76、ヘルシ玉湯 〜 タイガ、新作を届けに行く
本日2回目の投稿です。
今日で投稿し始めて2ヶ月になりました。
皆さま、いつも読んでいただいてありがとうございます。ブックマーク、評価も、ありがとうございます! おかげさまでたくさんのパワーをもらっています。これからも毎日更新できるよう頑張ります♪
実は、2ヶ月のご挨拶を忘れて昼間の投稿をしてしまいまして…どうしようかとジタバタ悩んだあげく、結局、本日2回目の投稿をさせてもらいました。
こんなうっかり者ですが、今後ともどうぞよろしくお願いします。
僕はいま、玉湯のリゾートホテルのような宿泊施設にいる。ここの横に美容施設が併設されているそうだ。
とても綺麗なんだけど、オシャレで高級感のありすぎる雰囲気が、僕は少し苦手だった。
先程、1階でポーションの臨時販売をして、手伝ってくれたタイガさんと共に、部屋に戻ってきた。
「はぁ、なんか疲れたな。とりあえず冷やしたビール飲むか〜」
「はい、あ、エール代は…」
「は? そんなもん、いらんわ。だいたいおまえ、キッチリしすぎちゃうか? 肩こらんのか?」
「さっき、駄賃がどうって…」
「冗談に決まってるやないけ。それくらいわかるやろ」
(そんなこと言われても…)
そして、タイガさんは冷蔵庫からエールを出して、僕に、ポーンと投げてきた。わっ、わっ!
「ちょ、タイガさん、投げたら、あわあわになるじゃないですかー」
「ん? そんな細かいこと気にしたら負けや」
(いや、絶対、プシューって……あれ? 大丈夫だ)
僕は、エールの瓶の蓋をひねったけど、中身はあふれてはこなかった。炭酸、弱いのかな?
「おまえは、それ飲んだら、さっさと寝ろ。好きな寝室使えばええから」
「はい。ん? タイガさんは?」
「俺は、ちょっと、野暮用や。朝までには戻る」
「お出かけですか?」
「あぁ、鍵、持っていくで。おまえは鍵なくても、部屋の出入りできるやろ?」
「あ、はい。わかりました」
「ほな、おやすみー」
バタン!
(あっという間に出かけてしまった。アヤシイ……やっぱ女性のとこかな? )
僕は、タイガさんの行き先が気になりつつも、久しぶりのベッドに入ると、そのまますぐに眠ってしまった。
タイガは、ライトの予想どおり、ある女性のもとを訪ねていた。
彼女の居る部屋の中は、まるでプラネタリウムのようだった。
白い壁一面には、あちこちの星の様子が映し出されていた。彼女の座る椅子の前には、大きなガラステーブルがあり、このテーブルには、星系図が映し出されていた。
彼女は、椅子に付いた水晶に魔力を込めることで、この部屋の映像を頻繁に切りかえている。
この世界の情勢を常に監視しているかのような、ここは そんな部屋だった。
「なんじゃ? ここに入るのは緊急時だけにせよと言うたのを忘れたのか?」
「その様子だと、見てへんかったんかいな」
「タイガに任せておれば、妾が見ておく必要はないじゃろ。次の『落とし物』係の捜索中じゃ、邪魔するでない」
「とりあえず、おまえがこれ飲んだら、出ていったるわ」
そう言うと、ポーションを1本差し出した。
すると、彼女は、水晶から手を離し、タイガの方を向いた。
「ライトの新作じゃな。やっと出来たのか」
「あぁ」
そう言うと彼女は、すぐさま蓋を開け、飲み干した。
「なっ? なんじゃ? 魔ポーションじゃないのじゃ! 違うのじゃ! あ、れ? なんじゃ? これは 」
「やっぱり、おまえが、リュックに作らせたんだな」
「なっ…なんのことじゃ」
「アイツのリュックを触ってたときに、妙に時間がかかると思っとったんや。リュックに命じてたんやろ」
「うぬぬ……じゃが、ただのポーションを作れなんて言うてはおらぬ」
「何て命令したんや? リュックの主人に黙って命じるのはルール違反ちゃうんか」
