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78、ヘルシ玉湯 〜 うれしい訪問者

 僕はいま、ホテルの部屋に ひとりで居る。


 この後、朝食を食べようと言っていたのに、タイガさんは新作の変なポーションを飲んで、突然出かけてしまったんだ。すぐに戻ってくるのかな?


 媚薬って、そんな効果があるなんて、僕は知らなかった。タイガさん、怒ってたよね……やばいかな。


 でも、なぜ呪いなんだろう? ポーションってそもそも治療薬なんじゃないのかな。


 リュックくん、進化してから変なものばかり作ってるよね。美容ポーションとか媚薬つきポーションとか…。

 もしかしたら、女神様が言うように反抗期に突入してしまったのかもしれない。


 でも、僕としては、会話ができるようになったから、嬉しいんだけど…。




 コンコン!


「おはようございます。フロントでございます。ライト様、いらっしゃいますか」


(えー、なんだろ)


 僕は、少し戸惑いながら、ドアを開けた。そこには、ホテルの人と、警備隊の制服を着た見知らぬ人がいた。


「はい、なんでしょう?」


「ライト様に、お客様でございます。至急の用件だとのことで、代表の方をお連れしたのですが…」


「ライトさんですか?」


「はい」


「ギルドを経由して返事をいただいたので、ヘルシ玉湯におられると聞き、押しかけて来てしまいまして」


「あ、警備隊の…」


「はい、中央部管理室のカイトと申します。お邪魔しても構いませんか? 」


「えーっと…」


(こういうとき、タイガさんが居ないと不安…)


「ライトさん! おはようございます」


 カイトさんの合図で、警備隊の制服を着た3人が顔を出した。その中には、レオンさんの部下の新人っぽいレンフォードさんもいた。


「あ! レンさん! おはようございます」


「ライトさん、お久しぶりです。借金が気になり押しかけてきました〜」


「いつでも構わないって伝言したんですよ?」


「受け取りましたよ。あの、お邪魔しても大丈夫ですか? 荒っぽい人はいないので、みんな怖くないですから」


(…レンさんに、ビビりだと思われている)


「あ、はい。大丈夫です」


 僕がそう答えると、カイトさんがホッとした顔をされた。


「では、お邪魔します」


 僕は、警備隊の4人を部屋に招き入れ、大きなテーブル席に案内した。でも職務中だということで、カイトさん以外の3人は、近くに立っていた。


「レンフォードを連れてきて、よかった。知らないオジサンばかりだと怖がらせてしまいますからね」


「あ、ライトさん。俺が連れてきてもらう口実に、ライトさんは見知らぬ人が苦手だと少し大げさに話してしまって」


「レンさん、正直、苦手ですから…」


 僕がそう言ってニカッと笑うと、レンさんも悪戯っ子のように、ニッと笑った。


 そのやり取りを見て、カイトさんは頷きながら、でも僕を怖がらせないように距離を置いて、やわらかな表情をつくっていた。


(そこまで気を遣わなくても…)



「あの、改めまして、警備隊中央部管理室の室長カイトと申します。王宮の指示により、ライトさんから例のポーションを購入し、警備隊が利益なしで病人に販売することはご存知でしょうか?」


「はい、聞いてます」


「この度、その責任者を私が任されることになりました。よろしくお願いします」


「あ、はい、こちらこそ」


「早速ですが、いま在庫はありますか?」


「はい、伝言した分は、取り置きしてますから大丈夫ですよ」


「おぉ、よかった。ただ、欲を言えば、ロバタージュ周辺を巡回する隊員達に持たせたいので、可能な限り、売っていただきたいのですが」


「何人いるんですか?」


 僕がそう質問すると、カイトさんは、レンさんにヘルプの目を向けた。あー、中央部の人には現場の把握は難しいのかな。


「半数以上がライトさんと会ったことあると思います。いま、周辺巡回は30人ほど、捜索や遭難救助が50人ほどいます。近々、また組織変更するらしいんですけど…」


「そうなんですね」


 30人バラバラで巡回じゃないはず。たぶん5人くらいのグループだよね。じゃあ、6グループに10本ずつで60本は必要かな。

 中央部でも販売するなら…100本じゃ、全然お話にならないくらい足りないよね。


「できれば、300本以上をお願いしたいのですが。無理なら生産予約をさせていただきたいのです」


 僕は、レンさんを見た。レンさんは、うんうんと頷いている。


(売って大丈夫、ってことだよね)


