長いよな」
「あ、はい、レンフォードです。合同ミッションで何度かご一緒させてもらったことがあります」
(なんか、レンさんが緊張してる…)
「あー、あの白魔導士といつも一緒におったよな。えーっと、セイラだったか?」
「は、はい! えっ? なぜ彼女の名を?」
「あの子は、ウチの娘の世話してくれてるんや」
「えっ? えーっ! もしかしてミサさん?」
「なんや、知り合いかいな」
「あ、はい。というか、彼女の親友だと聞いてます」
(ん? ミサさんと一緒にいた上品な感じの人?)
「そーかー。ミサはあんな調子やから、いろいろ振り回してるやろ……悪いな」
「真逆だから、逆に合うみたいですよ」
「あ、あの……レンさんの彼女さん?」
「え、あ、そうなんです。幼馴染だったんだけど、いつからか、意識するようになってしまって」
「そうなんですね。素敵ですね〜」
「ライトは、片想いやもんな、イーシアの…」
「わーわーわー! もう!」
「なんや? 言うてへんのか? 」
「ライトさん、片想いしてる人がいるんですね〜」
「え、あ、まぁ……はい」
「イーシアの? どこかの集落の子ですか? あ、ライトさんもイーシアの集落の出身でしたよね〜」
「あ、え、あ、はい…」
「おまえら、とりあえず朝めしや。行くで」
「は、はい」「はぁ」
「ライトがおごれや」
「な、なんでそうなるんですか」
「俺に、変なもん飲ませた罰や」
「……うー、わかりました…」
「何を飲ませたんですか?」
「ちょっと変なポーションを…」
「へぇ、興味あります」
「レン、アホか! あんなもん飲んだら人生終わるで」
「えっ…」
(確かに……彼女に嫌われるかもしれないよね)
僕達は、タイガさんに連れられて、昨日晩ごはんを食べた店にやってきた。
「レンは、普通の朝めしでええよな?」
「え? あ、はい」
「俺とライトの分は、俺らの郷土料理をオーダーしてあるんや」
「へぇ、郷土料理、興味あります」
「おまえ、なんでも興味津々やな。まぁ、テキトーにつまんだらええで」
「タイガさん、郷土料理って?」
「和朝食や。粉末のかつおだしと味噌汁も特別に渡しておいたんや」
「おお〜、だしと味噌汁!」
席に案内されると、すぐに朝食が出てきた。だいぶ予定より遅くなったから冷めてるかと思ったけど、温かい。あ、魔法だよね、きっと。
出てきたのは、ご飯、味噌汁、焼き魚、玉子焼き、葉物野菜のおひたし。完璧な和食じゃん!
「わ! 完璧に和食ですね」
「せやろ? 味も完璧なはずや」
レンさんの分は、パン、野菜のシチュー、オムレツだった。この世界って、絶対シチューつくよね。
「「いただきます」」
「すごく美味しいですね。さすが高級ホテル」
レンさんは、かなりの勢いで食べている。この世界のご飯事情は、イマイチだからな〜。
僕の味噌汁も、だしが効いている。玉子焼きは、だし巻き玉子だ。ごはんがすすむよね、だしって大事!
レンさんが、チラチラと見るので、僕は、だし巻き玉子をレンさんの皿に入れた。レンさんはお返しにオムレツを僕の皿に入れてくれた。うん、オムレツも美味しいね。
レンさんは、だし巻き玉子を不思議そうに眺めた後、そうっとかじっていた。だし初体験だったのか、なんとも言えない変な顔をしている。
「不思議な感じです。玉子焼きなのに、なんか玉子じゃない味がする」
「あー、だし巻き玉子は、パンには合わへんやろな。前に冒険者仲間に、味噌汁飲ませたら、口の中が忙しいとかわけわからんこと言っとったし」
「味噌汁?」
「飲んでみるか?」
「はい!」
タイガさんが、自分の味噌汁をレンさんに渡すと、レンさんは、やはりそーっと口をつけた。
そして、なんだか複雑な顔をしている。
「口の中が忙しいか?」
「あ、はい。なんだかいろんな知らない味が混ざってて、頭がわからないと言っています…」
「あー、味噌も、お初か、そら、わけわからんやろ」
「タイガさん、これって…お店の?」
「あぁ、お湯を注ぐだけでできる即席味噌汁や。いつも魔法袋に常備してるんや」
「味噌汁を飲めるなんて不思議な気分です」
「二日酔いの朝には、やっぱ味噌汁ないと、シャキッとせんからな」
「タイガさん、この味噌汁っていう飲み物は、二日酔いに効くんですか?」
「あぁ、味噌がええ仕事するんや」
「そうなんですね。すごい! どこで売ってるんですか?」
(えっ…まずい展開)
「あっちの国に、多国籍ショップがあるで」
「海の向こうの国、ですか…。俺では、渡航許可は下りないですよ」
「あぁ? ギルドランクLになれば、行けるで」
(ん? 地底に行けるの?)
僕が魔族の国のことかと思っていたら、それに気づいたタイガさんは…
「おい、ライト、魔界ちゃうで? もうひとつの国や」
「ん? あ、ふたつの国があるって、そういえばナタリーさん、言ってました」
「ライトさん、もうひとつの国は、魔族と人族が共存している国なんですよ…。地底の魔族の国との出入り口があるんです」
「魔族の国との出入り口?」
「はい。この国は人族、地底は魔族が治めていますが、もうひとつ、ごちゃ混ぜの国が地上にあるんですよ」
「へぇ、そうなんですか」
「はい。一応、人族のエリアと魔族のエリアに分かれているそうですが、人族の学校に魔族の子供も人族のフリして通ってくるそうです」
(あ! それって、クライン様が言ってたやつ?)