「妾の生命が消えるとリュックも消えると教えたのじゃ。だから、妾の魔力がこれ以上下がらぬように、30%の魔ポーションを大量に作れと命じたのじゃ」
「なんでライトに隠すんや」
「知ると、妾のために魔ポーションを作らなければと思うじゃろ。ライトはまだ『落とし物』係じゃ。これ以上の負担をかけたくないのじゃ」
「そんなこと、言うてる余裕あるんか? 魔力の最大値、いまいくらや? 宝玉と合わせて、星の回復と絶対防御、撃てるんか?」
「だから、リュックに直接命じたのじゃ! 妾は魔力ゲージ50%を維持しておれば、最大魔力値はあまり下がらぬのじゃ」
「で、いま、なんぼや?」
「こないだ聞いておったではないか! もう80万を下回っておる…」
「どアホ! いま、なんぼや? って聞いとんや」
「わざわざ測量するのも、魔力を消費するのじゃ」
「測ったら、これ、やるわ」
タイガは、輝きポーションと一緒に、コッソリ取っておいた魔ポーションを見せた。
「おお! コーヒー牛乳じゃ!」
「さっさと測ってみろや」
「ッチ。仕方ないのじゃ。………ん? あ、れ?」
「で、なんぼや?」
「ちょっと待つのじゃ。失敗したのじゃ。……あれ?」
「はぁ、なんぼや? 100万あるんかないんか」
「100万、ある……のじゃ」
すると彼女は、ポーションのラベルに魔力を流し説明書きを読んだ。
「説明書きを出す魔力さえケチるって、どんだけセコイんや。ほれ、ご褒美や」
そう言うと、タイガは、カルーアミルク風味の魔ポーションを彼女にほうり投げた。
彼女は、受け取ると、すぐさま蓋を開けて飲み干した。
「魔ポーションよりも、役に立つんちゃうか?」
「そ、そのようじゃ。これ、数はあるのか?」
「まだ、あまりないみたいやな。それに、1日1本っていう限定つきやけどな。 1本で2〜3年分の下落を回復できるやろ」
「いや、この部屋を出ると、星と繋がるから半減するじゃろな」
「ちょっと、出てみろや。俺には確認する権利あるはずや」
「わかったのじゃ」
そして彼女は、タイガと共に、私室の外に出た。
「あら、いろはちゃん、もう終わったの? って何? タイガが忍び込んだの?」
「そうなのじゃ。脳筋が、忍び込んで来たのじゃ」
「ライトくんに、何かあった?」
「いや。おまえにこれを渡しとく。毎日こいつに与えてやれ。ただ時間は気をつけろよ。丸一日以上、必ず間隔をあけるんや」
タイガは、ナタリーに、持っていた輝きポーション16本をすべて渡した。
「あら、ライトくんの新作? 私も味見を…」
「アホ! 数がまだないんや。おまえは飲むな!」
それを聞いて、ナタリーは、ハッとしてラベルの説明書きを読んだ。
「これ、もしかして…」
「で、部屋を出たら、なんぼになったんや?」
「うむ。やはり、付与された半分は、星に移ったのじゃ。90万ちょいじゃ」
「ということは、星のエネルギーも回復したということやな」
「そうじゃ。微々たる変化じゃが、これを繰り返しておると、そのうち、奴らにバレるかもしれぬのじゃ」
「星の回復分は、精霊に吸収させればいいと思うわ〜」
「全部、吸収できるんか?」
「それは無理じゃ。じゃが、いまは精霊も下級神も、魔力不足で…魔力飢餓状態じゃから、しばらくは ほとんどを吸収できるのじゃ」
「じゃあ、しばらくは大丈夫そうやな」
「しかし、すごいものが出来たのねぇ〜」
「妾が頼んだものとは違うのじゃ。やはり、反抗期なのじゃ!」
「反抗期で、逆に良かったんちゃうんか?」
「たまたま、なのじゃ。じゃが……ほんとに…ほんとに助かったのじゃ」
彼女、女神イロハカルティアは、いつもの道化を忘れたかのように、小さく呟いた。そして、ふーっと、ゆっくり深呼吸をした。
