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75、ヘルシ玉湯 〜 ホテル内の臨時販売所

 いま、僕はタイガさんと、玉湯の中のリゾートホテルのような、高そうなホテルの部屋にいる。


 タイガさんが、施設の人に、泊めてくれたらポーションの臨時販売所を作るとか言い出して、無料で泊めてもらうことになったんだ。


 でも、タダより高いものはないともいうし、なんだか僕は少し落ち着かなかった。


 そして、ここでリュックの整理をしていたら、新作が出来ていたんだ。モスコミュール風味の、輝きポーションっていう変な美容ポーションみたいなものだった。


 これを飲んだタイガさんが、あるだけくれとか言い出して、テーブルに広げたポーションをせっせと集めていた。

 気になる女性にあげるのかな? 奥さん? じゃないような予感がする。


 タイガさんは、見た目は、ちょいワル風で、シブくて、かっこいい。それに剣士としてもみんなビビるくらい強いから、きっとモテるんだろうな…。

 でも、しゃべるとキツイから……うーん、どうなんだろう?



「なんや? なんか言いたそうな顔しとんな」


「ん? あ、いえ、タイガさんはモテるのかなぁって…」


「はぁ? なんや? それ」


「そのポーション、女性に渡すんですか?」


「まぁな。は? なんか変なこと考えてへんか?」


「いえ、別に…」


(そういえば、来るものは拒まず…って言ってたっけ?)


「別に、なんや?」


「え、あ、別に、誰にも言わないですから大丈夫ですよ。もちろん、娘さんにも」


「はぁ? おまえなー。まぁ、ええわ。好きに言うとけ」


「だから、言わないですから。僕、こう見えても口は堅いんです」


「はぁ〜、はいはい、そうでっか」


 なんだか会話が……かみ合ってないような気もするけど、まぁ、いっか。



 僕は、テーブルの上のポーションを魔法袋に片付けた。小さい魔法袋は、どちらもパンパンになってしまった…。残りは、もともとの魔法袋に入れた。


 正確に数えてないけど、魔法袋3つ合わせると、モヒート風味が8,000本、カシスオレンジ風味が4,000本、パナシェ風味が7,000本くらいだと思う。


 あと、カルーアミルク風味が、ええっと46本かな?

 新作のモスコミュール風味は、タイガさんが全部持ってったから魔法袋はゼロ。うでわに20本入ってるけどね。


 なんか、リュックくん、進化してから生産スピードめちゃくちゃ上がったんじゃないかな?

 この調子だと、すぐに水や薬草が足りなくなりそう…。



 コンコン!


「失礼します。ポーションの販売の件で少し打ち合わせをさせていただいても構いませんか?」


「はい、大丈夫です」


「手短にしてや。飯食いに行きたいんや」


(確かに……おなかへった…)


「はい。1階ロビーに、簡易販売所を作らせていただきました。あとは、販売開始時間の告知をするだけになっております」


「えっ? もう?」


「あ、はい。ただ、外のキラキラした光が消えてからの方がいいだろうと考えまして…。まだ外に出ている人が多いので…」


「じゃあ、先に飯食ってからやな」


「では、そのように手配いたします。こちらからは販売補助をふたり付けるつもりなのですが、販売する商品を少し提供いただければ、事前に確認できて助かるのですが…」


「人件費がわりに、ポーションくれってことかいな」


「ええっと、まぁ…」


「わかりました。事前に確認をお願いします。試飲してもらう方がいいなら、一口ずつの試飲用の分も提供させてもらいます」


「試飲用! おぉ! それはいいですね、ぜひ」


 僕は、とりあえず、モヒート風味、カシスオレンジ風味、パナシェ風味を10本ずつ渡した。


「販売価格は?」


「ポーションはどちらも銀貨1枚、クリアポーションは銀貨5枚で販売するつもりです」


「わかりました。価格表も作っておきます。では、お食事が終わられたら、フロントまで起こしくださいませ」


「はい、わかりました」


「では、よろしくお願いいたします」


 そう言うと、打ち合わせに来た人は、丁寧に頭を下げて出て行った。



「はぁ、ここの奴らはみんな、お行儀良すぎて疲れるよな〜」


「ははっ…確かに」


「せっかくビール買ってきたけど、まぁ、飯食いに行こか〜」


「はーい」



 僕達は、タイガさんがいつも行くというホテル内のレストランに行った。

 このホテルは、宿泊代が高いということもあって、僕のような年齢の人は少なかった。

 そのためかはわからないが、レストランは落ち着いた雰囲気の店だった。


「おまかせでええやろ? メニュー見るん邪魔くさいし」


「あ、はい。それで」


 席に案内されると、タイガさんは、おまかせ2人前と、エールを2つ、さらに聞いたことのない酒を1つ注文していた。


「エールと同時に酒ですか?」


「は? 飯食うなら酒いるやろ。ビールなんて、水やんけ」


「あはは、なるほど」


「おまえも飲むか?」


「いえ、僕は…アルコール、感じないんですよね」


「へ? あ、毒無効持ちか」


「はい、たぶん」


「じゃあ、一瞬しか酔わへんな。分解されるまでの数秒だけか。むなしいやんけ」


「ん? 数秒、酔います?」


「それなりに強い酒ならな。毒無効って言うけど、効かないんやなくて、耐性が高くて毒分解が早いだけや。即死毒なら瀕死ダメージくらうで。前に同じパーティ組んでた毒無効持ちの魔導士な、油断して死にかけよったんや」