「それって大丈夫なんですか?」
「あちらの国は、人族も戦闘力は高いですから、支配されたりというより、友好目的みたいです」
「人族と魔族が親しくなるため?」
「はい。あちらの国は、それを目指して女神様が共存させた国を作られたそうですよ。あまり上手くいってないようですが」
「まぁ、しょっちゅう派手に戦争しとるわ」
「戦争…」
「だから、あちらの国とは基本的に行き来を禁止されているんですよ」
「なるほど」
「でも、人族は守っていても、魔族はルール無視した暴走をする奴らがいるから…。こちらに出没するレアモンスターは、あちらの国から流れてきたと言われています」
「全部があっちから流れてくるんちゃうけどな」
(あ、他の星からの方が多いんだよね)
「え、じゃあ、地底からですか?」
「いや、地底からはザコしか沸いてこーへん」
「ってことは…」
「あー、まぁ、調査中や。王宮が調べとる」
「そうなんですね」
「さて、その、レアモンスター狩りに行こか〜」
「えっ! 先にそっちですか」
「は? なんや、おまえビビっとんか?」
「いや、先に湯の花だと思ってて…」
「アホか。レア片付けて、俺はのんびり温泉入りたいんや。湯の花は、おまえらで行けばええやんけ」
「え…」
「レンは、確かAランクやろ? ライトのおもりぐらい楽勝やんけ」
「はい、Aランクですが、ただ、剣はイマイチですが…」
「あー、弓だったか?」
「はい」
「でも、湯の花のまわりのザコなんて余裕やろ?」
「ま、まぁ、はい」
(弓? アーチャーとか? かっこいい)
「ほな、行くで」
「はい」「えー」
(心の準備が…)
そして、タイガさんがお会計を済ませ、さらに宿のチェックアウトも済ませ、玉湯の源泉へと向かうことになった。
「ごちそうさまでした」
「あれ? 僕がお会計…」
「あぁ、ええで。貧乏な子供に払わせるわけにいかへんやろ」
「ごちそうさまでした」
(なんだかんだ言ってても、結局いつもおごってくれるよね)
そして、僕達は、ヘルシ玉湯の源泉に向かった。
雑草魔物のせいで封鎖していた道も、いまは普通に利用できるようになっていた。
以前封鎖されていたエリアは、コテージ風の小屋がたくさん並んでいる。森の中の静かなコテージエリアとは違い、ここは若者が多いようだった。
あのとき雑草魔物が生い茂っていた場所は、広い草原で、若者達が何かのゲームをして遊んでいた。
「ここは、温泉がないエリアなので、小屋の利用も安いんですよ」
「ん? そうなんですか」
「だから、俺達のような世代は、遊園地エリアか、草原エリアに宿を取るんです」
「温泉は、入らないんですか?」
「ん〜、遊園地エリアで入るんです。ここも簡易シャワーはあるから大丈夫なんですよ」
「へぇ〜」
そして、このエリアを抜けると、小屋じゃなく、しっかりした家が並んでいた。
「ここ、初めて来ました。普通、入れないんです」
確かに、ここへの道は、何人かの施設の人が居たけど…。タイガさんが居たからフリーパスだったのかな?
「俺も、こっちには用がないと来ることはないで。金持ちの別荘地やからな」
「タイガさんも金持ちじゃないですか。Lランクの方々は、国からも給料が出てるって」
「あぁ、あれは何でも協力しろっていう給料や。ここに別荘を持てるほどの稼ぎはないで」
「そんなに高いんですね、ここ…」
「それに、みんなプライドも高いしな。こんなとこに来ても、せっかくの温泉やのに癒されへんで」
高級別荘地を抜け、さらに奥へと進んでいくと、施設の人がまた立っていた。
タイガさんは、ギルドの登録者カードを見せて、そのまま通り過ぎた。別荘地エリアに入るときも、そうしてたのかな?
少し進むと、急に気温が上がってきた。
「ちょっと暑くなってきましたね」
「はぁ? おまえ、また休憩要求か? 却下や」
(別に…僕はそんなつもりじゃないのに)
「タイガさん、ちょっと様子がおかしいですね。聞いてた情報とは違います」
「あぁ、フリーミッションやから、何組か、来てるんやろ。自分の力量に合わんやつらもな」
「え? なんか変なんですか?」
「ライトさん、魔物の感知はできないですか?」
「うん? えーと…わからないです」
「さっき、レアモンスターのテリトリーに入ったんですよ。なのに、何も仕掛けてこない」
「え? もう近くにいるんですか!」
「はぁ、おまえなー。ちゃんと『見ろ』や」
「あ、はい」
「ん? まだ見えない距離だと思いますよ」
「こいつは、遠視できるんや」
「そうなんですね、すごい便利!」
「使わんと意味ないけどなー」
「ははは…」
僕は、進行方向を『見た』
タイガさんが言うように、10組以上のパーティが、あちこちで戦っていたり、移動したりしていた。
さらに奥には、巨大な化け物がいた。ヘビのようなたくさんの頭が……いや違う、ヘビは手なのかな? いや髪? 人のような顔がついている。メドゥーサ?っぽいかも…。でも誰も石にされていないから、メドゥーサじゃないよね。
どっちにしても、アンデッド系じゃないことは確実…。僕には無理っぽい…。
(あっ! ミサさんがいる!)