「わかりました。300本ですね」


 僕は、テーブルの上に、クリアポーションを300本出した。後ろに控えていた隊員さんが、数の確認作業をしていた。管理室の人達なんだろうか。


「確かに。ありがとうございます。お代は、1本銀貨5枚で計算して構いませんか」


「はい。金貨15枚になりますね」


「け、計算、速いですね。さすが行商人だ」


「いえ…」


(この世界って、計算苦手な人が多いよね…)


 僕は、代金として金貨15枚を受け取った。


「お買い上げありがとうございます」


「いやいや、こちらこそ、助かりました。在庫がなかったらどうしようかと思っていたんですよ」


「また必要なときは、声をかけてください。王宮への販売もしていますから、在庫は切らさないようにしますから」


「またギルドを経由して声をかけさせてもらいます。では、そろそろ失礼します」


「はい、失礼します」




 あれ? 3人はドアへと向かったのに、レンさんは、動かないでニコニコしている。


「ライトさん、今日の予定は?」


「えっと、タイガさんが出かけたので、戻ってきたらギルドミッションの続き、かな?」


「湯の花ですか?」


「え? うん、そうですよ」


「俺、実は、今日から3日ほど、休みなんですよ。ギルドで聞いて、ライトさんと同じ湯の花の採取を受注してきたんです。あと、フリーになっていたレアモンスターも」


「えっ! そうなんですか」


「レンフォード、じゃあ、ありがとな」


「あ、はい。お疲れ様でした」


 警備隊の人達は、レンさんを残して、帰っていった。


「ライトさんと一緒にミッションしたいなと思ってたから、受注内容全部教えてもらって…。雑草魔物は、受注できなかったんですけど」


「雑草魔物は、終わりましたよ。異常繁殖していて犠牲者が出ていました」


「えっ? 異常繁殖して? ヤバイじゃないですか、よく倒せましたね…。あ、タイガさんが居れば、問題ないですね」


「やっぱ、タイガさんって強いですか?」


「ライトさん、知らないんですか? めちゃくちゃ強いですよ。冒険者の中で知らない人がいないくらい、ナンバーワン剣士ですよ」


「やっぱり。剣を振り回しただけであたりが燃え上がったりしてましたから…」


「タイガさんは、火も雷も、強い魔剣を使うから、圧倒的なんですよ。普通、魔剣は1種しか使えないですからね」


「そうなんですね」


(ん? もしかして、僕は珍しい? でも攻撃力ないから、使えないよね…)


「俺、ちょっと着替えていいですか? タイガさんが戻ってこられたら、一緒にミッション行きましょう」


「あ、はい。あ、部屋、適当に使ってください。僕はポーションの整理しますから」


「了解です〜」


(レンさんが来てくれて、心強いな。ちょっとワクワクしてきた)






「はぁ、やっと切れてきたか……ったく」


 タイガは、珍しく、居住区の家に帰ってきていた。その隣には、彼の妻がいた。


「結局、なんだったわけ? とうとう、頭おかしなったかと思ったよ」


「ライトに、媚薬を盛られたんや」


「は? あんた、何したの!」


「何もしてへん!」


「嘘おっしゃい! あんなおとなしそうな子を怒らせるなんて、よっぽどのことでしょ?」


「いや、怒らせてへん。俺の方が怒ってるくらいや」


「また、わけのわからないこと言って…」


「ライトの新作の毒味させられたんや」


「ポーションの?」


「せや。媚薬つきやったんや」


「それなら、解毒すれば済むことじゃないの。万能薬、持ってるでしょ?」


「アホ! 解毒薬で効かんから、仕方なく戻って来たんやんけ」


 バチン!