「そ、そうなんですね…。でもよかった。アルコールを感じないなら、酒の味がわからないんじゃないかと思ってました」


「あ? 酒の味なんて、似たようなもんやろ?」


「いやいや、それぞれ全然違いますからーっ」


 そしてエールが来て、しばらくすると、料理と、タイガさんの酒が来た。芋焼酎みたいな香りがする。


 僕は、エールを一口飲んだ。うん、ノンアルコールビールだね…。エールだと全くアルコールはわからない。


 タイガさんの酒は、グラスが2つ来てたので、少しだけおすそ分けしてくれた。

 けっこう濃い芋の香りがして、焼酎の味がする! うん、アルコールわかる。でも全然酔う気がしないけど…。


「アルコール感じますよ、でも全然酔う気がしないけど…」


「まぁ、そうやろな。この倍は度数ないと酔わんやろ」


「はぁ」


 そして食事は、上品な定食? なんちゃら御膳とかの名前がつきそうな感じのものだった。和風っぽい雰囲気だけど、なんだか違う。あ、だしが入ってないんだな。


「やっぱ、茶碗蒸しみたいなやつは、これあかんな。どうしても、だし文化を思い出してまうわ」


「僕も、いま、だしが効いてないから変な感じだと思ってました」


「せやろ? 誰に言うても伝わらんかったから、なんか、おまえと飯食うと気分ええわ」


「あははっ、僕もです」




 食事は、ポーション代だと言ってタイガさんがおごってくれて、その後、そのままフロントへと向かった。僕達の姿を見つけると、オールバックのオジサン…支配人さんがササッとそばに寄ってきた。


「もうお客様が並んで待ってくださっているんですよ。ささ、こちらへ」


 フロントの横の、ウェルカムドリンクコーナーのような所に、白いクロスをかけたテーブルと、価格表の掲示ボードがあるのが見えた。

 そして、その奥の通路に、たくさんの人が並んでいた。


「えっ? なんだか多くないですか?」


「キラキラした光が聖魔法であることを、皆様にご説明した際に、術者が、コペルが認可したポーションの行商人だとお話したのですよ」


「はぁ」


「そして、今夜、湯治に来られた方のために臨時販売所をフロントで開かせていただくお話をしましたら、すぐにこのような人だかりに…」


「えっ? 時間の告知はまだ…」


「改めて時間の告知をさせていただくと、ご説明しましたが、行商人なら商品の数が少ないと思われたようでして…」


「それで、我先にと押しかけたんかいな」


「ええ、まぁ、そのような感じになってしまいました。現場の管理がいたらず、申しわけありません」


「え、いえ…。何人くらい並んでおられるのでしょうか?」


「おそらく100人前後かと…」


「えっ! ひゃくにん?」


「やはり、商品は品薄でしょうか…」


「いえ、並んでいただいている方には、販売させてもらいますが、お一人当たりの本数制限をさせていただいて構いませんか?」


「それは、もちろん。お一人、2〜3本でしょうか」


「うーん。3種類の価格も商品の説明も皆さんご覧になってますよね?」


「はい。ほんの一口ずつの試飲もしていただきました。お預かりした30本ほとんど使ってしまいましたけど…」


(ほとんどってことは、全部じゃないんだな。わざと手元に残してそうだよね…)


「なるほど、では、皆さん、お目当の商品も決まっているんですね」


「おそらく、そうだと思います」


「じゃあ、お一人当たり10本までということで、1,000本販売します」


「おお〜! 1,000本もお持ちでしたか!」


「はい」


「あの、大変申し上げにくいのですが、ホテル内での販売の際には売上の1%を、手数料として頂戴しておりますが、よろしいでしょうか」


「はぁ? いまさら、客を前にしてそんなこと言うんかいな」


(やっぱり……何かあると思ったんだよね)


「売上の 1%ですね、構いませんよ」


「おお〜、ありがとうございます。ご説明が後手に回ってしまいまして、申しわけありません」


(絶対、わざとだよね)


「じゃあ、僕は商品をテーブルに並べますから、本数制限の説明を…」


「ライト、それ、俺が言うてくるわ。売上の1%もらえるとなったら、正しい説明ができるとは限らんからな」


「い、いえ、そんな…」


「なに慌てとんねん、図星やろ」


「いえ…」



 それから、目が回るほど忙しく、ポーションは飛ぶように売れた。タイガさんは集金係をしてくれていた。


 100人と言っていたのに、結局、みんな制限いっぱいの10本を買い、さらに2回並ぶ人もいて、なんだかんだで1,500本以上の売上になった。うち、1,000本以上がクリアポーションだった。


(銀貨5枚で高いのに、風邪薬が人気だな。湯治に来てるからかな)


 銀貨5,780枚分の売上金から1%の銀貨58枚をホテル側に支払い、銀貨5,722枚分が手元に残った。


 金貨での支払いに、釣り銭を渡していたようで、実際の僕の手元には、金貨43枚と銀貨1,422枚があった。


(どうしよう…。大金……すぎる…)


「イマイチやったな。こんなんじゃ、いつまでたっても魔導ローブどころか、魔道具も揃わんで」


「めちゃくちゃ大金じゃないですか〜。手のひらに変な汗でてきました」


「はぁ? おまえ、金銭感覚おかしいで」


(いや、タイガさんがおかしいって…)


 僕は、この大金を持っているのが怖くて、人目がないのを確認し、お金が入れられていた集金用の麻袋ごと、うでわのアイテムボックスの中にいれた。


「おまえ、何コソコソやってるねん?」


「大金、持つのが怖くて…。あ、麻袋、もらっていいんですか?」


「はぁ……。あ?麻袋? あー、ホテルが釣り銭用に配ってるやつやから、レジ袋みたいなもんや」


「そっか、よかった」


「財布、ふつう50個は持っとけや」


「えっ? 50個?」


「みんな、空の財布、10個は用意してるで。この世界には、札もカードもないんや」


「あ、そっか。はい…」


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