その表情は、安堵のためか、いつもの強気さは消え、目が少し潤んでいるようにも見えた。
「ほんと、ライトくん、救世主になったわねぇ。でも、なぜ急にこんなポーションが出来たのかしら?」
「あぁ? ババアが命令したからやろ」
「リュックは、確かに意思を持っておるが、ライトが実際に経験したことや知識や情報から、ポーションを作っておるのじゃ。なのになぜ、衰えた能力を改善するものを作ったのじゃ?」
「ライトくんには、いろはちゃんの生命のことは話してないわよね? でもリュックくんに命じたからじゃないの?」
「リュックはそこまでの知能はないのじゃ。主人の思考を具体化することしかできないのじゃ」
「…タイガ、もしかして…」
「あぁ、話したで。玉湯に行く途中でな」
「なっ? なんじゃと! じゃあ、これはライトから言われて預かってきたのか」
「いや……それは、ちゃうんや。あいつは、このポーションの性能がわかってへん」
「そうなの?」
「あぁ、ただの美容ポーションやと思っとるわ。俺がくれって言うてもらってきたんや」
「あら。それなら、ライトくん、今頃、勘違いしてるかもしれないわねー」
「あぁ、盛大に勘違いしとる。どこぞの女性に渡しに行ったと思っとるみたいや」
「は? 妾は、女性じゃ!」
「いろはちゃんも、ライトくん並みねぇ。ふふっ」
「ババアのくせに、頭の中は、チビっ子並みやからな」
「なっ? なんじゃと! タイガ、妾にケンカを売っておるのか? 買うぞ、妾は買ってや…」
ゴチン!
「いろはちゃん、もうそのネタ、禁止したでしょ!」
「な、殴らなくてもよいではないか。ひどいのじゃ」
「ふふん、ほな、俺はそろそろ戻るわ〜」
「うむ。ライトの世話は、頼んだのじゃ」
「あぁ、まかせとけ」
タイガが、ヘルシ玉湯の宿泊しているホテルに戻ると、フロントで、ちょうどフリード王子の執事アレクと、ばったり会った。
「おお、タイガさん、ちょうどよかった」
「なんや? あ、あの迷宮の探査協力は、もうちょっと待てと言ったはずやで」
「あ、はい。その件は待たせています。今日は別件でして…。いま、ライトさんのことをちょうど教えていただいてましてね」
アレクの後ろには、3人の護衛以外に、このホテルの従業員らしき人がいた。
「あー、昼間の件か? 夜の件か?」
「異常繁殖した雑草魔物の件と、臨時販売所のことを聞きました。もしかしたら、いまは手持ちのポーションはないのでしょうか…」
「クリアポーション狙いで来たんかいな」
「ええ、ギルドに伝言を頼んだ返事をいただいたものですから…」
「たぶん、あいつ、いまは寝とると思うけど……わざわざここに来るってことは、急ぎか?」
「はい、できれば…」
「じゃあ、ついて来いや。どれだけあるかは知らんけど、あいつは心配性やから在庫ゼロではないと思うで」
「よかった、ありがとうございます。深夜に申し訳ないです」
「いや、もうそろそろ朝やろ。気にせんでええ」
そして、アレクを連れて部屋に戻った。ライトの姿は見当たらない。やはり、寝ているようだ。
「ちょっと、起こしてくるから、適当に座っとって」
「はい、お言葉に甘えて」
どこの部屋で寝ているかと探して『見る』と、ライトは一番近くの部屋に居た。
服も着替えず、そのまま寝こけてしまったようだ。タイガは、宿泊することにして正解だったと思った。やはりライトは疲れがたまっていたようだ。
「おい、おまえに客やで」
「………」
だがライトは爆睡していて、起きる様子がない。そこでタイガは、アレを取り出した。
ペチペチ、ペチペチ、ペチペチ、ペチ…おっ?
「な、なん…すか? 」
「おまえに客や」
「へ? は、はぁ」
僕は、頭をペチペチする派手な音で目が覚めた。目の前にタイガさんがいた。そしてその手には…
(またハリセン…)