「痛っ! なにすんねん」


「あんた、仕方なくって…。他に言い方あるでしょ!」


「ッチ。やっぱり、ミサがうるさいのは、おまえに似たんやな…。そろそろ地上に戻るわ」


「はいはい」





 タイガは家を出て、ふと思い立って、馴染みの魔道具屋へと向かった。店に入ると、若い店員が接客していた。


「おーい、爺さん、おるか?」


「あ、タイガさん、いますよ。爺ちゃ〜ん!」


 店の奥から、気難しそうな爺さんが現れた。


「タイガか、久しぶりやのー」


「おう、まだ生きとったんかいな」


「ふっ。ワシは不死や、いっぺん呪い殺されたからの」


「で、呪いなんやけどな」


「なんだ?」


「中程度の呪いを、防げる魔道具あるか?」


「呪いの霧を防ぐもんならあるが、中程度だとギリギリかもな……だが高いぞ」


「いや、呪いの飲み物を飲んでも、呪いを受けない魔道具が欲しいんや」


「は? おまえな…。イロハ様が脳筋だとおっしゃっていたが、ここまでバカだとは思わなんだ」


「ないんか?」


「あのな、そもそも呪いの飲み物なんて存在せん。飲み物に入れるなら毒だろうが」


「あるんや、それが。たった今、俺が体験済みや」


 そう言うと、タイガは、あの空き瓶を出した。


『H10 』の説明書きを読んで、爺さんは驚き、そしてニタニタと面白そうに笑っていた。


「それで、家に帰ってたんか?」


「あぁ、仕方ないやろ…。正気では おられんかったからな。クリアポーションで少し軽減してこれやからな…」


「中身の入ったやつは持ってないんか?」


「なんや? 爺さんも飲んでみるか?」


「いやいや、そうじゃない。これで、あいつらの洗脳を解除できそうじゃないか」


「あー、確かに……頭の中、完全に吹っ飛ぶからな。転移魔法を唱えるのさえ、やばかったわ〜」


「この媚薬は毒じゃなくて、中程度の呪いの一種なのか……これが効かないほどの耐性があれば、洗脳されることもないだろうから……この媚薬で全員の解除ができるかもしれん」


「あいつらの洗脳も、呪術の一種なんか?」


「あぁ、中程度の呪いらしい。この媚薬も中程度の呪いだが……人の欲を支配する媚薬に軍配が上がるってことか? 面白いの〜」



 魔道具屋の爺さんの話を聞き、タイガはハッとした。


「もしも媚薬が毒なら、毒無効持ちも、毒消し魔法も、毒消しアイテムもあふれとる…。だから呪いのポーションか……これも、ババアが作らせたのか?」


「ん? 意味わからんが」


「それに、弱い呪いなら耐性を持つ奴もいるから、中程度の呪いになったんやな」


「はぁ? さっきから何の話だ? まぁ、あいつらの洗脳は、そうかもしれんな。だが、弱い呪いでも、そもそも呪いに耐性を持つ者なんて、そうはおらんぞ」


「いや媚薬ポーションのことや。呪いに耐性があるのは、闇属性持ちやからな、まぁ少ないわな」


「そのポーションって、あの子が作ったんか? 新人のリュック持ち」


「あぁ、そうや」


「へぇ、そのうち連れて来いよ」


「安くしたってや。あいつ、魔道具はリュックしか持っとらへんし」


「ふっふっ、あぁ、わかった」


「じゃあな」


 そして、タイガは地上へ、ヘルシ玉湯に戻った。



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